特集:2018年の対中直接投資動向総論:日本の対中投資は前年比16.5%増、自動車関連の投資が増加

2019年5月29日

2018年の対中直接投資実行額は前年比3%増の1,349億7,000万ドルとなった。業種別にみると、製造業は自動車関連投資の拡大により、前年比22.9%増の411億7,400万ドルと増加したのに対し、非製造業は、情報通信・コンピュータサービスなどが減少したことにより、3.6%減の917億6,200万ドルとなった。国・地域別では全体投資額の7割を占める香港が2.9%減となった。日本は16.5%増の38億1,000万ドルで6位だった。

契約件数が大幅に増加

中国商務部の発表によると、2018年の対内直接投資(銀行・証券・保険分野を含まず)は、契約件数が前年比69.8%増の6万533件で、5年連続での増加となった。実行ベースの投資額は3%増の1,349億7,000万ドルだった(人民元建てでは0.9%増の8,856億1,000万元)。2016年はドルベースで2012年以来4年ぶりに減少に転じたが、2017年と2018年はいずれもプラスの伸びとなり、2018年は過去最高額を記録した(表1参照)。

表1:中国の対内直接投資の推移(単位:件、%、億ドル、億元)(△はマイナス値)
年月 契約ベース 実行ベース
件数 前年
(同期・同月)比
金額 前年
(同期・同月)比
2016年 27,900 5.0 1,260
(8,132.2)
△0.2
(4.1)
2017年 35,652 27.8 1,310.4
(8,775.6)
4.0
(7.9)
2018年 1月 5,197 158.6 121 0.6
2月 3,651 97.4 90 3.2
3月 5,492 117.7 134 2.6
1~3月 14,340 124.7 345 2.1
4月 4,662 39.5 91 1.9
5月 5,024 106.5 91 11.7
6月 5,565 92.3 157 5.8
1~6月 29,591 96.6 683 4.1
7月 5,648 113.1 78 19.3
8月 6,092 126.8 104 11.4
9月 4,591 45.7 115 8.3
1~9月 45,922 95.1 980 6.4
10月 3,623 37.6 97 7.3
11月 5,158 11.1 136 △ 27.6
12月 5,830 20.5 137 23.2
1~12月 60,533 69.8 1,350
(8,856.1)
3.0
(0.9)

注1:かっこ内の数値は元建ての金額および前年(同期・同月)比。
注2:2015年1月から2017年1月まで前年(同期・同月)比が元建てしか公表されていなかったため、ドル建ての前年(同期・同月)比はCEICデータからジェトロが算出。
出所:商務部「中国投資指南」ウェブサイト、CEICを基にジェトロ作成

製造業は好調、非製造業は減速

2018年の対中直接投資額(実行ベース)を業種別にみると、製造業が前年比22.9%増の411億7,400万ドルと増加したのに対し(寄与度5.9ポイント)、非製造業は3.6%減の917億6,200万ドルと減少した(マイナス2.6ポイント)。投資額全体に占める構成比は、製造業が29.8%、非製造業は66.3%となった(表2参照)。

製造業の投資額の内訳をみると、構成比が最も高い、通信・コンピュータ・その他の電気機器が前年比42.6%増と好調だったほか、特殊機器(81.8%増)、化学(37.8%増)が増加した。

非製造業をみると、全体の最大の投資分野となった不動産が、前年比33.3%増(寄与度4.3ポイント)の224億6,700万ドルとなった。投資金額で第2位のリース・商業サービスは12.8%増の188億7,500万ドル、第3位の情報通信・コンピュータサービスは44.3%減の116億6,100万ドルとなった(表2参照)。

表2:中国の業種別対内直接投資(単位:100万ドル、%、ポイント)(△はマイナス値)
業種 2017年 2018年
金額 構成比 前年比 寄与度 金額 構成比 前年比 寄与度
農業 1,075 0.8 △ 43.4 △ 0.7 801 0.6 △ 25.5 △ 0.2
鉱業 1,302 1.0 1251.4 1.0 1,228 0.9 △ 5.7 △ 0.1
製造業 33,506 25.6 △ 5.6 △ 1.6 41,174 29.8 22.9 5.9
階層レベル2の項目繊維 490 0.4 1.7 0.0 514 0.4 4.8 0.0
階層レベル2の項目化学 2,384 1.8 6.5 0.1 3,287 2.4 37.8 0.7
階層レベル2の項目医薬 2,142 1.6 1.8 0.0 1,312 0.9 △ 38.7 △ 0.6
階層レベル2の項目一般機器 2,887 2.2 △ 0.6 △ 0.0 2,850 2.1 △ 1.3 △ 0.0
階層レベル2の項目特殊機器 2,443 1.9 △ 3.3 △ 0.1 4,442 3.2 81.8 1.5
階層レベル2の項目通信・コンピュータ・その他電気機器 5,898 4.5 2.6 0.1 8,408 6.1 42.6 1.9
非製造業 95,152 72.6 7.5 5.3 91,762 66.3 △ 3.6 △ 2.6
階層レベル2の項目電気・ガス・水道 3,521 2.7 64.0 1.1 4,424 3.2 25.6 0.7
階層レベル2の項目建設 2,619 2.0 5.7 0.1 1,488 1.1 △ 43.2 △ 0.9
階層レベル2の項目輸送・倉庫・郵便 5,588 4.3 9.8 0.4 4,727 3.4 △ 15.4 △ 0.7
階層レベル2の項目情報通信・コンピュータサービス 20,919 16.0 147.8 9.9 11,661 8.4 △ 44.3 △ 7.1
階層レベル2の項目卸・小売り 11,478 8.8 △ 27.7 △ 3.5 9,767 7.1 △ 14.9 △ 1.3
階層レベル2の項目ホテル・外食 419 0.3 14.8 0.0 901 0.7 115.0 0.4
階層レベル2の項目金融 7,921 6.0 △ 23.0 △ 1.9 8,704 6.3 9.9 0.6
階層レベル2の項目不動産 16,856 12.9 △ 14.2 △ 2.2 22,467 16.2 33.3 4.3
階層レベル2の項目リース・商業サービス 16,739 12.8 3.8 0.5 18,875 13.6 12.8 1.6
階層レベル2の項目科学研究・工業技術サービス 6,844 5.2 5.0 0.3 6,813 4.9 △ 0.4 △ 0.0
階層レベル2の項目水利・環境・公共施設管理 570 0.4 35.1 0.1 474 0.3 △ 16.8 △ 0.1
階層レベル2の項目住居関連サービス 567 0.4 15.7 0.1 562 0.4 △ 1.0 △ 0.0
階層レベル2の項目教育 77 0.1 △ 17.9 △ 0.0 74 0.1 △ 4.2 △ 0.0
階層レベル2の項目ヘルスケア・社会保障・福祉 305 0.2 20.1 0.0 302 0.2 △ 1.1 △ 0.0
階層レベル2の項目文化・スポーツ・レクリエーション 698 0.5 161.3 0.3 523 0.4 △ 25.1 △ 0.1
階層レベル2の項目公共管理・社会組織 31 0.0 n.a. n.a. 0 0.0 △ 99.6 △ 0.0
合計 131,035 100.0 4.0 4.0 138,300 100.0 5.5 5.5

出所:国家統計局「中国統計月報」、CEICを基にジェトロ作成

日本からの投資は16.5%増

国・地域別の実行額では、香港が全投資額のうち71.1%を占め、1位となった(表3 参照)。投資額は960億1,000万ドルで、前年比2.9%減だった。香港からの投資では、主力産業の1つである小売り分野で、中国本土での販売拡大に向けて積極的に店舗数を拡大する動きが見られたほか、中国政府が推進している地域発展計画である「広東・香港・マカオグレートベイエリア計画」構想の進展を見据え、ベイエリア域内での投資を集中的に行う企業が多くあった。2位はシンガポールで前年比10.6%増の53億4,000万ドルだった。3位は台湾で6.3%増の50億3,000万ドルだった。台湾側の統計でみると、投資額のうち構成比が最大の電子部品が3.4%減、パソコン・電子製品・光学製品が28.6%減となるなど、電気電子関係産業への投資が減速した。4位は韓国で26.6%増の46億7,000万ドルだった。製造業では電子部品・コンピュータ・映像・音響・通信装置などが好調だった半面、非製造業は卸売・小売りなどが減少した。5位は英国で2.6倍の38億9,000万ドル、6位は日本で16.5%増の38億1,000万ドルだった。

表3:中国の国・地域別対内直接投資

2016年(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 国・地域 金額 構成比 前年比
1 香港 87,180 69.2 △ 5.9
2 シンガポール 6,180 4.9 △ 11.3
3 韓国 4,750 3.8 17.6
4 米国 3,830 3.0 47.9
5 台湾 3,620 2.9 △ 17.9
6 マカオ 3,480 2.8 291.0
7 日本 3,110 2.5 △ 3.1
8 ドイツ 2,710 2.2 73.7
9 英国 2,210 1.8 104.6
10 ルクセンブルク 1,390 1.1 n.a.
全世界合計 126,000 100.0 △ 0.2
2017年(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 国・地域 金額 構成比 前年比
1 香港 98,920 75.5 13.5
2 シンガポール 4,830 3.7 △ 21.8
3 台湾 4,730 3.6 30.7
4 韓国 3,690 2.8 △ 22.3
5 日本 3,270 2.5 5.1
6 米国 3,130 2.4 △ 18.3
7 オランダ 2,170 1.7 n.a.
8 ドイツ 1,540 1.2 △ 43.2
9 英国 1,500 1.1 △ 32.1
10 デンマーク 820 0.6 n.a.
全世界合計 131,040 100.0 4.0
2018年(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 国・地域 金額 構成比 前年比
1 香港 96,010 71.1 △ 2.9
2 シンガポール 5,340 4.0 10.6
3 台湾 5,030 3.7 6.3
4 韓国 4,670 3.5 26.6
5 英国 3,890 2.9 159.3
6 日本 3,810 2.8 16.5
7 ドイツ 3,680 2.7 139.0
8 米国 3,450 2.6 10.2
9 オランダ 1,290 1.0 △ 40.6
10 マカオ 1,290 1.0 n.a.
全世界合計 134,970 100.0 3.0

注1:全世界合計は実行額の使用ベース、各国・地域は実行額の投入ベース。バージン諸島、ケイマン諸島、サモア、モーリシャス、バルバドスなどの自由貿易港を経由して当該国・地域から投資された金額を含む。国・地域別の対中投資(実行ベース)の発表は2009年の途中から、各国・地域のデータにタックスヘイブン経由の対中投資額が含まれるようになった。
注2:2015年から前年比が元建てしか公表されなくなったため、ドル建ての前年比は商務部「中国投資指南」ウェブサイト、CEICデータからジェトロが算出。
注3:2015年以降データは1,000万ドル以上の単位で公表されているため、構成比と前年比は実際の数値と異なる可能性がある。
出所:商務部「中国投資指南」ウェブサイト、CEICを基にジェトロ作成

なお、日本側の国際収支統計(業種別・地域別直接投資)で2018年の投資フローをみると、前年比10.2%増の1兆1,510億円だった(注)。そのうち、製造業は13.1%増の8,118億円で全体の投資額に対する構成比は70.5%、非製造業は3.8%増の3,391億円で構成比は29.5%だった。

近年、中国の経済成長や政府の進める第三次産業への構造転換などを背景に、日本の対中投資に占めるサービス業の割合が増加していたが、直近2年では再び製造業の構成比が上昇した。国際収支統計ベースの日本の対中投資額に占める製造業の構成比をみると、2009年には71.1%だったが、2010~2016年の期間は60%前後に低下していた。2017~2018年にかけては再び製造業への投資の構成比が上昇した。

業種別にみると、製造業で構成比が最大の輸送機械器具が37.9%増の3,232億円と好調だったほか、一般機械器具が65.9%増の1,775億円、化学・医薬が58.0%増の1,070億円と大きく伸びた。一方、非製造業では、金融・保険が71.1%増の905億円と伸びたものの、構成比が最大の卸売・小売りが9.7%減と不調だった。

日系企業の投資案件を見ると、製造業では、自動車関連の生産能力増強を目的とした大型投資や、「乗用車企業の平均燃費と新エネ車クレジットの並行管理弁法」に基づき、2019年から乗用車の生産台数の一定割合を新エネ車とする目標が課されることを踏まえた、電気自動車(EV)関連の電池工場の稼働開始などの動きが見られた。

また、化学関連では、自動車内装工場の新設や、有機EL材料製造の新工場建設などの動きがあった。

非製造業では、湖北省へのコンビニエンスストアの新規出店や、山東省への大型小売店舗の初出店など、小売り関連の内陸部などへの面的展開の広がりが見られた。

このほか、スタートアップや大学とのデジタル分野における連携により、中国で活発化するイノベーションを取り込もうとする動きも出ている。

中国政府は外資への開放政策を引き続き推進する方針

中国政府は、外資への開放政策を引き続き推進する方針を打ち出している。特に注目されているのが、3月の第13期全国人民代表大会第2回会議で成立した外商投資法だ。同法は2020年1月1日から施行されることとなっており、これまで外資企業の投資に適用されてきた外資企業法、中外合資経営企業法、中外合作経営企業法の外資3法に代わって、外資に関する統一された基本法となる。

同法では、外商投資に関連する法令を制定する際、外資系企業の意見や建議を聴取しなければならないこと(第10条)、標準化業務に外資系企業も等しく参与すること(第15条)、外商投資企業の政府調達活動への公平な参与を保障すること(第16条)、外国投資者の利益、資本収益などについて、法に基づき人民元または外貨により自由に海外送金することができること(第21条)など、中国日本商会が「中国経済と日本企業白書」などで中国政府に要望していた内容も含まれた。

さらに、同法で示された基本的方針を有効に実施するためのさまざまな取り組みも進んでいる。李克強首相は3月に海南省ボアオ市で開催された「ボアオ・アジアフォーラム」年次総会の開幕式で、外商投資法を効果的に実施するため、同法の関連法規の制定作業を2019年内に完成させ、2020年1月1日の同法施行と同時に実施すると表明した。既存の法規の整理も進め、外商投資法と一致しないものは全て廃止か修正するとした。

外資の市場参入についても、制限緩和を表明した。6月末までに外商投資参入ネガティブリスト、自由貿易試験区外商投資参入ネガティブリストの改訂を行い、特に付加価値電信業務、医療機関、教育サービス、交通運輸、インフラ、エネルギー資源などの領域で開放を進めるとした。また、ネガティブリストで外資参入が禁止されていない分野については、全て参入可能とするよう徹底するとした。

このように、中国政府が開放措置を継続的に推進していることも背景に、日系企業の中国における事業拡大傾向は、回復基調にある。

中国に進出している日系企業に対して2018年10~11月にジェトロが実施したアンケート調査では、今後1~2年の事業展開の方向性について、「拡大」と回答した企業の割合は48.7%、「現状維持」と回答した企業は44.8%となっている。中国における事業拡大の意向は2015年度に38.1%と、1998年の調査開始以来初めて4割を下回ったが、2016年度は2.0ポイント拡大し40.1%となった。さらに、2017年度は大幅に回復して48.3%となり、今回も拡大意欲の回復傾向が続いた。「拡大」すると回答した企業に対し、具体的に「拡大する機能」を複数回答で尋ねたところ、「販売機能」(59.5%)、「生産(高付加価値品)」(37.4%)が1、2位の回答となった。中国で製造・消費の高度化が進展する中、優れた商品や技術、ノウハウなどを提供すべく、日本企業が市場開拓を強化している様子がうかがえる。

一方、在中国日系企業でも、2019年に米中貿易摩擦がさらに深刻化する、もしくは長期化するとの懸念が広がりつつある。

ジェトロが2018年9~12月に実施した「関税引き上げ等の保護主義的な動きの進出日系企業への影響」調査において、中国全体では「マイナスの影響がある」と回答した企業の割合が 37.3%で、「影響はない」と同率(単一回答)だった。地域別では、「マイナスの影響がある」と回答した企業の割合は、広州51.4%、青島41.5%、上海39.0%の順で、輸出企業が多い中国沿海地域で高い傾向にある。この内訳を見ると、輸出減による「海外売り上げ」の減少(48.1%)よりも、「国内売り上げ」(55.3%)への影響を懸念する企業が多く、直接的な影響(輸出)よりも中国経済自体の減速や中国国内のサプライチェーンなどを通じた影響への懸念の方が大きいことが見て取れる。

中国の内需の拡大を背景に、自動車や化学関連を中心とした製造業の対中投資に復調の兆しが見られるものの、今後、米中貿易摩擦や世界的な保護主義の動きが強まっていけば、中国の内需の拡大にマイナスの影響を及ぼす可能性もあり、日系企業の事業や投資拡大意欲への影響に影を落とすことが懸念される。


注:
日本と中国の統計の乖離の大きな理由として、統計範囲や作成方法の違いなどが考えられる。日本側の統計では、直接投資は(1)「株式資本」(投資企業の株式、支店の出資持ち分、その他資本拠出金)、(2)「再投資収益」(投資企業の未配分収益のうち、投資家の出資比率に応じた取り分と投資家に未送金の支店収益)、(3)「その他資本」(前述2項目に含まれない投資家と投資企業または支店との資本取引。例えば、親子間の資金貸借や株式以外の証券の売買など)からなるが、中国側の統計では日本側統計でいう株式資本の部分の比重が高くなっているのが理由とみられる。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 経済信息部 副部長
藤原 智生(ふじはら ともき)
2009年、ジェトロ入構。生活・文化産業部生活文化産業企画課(2009~13年)、海外語学研修(2013~14年)、海外調査部海外調査計画課(2015~16年)などを経て現職。