特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣転機捉え「攻め」の経営(インドネシア)
好調事業売却し成長市場へ賭ける日系中小企業

2023年5月8日

PT.UMEDA FACTORY INDONESIA は、梅田工業(本社:埼玉県行田市)の関連会社としてインドネシア・ジャカルタ近郊に工場を構える板金加工メーカーだ。コロナ禍の影響で一時は売上高が7~8割減となったものの、2022年下半期に急回復。最盛期である2019年同時期の売上高を上回る勢いだ。大打撃を受けながらコロナ禍をしのいだ経営力はどこから来るのか。梅田工業は、1990年代にもともとプレス部品事業でインドネシアに進出していたが、2013年には好調だった現地工場を売却し、少量多品種型の板金加工業へと大きくかじを切った。大胆な経営判断の背景と、強みの源泉である人材育成について、PT.UMEDA FACTORY INDONESIA取締役社長の梅田大氏に聞いた(インタビュー日:2023年1月12日)。

質問:
PT.UMEDA FACTORY INDONESIAの事業概要は。
答え:
梅田工業のグループ会社として、2013年10月に資本金200万ドルでインドネシアに設立した。現在の従業員は156人、うち日本人は自分(梅田社長)を含め3人。薄板の板金加工がメインの事業で、主な顧客である在インドネシアの日系の医療機器メーカーや電子機器メーカー向けに機器の筐体(きょうたい)となる部品を製造・販売している。
前身は、精密順送プレス金型、順送プレス加工事業を手掛けていたPT.UMEDA KOGYO INDONESIA。同社は1995年に梅田工業の子会社として設立された後、2013年に現在の事業に転換した。

PT. UMEDA FACTORY INDONESIA 梅田大 取締役社長(同社提供)
質問:
板金加工業をわかりやすく言うと。
答え:
鉄を使った折り紙のような作業をイメージしてもらえると良い。専用の機械と技術者のスキルを用いて、金属を切って、曲げて、溶接をして、パーツをつくるのが板金加工業。あまり知られていないが、医療系冷蔵庫やブレーカーの配電盤、エアコンの室外機の骨組みなど、人々の生活に欠かせない製品の基盤を作っている。
板金加工を手掛ける当社は、機械の特性上、小ロット・少量生産が特徴。そのため、金型を使って年間10万~20万台規模の量産を行う自動車メーカーからのオーダーには対応できないが、初期費用がかさむ金型を使わずに、経験に裏打ちされた「機械を使った手づくり」で少量でも高品質なものをつくることができる。
質問:
顧客から評価される同社の強みは。
答え:
日本基準の技術力に加えて、アフターフォローが強み。納品日を守る、不良品を納品しない、万が一の際のフォローアップや極少量の注文対応といった日本での当たり前を、従業員教育やシステムなど組織づくりを工夫してインドネシアで実現している。それが強みになっている。

同社工場内の様子(ジェトロ撮影)

複雑な加工を要する民族楽器のレプリカ
(同社提供)
質問:
2013年、好調だったプレス部品製造の事業会社を売却して現在の工場をゼロから立ち上げた。その理由は。
答え:
当時、インドネシア工場は順調に拡大し、売上高も20億円に上っていた。しかし、現地工場責任者の健康状態や、梅田工業の社長である父の引退時期などを総合的に考慮し、事業の売却に踏み切った。経済規模と人口が順調に拡大する有望市場のインドネシアにおいて、引き続き何らかの事業を継続したいとの思いから、新たに目を付けたのが、インドネシアの板金加工市場だった。当時は日系企業の進出ブームもあり、プレス加工以外の仕事の需要が急速に伸びていた時期だった。「日本の製造業の歴史を考えると、インドネシアでもプレス加工市場の盛り上がりの後には板金加工市場が必ず伸びてくる」という父の考えも後押しして、インドネシアで板金加工事業にシフトすることを決めた。当時、私は海外経験がほとんどなかったが、本社にて板金加工に携わっていた経験があったことと、ゼロからの起業経験を息子に積ませたいという父の想いが相まって、新工場設立のために私が日本から送り出された。
質問:
新工場設立時の状況は。
答え:
ほぼゼロからのスタートだった。当時あったのは、生産設備、日本本社での板金加工のノウハウ、旧工場に勤務していた3人の板金加工技術者程度だった。取引先もないので、まずは新規顧客獲得のために、色々な工業団地へ車を走らせ板金加工の仕事がありそうな会社を探し、電話番号を調べては飛び込み営業、の繰り返しだった。
そうした模索の中で、自社の優位性、差別化のポイントが次第に見えてきた。当時、日系の板金加工会社はほとんどが、建機関係の厚板板金加工を得意とする会社ばかりで、薄板を加工する会社がほとんどなかった。ローカルの板金会社についても、薄板を取り扱う会社が数社あったものの、多品種少量生産に対応した会社はなく、精度やサービスのクオリティにもかなり不足があるということだった。こうした状況から、当社は薄板の板金加工を中心に「1品1個から作る」という触れ込みで、高品質とサービスにこだわって、他社との差別化を図るようになった。
質問:
6人から始まった新工場は、現在150人以上の従業員を抱える規模にまで成長した。日本の技術をインドネシアで根付かせる上で重視している点は。
答え:
経営で意識しているのは、「ヒトがモノをつくる」ということ。新工場設立時、会社の一体感を生むために社員数が30人になるまでは設立当初の社員の親族で固めた。それにより新入社員もチームに溶け込みやすく、それぞれが家族として責任感をもって仕事に取り組める環境をつくった。
品質を高める上で大事なことは、実は技術ではなく、考え方。従業員に現地の言葉で理屈、本質を丁寧に説明することが重要。整理整頓や清掃に至るまで、どうしてそれが必要なのかを細かくかみ砕いて説明する会社は少ない。当初は、私が社員に徹底してそのことを伝えていたが、徐々に先輩社員が新入社員に教えるという循環が生まれ、自然と企業の風土として根付かせることができた。「技術は後からつけられるが、人柄は変えられない」との考えから、従業員の採用時は板金加工の技術については基本的には不問で、人柄を重視して人材を採用している。
質問:
日本とインドネシアで従業員育成に違いはあるのか。
答え:
日本での従業員育成と大きな違いはあまりない。インドネシア人と日本人は国民性が似ている。彼らは情に厚く、他人を思いやり優しくする文化がある。手先が器用で、新しいことへの好奇心が強い。 採用直後は研修で、ビジネスマナーや基本的なコミュニケーション方法を習得してもらう。これができるようになると、会社の雰囲気や風通しが良くなるからだ。その後は、当社で使っている生産管理システムの使い方を各部署で、仕事内容と照らし合わせて勉強していく。管理職への登用についても、基本的には誰にでもチャンスがある。昇格のためのテストに受かれば、役職が上がっていく。
質問:
社長として活躍する傍ら、在インドネシア日系中小企業が集まる「町工場の会」の会長としても活動されているとのことだが、どんなグループなのか。
答え:
中小企業のインドネシア進出組の集まり。日系中小企業が多く進出してきた2013年、情報交換を目的に在インドネシアの日系中小企業の仲間とともに立ち上げた。月に1回程度集まって近況報告などの情報交換を行うほか、所属企業の工場見学やイベントの周知なども行う。モノづくりに関係する会社であれば入会でき、所属企業数は70社ほど。きっちりとしたお堅い団体というよりも、緩やかな集まりとして仲間を増やしていきたい。
執筆者紹介
ジェトロ海外ビジネスサポートセンター ビジネス展開課
高濱 凌(たかはま りょう)
2022年、ジェトロ入構。新興国ビジネス開発課を経て、翌年4月から現職。

この特集の記事

※随時記事を追加していきます。