特集:アフリカにおける医療機器ビジネスの可能性ダイナミックに変化するヘルスケア市場には柔軟対応で(ケニア)
2021年9月9日
ケニアは、東アフリカ随一のヘルスケア大国だ。全ての国民が適切な医療に支払い可能な費用でアクセスできる状態、つまり「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」を目指す。ケニヤッタ大統領は2017年の再選以来、医療の拡充を政権の柱として掲げてきた。
今回は、サイエンスコープでビジネス開発・薬事管理マネジャーを務めるジョン・キーン氏に、ケニア市場の現状と課題、展望を聞いた。なお、サイエンスコープは、ケニアで老舗の医療機器代理店。ジェトロの医療機器商談会にも参加した実績がある。
- 質問:
- 事業概要は。
- 答え:
- サイエンスコープは1977年の創業で、長年、販売代理店ビジネスを基軸に、診断事業や医療事業、ライフサイエンス事業に携わってきた。連携実績のある取引先パートナー企業の所在地は、欧州や北米、南米、アジア、太平洋地域、アフリカ(特に南アフリカ共和国)と広域にわたる。具体的には、スイスのバーゼルに本社を構える診断機器・試薬メーカーのエフ・ホフマン・ラ・ロシュ(Roche)や、ドイツの光学機器メーカーのカール・ツァイスがある。日本メーカーの内視鏡システムや血液分析装置も取り扱う。パートナーからは、取り扱い製品の品質と競争力だけでなく、高い技術サポートにも高い評判を得ている。また、ケニアに拠点を置きながらも、東アフリカ域内に販路を持つ点もわれわれの強みといえる。
- 顧客やパートナーには、倫理的な対応と高いサービスの提供を心掛けてきた。顧客が直面する科学的課題に適切な解決策を提供できると自負している。高い技術と経済合理性を維持し、国や地域社会の経済、社会の成長に貢献したいと考えている。
- 質問:
- 医療をめぐる変化や市場の需要は。
- 答え:
- ケニアは、日々変容を遂げるダイナミックな市場だ。
- われわれが直面している課題の1つに規制がある。ケニアには人体に影響を及ぼす恐れがある廉価品が流入し、基準認証の適合性を問う議論が高まっている。しかし、規制が厳しくなれば取引額が高くなる。また、為替リスクの高まりによって調達も不安定になる。現地の規制を順守する中で、こういった事情が常に支払い条件に影響する一面もある。
- 質問:
- 製品を検討する際に重視する点は。
- 答え:
- 前述の法的要件に加え、重要なポイントは価格設定だ。ケニアは、製品の質を重視する一方、価格にも敏感な市場だ。特に、体外診断用医薬品(IVD)やライフサイエンス製品については、顧客が常に価格に関心を持っている。そうしたこともあって、定価と卸価格の差、支払い条件を考慮しなければならない。
- また、パートナーと協力し、効率的で信頼できる供給網を構築することも重要と考えている。顧客の需要は常に変わるため、コミュニケーションを取りながらより質の高いサービスとコンサルティングを提供する必要がある。
- 質問:
- 関心がある日本製品は。また、日本企業の可能性は。
- 答え:
- ケニア市場には世界中からさまざまな製品が集まる。日本企業は高い技術を持っており、信頼されていて人気がある。日本とケニアでは市場に違いがあるので、互いをよく理解し、協力関係を構築することが重要だ。
- 質問:
- 輸入時の課題は。
- 答え:
- 顧客から注文を受けることは難しくない。しかし、その後の原材料調達や在庫・物流に問題がある。また、輸出前に適合証明書(CoC)を取得しなければならず、国によっては時間がかかる。通関書類の不備という課題もあり、船積み前に書類をそろえておくことも重要だ。製品ごとに定められている諸税や、付加価値税(VAT)、鉄道税などの課税も考慮しておく必要がある。また、通関後に販売する際にも、規制対象製品に関しては証明書を取得しなければならない。
- 質問:
- 商談会での成果や、日本企業へのアドバイスがあれば。
- 答え:
- 商談会では多くの学びがあり、実りが多かった。日本企業へは、ケニアのような若い市場にアプローチする際には、多様性を柔軟に受け入れてほしいとアドバイスしたい。 アフリカは若い大陸で、市場の成長には時間がかかり、成果が出るには時間がかかるのも事実だ。適切な代理店と協力し、ダイナミックで戦略的なアプローチを取ることで、現地情報と市場シェアを得ることは可能と考えている。共同出資や官民パートナーシップといった手段も活用しながら、中長期的で持続可能なビジネスの発展を目指す姿勢が大切だろう。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ナイロビ事務所 調査・事業担当ディレクター
久保 唯香(くぼ ゆいか) - 2014年4月、ジェトロ入構。進出企業支援課、ビジネス展開支援課、ジェトロ福井を経て現職。2017年通関士資格取得。