特集:アフリカにおける医療機器ビジネスの可能性変化する医療機器市場(南アフリカ共和国)
新型コロナの影響でモニタリングデバイスのニーズ拡大
2021年9月9日
ヘルスケアサービスがGDPの8%を占める南アフリカ共和国。経済発展と平均寿命の伸長とともに、医療機器市場は成長を遂げている。南アは医療機器の9割を国外に依存しており、欧米と並んで多くの日本の医療機器メーカーから輸入している。糖尿病や高血圧などの生活習慣病の症例が近年増加したことに加え、新型コロナウイルスの感染拡大によって病院内での感染を恐れる患者が増えている。その結果、病院外で健康状態を把握できるモニタリング機器の需要が高まっている。
モニタリング医療機器市場について、南アフリカ医療技術産業組合(South African Medical Technology Industry Association、SAMED、注1))執行役員のタニヤ・ボート氏にインタビューした(2021年6月23日)。
南アフリカ医療機器市場への新型コロナウイルス感染拡大の影響
- 質問:
- 南アフリカのヘルスケア市場の現状は。
- 答え:
- 中間所得層の拡大に伴い、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の増加傾向がみられる。他方で、新型コロナウイルス感染拡大により、感染を恐れて通院を避ける患者を対象としたモニタリングが新たな課題になりつつある。そこで、ウェアラブルデバイスや家庭用のモニタリング機器を使ったデジタルソリューションに注目が集まっている。最もシェアの高い民間保険会社は既に幾つかのデバイスを保険の対象にしている。また、初めての国民保険制度が2022年にも始まるといわれており、政府が最初に対象とする機器は国内で生産されているプライマリーヘルスケア(予防医療)関連と予想される。
南アフリカ市場参入のカギは優れたパートナーシップ
- 質問:
- 南アフリカには、政府のライセンスを取得している1500社もの医療機器メーカーやディストリビューターがあるが、日本企業の参入で気をつけるべきことは何か。
- 答え:
- 新規参入が比較的しやすいのは民間セクターだ。3つの私立病院が市場を独占しているので、このアプローチは重要だ。他方、南アフリカ大統領は医療機器セクターを今後の成長市場と考えている。南アフリカの医療機器やワクチン需要は国内の供給量を上回っており、医療機器・医薬品は貿易赤字の中で5番目に大きいカテゴリーとなっている。政府は国内生産を増大し、特に黒人経営の中規模な医療機器ビジネスを強化したいと考えている。そのため、良いB-BBEE(注2)レベルを保持するパートナーを選び、より長い期間の利益確保を模索することが重要となる。また、南アフリカのディストリビューターは近隣諸国への輸出にも関心があり、このことは外国企業の関心を引くだろう。
民間セクターでは機器の質と価格のバランスが重要
- 質問:
- 南アフリカのバイヤーが製品を検討する上で重視することは。
- 答え:
- 前述の3つの私立病院間の競争では、医療機器の質を保ちつつ、より安価な機器を提供することが新規参入で重要だ。そのため、南アフリカ国内の検査基準のみならず、国際的な基準も満たす必要があることが多い。南アフリカの政府機関と民間病院では、さまざまな手続きや資料が要求され、それに応えることが重視される。特にイノベーティブな機器については、高価格を設定することもあるが、費用対効果について十分に検討している必要がある。
国際的な展示会や学会などでのアピール重要
- 質問:
- 新しい機器の情報収集をする際、どのようなプラットフォームを利用するか。
- 答え:
- アフリカヘルスやメディカのような国際的な展示会がディストリビューターにとっては一般的。より高度で専門的な機器は、学会や国際的なカンファレンスで医師向けにアピールし、エンドユーザー側からアプローチしていくことも一案だ。
- 注1:
- 1985年設立の南アフリカ医療技術機器産業組合。ウェブサイト。198社の会員への情報提供や、業界団体として政府への提案を行う。輸入規制についても大きな影響力を持つ。
- 注2:
- ブラック・エコノミック・エンパワーメント政策(Broad-Based Black Economic Empowerment, B-BBEE政策, 通称BEE政策)
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
スリンド・ムイサ - 2015年からジェトロ・ヨハネスブルク事務所勤務。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
中西 瑞穂(なかにし みずほ)