特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣アリババを活用して輸出に挑戦、今後の拡大を模索/植松商会(宮城県)
植松商会(宮城県)に聞く

2019年10月16日

宮城県仙台市に本社を構える機械工具専門商社の植松商会は、中国の電子商取引(EC)最大手であるアリババ集団のECサイトを活用し、輸出ビジネスに試行錯誤しながら取り組んでいる。ECサイトでの取引成立までの苦労や工夫、今後の展開における課題について、同社で海外ビジネスを担当する営業推進部営業推進課主任の鈴木希映瑠(のえる)氏、秋元文音(あやね)氏に聞いた(8月5日)。

アリババ出店後も簡単に注文は伸びず

質問:
海外ビジネスに取り組むきっかけは。
答え:
(鈴木氏)
2015年末ごろ、アリババが日本で開催したセミナーに当社代表取締役の植松誠一郎が参加したことがきっかけだ。アリババに掲載する前は、海外進出した日本の工場が主な売り先で、しかも、国内販売をしていただけだった。海外にも目を向けようかと社内で話していたところでアリババのセミナーを聴講し、アリババのサイトを使って海外ビジネスのプラットフォームを作ろうということになった(同社のサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。アリババへの出店は、機械工具を扱う日本企業としては先駆けだったと思う。出店企業の中では東北拠点の企業は少なかった。

アリババに出店している植松商会のサイト
質問:
現在の海外売り上げは。
答え:
(鈴木氏)
ベトナムとインド向けが50%を占めており、中国などその他の国・地域で残り半分を占めている。ただし、全体の売り上げに占める海外販売比率はまだ小さく、国内販売とは比較にならないレベルで、これからという状況だ。
質問:
アリババ出店後はすぐに注文が来たのか。
答え:
(鈴木氏)
それほど簡単ではない。アリババに出店したのはよいが、開店しただけで当初、反応はなかった。数字も伸び悩んだ。出店した当初は、専任担当はおらず、私自身が国内営業をやりつつ片手間で始めた。英語を話せる人材も社内にいなかった。走りながら必要なものを追加していくという状況だった。サイト経由の問い合わせにはメールでコミュニケーションを取ることを基本とし、法令を順守してやっていこうという感じだった。しかし、国内営業と兼任していたため、問い合わせに答えることが精一杯で、いうなれば、開店しただけで商品ラインナップも充実させられず、実店舗でいえば宣伝用のポップを作るようなこともしていなかった。

海外ビジネスを立ち上げた鈴木主任(ジェトロ撮影)

専任担当を雇用し、ECサイトで注文が入るように工夫

質問:
どのようにアリババでの注文が入るようにしたのか。
答え:
(鈴木氏)
まず、社内体制整備が必要で、英語を話せて営業経験のある人を専任として雇うことになり、秋元が入社した。秋元はもともとメーカーで営業を担当していた。2016年10月のころだ。
(秋元氏)
私が入社後、アリババのECサイトに掲載されていた英語のHow Toを読み、検索結果の上位に表示されるようにする方法や、早めの返信が有効なことなどを学んだ。アリババのECサイトの使い方を分析し試しながら、1年程度続けていく中で、お得意さま、リピーターができるようになった。貿易実務も学んでいった。その過程でジェトロも活用した。当初はアリババ経由の問い合わせも多くなく、学ぶ時間もあった。自分なりのマニュアルも作っていった。問い合わせが多く来始めるころには、おおよその手続きは理解していた。

専任担当となった秋元氏(秋元氏提供)
質問:
どのように買い手(輸出先)と交渉し、決済するのか。買い手は信用できるか。
答え:
(秋元氏)
アリババ経由で注文が来ても、あくまでマッチングが目的のため、同サイト経由で決済する必要はない。注文が来た後は、メールやスカイプなどのコミュニケーション・ツールに移行して商談、取引を進める。また、アリババを経由して買い手を見つけるが、信用の問題もあり、基本的な決済条件は全て前払い100%で行っている。大口の時はケース・バイ・ケースで契約時50%、発送時50%という条件の時もあるが、基本的には前払いされないと当社としても動けない。決済手段は銀行送金かペイパルを活用している。
質問:
前金100%だとすると、貴社には資金回収のリスクはないが、買い手にとってはリスクではないか。買い手は貴社をどう判断しているか。
答え:
(秋元氏)
買い手はアリババによる当社(サプライヤー)の評価を参考にしているだろう。ECサイトの登録料金を払っているサプライヤーは「ゴールド・サプライヤー」となるが、買い手はサプライヤーが何年間、ゴールド・サプライヤーを続けているかを知ることができる。当社も4年目を迎えており、アリババでの評価もよい。アリババのサイト経由で来た問い合わせにサプライヤーが返信した率(返信率)も、サイト上で買い手がわかるようになっており、参考にされているようだ。長く続けることによって、買い手も買いやすくなり、相乗効果はあるだろう。

リピーターを訪問するためにベトナムへ

質問:
ECサイトに掲載しつつ、さらに海外販売を増やす方法は。
答え:
(秋元氏)
リピーターからの取引をより増やして広げていけるとよい。実は、アリババ経由の取引でリピーターとなったベトナムの現地販売店(植松商会から輸入、現地で販売する会社)から「現地に来てくれたら、より話ができるのに」と言われ、年に3回はベトナムへ行くようになった。1回目の訪問の2018年4月にはジェトロ・ハノイ事務所にも立ち寄り、ベトナムとのビジネスに関連する情報を入手した。
質問:
ベトナムの現地訪問はどうだったか。
答え:
(秋元氏)
当初、ベトナムの現地販売店とともに、エンドユーザー(現地企業)を回り、現地で手に入らないものはないか聞いてみたが、直接的なニーズが聞けず、訪問の効果は薄かった。そこでまずは、現地販売店との関係を深めることに注力することにした。当社の取扱製品を丁寧に説明して理解してもらい、取扱製品の幅を増やしてもらう取り組みだ。これが結果的に少しずつ実績につながってきているところだ。
質問:
輸出する際に、経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)を利用しているか?
答え:
(秋元氏)
EPAの活用については、商工会議所のセミナーに参加したり、ジェトロに聞いたりしたが、申請手続きが難しすぎることと、商社としてはメーカーから証明書類を入手しないといけないことなど、ハードルが高く、結局、利用していない。使いたい気持ちはあるが、輸出の実務手続きを変更するとなると、人手も足りない。また、大口取引とは違い、当社の取引は今のところ小口を積み重ねていく状況だ。手間暇を考えると、EPAを使うメリットがどこまであるかわからない。また、メイン顧客のベトナムなどからもEPA利用に関わる相談はほぼない。

仕入れ先のメーカーとの関係も考慮しながら、輸出拡大を模索

質問:
今後の海外ビジネスをどう進めるか。課題は。
答え:
(鈴木氏)
ジェトロの輸出コンソーシアム事業「パートナーによるハンズオン支援」を7月から受け始めたところだ。今後、海外ビジネスに精通したジェトロの専門家(パートナー)とベトナムを訪問する予定だ。
海外ビジネス展開上の課題は、仕入れ先であるメーカーとの関係だ。当社は専門商社のため、メーカーの協力が欠かせないが、メーカーも独自に海外市場を開拓しているところで、メーカーの特約店が海外にある場合もある。また、メーカーとしては、海外に販売する場合も、日本国内と同様に100%の状態で機械を使ってほしいと思っているが、機械によっては環境に左右されるため、(メンテナンスが保証できないなどの理由から)海外販売には二の足を踏むメーカーもある。専門商社としては、こうしたメーカーの立場や彼らとの関係を踏まえつつ、輸出拡大の方法を考えていかなければいけないと思っている。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課長
小島 英太郎(こじま えいたろう)
1997年、ジェトロ入構。ジェトロ・ヤンゴン事務所長(2007~2011年)、海外調査部アジア大洋州課(ミャンマー、メコン担当:2011~2014年)、ジェトロ・シンガポール事務所次長(2014~2018年)を経て現職。 編著に「ASEAN・南西アジアのビジネス環境」(ジェトロ、2014年)がある。

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