特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣 業種枠を超えてライフスタイル製品を/ギフセレクト協議会(岐阜県)
異業種連合の歩みから読めてきた教訓

2022年12月12日

岐阜県で2022年8月、「ギフセレクト協議会」が発足した。この協議会は、生活製品を手掛ける県内メーカー6社で構成。モノづくり王国・岐阜の魅力や、暮らしを豊かにするライフスタイルを提案するのが狙いだ。

同協議会はこれまで、行政の海外展開支援をうまく活用しながら連携を深めてきた。本稿ではその歩みを追いながら、中小企業が海外展開する際に必要な3つの要素を導き出す。


「2022飛騨の家具フェスティバル」でお披露目となったギフセレクトのロゴ(ギフセレクト協議会提供)

モノづくり王国、岐阜

岐阜県には、地場産業が7つもある。具体的には、繊維、陶磁器、木工・家具、金属・刃物、紙、プラスチック、食品だ。この7大地場産業の製品で、身の回りのモノがあらかたそろう。生活の3大要素、衣・食・住にわたって、岐阜県産のものが隠れている。決して誇張ではない。岐阜県産の陶磁器(いわゆる美濃焼)や刃物で、全国シェアがいかに高いか、検索すれば多くの記事が出てくるだろう。本稿では取り上げないものの、自動車や航空機といった輸送機器分野でも産業集積がある。岐阜はモノづくり王国なのだ。

筆者は岐阜県に転勤するまで、この事実を知らなかった。もしかしたら、筆者以外にも「美濃焼という言葉は聞いたことがあるけど、それほどの規模とは知らなかった」という方がいらっしゃるかもしれない。実はこの感覚こそ、岐阜県の製造業の1つの課題を表わしている。言われたものを作る。それが何に使われるのかはわからない。渡された材料を加工・製品化し納品する。そこに消費者の姿は見えない。OEM製造や委託加工に特化した製造業者が岐阜県には多いのだ。

OEM案件を受注し、持ち前の技術で良いものを作り、納める。何ら不思議ではないこのビジネスモデルは、メリットとデメリットが紙一重だ。OEM生産は性格上、ロット数が大きくなり、他方でその分単価が下がりがちだ。例えば現在の状況のように、原材料や光熱費が高騰すると、製造単価に占めるそれらの比重が大きくなる。経営者にしてみると、大きな負担になってのしかかるわけだ。

地場産業という伝統も、変化していく。奇しくも岐阜県の地場産業の多くは、共通点を持つ。海外で生産されたより安価な類似品にマーケットシェアを奪われたということだ。単純に価格で勝てるわけがない。「では、どうするのか」と危機感を覚えた会社は少なくない。この課題は、早い会社でおそらく20年以上前から解決に向けて動き出したにもかかわらず、令和の世になった現在もなお残っている。解決に向けて、各社は同じことを考えた。付加価値を上げていかなければならないのだと。

デザイナー連携事業から6年後、ギフセレクト協議会に

「ギフセレクト協議会」は2022年8月に6社(表参照)で発足した。いずれもしっかりと確立したブランドの自社製品を有している、県内で名の通った中小企業だ。

表:ギフセレクト協議会員
役名 所属企業 所在地 製品
会長 杉山製作所 関市 鉄家具
理事 カネコ小兵製陶所 土岐市 陶磁器
理事 日進木工 高山市 木工家具
会員 家田紙工 岐阜市 和紙
会員 志津刃物製作所 関市 刃物
会員 八幡化成 郡上市 プラスチック

出所:ギフセレクト協議会資料からジェトロ作成

協議会発足の嚆矢(こうし)は2016年。岐阜県が世界的に著名なデザイナーであるセバスチャン・コンラン氏と立ち上げた「セバスチャン・コンラン×岐阜コレクション」プロジェクトだ。フランスの国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」に2017年から2019年まで3年連続で出展したこのプロジェクトに、協議会メンバーのほとんどが参加していたのだ。ちなみにメゾン・エ・オブジェは、インテリアの「パリ・コレ」として知られる。

インテリア製品に対する岐阜県の海外展開支援は、管見の限り、1996年の「オリベプロジェクト」にはじまる。その後、紆余(うよ)曲折を経て2009年、県内の観光・食・モノを三位一体で海外に売り出す「飛騨・美濃じまん海外戦略プロジェクト」(注1)がスタートする。この流れの中で、2016年に先述のデザイナー連携事業が立ち上がった。このプロジェクトでは、岐阜の地場産業が誇る匠の技と、西洋のデザインを掛け合わせて世界を目指すという方向性が示された。それだけに、国内外から注目を浴びることになった。

もっとも、自治体の事業には、必ず終わりがある。岐阜県のデザイナー連携事業も、2019年に終了した。とは言え、「デザインによる高付加価値化」「海外志向」と、同じ志を持ったグループがこのまま解散していくのは惜しい。ギフセレクト協議会の理事でもあるカネコ小兵製陶所の伊藤社長の呼びかけもあって、デザイナー連携事業に参加していた一部企業を対象に、今度はジェトロ岐阜が「地域貢献プロジェクト(注2)」を立ち上げた。この枠組みでは、海外のデザイナーを招聘(しょうへい)した勉強会などを実施した。世界を新型コロナウイルスが襲った2020年以降も、ある時は国内外の各社ビジネス状況を共有し、またある時はジェトロ佐賀から佐賀の魅力を海外へ展開するための統一ブランド「Saga Collective」(注3)立ち上げのストーリーを学ぶ勉強会を設けた。このように、緩くもある一方で、しっかりと関係性を維持した。

この有志グループが協議会という形式をとるに至ったきっかけは、3年ぶりにメイン会場で開催されることになった「2022飛騨の家具フェスティバル」だ。主催者である協同組合飛騨木工連合会から、家具以外のライフスタイル製品もアピールしたいと提案があったのだ。企業単位ではなく、集合ブースとして岐阜県産品を面的にアピールするため、ギフセレクト協議会が発足、同フェスティバルでのブースデザイン・キュレーションを東京2020オリンピック開会式のドローン演出を手掛けたwipの平本代表取締役が担当。岐阜県中小企業団体中央会の「組合等チャレンジサポート事業」(注4)を活用して、ギフセレクト協議会という形で着地した。

ギフセレクトのブース。メインの配色には、各社の確立したブランドやカラーを包み込む、
どんな色にも合う藍色が用いられている(ジェトロ撮影)

ギフセレクト協議会は、暮らしを豊かにするライフスタイルを家具フェスティバルで提案した。会長を務める杉山製作所の島田社長は「メンバーに共通するのは、消費者に対する情報発信。飛騨高山から岐阜県のいろいろな素材を発信していくことに、可能性しか感じなかった」という。その上で「1つの産業だけで生き残るのではなく、それぞれが網目のようにつながり発信していくことが大事だ。まずはモノづくりの現場を発信し、岐阜に来てもらえるようにしていきたい」と話す。

さらに、協議会のビジョンについて、「これだけ激動する時代なら、変化するビジョンがあってもいいのではないか。毎年毎年、こう在りたいと考え続けたい。確かに、私たちは家具フェスティバルからスタートした。しかし、海外含め他の場所に出向くことにもなるだろう。まずやってみて、そこで生まれた化学反応を楽しみたい」と語った。そして、最後に大事な言葉を付け加えた。「不変なものは、工場。原点はモノづくりにある」。

海外ビジネスに必要な3要素とは

筆者は、ギフセレクトブースが家具フェスティバルに出展する2022年10月まで約3年の間、ジェトロという中立的な立場から既述プロジェクトの活動を見てきた。「見てきた」というよりも、それぞれの工場を見せていただき、業界の状況を教えていただき、時には商談に同席させていただいた。そうして、企業の在り方、海外展開にかける思いを学ばせていただいた。そこで本レポートの最後に、筆者が海外展開に重要と考える要素を、3点紹介する。これらは、ギフセレクト協議会の歩みと各社の在り方から見えてきた結果だ。

  1. 同志を大事にし、利益を目的にしない

    業界が異なっても、またはプロダクトが異なってももしくは同じであっても、同じ志を持った仲間を大切にできるかどうかは、言うまでもなく最重要だ。同志がいて助かるのは、特に必要な情報の収集においてではないか。ビジネスに必要な情報はますます量が増え、多様化している。さらに海外の要素も関わるとなるとより一層複雑になる。すなわち、どの情報が自社にとって正しいのか、判断が難しくなる。中小企業1社だけでは、情報の取捨選択の判断が限定的になるうえ、迷いも出てくるだろう。志の同じ会社とつながることは、会社の判断に自信と正当性を持たせてくれる。

    また、ギフセレクト協議会のようにグループ化した場合は、利益を求めると必ずどこかで綻(ほころ)びが生じる。ビジネスなのだから、利益を全く求めないというわけにもいかない。大事なのは、利益を短期的で最大の目的にしないことだ。

  2. 行政に頼りすぎず、「活用」する

    ギフセレクト協議会のメンバーは、先に述べた経緯を見てわかるとおり、行政支援をかなり活用している。だが、1社たりとも依存はしていない。「補助金が出ないから●●をあきらめた」といった発言は聞いたことがない。支援がなければ、他の方法を考える。「やりたいこと」の実現のため、行政支援は片手を添えているだけだ。

    また、行政サービスや補助金メニューは、各機関、場合によっては部署がそれぞれ独立して運営している。周知活動には限界があり、そのすべてが企業に伝わっているわけではない。だが、例えばジェトロは「海外展開」に関する各機関の支援メニューを把握しており、ジェトロ以外のサービス・支援を提案できる。行政の支援やコネクションは、うまく「活用」していく姿勢が肝要だ。

  3. まずはやってみる

    海外ビジネスを積極的に行う企業は、この考え方を持っていることが多い。この点は、ギフセレクト協議会のメンバーだけでなく、筆者が岐阜にいる間に知り合った企業も同様。まず行動するのだ。

    そしてそれなりの失敗もしている。というより、「成功」と呼べるレベルで輸出をしている企業で、失敗をしていない企業にお会いしたことがない。各社から聞く話は、どれも(結構な損失を伴った)失敗談だった。

    海外ビジネスは、どこかのタイミングで必ず一度は痛い目を見る。やってみよう精神を持つ企業はその時、「やっぱりダメか」ではなく「もう1回やってみよう」と考える。いうなれば、やり切る精神の表れとして「まずはやってみる」は、とても大切な心構えなのだ。

ギフセレクト協議会が今後どこに向かうのか、楽しみだ。微力ながら支援してきた立場として、そして一消費者としても。


注1:
「オリベプロジェクト」では、観光・食・モノ一体でのプロモーションを通じて岐阜ブランドの発信を強化することを狙った。2009年から本格始動した。 これまでに、世界8カ国13カ所に岐阜県産品の継続販売拠点を構築。それら拠点で定期的にイベントを開催し、販売促進および岐阜県への観光誘客に寄与している。
注2:
ジェトロ岐阜の「地域貢献プロジェクト」は、複数の中小企業をグループとして一括支援するもの。中小企業のニーズや地域の産業・産品特性に鑑み、特定の海外の国・地域をターゲットとして販路開拓や輸出拡大を目的にした。
注3:
「Saga Collective」は、佐賀県を代表する地場産業や伝統産業の異業種11社のブランドかつ協同組合。組合員は、「佐賀の文化と伝統を、世界に向けて発信したい」という志を一にする。
注4:
事業岐阜県中小企業団体中央会が実施する「組合等チャレンジサポート」は、オーダーメイド型で専門家を無料派遣する事業。中小企業の任意グループやこれから組織化を検討するグループそれぞれの課題を解決のが、その目的。専門家としてはデザイナーのほかにも、税理士や弁護士などが対象になりうる。
執筆者紹介
ジェトロ岐阜
渡邉 敬士(わたなべ たかし)
2017年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2017年~2019年)にて東南アジア・南西アジアの調査業務に従事。
専門はフィリピン・スリランカ。 2019年7月より現職。

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