特集:米中摩擦でグローバルサプライチェーンはどうなる?米中貿易摩擦、ニュージーランド経済に影響
2020年1月16日
2019年のニュージーランドからの輸出(1~9月時点)は、前年同期比4.5%増となり、そのうち中国向けが21.6%増と牽引する。中国向けでは、とりわけ豚インフルエンザの影響による肉類のほか、酪農製品の輸出も好調に伸びている。一方で、ニュージーランド第3位の輸出品目である木材・同製品は、米中貿易摩擦の影響を受け、その大口輸出先である中国向け輸出の伸び率が減速している。背景にあるのは、米国の対中追加関税による、中国から米国への家具など加工品輸出の停滞だ。米中貿易摩擦などの影響で世界経済が停滞すれば、ニュージーランド・ドル(NZドル)安の懸念も出てくる。NZドル安は本来、輸出には望ましいが、米ドル建て取引企業にとって懸念材料になる。
間接的に木材・同製品輸出に影響
ニュージーランドは国土の6.4%が伐採可能な人工林で覆われ、その9割がラジアータパインと呼ばれる、約30年で植林から成木伐採までのサイクルで生産可能な樹木である。同国では日系企業をはじめとする林業への投資が活発で、ラジアータパインを商材に植林のほか、合板・製材生産、チップ生産、パルプ生産などが行われ、その主要販路の1つが中国となっている。ただし中国向けは、原木の輸出が増え、中国での加工生産が主流になってきている。
ニュージーランドにとって中国は2013年以降、最大の輸出相手国であり、両国は2008年に、自由貿易協定(FTA)を締結している。アーダーン首相は2019年11月、同FTAの改定(アップグレード)合意を発表しており、ニュージーランド産の木材と紙製品の中国市場へのアクセスが改善される見込みである。
中国向け輸出増加への環境が整う中、米中貿易摩擦が木材関連の輸出に暗い影を落としている。表は、ニュージーランドの中国向け輸出額を示したものだが、2019年1~9月の木材・同製品(HSコード:44類)の輸出額は、前年同期比7.2%増の約22億4,100万NZドル(約1,568億円、1NZドル=約70円)で、輸出全体の約2割を占めている。他方、2018年1~9月の中国向け輸出額の23.2%増と比較すると、輸出の減速感が出ている。
ニュージーランドは主要なグローバルサプライチェーンに組み込まれていないという点で、米中貿易摩擦の影響はそれほど受けないとする金融機関の評価もある。しかし、中国で加工された家具などの米国向け輸出の停滞から、中国向けのニュージーランド産木材・同製品の輸出も悪影響を受けている。ニュージーランドに拠点を置く企業からは、輸出先について、中国に代替する家具メーカー所在国を検討する動きもあるという。
品目 | 2018年(1~9月) | 2019年(1~9月) | 2018年(通年) | |||
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金額 | 前年同期比 | 金額 | 前年同期比 | 金額 | 前年比 | |
輸出全体 | 9,438 | 14.1% | 11,476 | 21.6% | 13,847 | 14.5% |
酪農製品など | 2,493 | △2.9% | 2,883 | 15.6% | 4,379 | 5.0% |
肉類 | 1,437 | 41.2% | 2,363 | 64.5% | 1,991 | 38.6% |
木材・同製品 | 2,090 | 23.2% | 2,241 | 7.2% | 2,913 | 17.4% |
注:FOBベース。
出所:ニュージーランド統計局、GTAを基にジェトロ作成
林業関係の在ニュージーランド日系企業複数社によれば、米国の対中追加関税や中国の景気減速の影響もあり、原木だけでなく、紙や包装素材の原料であるパルプやチップの中国企業からの買い注文が鈍っている。需給の悪化による木材価格の下落も懸念されている。実際、ジェトロが2019年8月から9月にかけて実施した「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、通商環境の変化が与える現時点での影響について、回答のあった在ニュージーランド日系企業81社のうち、「マイナスの影響がある」(18.5%)と回答した企業の割合は、アジア・オセアニア19カ国・地域中、7番目に高かった。
懸念されるNZドル安
在ニュージーランドの金融機関や日本からの自動車輸入販売を手掛ける企業は「米中貿易摩擦などが影響して世界経済が停滞すれば、NZドル安へとつながり、円やドル建てでの調達コストが増えるのでは」と懸念する。米中貿易摩擦が今後1年以上続くのであれば、今よりもさらに調達コストが増えるのではないか、といった声も寄せられた。2018年当初は1NZドル=約0.71米ドル(2018年1月3日)だったのが、2019年11月時点で約0.64米ドルへとNZドル安傾向がみられている。経済成長率の減速や世界経済の不確実性による景気見通しの悪化から、ニュージーランド準備銀行(RBNZ、中央銀行に相当)は2019年8月、金融支援策として、政策金利のオフィシャルキャッシュレート(OCR)を過去最低の1.0%としているが、金融機関からは金利低下による運用収益減を懸念する声も聞かれている。
NZドル安は輸出には有利になるものの、世界経済が停滞することで輸出が落ち込むことは、輸出がGDP比で約3割を占めるニュージーランドにとっては、大きな懸念材料となる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・オークランド事務所長
奥 貴史(おく たかし) - 1996年、ジェトロ入構。海外はジェトロ・ダルエスサラーム事務所、国内は本部の他、ジェトロ盛岡、ジェトロ青森などを経て、2018年より現職。