特集:変わりゆく中東とビジネスの可能性 環境に配慮し、オリーブの種から代替プラスチック生成(トルコ)

2021年11月16日

トルコで2021年7月14日、グリーンディール行動計画(Green Deal Action Plan)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.11MB)が発表された。二酸化炭素(CO2)排出削減を狙い、貿易省が発表したものだ。また10月6日には、パリ協定批准が国会で承認されている(2021年10月13日付ビジネス短信参照)。このように、近年、欧州に追随するように、徐々に気候変動対策の動きを見せ始めている。政府は環境に配慮した行動計画を推進し、欧州の環境基準への適合を進めることで、トルコでの生産・調達の増加や、トルコへのグリーン投資促進を目指している(7月17日付国営アナドル通信外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

こうした政府の方針に加え、民間大手企業の関心も少しずつ高まってきた。例えば、主要財閥のコチ・ホールディング(Koç Holding)がカーボンニュートラル戦略を策定している。こうした中、この分野に新たに取り組むスタートアップがある。

バイオリーブ(Biolive)は、オリーブオイルを製造する際に廃棄するオリーブの種を活用したバイオポリマー製造のスタートアップだ。同社は独自の技術で、従来の石油由来のプラスチックに代わり、微生物によって生分解される生分解性プラスチックを生み出す。環境に与える負荷が低く、持続可能な開発目標(SDGs)にも配慮した素材として国内外で注目されている。オリーブ生産量世界第4位のトルコならではのスタートアップともいえる。

同社の創業者ドゥイグ・ユルマズ(Duygu Yılmaz)氏に、事業内容やトルコの投資環境について聞いた(2021年10月7日)。


創業者のドゥイグ氏とバイオリーブ素材コンパウンド(バイオリーブ社提供)
質問:
事業のきっかけは。
答え:
トルコでは、オリーブの種が身体に良いと信じられている。そのため、種を飲み込んでしまう人が多い。実際、私の父親もそういう癖がある。そこで、本当に健康にいいのかと調べたことが事業開始のきっかけだった。私はもともとフードエンジニアなので、大学のラボで友人と一緒に調べてみた。そうしたところ、残念ながら、身体に良いというのは科学的根拠のない迷信という結論になった。
だが、同時に、オリーブの種からバイオポリマーを生成できることが判明した。この発見から友人とともに研究を重ね、2016年に最初の投資を受けてプロトタイプを作成。バイオリーブの設立に至った。社員の多くはフードエンジニア、材料工学や分子生物学のバックグラウンドを持っている。
質問:
事業内容は。
答え:
トルコでは年間50万トンのオリーブの種が廃棄される。世界規模の廃棄量は600万トンに上る。種を有効活用する方法がないと、焼却か埋め立て処分となるのが通常だ。いずれにしても、環境にとっては有害だ。特に焼却処分の場合、石炭の6~7倍の二酸化炭素(CO2)が排出されるという。
当社の技術では、廃棄する種をバイオポリマーとして再生させることができる。他のプラスチック素材と混ぜ合わせて使う新しいタイプのポリマーだ。顧客のニーズにより、さまざまなプラスチック素材との化合物を作ることが可能だ。使用用途も幅広く、テキスタイルや電子部品、食品包装容器など、プラスチックが使用されているものであれば適用できる。

活用事例(バイオリーブ社提供)
質問:
活用例は。
答え:
トルコでは、欧米に比べると、環境配慮型の製品を扱う企業はまだ多くない。それでも、徐々に増えている。
例えば、ディファシュ(Difaş)という会社が販売する100%バイオ原料の歯ブラシには、そのうちの40%にオリーブの種からできた当社のバイオポリマーを使われている。トルコの大手家電メーカーのベステル(Vestel)は、テレビの部品に当社の製品を使用している。ビール製造大手のアナドル・エフェス(Anadolu Efes)も、ビールを冷やす氷を入れるバケツに使用。その他、ハンガーや医療器具など、活用の可能性は多岐にわたる。
食用可能な原料を使ったバイオポリマーとは異なり、当社の製品は原料がオリーブの種という完全な廃棄物というところが特徴だ。そのため、類似製品に比べて安価で、衝撃や熱・水への耐久性が高い。現在、当社のバイオポリマー製造技術は米国食品医薬品局(FDA)や米国農務省(USDA)、ドイツ工業規格(DIN)、インターテックなどの機関から認証を取得済みだ。また、国際特許も保持している。
質問:
国外展開の状況や今後の展望は。
答え:
まず、国内で2022年5月に新工場の設立を予定している。生産能力が現在の月間50トンから500~600トンへ大幅に増える予定だ。
当社の技術・製品は将来的に世界中で需要が増える分野だと考えている。中でも、まずターゲットとしているのが欧州や米国だ。特に欧州は、気候中立と温室効果ガス削減目標を「欧州グリーンディール」で明確に策定。他地域よりも早く規制を施行し、各企業の関心も高い。実際、食品包装容器関連を中心に、欧米から数多くの引き合いがある。米国のワシントンD.Cとスイスのチューリッヒに所在する販売パートナーと、戦略的な販路拡大を図っている。
他方、欧米に限らず、アジアにも可能性があると感じている。例えば最近、韓国の空調機器メーカーとのビジネスを開始した。日本市場に関しては、英語の情報が限られることもあり、まだリサーチ段階だ。当社の製品・考え方を理解し、賛同してもらえるパートナー候補の開拓を進めたい。
また、自社製品の輸出だけではなく、技術ライセンシングも考えている。原料が取れる場所(オリーブの種が廃棄物として出る地域)なら、どこでも応用ができるはずだ。
質問:
トルコ国内における、SDGsに配慮したスタートアップの競合状況は。
答え:
国内には従来、サステナビリティーに配慮したバイオテックの会社は少なかった。当社のような技術はほかに見ることはなかった。もっとも、さまざまなコンテストでの受賞や国内外メディアへの掲載が増えるにつれ、当社のアイディアに賛同し類似のプロジェクトを持つ企業が近年出てきた。それでも、まだ開発段階のプロジェクトが多いのが実情だ。
一例としては、バイオポリマーから派生したバイオレザーの開発・販売を手掛けるスタートアップがある。この企業とは、当社としても密に連携している。100%ビーガン(非動物性)素材でできた革製品「オレアテックス(Oleatex)」は通常の革より軽量で耐久性があり、欧米の自動車や航空産業への活用を見込むことができる。少しずつではあるが、トルコでも環境に配慮した技術を持つスタートアップが増えてきている。

バイオレザー(バイオリーブ社提供)
質問:
トルコを拠点とする利点は。
答え:
一番大事な点は、原料と工場が200~300キロ圏内という近さにあり、輸送にかかる環境負荷を低く抑えられることだ。製造工程でもサステナブルであることが重要だ。
生産活動は国内で完結するため、通貨リラ安によって生産コストが低く抑えられている。その上、当社に投資している会社や投資家は全てトルコ国内のネットワークがある。国外に販売ターゲットを置きながら、トルコ国内で生産活動を続けるメリットは大きい。
質問:
トルコの投資環境は。
答え:
事業を始めた最初の数年間はR&Dで思うような結果が出なかった。また、人々の間でバイオプラスチックに対する理解も浸透していかなかった。そのため、われわれのアイディアは実現するのが難しいと言われていた。投資家にアイディアを説明し、理解を得て、実際の投資につなげるまでは非常に苦労した。
現在、当社はシリーズAラウンド(注)にある。CVC(トルコの主要財閥ゾルル・ホールディング(Zorlu Holding)グループ傘下)やベステルベンチャーズ(Vestel Ventures)が、当社のトップインベスターだ。ゾルルはバイオテック分野に関心があり、同分野スタートアップへの投資にも実績がある。
また、9人の女性エンジェル投資家からも支援を受けている。資金投資以外に、経営やサステナビリティーに関するコンサルティングなどのサポートも受けた。トルコのスタートアップ業界で、女性起業家間のつながりは強固といえる。
質問:
政府からのインセンティブなどの支援は。
答え:
残念ながら、トルコのスタートアップに対するインセンティブはまだ十分とは言えない。特に、サステナビリティーや環境配慮型、SDGs関連事業のスタートアップは、支援を得るのに苦労を伴う。自分たちがやっていることが将来的に可能性のある分野だということを常に説明し、証明する必要が依然として残っているのだ。われわれもサステナビリティーを強調するのではなく、R&Dプロジェクトと説明することで政府の支援を受けている。
だが、近年はそうしたサステナビリティーや環境配慮事業への支援を増加させることが政府の中で議題にあがっている。トルコ科学技術研究議会(TUBITAK)や中小企業開発機構(KOSGEB)などの政府機関の中小企業・スタートアップへの支援メニューも少しずつ充実してきた。当社も前述の新工場設立に向けて、さらなる支援を期待している。

注:
スタートアップ企業において、ベンチャーキャピタルなどが最初に出資する初期の段階。
執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所
友田 椋子(ともだ りょうこ)
2014年、ジェトロ入構。農林水産・食品部、ジェトロ・アトランタ事務所、ジェトロ熊本を経て、2020年10月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所
エミネ・ギョンジュ
テキスタイル会社勤務、日本の大学院留学、日本の通信社記者を経て、2013年からジェトロ・イスタンブール事務所に勤務。

この特集の記事

随時記事を追加していきます。

総論

コンテンツ

ヘルスケア

女性向けビジネス

スタートアップ

日本食

グリーン

(参考)特集:グリーン成長を巡る世界のビジネス動向