特集:アフリカにおける医療機器ビジネスの可能性富裕層向け中心に医療サービス拡充(ナイジェリア)
迅速かつ的確なアフターサービスや技術サポートがカギ

2021年9月9日

人口、経済規模ともにアフリカ最大のナイジェリアでは、不十分な医療インフラや厳しい生活環境から、平均寿命は世界183カ国中167位の62.6歳( WHO World Health Statistics 2021)で、アフリカの中でも短い。2億人ほどの人口に対し、医師数は全国に74,000人程度で、日本の4分の1に満たない。しかし、最大都市ラゴスを中心に、最新型の設備を備えた大規模な総合病院が新規開業するなど、主に富裕層向け医療サービス分野で変化が見られる。現地の医療機器市場について、40年にわたって国外メーカーの販売代理店を務めるISN Medicalのフェリックス・オフングウ氏に聞いた(2021年7月9日)。


フェリックス・オフングウ氏(本人提供)

全国にネットワーク形成、ガーナにも進出

質問:
ISN Medicalの概要と事業内容、強みは。
答え:
当社は1981年にドイツの製薬大手ベーリンガーインゲルハイム(BI)の販売エージェントとして創業した。BIが1997年にスイスのロシュ(Roche)に買収されたことから、同社の代理店を手掛けるほか、7社の販売代理店を兼ねている。ナイジェリア全土に10拠点を構え、2019年にはガーナへ進出して2拠点を開設した。現在、従業員数は約200人いる。
当社の強みはアフターサポートサービスだ。常に1,000を超える試薬キットや消耗品の在庫を確保することで、ナイジェリア全土に所在する顧客への安定供給を実現している。また、エンジニアの育成にも力を注いでいる。国外メーカーの製造拠点に彼らを派遣し、トレーニングを受けさせている。

求めるのは、ともに市場開拓するパートナー

質問:
市場で求められている医療機器のトレンドや、調達の際に重視するポイントは。
答え:
ナイジェリアでは、CTスキャンやMRI、レントゲン撮影装置など、医療現場のイメージング機器の数が圧倒的に不足しているため、マーケットは今後成長するだろう。また最近では、がん患者の数が増加傾向にあり、放射線治療装置や放射性医薬品など、がん治療の関連分野で需要が伸びると考えている。当社でも、高エネルギー放射線治療装置(リニアック)2台をナイジェリア国内に輸入した実績がある。また、当社としては糖尿病治療の発展に注力しているため、人工透析装置にも高い関心を持っている。
先に述べたとおり、当社は迅速かつ的確なアフターサービスと技術サポートの提供を重視している。パートナー企業の提供するトレーニングを受けた当社のエンジニアが検査技師や医師などエンドユーザーを支援する体制を築いている。そのため、当社のパートナー企業とは製品を売買するだけの関係でなく、ともにナイジェリアのヘルスケア市場の発展のために協働関係となることを望んでいる。

長年の経験が大きな強み

質問:
ナイジェリアでビジネスをする際の障壁や規制は。
答え:
この国でビジネスを進めていくには、さまざまな課題があるのは事実で、常に冒険しているようなものだ。しかし、過去40年間にわたって諸外国とのビジネスを継続してきた当社は、長年の経験からノウハウも蓄積している。貨物の通関や引き取りに時間を要するなどの問題はあるが、いずれもわれわれがビジネスを諦める要因とはならない。
規制に関しては、医療機器や医薬品の場合、適合性評価プログラム(SONCAP)の認証取得や、食品医薬品管理局(NAFDAC)による管理規制に留意する必要がある。SONCAPは船積み前検査を所定の検査機関で実施し、適合証明書の発行を受けなければならない。また、NAFDACについては、当社は既に医薬品と医療機器の輸入ライセンスを取得している。

患者向けのケア、ライフサポートの分野にも進出予定

質問:
今後の展開は。
答え:
当社は医療診断の分野を中心として事業展開してきたが、患者のケアやライフサポート分野にも進出していく予定だ。特に患者のモニタリング機器について、国外の製造業者とのパートナーシップを切望している。ガーナに2020年に進出したが、今後数年以内に西アフリカ諸国へ展開を加速し、診断医療を中心に研究開発やCSR活動にも取り組んでいきたい。
執筆者紹介
ジェトロ・ラゴス事務所長
谷波 拓真(たになみ たくま)
2013年、ジェトロ入構。知的財産課、ジェトロ金沢、ジェトロ・アジア経済研究所を経て、2019年12月から現職。