特集:アフリカ・スタートアップ:有望アグリテックに聞く水耕栽培技術を使った垂直農法で農業生産性の向上を図る(エチオピア)
2019年9月25日
約1億人の人口を擁し、その65%以上が農業に従事するエチオピア。スタートアップの中でも「アグリテック」への注目は高い。次世代の農業として、各国で関心が高い垂直農法の分野で起業したグロハイドロ(grohydro )の創業者兼代表取締役社長のサラム・ウォンディム(Selam Wondim)氏に話を聞いた(8月22日)。
- 質問:
- 会社概要について。
- 答え:
- 2017年にアディスアベバで設立した。大学時代の友人ら4人で活動している。垂直農法用の水耕栽培装置を製造・販売している。現在の主力製品はは、緩やかな傾斜を持つ平面上に培養液を少量ずつ流下させる薄膜水耕(NFT)の装置で、イチゴやナスなどの作物が生産できる。現在は、商業農家やノルウェーのNGOなどが顧客だ。3年以内には、国際NGO向けに装置400セットの販売を見込んでいる。
- シードマネーとして、インキュベーション施設ブルームーン(blueMoon)から20万ブル(約80万円、1ブル=約4円)を調達した。また、フランス石油大手トタル主催のコンテストで3位となり5,000ユーロを獲得した。ピッチイベント「startup ethiopia 2019」(2019年6月24日付ビジネス短信参照)では3位入賞した実績がある。
- 質問:
- 起業に至った経緯は。
- 答え:
- エチオピアではまだ伝統的な農業が中心で、農業生産性の低さが課題になっている。水耕栽培を利用することで、伝統的な農法と比較し収穫量を最大4倍まで引き上げることが可能だ。1年間を通じて収穫することができ、収穫までにかかる時間も最大で半分まで削減できる。加えて、水の消費量を6割削減でき、かかる労働力も8割が削減可能なことも大きな強みだ。
- 主なターゲットは、小規模商業農家や地方住民の生活状況改善に取り組むNGOだ。エチオピアの小規模商業農家は、生産量の拡大に課題を抱えている場合が多い。土地は肥沃(ひよく)とは言えない場合が多く、拡大は容易ではない。また、灌漑設備の乏しい地域では水の確保に課題がある場合もあり、新たな労働力の確保にも費用がかかるのだ。
- 生活状況の改善に取り組むNGOにとって、「持続性」の重要度は高い。単純に食糧を提供するのではなく、食糧問題を解決することが重要だ。また、生産した農産物を販売し、現金収入を得ることも、住民の生活状況改善につながる。従来の農法よりも生産性が高く、短期間で収穫可能な水耕栽培にニーズがあるのだ。
- 質問:
- ビジネスモデルは。
- 答え:
- 主な収益は、商業農家などへの水耕栽培装置の販売から得ている。装置は、提携先の工場を利用し、エチオピア国内で生産している。装置の値段は種類によるが、例えば、家畜32頭の飼育に必要な飼料を生産する装置は約5万ブル(約20万円)だ。装置の販売に合わせて、農家向けのトレーニングも無償で提供している。マイクロファイナンスを提供する企業などとも協力の上、販売にも力を入れている。
- 現在のところ、大きな競合は存在しない。垂直農法のビジネスには数社のスタートアップが参入しているが、販売まで進められているのは当社だけとの認識だ。販売先が異なるため、現在は装置の販売に注力しているが、将来的には自社で生産した農産物の販売も手掛けたいと考えている。アフリカ全域でビジネスを展開することが目標だ。
- 質問:
- エチオピアのスタートアップを取り巻く環境はどうか。
- 答え:
- 現在は、外貨不足の問題やエコシステムが発達していないなどの課題があるが、政府はスタートアップ環境の整備に積極的だ。インキュベーション施設も、エコシステムの形成に尽力しており、状況は改善していくと考えている。
- 質問:
- 日本企業に期待することは。
- 答え:
- もちろん投資は歓迎だが、技術提携ができればと考えている。特に、水耕栽培や垂直農法の技術を持つ日本企業と協業ができれば幸いだ。
- サラム・ウォンディム氏の略歴
- エチオピアのユニティ大学で経営・マーケティングを学ぶ。大学卒業後、いくつかの小規模ビジネスの経営に携わった後、2017年にgrohydroを設立。2児の母。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・アディスアベバ事務所
山下 純輝(やました じゅんき) - 2016年、ジェトロ入構。東京本部で、農林水産物・食品の輸出業務に従事。2019年2月から現職。