特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣ECで地元産品を幅広く世界に販売/ちらし屋ドットコム(岐阜県)
2022年7月21日
ちらし屋ドットコム(本社:岐阜県各務原市)は、もともとウェブサイト制作会社として誕生した。取引先の電子商取引(EC)サイト構築支援をきっかけに、自社内にEC事業部を設立。当事業部は急成長し、現在、岐阜県企業の製品を中心に世界13カ国向けに販売・輸出している。
新規事業を始めた経緯やEC販売のポイントについて、同社代表取締役の河田真二氏に話を聞いた(2022年6月10日)。
海外通販に悩む声を受けて事業立ち上げ
- 質問:
- ウェブサイト制作事業から、自社EC事業(注1)へと思い至った背景は。
- 答え:
- 当社はもともと、企業・団体のウェブサイト制作と運用を本業にしていた。その一環でECサイトを構築していると、「海外通販がなかなかうまくいかない」という顧客が多いことに気づいた。顧客の課題解決を目指そうと、当社事業としてEC事業部を立ち上げたのが2015年のこと。初年度で、北米市場を中心に、出品商材を1億3,000万円ほど売り上げた。そこで、2年目からは対象国をEUに拡大。現在は世界約13カ国で販売している。
- 当社のECビジネスモデルは、大手プラットフォームへの出品だ。Amazon.com(米国)、欧州のAmazonマーケットプレイスやeBayに、岐阜県の地場産品を中心に出品している。例えば、焼き物や刃物などが一例だ。プラットフォーム別には、Amazonが売り上げの8割を占める。そのうち大部分がAmazon.com(米国)だ。欧州のAmazonマーケットプレイスやその他のプラットフォームには、Amazon.com(米国)で売れたものを横展開することが多い。
- もっとも、そう簡単に同様の販売が叶うわけでもない。欧州と一口に言っても、国ごとに規制が異なることが多いからだ。その結果、個別対応を強いられることになる。例えば包丁は、英国向けに販売できない(注2)。何よりも、付加価値税(VAT)登録番号には慎重に対応している。国ごとに取得しておかないと、場合によってアカウント停止になってしまう。
ECならではの課題対応はプラットフォームにゆだねる
- 質問:
- 海外のAmazonで販売する際の物流の仕組みは?
- 答え:
- EC事業を開始した当初は、国際スピード郵便(EMS)や国際宅配便を利用。岐阜県内の自社倉庫から1日200個ほど発送していた。ただ、紛失・破損も多く、ひどい時は詐欺(「品物が届いていない」というクレームを装ったものなど)にあってしまった。スタッフの負担が大きすぎた。そのままでは継続が難しいと考え、現地に物流拠点を置くことにした。
- そこで活用したのが、Amazon のフルフィルメントサービス(FBA)だ(注3)。FBAは、きちんと調べてから利用すれば、割と簡単に取り組むことができる。品物を現地倉庫に送る際に重要なのは、インポーターだ。当社は、その機能を持つ事業者と年間契約して対応している。
- 中小企業、特にメーカーがECに取り組む際、よく課題として挙げられるのが顧客対応だ。だからこそ、当社はAmazonを使っている。ECでの顧客対応を必要とする場面、問題となる場面のほとんどは物流や顧客対応にある、と考えている。当社がEMSや国際宅配便で配送していた当初、「物が届いていない」「箱が壊れている」といったクレームが頻発した。FBAを使うことで、物流の問題も購入者からの問い合わせ対応も、ほとんどが解決されるようになった。これは大きなメリットだ。ほかのプラットフォーム、例えばeBayでは現時点で、ここまでの効率化が難しいかもしれない。
- 質問:
- Amazonでの販売促進の取り組みは。
- 答え:
- プロダクト広告はもちろん、当社はディスプレー広告も多用している(注4)。検索されたときにまず、プロダクト広告で顧客の目に留まるようにする仕掛けの重要性は言うまでもない。これは、多くの人がすでに実践していると思う。加えて、ディスプレー広告で幅広い関心層の発掘を狙っている。
- なお、Amazonの中では、すべての売り手(seller)が同一のプラットフォームで広告を打っているし、Amazon内での広告はAmazonを検索している人をターゲットにしている。そうしたことから有効な一方で、限界を感じるのも事実だ。ただ当社では並行して、Amazon以外での広告・宣伝にも力を入れている。外部メディアからAmazonへ引き込むような手を考え、実践している。
- SNSの活用が、その中心だ。ソーシャルコマースがはやっているとすると、はやりの中でプロモーションを実施する。その上で、購入と決済をAmazonで行ってもらうように誘導する仕組みを作るべきと感じている。
- 質問:
- 今後のEC事業展開は。
- 答え:
- Amazonでの販売に数年間取り組んだことで、海外での物流体制をしっかりと構築できた。まさにここが当社の強みになった。Amazonでは引き続き販売、販促を実施していく。
- 同時に、他チャンネルでの販売強化に取り組んでいきたい。すべての消費者がAmazonで購入しているわけではない。先に述べたとおり、Amazon外で購入活動を行う消費者をターゲットにしたビジネスモデルを考える必要があるのは当然だ。もっとも、Amazonにはマルチチャンネルサービスがある。すなわち、他のチャンネルで販売した商品を、FBA倉庫から発送することができる。当社の強みを生かした新たな展開が可能と考えている。
県事業としても受託
- 質問:
- 貴社が岐阜県から受託しているECサイト販売事業の運営方針は。
- 答え:
- 岐阜県は、県産品の海外販路開拓にとても積極的だ。県事業のうち一部は、民間のプロポーザルを受け付けて実施される。そうした場合、しばしば入札で業者選定される。当社も応札し、2022年度は欧州向けにEC販売事業を行うことになった。
- 本事業では、欧州のAmazonマーケットプレイスに岐阜県特設ページを構える形で出品する。ECサイトの運営業務は、当社がすべて対応する。対応する業務には、例えば(1)外国語による一般顧客対応、(2)国際輸送など貿易実務、(3)海外用梱包(こんぽう)、(4)集客、(5)決済などが含まれる。事業に参加する事業者は、発注した商品を指定倉庫に納品していただくだけでよい。
- 本事業で当社は、事業者からの商品を委託販売ではなく、買い取りにした。事業の実施期間は実質的に半年しかないためだ。委託販売だと、商品によっては結果が出る前に終了しかねない。責任をもって売っていくためには、買い取る必要があった。
- 県の事業に参加した事業者の中には、自分でECをやりたいがそのやり方がわからない人、自分で顧客とつながってみたい人が一定数いる。当社がEC事業を立ち上げた際に力になりたいと思ったのはこうした事業者だ。そのため、事業終了後に自分たちで販売したいとなった場合は、英語で作成したページをすべて無償提供している。
- 事業終了後のサポートも忘れずに行う。事業結果となる販売レポートを提供し、参加事業者が県の事業終了後も継続してECに携われるように、EC勉強会や説明会を行う予定だ。
ECごとの特性に合った製品選択・戦略を
- 質問:
- 越境ECにデメリットはないのか。
- 答え:
- Amazonに限らず、プラットフォームに出品するECモデルの最大のデメリットは、値崩れだ。どれだけ頑張っても相乗りは発生してしまう。類似製品が出回りかつ安価で販売されてしまうと、当社が出品している製品は売れなくなってしまう。値段を下げれば戦えるかもしれないが、そう簡単な話ではない。そのため、自分が大切に育てたブランドイメージが崩れてしまうことを嫌う事業者もいる。
- 他方、当社の顧客にはOEMを主業にしてきた企業も多い。そういう事業者にとっては、裏返しとしてむしろメリットになる。そもそも、OEMが会社の売り上げの9割を占めるような会社が、自社製品のブランド認知を上げることは極めて難しい。すでにOEM製品が出回っている国内市場に、自社ブランド製品を流すことは事実上不可能だ。そうなると、国内では小規模でニッチな市場がターゲットになってしまわざるを得ない。しかし、海外市場はその範疇から外れたところにある。そうなると、比較的フラットに攻めていくことができることになる。
- 当社を通して海外で販売する企業は、売り上げが間違いなく上がっている。なお、プラットフォームに出品する場合は、その特性をしっかりと把握すべきだ。その結果、例えば専用の型番を付したモデルだけ出品するなど、対応策を用意して臨む必要がある。
- 注1:
- 経済産業省は、越境ECを「消費者と、当該消費者が居住している国以外に国籍を持つ事業者との電子商取引(購買)」と定義している。本稿では、この定義に準じつつ、「海外のECモールへの出店」をその対象として扱った。海外ECモール出店は企業がしばしば採用する越境ECパターンで、取材先事業者も同様だ。
- 注2:
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英国では2019年、「Offensive Weapons Act 2019」が施行された。この法律により、18歳未満に対する包丁の販売が禁止された(英国政府ウェブサイト参照 )。インターネットでの購入する場合、購入者は配達人に身分証明書を提示し署名する必要がある。受取人が25歳以下と思われる場合、配送業者は受取人に対し、身分証明書提示を求めることが多いという。
これを受け、Amazon.co.ukでは2022年5月13日から、原則として包丁の販売が禁止された(FBAを利用した販売・配送を除く、アマゾンウェブサイト参照 )。 - 注3:
- EC業界で「フルフィルメント」とは、受注、梱包(こんぽう)、発送、受け渡し、代金回収などのバックヤードで行われる一連のプロセスのことを意味する。在庫管理や顧客対応などを含めて使われる場合も多い。
- 注4:
- プロダクト広告とディスプレー広告では、ユーザーの購入プロセスの「どの段階」で「どこに」表示されるかが異なる。プロダクト広告は、設定したキーワードが検索されると表示される。他方でディスプレー広告は、他社商品の詳細ページ上で、自社商品情報が表示される。
- 執筆者紹介
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ジェトロ岐阜
渡邉 敬士(わたなべ たかし) -
2017年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2017年~2019年)にて東南アジア・南西アジアの調査業務に従事。
専門はフィリピン・スリランカ。 2019年7月より現職。