特集:変わりゆく中東とビジネスの可能性化粧品の売り上げ、コロナ禍でも健闘(イラン)

2022年4月22日

イランは現在、米国の経済制裁の影響により、日本からの新規ビジネスの開拓が難しい。しかしながら、制裁緩和など見据えた中長期的な視点で見ると、人口8,400万人の市場規模を持つイランの消費市場は魅力的だ。本レポートでは、制裁緩和後に有望分野となる可能性のある化粧品市場を取り上げる。

イスラム教国のイランでは、女性は外出時にヘジャブといわれるスカーフのような物で髪を隠す必要がある。その結果として、人の視線は女性の顔、特に目に集中することになる。それだけに、女性のメイクアップへの意識は高い。特に若年層の女性の間では、SNSなどを通じて情報交換したり、新規購入品の感想を友人と共有したり、日本と変わらない光景が繰り広げられている。

そこでイラン洗剤・衛生用品・化粧品産業協会のマジド・ピルアリハメダニ事務局次長に、化粧品市場についてインタビューした(2022年3月9日)。同氏によると現在、日本製化粧品は出回っていない。また、日本企業とのコンタクトもないとのことだったが、日本とのビジネス関係構築に向けた将来の可能性などについても聞いた。


イラン洗剤・衛生用品・化粧品産業協会のマジド・ピルアリハメダニ事務局次長(本人提供)
質問:
イラン洗剤・衛生用品・化粧品産業協会の概要について。
答え:
当協会は1998年に設立された。現在のメンバーは、200社以上。このうち、化粧品関連企業は70社だ。
イランの化粧品市場では70%が輸入品、30%が自国製品で構成される。自国製品のうち約95%を、当協会会員企業が生産する。協会の活動として取り組でいるのは、(1)業界団体としての政府に対する申し入れ、(2)展示会の開催、(3)生産者間の交流による新たな製品の開発、などだ。
質問:
イランの化粧品市場の特徴について。
答え:
市場規模は約41億5,000万ドル。われわれの統計では、世界で13番目の市場規模に当たる。市場の成長率は年間5%と順調だ。また、今後も成長が期待できると考えている。
イランで生産される化粧品の原材料は、80~85%が輸入品だ。主な輸入国はインド、中国と欧州となっている。
また、イランで生産された製品は14カ国以上に輸出されている。金額では2億ドル相当。主な輸出国はイラク、アフガニスタン、中央アジアだ。
質問:
イラン市場の問題点は。
答え:
大きく2つの問題がある。1つは、高いインフレ率。高率のインフレが続いているため、毎年、キャッシュフローに腐心しなくてはならない。
もう1つは、米国による経済制裁とそれに付随する海外との送金問題だ。米ドルを介した取引ができなかったり銀行送金ができなかったりするため、どうしてもビジネスに制約が出てくる。
質問:
新型コロナウイルス感染拡大の影響は。
答え:
新型コロナ禍は、2つの異なる影響を洗剤・衛生用品・化粧品市場に及ぼした。イランでは、新型コロナウイルス感染が広がるにつれ、洗剤や衛生用品の使用量が増加。その結果として、これら商品の売り上げは伸びた。反対に、外出が制限されたためか、化粧品の消費量はわずかに減少した。
当協会では独自に統計をとっている。当初は、化粧品の売り上げはもっと落ちると予想していた。ところが、結果的には下落率は予想したより小さかった。商品別に売り上げを見たところ、確かにアイライナーやファンデーションなどは減少した。一方で、口紅はむしろ増加していた。イランでは頻繁にお茶を飲んだりするので、短時間とはいえマスクを外すことも多い。その都度、口紅を塗り直すことになる。そういう人が多くなったことが要因と考えられる。日本では、マスクをするために口紅を塗らない人が増えたと聞いた。しかし、イランでは逆の現象が起きたようだ。
またイランでは、外出の予定がなく1日中家にいる場合でも、習慣としてメイクをする女性が多い。これも、売り上げの下落率が小さかった理由として考えられる。こうした点では、他国の同業界よりもダメージが少なかったと言えるかもしれない。
質問:
経済制裁が緩和された場合、日本企業との協業に関心は。
答え:
現状、イランでは日本の化粧品は流通していない。しかし、他の日本製品と同様に、イランの消費者は日本製化粧品に対して良い印象を持っている。そのため、化粧品市場の拡大に影響を与える可能性がある。こうした点からも、日本企業との協力についてわれわれは関心を持っている。
具体的には、3つの方法で協力することができると考える。まず第1に、日本からイランへの投資。第2に、技術、製品ライセンス、生産用機械、材料の移転などを通じた合弁事業。第3として、合弁事業で生産した製品の周辺国への輸出。日本製品はイランの周辺国の消費者から好感度が高いので、イランからの輸出についても十分可能性があると考えている。
執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所長
鈴木 隆之(すずき たかゆき)
1997年、ジェトロ入構。展示事業部、産業技術部、アジア経済研究所、ジェトロ高知、ジェトロ愛媛などを経て2020年から現職。海外はラゴス(ナイジェリア)、ロンドンに駐在。
執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所
マティン・バリネジャド
2018年からジェトロ・テヘラン事務所勤務。ビジネス短信や各種調査、展示会などを担当。

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