特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣京菓子・京漬物
コロナを越え海外展開に挑む京都企業(前編)

2022年11月15日

京都の多くの事業者が、新型コロナウイルスの影響による外国人観光客の急減に悩まされている。京都のみならず、日本国内の観光地では共通した課題である。

こうした中、新たに海外需要を取り込むべく、海外展開に取り組もうとする動きが広がっている。ジェトロ京都の貿易投資相談には、輸出に不慣れな事業者からの相談が数多く寄せられている。また、ほかの中小企業支援機関でも、初めて輸出に取り組む事業者からの相談が増えているという。EC(電子商取引)サイトなどデジタル技術の普及や円安は、輸出への追い風にもなっている。

一方で、当初の想定どおりに海外展開を進めている企業は多くない。そもそも輸出を短期間で実現させることは難しく、引き合いの獲得から契約交渉、そして商品の輸送から決済までがスムーズに進んだ場合でも数カ月はかかるものである。自社商品の売り込みの準備や、輸出相手国の法規制への対応なども含めれば、通常、年単位での取り組みが必要である。また、海外への渡航には依然として長期的な入国制限の影響が残っており、現地視察が欠かせない海外進出が大幅に遅れる企業も多い。

こうした状況の中で、具体的にどのように海外展開を進めればよいのか。本稿では、海外展開に取り組む京都企業5社の事例を紹介し、輸出や海外進出の取り組みにあたってのポイントを紹介する。前半では食品分野の2社、後半では日用品および機械分野の3社を取り上げる(注1)。

食品安全への対応が、海外で高い評価(株式会社和晃 代表取締役社長 井町 充宏氏)

和晃は、酒まんじゅうやみたらし団子、抹茶関連商品といった菓子を製造販売している。

観光土産向けの菓子を京都駅の直営店舗などで販売していたが、新型コロナウイルスの影響で観光客が大きく減少し、直営店が閉鎖に追い込まれるなどの打撃を被った。そこで、新たな販路を確保するべく、海外展開に本格的に取り組むことになった。新型コロナウイルスの流行前から、長期的には日本の人口減少に伴い国内市場の縮小が見込まれるため、将来的には売り上げを確保するうえで海外展開かM&Aが必要になると予想していた。

現在は主な展開先である米国に加えて、中国やオーストラリア、シンガポールや香港、台湾に国内の食品商社経由で菓子を輸出している。海外の展開先は、取引のある商社や「新輸出大国コンソーシアム」のハンズオン支援の専門家からのアドバイスをもとに選定している。商社は、実務経験が豊かであり、海外の規制に関する情報も豊富であるため盛んに相談しているという。

また、ハンズオン支援の専門家からは、米国・食品医薬品局(FDA)による工場査察への対応方法や海外への商標出願などについてアドバイスを受けている。その他、京都府内の企業としては唯一、農林水産省から輸出事業計画の認定を得るとともに、GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)による支援も活用している。

輸出の取り組みを始めて、自社の強みが食品安全分野にあることが明確になった。和晃では、もともとISO22000やISO14001、HACCPを取得していた。第三者機関からの審査を通じて指摘を得ることで、よりよい社内の生産体制を構築することが当初の目標だった。日本企業ではこれらの認証を取得できていない企業も多く、客観的に評価されているという点が海外ビジネスではプラスになっている。2022年5月には、FSSC22000を取得した。

今後は、商品の賞味期限をさらに延ばすことや、添加物規制への対応に課題を抱えている。その他、海外の視点を取り入れた商品開発を進めるため、外国人材の採用も見据えている(図参照)。

図:和晃の輸出事業計画の実施体制
輸出事業計画の実証と見直しを行うためのPDCA実施体制を示した図。計画の策定(P)では、国内商社や輸出アドバイザー、海外バイヤーと連携し、現地情報/規制情報に基づき、課題等を把握のうえ、輸出事業計画を検討。事業の実施(D)では、計画に基づき、商品開発を行い、海外での商談会・展示会等へ参加し、輸出を実施。評価・検証(C)では、販路の拡大、商品の販売状況等を把握し、商社・海外バイヤー等からの評価・アドバイスを踏まえ、計画の見直しを実施。改善(A)では、商社・海外バイヤーのフィードバック等を通じて新商品の製造・改善に着手。

出所:農林水産省ウェブサイトより抜粋(注2)

無添加の漬物を武器に、欧州への輸出を実現(株式会社すずめファーム 代表取締役 上柿 良平氏)

すずめファームは、柴漬けや千枚漬け、すぐきといった京都の伝統野菜による京漬物を100年以上にわたって製造している。同社の関連会社であるKYOZUKEが、欧州を中心に輸出に取り組んでいる。

輸出への取り組みは、国内における漬物需要の低迷と、海外における和食需要の拡大が契機となった。そして、地元の商工会議所の協力のもとで米国の物産展に参加し、試食を提供したところ来場者から手応えを得られた。現地には、ピクルスのような酢漬けが一般的であったものの、塩味のきいた食品は十分普及しておらず、今後、拡大の余地があると判断した。加えて、長期保存が可能な冷凍の漬物に対して、海外では評価が悪くなかったことも輸出を後押しした。一般的に、海外への食品の輸出には、輸送期間などを考慮し半年以上の賞味期限を確保することが望ましいといわれている(注3)。

海外の輸出先としては、新たな製品開発コストを抑えられる欧州に注力することにした。欧州は添加物規制が存在するものの、すずめファームの漬物は無添加製法を強みとしているため対応が容易であった。欧州と同様に、輸出先の候補としていた米国は、米国食品安全強化法(FSMA)への対応にあたり、自社工場の整備に費用がかかる可能性が高かった。その他、販売先のターゲットとして高所得者層を想定していたため、アジアの国々は比較的物価が安いことがネックであった。

欧州への輸出にあたっては、新輸出大国コンソーシアムのパートナーによるハンズオン支援を活用し、フランスへの展開に向けたブランド戦略の構築に力を入れた。訴求力のある商品パッケージや英文による商談資料を作成した結果、ジェトロのオンライン商談会を通じてフランスはもちろん、イタリアやオランダ、スウェーデンなどの食品バイヤーとの成約を実現した。


KYOZUKE が利用した、パートナーによる海外戦略策定支援(KYOZUKE提供)

注1:
ジェトロ京都は、3月28日に京都商工会議所との共催で「コロナ禍でいかに海外ビジネスを進めるか」、4月28日には京都中央信用金庫との共催で「中小企業を海外展開に導くジェトロ支援事業について」という、中小企業の海外展開に関するセミナーを開催した。
注2:
農林水産省「輸出事業計画(京都府:株式会社和晃)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(201KB)」。
注3:
近畿経済産業局「食品事業者のための海外展開実践ガイド」2021年PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(6.07MB)

コロナを越え海外展開に挑む京都企業

執筆者紹介
ジェトロ京都
大井 裕貴(おおい ひろき)
2017年、ジェトロ入構。知的財産・イノベーション部貿易制度課、イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課、海外調査部海外調査企画課を経て現職。

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