特集:世界経済を展望するキーワード消費:目立つデジタル化を支える情報通信機器、ワクチン、環境対応車輸入

2021年9月24日

世界経済の規模は、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)拡大の影響を受け、2020年に大きく落ち込んだ。2021年に入ると、新型コロナ前の2019年の水準を超えた。最終用途別に分類した財輸入の動向から、2021年上半期の各国の消費動向を概観すると、ノートパソコン・タブレット類やワクチン、さらには環境対応車への需要の高さが際立った。

世界銀行のGlobal Economic Monitor外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2021年8月29日アクセス)によれば、世界の実質GDP(ドル建て、季節調整値)は2020年第2四半期(4~6月)を底に回復傾向にあり、2021年第2四半期に、WHOによる新型コロナのパンデミック宣言(2020年3月)前の2019年第4四半期水準を超えた。2021年上半期(1~6月)で見ても、2019年同期の水準を超えた。世界経済が回復するなかで、各国の需要、特に、消費や投資の動向はどう変化したのか。経済規模が大きい8カ国(中国、米国、インド、日本、ドイツ、ロシア、インドネシア、ブラジル)(注1)の2021年上半期(インドはデータの制約上、1~5月)における、最終消費財、資本財の輸入額(名目、ドル建て)の動向を整理した(表参照)(注2)。

表:主要国の最終消費財・資本財輸入額(名目、ドル建て)
輸入財の分類
(用途別)
2020年上半期 2021年上半期
億ドル 2019年上半期
=100
億ドル 2020年上半期
=100
2019年上半期
=100
中国 最終消費財 1,656 96.9 2,159 130.4 126.4
資本財 1,419 88.4 1,911 134.6 119.1
米国 最終消費財 4,648 87.3 5,868 126.2 110.2
資本財 3,324 86.3 4,088 123.0 106.2
日本 最終消費財 1,349 95.1 1,503 111.4 105.9
資本財 565 92.0 669 118.5 109.0
ドイツ 最終消費財 2,095 92.0 2,517 120.1 110.5
資本財 1,233 84.7 1,542 125.1 106.0
ロシア 最終消費財 391 93.6 490 125.1 117.0
資本財 282 92.2 405 143.4 132.2
インドネシア 最終消費財 153 84.2 202 132.6 111.6
資本財 122 85.8 140 114.8 98.5
ブラジル 最終消費財 196 83.9 253 128.8 108.0
資本財 162 94.9 165 102.0 96.8
インド
(1月~5月)
最終消費財 347 76.9 478 137.9 106.0
資本財 212 79.2 251 118.7 94.0

注1:上半期は1~6月。
注2:財分類については、本文注2参照。
注3:2021年9月1日までに入手できたデータで作成。
出所:「Classification by Broad Economic Categories」(United Nations)および「Global Trade Atlas」(IHS Markit)から作成

まず、主要8カ国すべてにおいて、2020年上半期の最終消費財と資本財の輸入額がともに、2019年同期比で減少した。しかし、2021年上半期は、いずれも2020年同期比で増加した。インドネシア、ブラジル、インドの資本財輸入を除けば、2019年同期水準をも上回る。ブラジルにおける2021年上半期の資本財輸入額の2019年同期比での減少は、「浮遊式又は潜水式の掘削用又は生産用のプラットホーム」(HS890520)の影響が大きい。これらのプラットホームは一般に、沖合の石油または天然ガスの油田またはガス田の探査用または採掘用に設計したものとされる。同財を除くと、2019年同期水準を上回る。インドネシアの2021年上半期の資本財輸入額減少(2019年同期比)に大きく寄与した商品は、「船舶推進用以外の蒸気タービン(出力40メガワット超)」(HS840681)、「ダンプカー」(HS870410)、「過熱水ボイラー」(HS840220)と続く。インドネシアのこれらの財の輸入は、数量ベースでみても、2019年同期比でマイナスとなった。

各国の2021年上半期における最終消費財輸入額増加に大きく寄与した商品を整理すると、ノートパソコンやタブレットコンピュータを含む「携帯用の自動データ処理機械」(HS847130)が目立つ〔別添1:主要国の最終消費財輸入(2021年1-6月):金額ベースでの増加寄与度(対2019年1-6月)が大きい財PDFファイル(125.03KB)〕。自宅での巣ごもり需要や、リモートワークの長期化への対応などにより輸入が増加した。また、「人用のワクチン」(HS300220)も目立つ。例えばドイツでは、「人用のワクチン」はSARS(重症急性呼吸器症候群)関連コロナウイルス用(HS300220010)とそれ以外に分けられるが、2021年上半期の「人用のワクチン」輸入額の約85%がSARS関連コロナウイルス用となった。前述の別添で挙げた「携帯用の自動データ処理機械」や「人用のワクチン」は、数量ベースでみても増加した。

その他には、中国では化粧品の一部〔美容用、メーキャップ用又は皮膚の手入れ用の調製品の一部(HS330499)〕が、2021年上半期の最終消費財輸入額増加(2019年同期比)に大きく寄与した。なお、日本の同品目の輸出額は中国向けを中心に増加しており、2021年上半期は前年同期比28%増となった。中国国家統計局によれば、財別の内訳が分かる一定規模以上の企業の社会消費品小売総額(以下、小売売上高全体)は2020年通年で前年比1.9%減と落ち込むなか、化粧品は同9.5%増と拡大。また、2021年1~6月でみても化粧品(前年同期比26.6%増)は小売売上高全体(同26.4%増)をわずかではあるが上回るなど、化粧品需要の拡大が日本からの輸出を下支えした。

では、減少した品目はどうか。各国の2021年上半期における最終消費財輸入額減少に大きく寄与した商品を整理すると、乗用自動車が目立つ〔別添2:主要国の最終消費財輸入(2021年1-6月):金額ベースでの減少寄与度(対2019年1-6月)が大きい財PDFファイル(161.01KB)〕。乗用自動車(HS8703)に絞ってみると、米国、ドイツ、インドネシア、ブラジルでは、2021年上半期の輸入額は2019年同期を下回ったままだ〔別添3:主要国の乗用自動車輸入(2021年1-6月)PDFファイル(92.31KB)〕。米国とドイツでは台数ベースで見ても2019年同期水準を下回る。もっとも、環境対応車に限ると、様子が異なる。インドを除くと、金額、数量ともに、2019年同期水準を上回った。2020年上半期でも対2019年同期で環境対応車に対する需要の底堅さが見られたが、2021年に入っても同様の傾向が確認できた。

一部主要国では、輸入増加分に占めるワクチンの割合が大きいなど、経済活動正常化に向けた道半ばの状況を示す。IMFは2021年7月、世界の実質GDPは2021年に2019年水準に回復するとの見通しを示す一方、短期的には下振れリスクが支配的と指摘する(2021年7月28日付ビジネス短信参照)。景況感の悪化は、消費活動に水を差しかねない。世界経済の不確実性、成長の下振れリスクが指摘されるなかで、「デジタル化」を支える情報通信機器、環境に関連した商品、さらにはニーズを捉えた美容や健康関連財などに対する需要が、輸出を牽引することが期待される。


注1:
IMFによると、中国、米国、インド、日本、ドイツ、ロシア、インドネシア、ブラジルの8カ国の購買力平価基準のGDPが世界全体に占める割合は2021年に57%超と見込まれている。
注2:
国連のBEC(広義の経済的範疇)分類の第5版に基づき、最終用途として「最終消費」に分類される財を「最終消費財」(例えば、化粧品やゲーム機器など)、「総固定資本形成」に分類される財を「資本財」(例えば、半導体デバイス又は集積回路製造用の機器や貨物船及び貨客船など)とした。なお、例えば、乗用自動車のように双方の要素を持つ財は、それぞれに含めて分析した。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
朝倉 啓介(あさくら けいすけ)
2005年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2005~2009年)、国際経済研究課(2009 ~2010年)、公益社団法人日本経済研究センター出向(2010~2011年)、ジェトロ農林水産・食品調査課(2011~2013年)、ジェトロ・ムンバイ事務所(2013~2018年)を経て海外調査部国際経済課勤務。