特集:中東Eコマースのポテンシャル現地最有力企業が日本製品取り扱いに期待(トルコ)
2020年12月16日
トルコ貿易省によると、2020年上半期(1月~6月)、トルコのEコマース販売額は917億トルコ・リラ(以下TL、約117億ドル、1ドル=約7.841TL(12月1日時点))だった。前年同期の559億TL(約71億ドル)に比べ、64.0%増と大幅に増加した。特に新型コロナウイルス感染症がトルコで広がり始めた2020年3月以降、継続的に伸びている。5月には、一般小売り販売額に占めるEコマースのシェアは過去最高となる18.4%を記録した(図参照)。この時期、一般小売りの販売額が大きく落ち込んだのとは対照的だ。
中でも著しい伸びを示したセクターとして、食品分野が挙げられる。2019年上半期の販売額は3億3,000万TL(約4,200万ドル)にすぎなかった。しかし、新型コロナ感染拡大下の外出・行動制限などの影響から、2020年上半期は18億TL(約2億3,000万ドル)。前年同期比で5.5倍だ。
トルコ政府としても、電子商取引情報支援システム「ETBIS」(注1)の機能を拡充するなど、Eコマースでの販売経験の少ない中小企業支援に重点的に取り組んでいる。
トルコでのEコマースの主要プレーヤーとしては、雑貨全般を扱うヘプシブラダ(Hepsiburada)、N11、ギッティギディヨル(Gittigidiyor)、衣料品を主に扱うトレンドヨル(Trendyol)、出前配達のイェメックセペティ(Yemeksepeti)などが有名だ。今回は、トルコのトップEコマース企業、ヘプシブラダを紹介する。同社インバウンド・オペレーションマネジャー、ムラット・シェネル(Murat Senel)氏に、トルコのEコマース市場動向や、自社ビジネスの強み、日本企業との連携の可能性などについて聞いた(10月12日)。
- 質問:
- Eコマース事業の特徴は。
- 答え:
- ヘプシブラダは、トルコのEコマース業界の中でマーケットシェア1位。ブランド認知度は97%、サイト閲覧件数は1カ月に約2億回、当社アプリのダウンロードはこれまでに約2,500万件という実績がある。トルコの他の主要Eコマース企業が外国資本を導入する中で、当社はトルコ資本100%を維持し、誇りに思っている。
- 衣類や家具、子供用品、化粧品、エレクトロニクスなど幅広い商品を扱う。総合ECサイトで、全ての分野が大事なポートフォリオだ。とはいえ特に当社が強いのは、衣類と家電製品(大型テレビから携帯電話までを含むエレクトロニクス分野)。また、商品の販売は当社が提供するサービスのごく一部だ。商品の輸送を行うヘプシジェット(hepsiJET)や、顧客にオンライン決済システムを提供するヘプシペイ(Hepsipay)などのサービスも合わせて(注2)、総合的なソリューションを提供しているのが強みだ。どんな要望にも対応できるプラットフォーマーを目指している。
- 質問:
- 販売促進のために工夫している点は。
- 答え:
- 金曜日に行われる「ブラックフライデー」や母の日などの割り引きデーを設け、テレビやフェイスブック、インスタグラムなどを通じて宣伝している。トルコでは、事前に購入したい商品を決めて、こうした安売日を狙って購入する顧客も多い。製品の製造元がディスカウントするとともに、当社も手数料を引き下げるなど、全てのプレーヤーの協力の下で成立している。
- 質問:
- 新型コロナを受けてのビジネスの状況は。
- 答え:
- 新型コロナ発生以降、販売額がとても増えている。コロナをきっかけに、年配者もEコマースを利用するようになってきた。特に、マスク(柄のあるしゃれたマスク)やクリーニングのグッズが売れ始めている。
- 質問:
- 外国商品の扱いは。
- 答え:
- ヘプシブラダでは、トルコ企業も外国企業も平等に対応する。取り扱っている外国企業品は、現時点で米国企業と中国企業のものだけだ。しかし、販売実績は伸びており、さらに積極的に導入したい。日本企業の商品が当社のプラットフォームの商品に入ってきたら大変うれしい。日本企業向けに、ウェブ説明会などを開催することも可能だ。
- 質問:
- 物流の構造は。
- 答え:
- ターキッシュ エアラインズが、Eコマースの商品輸送のために「We World Express」という会社を設立した。物流については、このサービスの提供を受けている。中国から輸送する場合、輸送と税関手続きを同社が対応している。顧客(商品購入者)が輸入者という前提で、最大で5つの製品、重さは30キログラム、金額は1,500ユーロが上限になる。輸入事業者が不在であっても、当社のプラットフォームで海外製品を販売することができる。海外の製品でも、15日以内で配達することが可能だ。
- 質問:
- 海外製品を販売する上での課題は。
- 答え:
- 外国の商品を扱う上での課題は特にない。輸送や税関も問題はない。強いて言えば、商品返品時のコスト負担について2点ほど課題が生じ得る。
- まず、顧客は商品購入後2週間以内であれば、いかなる理由であっても返品可能としている。その場合、返品コストは販売元企業が受けなければならない。これが第1点。もう1点は、返品商品をヘプシブラダの倉庫で保管する場合、販売元の企業に課金する点だ。
- 質問:
- 日本の商品を扱う上での留意点やアドバイスは。
- 答え:
- 衣類からエレクトロニクスまで、あらゆる分野の商品を扱うことが可能。日本企業の商品はどの分野でも競争力があると思うが、日本といえばエレクトロニクスが頭に浮かぶ。「メード・イン・ジャパン」をアピールできるのではないか。
現時点では、ECサイトに限らず、トルコでは日本の食品や雑貨などがあまり流通していないのが実態だ。また、市場を開拓するには、検討を要する事項も確かに幾つか存在する。例えば、価格志向の強いトルコで、日本製品が競争力を保持できるのか。輸入規制や追加関税(注3)の問題もある。さらに、日本製品を取り扱う企業と確固たる商流や物流網を構築できるかというのも課題だ。
他方で、ヘプシブラダのような現地有力企業が日本企業の製品導入に対する強い期待を示しているのも、これまで見た通りだ。拡大するトルコのEコマース市場に今後一層、目を向けていってはどうか。
- 注1:
- ETBISは、貿易省が2017年12月に立ち上げた電子商取引情報支援システム。
- 注2:
- ヘプシジェットは2016年に設立され、現在35都市で商品輸送サービスを提供している。約2,000の輸送業者と契約しているほか、50を超える車両を保有。3種類の配達方法(当日配達予約、翌日配達予約、標準配達)がある。2021年までに全81都市で即日配達ができるように準備中。販売元がヘプシブラダの場合でも、他の企業の場合でも、利用可能。ヘプシペイは、2015年に設立されたヘプシブラダのオンライン決済システムを提供する会社。
- 注3:
- 日本を含め、トルコが自由貿易協定(FTA)を締結していない場合、多くの輸入品に課されることになる。
企業プロフィール:ヘプシブラダ
- (1) 設立年:
- 1998年
- (2) 主要商品:
- 衣類、家電、化粧品、日用品など(総合EC企業)
- (3) 売上高:
- (報道ベース)55億TL~65億TL(7.0億USD~8.3億USD:為替レートは2020年12月1日時点)
- (4) 展開国:
- (サイトのある国)トルコ、(配送可能な国)アルジェリア、アゼルバイジャン、バーレーン、エジプト、イスラエル、ヨルダン、カザフスタン、モロッコ、オマーン、カタール、イエメン、ロシア、チュニジア、トルクメニスタン、ウクライナ、アラブ首長国連邦(UAE)、ウズベキスタン
- (5) 企業リンク:
- https://www.hepsiburada.com/
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・イスタンブール事務所
簑島 大悟(みのしま だいご) - 2010年、経済産業省入省。資源エネルギー庁、中小企業庁、(株)日本取引所グループなどを経て、2020年9月から現職。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・イスタンブール事務所
ネスリン・イシジャン・アルスラン - 2012年からジェトロ・イスタンブール事務所に勤務。