特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣日本のモノづくり産業に3Dプリンターでイノベーションを巻き起こす/ブーリアン(福岡県)
WeChatを活用して中国市場を切り開く

2020年4月17日

日本のモノづくり企業向けに3Dプリンター利活用のためのコンサルティングサービスを提供しているBoolean(ブーリアン、本社:北九州市)は、2018年11月に創業したスタートアップ企業。日本と中国・深セン市をまたにかけ、日本のモノづくり企業の生産性向上に向けた取り組みを行っている。なぜ創業間もないスタートアップ企業が海外に打って出ていったのか、そのきっかけや成功の秘訣(ひけつ)、また、今後の展開について、同社代表取締役CEO(最高経営責任者)の濵﨑トキ氏に話を聞いた(3月27日)。


濵﨑氏(ジェトロ撮影)

ブーリアンは、北九州市の創業支援施設である「COMPASS小倉」(注1)で、2018年11月に創業した。同社は、3Dプリンターを導入したい日本のモノづくり企業向けに、3Dプリンターの選定、設置、技術レクチャーや製造プロセスの構築に至るまで、一貫したコンサルティングサービスを提供している。また、機械装置に使用される部品を3Dプリンター製に置き換えたい日本企業向けに、DfAM(注2)という特殊設計を施した3Dプリント部品の製造代行サービスを提供している。

「3Dプリンターを開発するメーカーがあって、導入したい中小企業がある。ただ、この間のギャップを埋めるプレイヤーがほぼ存在しない。このニーズを満たせば大きなビジネスになる」と考えたことが、濵﨑氏が同社を設立したきっかけの1つだ。濵﨑氏は、独学で3Dプリント技術を習得。今では、慶応義塾大学SFCの3Dプリンターに関するプロジェクトの中核を務めるほか、ゼネコンとコンクリートの3Dプリント技術の共同開発を行うなど、国内の3Dプリンター業界においてトップレベルの知見を持つまでに登りつめた。

3Dプリンターのメッカ「深セン市」

「深センは創業する前から目を付けていた市場」と濵﨑氏は話す。深セン市は、広東・香港・マカオを結ぶ「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」の中心に位置する。1980年に中国政府が市の一部を経済特区に指定して以降、深セン市は急速な発展を続けており、2018年には深セン市のGDPが隣接する香港を抜いた。もともと「世界の工場」と呼ばれた中国で、深セン市は特にモノづくりの中心地域であったことから、2010年代後半から3Dプリンターに関する企業がめざましく勃興した。世界でも有数の産業クラスターを形成しており、日本国内には例のない大型の3Dプリンターを開発するメーカーや、新素材や複雑構造物の3Dプリントを可能とする企業などがしのぎを削っている。

最前線の情報を入手するため、濵﨑氏は何度も深セン市に足を運び、現地企業とのネットワークを構築した。その結果、2019年には、機械装置に使用される部品を3Dプリンター製に置き換えたい日本企業向けに、深セン市のパートナー企業と協働で製造した部品を納入した。また、2020年には、大型の3Dプリンターを導入したい日本のモノづくり企業向けに、パートナー企業の開発する3Dプリンターを販売する予定で、深セン市でのビジネスを順調に拡大している。


深セン市のパートナー企業と濵﨑氏(右側2番目)
(ブーリアン提供)

深セン市のパートナー企業が大型3Dプリンターで
製造したテーブル(ブーリアン提供)

WeChatを有効活用し、商談成功につなげる

濵﨑氏は中国語を話せたわけではなかったが、中国の商習慣に素早く順応できたことが、深セン市の製造環境を活用してビジネスを拡大する上での鍵となった。中国では社会のデジタル化が急速に進んでおり、ビジネス上のやり取りはほぼ中国版のSNSアプリである「微信(WeChat)」(注3)で行われている。

WeChatには中国語の翻訳機能があり、コミュニケーションは日本語あるいは英語でも支障がなく、3Dプリンターの技術的知見にたけていることが交渉の上での強みとなった。

WeChatのタイムライン機能で定期的な近況報告の投稿を心掛け、現地に行けない間でも深セン市のパートナー企業の担当者との関係性を保つよう努めるなどして、デジタルデバイスを活用し、現地担当者一人一人との信頼関係を築けたことが、商談の成功へとつながったという。

3Dプリント技術の橋渡し、中国側にもニーズ

同社は、日本のモノづくり企業に対して3Dプリンターの利活用を支援してきたが、中国企業と話をする中で、日本企業向けに、3Dプリント部品の製造代行を行いたい中国企業の存在に気づいた。多くの中国企業は、自社製品以外の技術に詳しくないことから、日本企業とのマッチングには技術面でのコンサルティングが必要とされ、また中国企業も現在のように取引先が欧州一極に依存した業態からの転換を模索している。

こうしたニーズを踏まえ、同社は日本市場での本格的な業務拡大と、深セン市での現地法人設立を目指す。中国企業に対しても最新技術を製造現場に導入する「橋渡し」としてのサービスを提供しつつ、3Dプリント部品の製造代行を行う提携先中国企業の開拓を視野に入れる。

そこで活用したのが、ジェトロのサービスだ。ジェトロ広州事務所のサポートを受け、深セン市のベンチャーキャピタルと面談を実施したほか、市場調査も行った。2020年度は現地進出を加速化させたい考えだ。


3Dプリンターと濵﨑氏(ブーリアン提供)

新型コロナウイルスを乗り越えて

新型コロナウイルスの影響を受け、出張などができない状況が続くが、「中国市場は既に元に戻りつつある」と濵﨑氏は言う。物流は止まっておらず、日本企業の発注に対しても、深セン市の企業は予定どおり製品を納入してくれているという。WeChatを活用し、現地と即時にコンタクトを取っているからこそ、正確な判断で案件を進めることができる。こうした動きが可能となるのも、現地の商習慣に倣い、アプリなどをフル活用し、現地の担当者と強固な信頼関係を築いているからこそだといえる。


注1:
北九州市は、「日本一起業家に優しいまち」を目指し、2018年6月、小倉駅近くに立地する創業支援施設「北九州テレワークセンター」を、国内最大級のコワーキングスペース「COMPASS小倉」としてリニューアルオープン。fabbit共同事業体とともに、スモールビジネスから世界に通用するグローバルビジネスまで、まちぐるみで創業を支援している。
注2:
DfAMは、Design for Additive Manufacturingの略。3Dプリンターの特性に最適化された設計・製造手法の全般を指す。これにより、大幅な軽量化、複合材料による高機能化などを実現できる。
注3:
微信(WeChat)は、中国の大手IT企業テンセントが運営するメッセンジャーアプリ。
執筆者紹介
ジェトロ北九州
葛西 泰介(かっさい たいすけ)
2017年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課、外国企業誘致課を経て現職。

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