特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣有機農産物を海外へ、外国人材も積極活用/かごしま有機生産組合(鹿児島県)
かごしま有機生産組合(鹿児島県)に聞く

2019年10月16日

鹿児島県に拠点を構え、無農薬有機栽培に取り組む有限会社かごしま有機生産組合は、2018年を「海外事業元年」として位置付け、海外での有機農業の普及と、有機農産物の海外市場への輸出に取り組む。既にネパールでの有機農業の普及事業を開始する一方、香港や中東への輸出も成功させ、さらなる市場拡大を目指す。ベトナム人をインターンシップや技能実習生として受け入れるなど、外国人材の活用にも積極的だ。海外事業の経緯や諸課題の克服、また、同事業にかける思いなど、事業立ち上げを担ってきた海外事業部長の福元飛勇真(ふくもとひゅうま)氏に聞いた(2019年10月1日)。


海外事業に取り組む福元氏(ジェトロ撮影)

有機農業を広めるというビジョン

質問:
まず、組合の概要について。
答え:
当組合は、1984年から鹿児島県を中心に南九州各地で無農薬有機栽培に取り組んでおり、160事業者が所属する日本最大の有機農業生産者集団だ。「有機農業を広め、深めることによる持続可能な社会」の実現を目指し、生産から販売・加工まで行っている。1992年から「地球畑」という店舗事業を開始、現在、カフェ1店舗を含む4店舗を県内で展開、直接販売も行っている。また、農家が作ったものを捨てることがないように加工食品の製造・販売も行っている。さらに、2013年には電子商取引(EC)事業も開始した。私はEC事業部長も兼務しているが、全国に届けられる仕組みをつくりたいとの思いでネット販売を始めた。EC事業はいまだ売り上げ全体の1割程度の規模だが、近年は非常に好調だ。
質問:
海外事業の経緯は。
答え:
当組合の海外事業は2つある。1つは、海外で有機農業を広める事業で、これは当組合代表の大和田世志人が率先して進めている。「いつでもどこでも有機農業があって、有機農産物を買えるようにしていこう」という大和田のビジョンに基づくものだ。もう1つは、日本で栽培・収穫した有機農産物を海外市場へ輸出していく事業で、海外事業部長である私が中心に進めている。
前者の事業については、2017年10月からJICA(国際協力機構)草の根技術協力事業の採択を受け、ネパールで有機栽培指導を始めた。現地で活動する特定非営利活動法人ラブグリーンジャパンとの協力事業として、ネパールで農薬、化学肥料を使わなくても野菜を育てられるという有機農業を広めることを目指している。当組合の農場リーダーがネパールへ行って指導することを始めているが、日本での研修も予定している。当組合の強みは、生産から販売・加工まで一貫して行っていることで、160事業者を組織してきたノウハウがある。この強みを生かし、他国でも同じように有機農業を普及していきたいと考えているところで、現地視察にも行っている。
質問:
後者の輸出事業はいつから始めたか。
答え:
ネパールでの事業が始まる中、海外市場への輸出にも取り組んで行くことになり、2017年10月に海外事業部が設置された。当組合では、海外事業に本格的に取り組み始めた2018年を「海外事業元年」と位置付けている。2018年9月、海外バイヤーが集まる商談会(鹿児島県とジェトロが主催)に初めて出展した。当初、海外販売はEC(電子商取引)事業の延長として、越境ECでやろうと考えたが、うまくいかず、直接、海外バイヤーに商品を売り込み、販売してみることにした。

商談会をきっかけに香港向け輸出を実現、「有機」は売りに

質問:
商談会では成果につながったか。
答え:
この商談会を機に、香港向けに有機サツマイモを輸出する取引につながった。加工食品をメインに売り込みたかったが、青果が売れた。3カ月後の2018年12月に出荷できた。香港のバイヤーは、日本人だったので、コミュニケーション的には問題なかった。出荷も国内渡しであった。大阪港まで2パレットを週に1回、トラックで送った。芋の輸出は、シーズンの間だけなので、2018年12月から2019年2月までだった。しかし、その後、5月から生の青梅の出荷が始まった。鹿児島は、日本で一番早く青梅を収穫できる。この青梅は、梅酒用だ。香港の消費者が青梅を買い、自分で梅酒を作っているという。もともと梅酒そのものが売れているので、自分でも作りたいという人たちがいるのだろう。さらに、2018年10月に開催された商談会にも参加し、クウェートへの商談がまとまり、加工食品のベビーフードの輸出につながり、続けて冷凍焼き芋のオーダーが入った。
質問:
有機農産物ということが海外向けに売りになっているのか。
答え:
日本国内よりも、海外での方が有機農産物、オーガニックの認知度は高いようだ。また、食に対する安心・安全という意識が高まっていることもあるだろう。ジェトロ専門家の支援(新輸出コンソーシアム・パートナーによるハンズオン支援)を受け、2019年7月、香港などに食品スーパーのネットワークを持つバイヤーと商談を行い、9月末に有機の安納芋、紅はるか、ゴボウを香港向けに20ケース出荷することに成功した。既にリピートも入っている。今回の商談成立の決め手は、当組合の農産物が「顔が見えるもの」「生産から販売まで手掛けていること」であり、かつ、「有機」で「日本のもの」であることだ。

ベトナム人をインターシップで受け入れ、英語のカタログを整備

質問:
海外へ輸出する上で課題となったことは。
答え:
当初は、英語のカタログもなく、英語の1枚紙をグーグル翻訳しただけだった。ただ、グーグル翻訳した英語のカタログでは、バイヤーに伝わっていないことも分かった。そこで、英語ができる人が必要となり、ジェトロの支援で、インターンシップとして日本語能力試験N2レベルのベトナム人(ホーチミン出身)を2018年9月中旬から11月末まで、3カ月受け入れた。優秀なベトナム人で、カタログ、会社パンフレットを英語にしてもらった。また、もともと私はEC事業しかしたことがなかったため、ジェトロの貿易実務オンライン講座を活用して勉強もした。

インターンシップに来たベトナム人が英語にしたカタログ(ジェトロ撮影)
質問:
海外事業の体制は。外国人材の活用は続けているか。
答え:
人員体制としては、2019年3月まで私1人で担当していたが、実際にオーダーが入り始めたので、4月以降、3人が兼務した。代表も海外事業のメンバーとなっており、心強い。外国人材としては、台湾出身者を採用した。もともとベトナム人を技能実習生として、直営農場に2人受け入れていた。農場長が外国人に対して理解があり、ベトナム人だけでなく他国の人も受け入れ、多国籍農場にしようと提案してくれた。人種ではなく、やりたい人がやる、ということだ。台湾の人材は、静岡で卒業を控えていた学生であったが、農場長が出した求人に応じてくれた。2019年4月からビザの用意をはじめ、7月から農場の研究所に勤務し、土壌分析を行っている。

新たなことにチャレンジ、輸出の可能性は無限

質問:
海外への輸出を進めるに当たって大事にしている考え方は。
答え:
もともと、当組合は、消費者のニーズを満たす商品を提供するという「マーケット・イン」の発想ではない。需要があるから作るわけではない。言うなれば、「生産者イン」だ。この時期に作って食べた方が良いという、旬でおいしいものを消費者へ届けていく。それが、結局はマーケット・インにもなるが、私たちは生産者のための組織だ。生産者が売るところがない、買いたたかれることがないようにしたい。農家の手取りを少しでも増やす、採算を良くし、長く農業を続けられる環境をつくることが使命だ。有機農業をする農家がいかに豊かになるかを常に考えている。加工食品の製造や、EC事業・海外事業で販路を増やすことも、その考え方の延長にある。
私自身、新しいことにチャレンジすることが好きだ。チャレンジし続ける。母体のポテンシャルもある。輸出の可能性は、国が変われば、無限に広がる。今後はシンガポールや中東への輸出拡大を目指すが、求められれば、どの国にも出していきたい。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課長
小島 英太郎(こじま えいたろう)
1997年、ジェトロ入構。ジェトロ・ヤンゴン事務所長(2007~2011年)、海外調査部アジア大洋州課(ミャンマー、メコン担当:2011~2014年)、ジェトロ・シンガポール事務所次長(2014~2018年)を経て現職。 編著に「ASEAN・南西アジアのビジネス環境」(ジェトロ、2014年)がある。

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