特集:変わりゆく中東とビジネスの可能性拡大する医療市場で迅速に製品登録を支援(サウジアラビア、UAE)

2022年3月23日

メディカル・レギュレーション・ゲート(Medical Regulations Gate、以下MRG)は、海外の医薬品・医療機器製造事業者を対象に、製品登録についてコンサルティングする会社だ。サウジアラビアなどでそうした製品を販売する際には、製品登録が必要になる。そうした業務は、外国企業でも個別に登録作業は可能だ。ただし、市場知識や手続きに熟知した専門企業を活用するのも、円滑な市場参入に有益だろう。

同社は2012年、サウジアラビアのリヤドに設立された。今でも、本拠は当地にある。その後、アラブ首長国連邦(UAE、2016年)、エジプト(2020年)にも事業を拡張。現在はトルコでの法人設立の手続きを行うなど、海外展開を進めている。特にエジプトでは、医薬品登録に係る公式コンサル企業として同国初の認定を受けた。これまでにサウジアラビアやエジプトで、15万件に及ぶ医薬品・医療機器登録を手掛けてきた。企業数としては300社を超え、その中には大手企業も含まれている。

同社のMENA地域およびパキスタン担当販売・マーケティングマネージャーのムンゼール・アハマド・ファリール氏に、サウジアラビアとUAEの医薬品・医療機器市場と、同社の戦略について聞いた(2022年2月8日)。


MRGのムンゼール・アハマド・ファリール氏(本人提供)
質問:
サウジアラビアの医薬品・医療機器市場の見通しは。
答え:
サウジアラビアでの医薬品・医療機器の需要は、見通し良好だ。湾岸域内最大の人口規模とその市場規模の大きさも、その背景にある。現在の国内市場規模は476万ドルだ。ただし、人口増加や経済成長に後押しされるかたちで、2027年末には825万ドルまで成長が見込まれている。
質問:
サウジアラビアの医薬品・医療機器市場の特徴は。
答え:
サウジアラビア市場は、単独で中東市場全体の約50%を占めている。それだけでなく、医療機器の90%が外国製という高い輸入率が特徴として挙げられる。加えて、サウジアラビアの企業や医療機関の多くは、海外から新規調達するより、既に国内で販売登録済みのメーカーから医療機器を購入する傾向にある。これは、未登録のメーカーから購入すると、各種の新規登録を完了するまで商品が手に入らないことが大きい。入手の利便性とスピードを重視した上での購買傾向といえる。
質問:
サウジアラビアで最も需要がある製品は。
答え:
2022年1月時点の調査によると、上位から、(1)糖尿病関連機器、(2)血管内超音波検査機器、(3)医療用シアノアクリレート(接着剤)になっている。その背景に、老若男女を問わず糖尿病患者の増加がサウジアラビアの社会問題になっていることがある。人口増加に伴い医療機関が増設されていることも要因だ。それに伴い、脳検診、腹部検診、妊婦向けの超音波検査機器や健康診断関連機器について、需要が増加している。
質問:
サウジアラビアの医療市場では、どの国の製品が人気か。
答え:
サウジアラビア市場に占める医療機器の多くは、主に欧州や米国からの輸入品だ。しかし最近では、中国・韓国・日本製の医療機器も市場参入するようになってきた。当社も過去4年ほど、特定の日本企業の製品登録を支援している。
質問:
MRGの登録作業支援サービスとは。
答え:
サウジアラビアでは、医薬品・医療機器は、サウジアラビア食品・医薬品庁(SFDA)への製品登録が必要だ。一方で、保健省への登録は必要とされていない。当社では、SFDAへの登録作業で、最初から最後までフルサービスの支援を提供している。
質問:
SFDAでの登録プロセスは。
答え:
SFDAでは、手続きが2段階構成になっている。
はじめに、製造のメーカーが公式に代理人を任命することが求められる。この作業は通常、およそ2週間で登録が完了する。一方、当社に委託した場合は、依頼元からの決済さえ完了すれば、最短で48時間以内に登録作業の完了が可能だ。また、登録プロセスを加速させるべく、当社が製造業者に代わって請求代金を一時的に肩代わりすることもある。
次の段階が、製品の登録だ。当社は、製品の登録作業に係るサポートサービスを提供している。SFDAの規制事項に詳しい当社担当者が、製造元と直接連絡。申請書類の内容がSFDAの定めるガイドラインを順守しているかを徹底的に確認し、提出に備える。この製品登録プロセスでは、提出書類上の不備などでSFDAから書類が返却され、修正したものを提出し直すなどの作業が避けられない。そのため、通常は2~3カ月を要する。しかし、当社では専門の担当者によって、初回でSFDAの基準を満たした申請書類を提出することが可能だ。書類が戻されることがないため、順調にいけば1カ月ほどで製品登録が完了するという強みがある。
サウジアラビアにおいては、この2段階の登録作業が2~3カ月ほどかかるのが通常だ。これを終えて、晴れて認定代理人(authorized representative、AR)として、国内での製品登録が可能になる。
質問:
サウジアラビアとUAEの市場の違いは。
答え:
両市場は全く異なっている。特に、医薬品・医療機器の登録方法に顕著な違いが見られる。
具体的には、サウジアラビアでは、医薬品とみなされた全ての製品が、輸入前にSFDAにおいて登録されている必要がある。体外診断用医薬品(IVD)のクラス分類(注1)だったとしても、その対象になる。
他方、UAE(とりわけドバイ)では、専門的な医薬品とみなされた製品だけが、輸入前に保健省の専用プラットフォームに登録されている必要がある(注2)。非専門的医薬品とみなされた製品(例えば、コンタクトレンズやその洗浄液)の販売登録は、卸売業者が保健省から直接ライセンスを取得する必要がある。そのため、当社が間に入って登録作業を代行することはできない。唯一の方法として、申請者が当社に、保健省専用プラットフォーム上のユーザーIDとパスワードを共有する方法も考えられはする。しかし、企業がこのような個社の情報を我々に共有してまで、依頼してくるケースはほとんどない。
その他、サウジアラビアとの大きな違いとして、施設保有の必要性の問題がある。UAEでは、保健省の製品登録作業を完了させるために、卸売業者が自社販売店または自社倉庫を構えている必要があるのだ。また、登録完了までの期間も、UAEではプロセスが自動化されていないことから、6~9カ月かかる。サウジアラビアよりもはるかに時間を要するわけだ。個人的な意見としては、サウジアラビアでの登録システムの方が、より迅速で優れていると感じている。
質問:
日本企業がサウジアラビアの輸入代理店とのコンタクトを希望した場合、紹介が可能か。
答え:
当社は、サウジアラビアの主要な輸入代理店30〜40社との取引がある。しかし、各社の利益の衝突を避けるため、また公平性の観点からも、代理店を個別に紹介することには応じていない。

サウジアラビアでは、今後も医療機器の高い需要が見込まれている。今回聴取したところ、想定以上に容易かつ迅速な登録システムが準備されているようだ。また既述のとおり、当地は海外からの医療機器輸入に頼る市場という特徴がある。MRGでは3~4カ月に1回の頻度で、サウジアラビア市場における規制の変更などに関するウェビナーを開催。医薬品・医療機器メーカーへの情報提供を通じて、拡大する医療機器市場への参入に貢献している。


注1:
疾病の診断を目的に使用される医薬品のうち、人または動物の身体に直接使用されないもの。
注2:
UAEは連邦制のため、各首長国によって登録先が異なる。
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
ファハド・キナーナ
2018年11月からジェトロ・リヤド事務所勤務。対政府手続きなどの管理部門のほか、 調査補助ならびに企業からのインクワイアリ対応を担当。
執筆者紹介
日・サウジ・ビジョン・オフィス
比嘉 千亜紀(ひが ちあき)
2021年7月から日・サウジ・ビジョン・オフィス勤務。日本・サウジアラビア両国政府が推進する日・サウジ・ビジョン2030に関連した業務を担当。

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