特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣オンライン商談活用で県産山ぶどう商品を世界へ/佐幸本店(岩手県)

2022年8月2日

佐幸本店(本社:岩手県久慈市)は、岩手産山ぶどう(自社・契約栽培)を使ったジュースやジャムを製造する食品会社。山ぶどうは、ポリフェノール、鉄分、カルシウムが豊富な日本固有種だ。岩手県は現在も、その生産量全国一を誇る。

同社は、2018年から山ぶどう商品の輸出に取り組んできた。最初の3年間は難しい時期が続いた。しかし、粘り強く商談を重ね、2021年にはフランス向け初輸出に成功。現在はパリのミシュラン星付きレストランでも採用されている。海外でなじみのない山ぶどう商品をどう売り込んだのか。その苦労や工夫について、代表取締役の佐々木茂氏およびマーケティングダイレクターの児玉奈々子氏に聞いた(2022年7月7日)。


佐々木代表取締役(左)と海外営業担当の児玉氏(右)(佐幸本店提供)

輸出経験・知識ゼロからのスタート

2018年に、岩手県からの誘いで海外展示会「Food Taipei」に出品したのが輸出の取り組みのスタート。それまで、輸出に関しては関心も知識も経験も全くなかった。「海外に販路が広がればいい」という軽い気持ちが、動機だった。続けて参加したのが、香港の海外展示会「FOOD EXPO」。しかし、いずれも成約は出なかった。本格的に輸出に取り組むためには貿易や海外市場に関する知識の取得や体制整備が必要であると感じ、ジェトロの専門家による個別支援を受けることになった。

海外営業を担う児玉氏は、ジェトロの個別支援を受けながら、知識と経験の両面から輸出を学んでいった。知識面では、ジェトロが主催する輸出基礎講座や海外市場セミナーなどを受講。ジェトロのウェブサイトや現地専門家への個別相談なども利用し、少しずつ輸出知識を増やしていった。経験面では、「何よりもバイヤーと出会い、実践を積むことが重要」と考えた。そのため、新型コロナ禍前の2年間で国内外10以上の展示会・商談会に参加。海外の流通・消費市場、海外バイヤーの評価を直接知ることができて、有益な機会になった。ジェトロの専門家からは「輸出書類の書き方から商談相手のフォローアップの微妙なさじ加減まで、中小企業の視点に立った実践的な助言を与えてもらい、ありがたかった」と、佐々木社長と児玉氏は振り返る。

「オンライン商談なら試食ありきでなく、ストーリーを訴えられる」

主力商品の「山のきぶどう」は、自社が栽培・管理する岩手県産山ぶどう果汁を3年間、真空熟成させた無添加ストレートジュースだ。その海外販路開拓は、容易でなかった。

まず、商品の位置付け、価値の訴求が難しい。山ぶどうの海外での知名度は、ほぼない。一般的な果汁100%ぶどうジュースと比較すると、味わいは甘さよりも酸味やキレが特徴的。価格面でも3~5倍程度の差がある。そんな自社商品の特徴を付加価値に変えて、バイヤーにきちんと理解してもらうのは難しかった。輸出を本格的に目指してから最初の3年間はなかなか思うような成果が出ず、もどかしい時期が続いた。


山ぶどう無添加100%ストレートジュース「山のきぶどう」(佐幸本店提供)

当初は、日本から渡航しやすい香港・台湾をターゲットにリアル展示会・商談会に出展していた。しかし、コロナ禍をきっかけに、商談の場はリアルからオンラインへと一変した。ジェトロのオンライン商談会にはほぼ全て参加し、バイヤーとの接点を探し続けた。

そして、2021年9月に実施したオンライン商談会で、フランスで日本食品の業務用卸をメインとするバイヤーと出会い、10月に成約できた。オンライン商談での成約について、児玉氏は「自社の山ぶどうジュースは、味が商品の魅力の全てではない。むしろ、山ぶどうの希少性など商品の特徴や、栽培から製造まで自社で一貫している点などが重要だ。すなわち、商品ストーリーを知り興味を持ってもらうことがカギになる。そのため、試食ありきでなく、まず話を聞いてもらえるオンライン商談形式が商材にフィットした」と振り返る。

画面上で商品価値を伝えるために、同社では写真を多く使った英語版の商品紹介資料や栽培から製造までの工程を紹介する動画を整備。限られた時間内で商品の魅力を分かりやすくバイヤーに伝える工夫をした。フランスはもともとワインの本場だ。実際、それだけに同バイヤーの山ぶどうに対する関心も高かった。価格をあわせて同社の商品の魅力を理解してもらえたことが、取引成立につながった。

現在、「山のきぶどう」はフランスのレストランでノンアルコールワイン代わりのテーブルドリンクとして提供されている。そのほか、ミシュラン星付きレストランで、デザートの材料に採用された例もある。

他市場では別用途・販路に商機も

このように、4年間の取り組みを経て、成果は着実に上がってきた。とはいえ、「これで輸出の成功パターンが読み切れたわけではない」と児玉氏は話す。今回フランスでは、自社の商品の外食産業での可能性に着目し、商品を非常によく理解し広めてくれるパートナーに出会えた。しかし、他国では、別の用途や販路で自社商品が受け入れられる可能性もある。「これまでにない商材なので、認知や理解のハードルは高い。しかし、商品セグメントや用途、チャネルの自由度が高い分、大きな伸びしろがあるのではないか」と児玉氏は期待を込める。

山ぶどうという素材は、海外でまだほとんど知られていない。だからこそ、それが商品の新規性や独自性の観点から有利に働くこともある。業務用と小売用の両面で、かえって多様な可能性を秘めた商品になりうることも確かだ。そのため、今後も海外バイヤーとの商談を重ね、日本オリジナルの山ぶどう商品の販路拡大を目指していくという。

今後は、商品特徴を見極め最善の商談形式追求を

コロナ禍発生から約2年半が経過し、海外との人の往来も徐々に復活しつつある。その中で、対面式商談の本格的な再開を待ち望む声も聞こえてくる。

一方で、オンライン商談だからこそ、コロナ禍以前は気軽に渡航できていなかった遠方の国・地域のバイヤーとの成約が生まれた企業もある。佐幸本店の事例は、対面商談以上にその良さを生かした好例だ。その裏には、写真や動画などの視覚情報と入念な商談準備があった。

ここから読み取れる教訓は、自社の商品特徴を見極め、対面式・非対面式の商談の機会をうまく組み合わせることだろう。そうして海外販路開拓を進めていく心構えが、今後ますます大切になってくる。

執筆者紹介
ジェトロ岩手
齊藤 美沙季(さいとう みさき)
2018年、ジェトロ入構。対日投資部地域連携課を経て2021年4月から現職。

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