特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣岡山発の高耐久性の白線を海外で生産、世界各国に販売へ/テック鬼城(岡山県)

2019年12月11日

道路の白線などの区画線の工事を行うテック鬼城(本社:岡山県)は、高機能製品の開発をきっかけに、同業他社が国内市場を向くなか、カンボジアに進出し、世界各国の市場開拓に取り組む。また、主な材料である石灰の調達拠点としてスリランカにも注目し、白線材料の自社製造を目指して進出準備を進める。カンボジアの政府、大学、地場企業と連携し、新たなビジネスモデルで事業に挑戦する取り組みを岡﨑實社長にインタビューした(2019年10月18日)。


自社の工事車両の前に立つ岡﨑社長(ジェトロ撮影)
質問:
製品の特徴は。
答え:
当社で生産している白線材料は「エステルライン」という製品。従来の白線は冬の除雪作業で消えてしまうことが課題だった。そこで、岡山大学と共同で耐久性の高い白線を開発した。従来の白線の材料に特殊な繊維を0.1~0.2%の分量で加えることで、消えない、滑らない、透水性対応といった特徴をもたせた。繊維を材料内で均等に攪拌(かくはん)することができる点も当社の強みである。2013年に特許も取得した。 当社は白線を引く専用車両を保有しており、国内の高速道路、空港などで白線を引く工事も請け負っている。

生産・材料調達拠点を海外へ、世界各国から引き合い

質問:
カンボジアでのビジネスはどのような進捗状況か。また、カンボジア拠点の位置付けは。
答え:
当社のエステルラインをカンボジアに普及させるため、2016年にカンボジアで白線材料の販売や白線工事を行う現地法人を設立した。エステルラインの材料の混合はカンボジアの地場企業に委託する予定で、委託先となる会社が間もなく設立される。
カンボジアで本格的な生産体制を築くに当たって、事前調査として2017年、プノンペン国際空港から市内中心部のセントラルマーケットの区間の道路で、白線を引く実証実験を行った。商品開発の過程で耐寒性があることは確認していたが、耐熱性があるかどうかは分からなかったためだ。カンボジアでは道路の温度が70~80℃まで上がることもあるが、エステルラインは融点が高いため軟化することはないことが確認できた。
カンボジアで材料の混合を委託する工場は、30人規模の生産体制を予定している。人件費が安価で、日本人1人分の人件費でカンボジア人を5~6人雇用できる点がメリットだ。また、人材育成にも力を入れる。これまで、カンボジア人技能実習生8人を岡山の本社工場へ受け入れ、日本語や当社技術の指導などを行ってきた。
質問:
エステルラインの原材料はどのように調達するのか。
答え:
エステルラインの原材料は7割が石灰であるが、カンボジアで手に入らない。隣国ベトナムからの調達も検討したが、すでに多数の日系企業がベトナムで調達するなど、高価格化している。そこで、より安価に石灰を調達できるとみられるスリランカに注目した。今後は現地法人を設立し、スリランカの地場企業に採掘および粉砕、エステルラインの生産を委託する計画を立てている。スリランカはインド洋に面し、アクセスの良い立地だ。ドバイ(アラブ首長国連邦)や南アフリカ共和国など世界各国からエステルラインへの引き合いが来ており、これらに対応できると考えている。

収益を確保しつつ、カンボジアの道路事情改善に取り組む

質問:
道路の白線工事は公共性が高く、参入障壁の高い分野だと思われるが。
答え:
自社単独では成し得ないだろう。これまで、地場の財閥企業やカンボジア政府、国立大学にアプローチし、自社の技術普及に取り組んできた。カンボジア政府には、当社製品を購入・施工することができるほど潤沢な資金はない。そのため、まずは、日本を含めた諸外国による開発援助事業を通じて普及させる。エステルラインには、米国からも引き合いが来ており、今後の有力な販路(輸出先)として注目している。米国では世界に先駆けて無人運転自動車の導入準備が進められており、安全に自動車を走行させるために、エステルラインのような消えない白線への重要性が増すとみている。
質問:
カンボジア進出に際しての最も大きなハードルは。
答え:
カンボジアで最も苦労したのは、言語の壁と上下関係を重んじる国民性だ。日本の大学への留学経験があり、日本語が話せるカンボジア人に通訳をお願いしている。しかし、専門用語をクメール語に訳することの難しさに加え、問題提起を通訳者から政府上層部にそのまま伝えてもらえないもどかしさを感じることもあった。年輩である政府高官に、通訳者が問題提起に関する通訳をしにくいためだ。
質問:
エステルラインを導入するに当たっての今後の課題は。
答え:
道路の舗装の状態が悪いことが、課題の1つとして挙げられる。道路の陥没や、石がむき出しになっているアスファルトをよく見かける。せっかくエステルラインを引いても、その土台となる道路が崩れてしまっては、白線も剥がれやすくなってしまい、意味がない。そのため、耐久性のある舗装を導入することが大事だ。
また、白線が黒くなることも課題だ。タイヤの質が悪いこと、路面店から油や食べかすがそのまま道路に落ち、その上を自動車などが走ることで、白線が時間とともに黒ずんでくる。 このような状況を改善するために、現地の大学と連携し、道路インフラに特化した研究チームを作り、車線を引き、自動車とオートバイを分離させる方法などを政府に提言していくことも検討している。当社ビジネスを通じ、同国の交通事情の改善に貢献していきたい。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
山口 あづ希(やまぐち あづき)
2015年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産・食品課(2015~2018年)、ジェトロ・ビエンチャン事務所(2018~2019年)を経て現職
執筆者紹介
ジェトロ岡山 係長
都築 佑樹(つづき ゆうき)
2016年、ジェトロ入構。サービス産業部サービス産業課(2016年~2018年)、商務・情報産業課(2018年~2019年)を経て現職。

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