特集:各国進出企業に聞く-RCEPへの期待と発効を見据えた事業戦略RCEPによる節税効果に期待、将来的なインドの参加を望む(マレーシア)

2021年7月21日

2020年11月に署名された、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に関して、マレーシア産業界からは、締約国内での輸出拡大や原産地規則をはじめとした手続き面の円滑化のほか、新型コロナウイルスの影響で受けた経済的な打撃からの回復に、RCEPによる輸出拡大が寄与することが期待されている。同国に進出する日系企業A社(物流・倉庫業)に同協定への期待と発効を見据えた事業戦略について話を聞いた(インタビュー実施日:2021年6月29日)。

質問:
貴現地法人が管轄する地域・国における事業概要は。
答え:
マレーシアで物流・倉庫業を行っている。日本や中国で生産した製品を当社倉庫やコンテナヤードで在庫し、需要に応じてマレーシア国内または第三国へ出荷するなど、マレーシアを国際納入業者在庫管理方式(VMI)や域内の物流ハブとして活用する顧客向けのビジネスが好調だ。
質問:
大局的な視点から、貴社のRCEPへの評価とビジネスへの影響は。
答え:
RCEPは日本、中国、韓国の3カ国が参加する初めての経済連携協定(EPA)であることから、活用できる取引の幅が広がることを評価している。また、原産地規則において、他の多国間自由貿易協定(FTA)や既存のASEAN+1FTAと比べて、付加価値基準の原産資格割合が低く設定されている上に、付加価値基準および関税分類番号変更基準の併用を採用している品目も多く、原産地規則を満たしやすい。このことから、企業によっては、RCEPを活用することで、数年で数億円規模の節税効果を得られる場合もあるため、特にマレーシア現法としては、マレーシアで加工、またはマレーシアを経由して、RCEP締約国との取引を行っている企業への活用を促進したいと考えている。
また、将来的に、生産者・輸出者による自己申告制度が導入される可能性もあり、この点で新たなビジネスの開発を検討している。他方、マレーシア拠点では、日本などからマレーシアを経由してインドに出荷する取引も多く、RCEPへのインドの参加に期待していた。今回は署名に至らなかったことは残念。将来的な参加に期待している。
質問:
貿易面で、貴社の現在のFTA・EPAの活用状況は(品目、相手国など)。その上で、貴社のRCEP活用の見通しや、期待について。
答え:
現状では、化学品、医薬品 医薬関連製品(医薬部外品を含む)、食料品などの日本、ASEAN、中国における取引でFTA・EPAを活用している。医薬品や特に食品では、既存のFTA・EPAの相手国以外の国の原産である原材料・部品を用いてマレーシアで加工しているため、原産地規則を満たすことができない製品が多いが、RCEPの原産地規則であれば原産性が認められる可能性が広がるため、こうした製品の取引への活用を検討している。
質問:
既存FTA・EPAやRCEPを活用する上での現状の課題や今後への期待があれば。
答え:
マレーシアにおいては、電子原産地証明書での通関はASEAN物品貿易協定(ATIGA)のみでしか採用されていない。RCEPが発効することで、RCEPおよび他の既存FTA・EPAについても電子原産地証明書の受理が促進されることに期待している。また、RCEPでは、事前教示制度の回答を可能な限り迅速化することや、「有効期間を少なくとも3年」に設定するなどの規定が設けられており、運用面も含めてRCEPの発効により、事前教示制度の成熟化が進むことにも期待している。
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。