特集:どうする?世界のプラスチック官民が率先する中南米の環境保全

2019年1月10日

2018年6月5日、環境保全への関心喚起を目的として制定された国連の「世界環境デー」に合わせ、中南米諸国において環境保護活動が実施された。4月の米州首脳サミット主催国であったペルーでは、開催に合わせて100以上のNGOなどと共同して海岸線の清掃活動を行った。こうした環境に対する意識は中南米においても高くなってきており、今般世界中で話題となっているプラスチック製品の使用規制などもその1つだ。本レポートでは、中南米で特徴的な施策を開始した国や企業を紹介する(表参照)。

南米ではチリがイニシアチブを発揮

チリは、南北に約6,400キロメートルの海岸線を持ち、多様な海洋生物の生息地があることから、国民の環境への意識が高い国だ。同国のミシェル・バチェレ前大統領は、生物保護を目的にプラスチック製品への規制を早くからアナウンスしており、2018年8月3日、チリは南米で最も早くプラスチック袋の使用規制を法制度化した(法律第21100号)。セバスティアン・ピニェラ現大統領は「地球環境保全面で、チリがいち早く正しい方向に向けて一歩を踏み出したことに大変満足している」と述べた。同法は6カ月間の移行期間を設けており、同期間中は、1度の買い物に対しプラスチック袋の利用(提供)上限を2枚とする。2019年2月3日からは、大企業に対しB to C(主にスーパーマーケットなどの小売り)においてプラスチック袋の提供が全面禁止となる。中小企業は2020年8月3日から対象となる。違反時には、1枚当たり約300ドルが課せられる。チリ環境省によると、年間のプラスチック袋の生産量は32億枚。チリの人口が1,837万(2017年)であることから、1人当たり約170枚を消費している計算だ。政府は、法令の完全施行によって袋の生産量自体の抑制にも寄与するとしている。

チリ政府は法制度化に当たり、事前に「全国環境アンケート2017-2018」を実施した。それによると、66%が買い物時にプラスチック袋の代わりにエコバッグもしくは手元にあるプラスチック袋を再利用してもよい、と回答した。また、95%が法制度化に賛成したとのことだ。

環境省によると、チリ国内において廃棄後にバクテリアなどによって分解され、自然に帰るバイオプラスチックは製造されておらず、導入するには輸入をしなければならない。こうした状況もあり、法制度準備期間に実施したパブリックコメントを反映し、利用禁止となる場合は買い物時に限るとされ、食品加工業者などが加工前の一次品の保存のために使用するラップなどは対象除外とされた。

プラスチック製造業のないパナマは対応が困難

パナマは、中米で最初にポリエチレン袋の規制の法制度化に乗り出した。2017年8月、議会に法案が提出され、2018年1月19日にフアン・カルロス・バレーラ大統領が公布した。同法律は公布日から18カ月間の移行期間後にスーパーマーケット、ドラッグストア、路面店などの小売業者を対象とし、24カ月後には倉庫業や卸売業を含めて、ポリエチレン袋の使用を禁止する。

同国は、パナマ運河を利用した国際物流の要所であるが、国内の製造業は発達していない。資本財や消費財のほとんどを輸入に依存している。そのため、小売業で使用するポリエチレン袋も輸入品だ。新法では環境負荷のかからないバイオプラスチック製でなければ輸入ができないとされ、国内企業への影響は大きい。監視当局である消費者保護・競争保護庁(ACODECO)は「企業活動にはコストアップとなるが、移行期間内に十分な対策を取ってもらいたい」としている(「ラ・エストレージャ」紙2018年1月20日)。

ガラパゴス諸島では2014年から環境保全目的で実施

エクアドルのガラパゴス諸島は、ユネスコの世界自然遺産に登録されている。ガラパゴスゾウガメやガラパゴスイグアナなど、独自の進化を遂げた生き物が多数生息する。世界中から観光客が訪れており、日本人旅行者にもハネムーン旅行先として人気だ。エクアドル観光省によると、2017年の外国人旅行者数は161万8,000人で、前年比14%増だった。特に、2017年12月は前年同月比30.3%増の17万2,000人と、1カ月の外国人旅行者数としては過去最高を記録した。観光客の増加によって廃棄ごみが多くなり、生態系への影響が危惧されたため、エクアドル政府は2014年11月にプラスチック袋と発泡スチロールの使用を禁止した。同諸島では2015年2月に、「ガラパゴス・プラスチック不使用イニシアチブ」を推進している。

2018年5月22日からは、プラスチック製品の利用規制が強化された。同日からプラスチック袋とストローの販売や飲食店での提供を禁止し、8月21日には諸島内で再生利用処理ができないペットボトル容器の使用も禁止とした。観光業が主要産業であるため、ホテルやレストランは瓶や竹のストローを利用せざるを得なくなった。グリル島では、800本のアルミ製ストローがコロンビアから輸入された。同島ですし店「みどり」を営むビニシオ・イントリアゴ氏は「環境当局が進めるイニシアチブには賛成している。既にアルミと竹のストローを導入した。観光客のみならず、地元の顧客も賛同している。中には、家からマイ竹ストローを持参する客も一部いるほどだ」と述べている(「エル・コメルシオ」紙2018年5月22日)。

表:中南米のプラスチック製品に対する規制と法整備
国名 法整備の
ステータス
具体的な法令・法案 備考
メキシコ 州法公布・施行済み ベラクルス州プラスチック製品削減法(2018年5月14日) ベラクルス州、バハ・カリフォリニア州、ケレタロ州はプラスチック袋とストローの使用を禁止
グアテマラ 国会審議中 プラスチック袋に係る規制イニシアチブ法 プラスチック袋の使用・製造の禁止
コスタリカ 国会審議中 法案第18349号 2010年に議会提出済みだが、審議途中で頓挫。2018年8月に再度審議開始
パナマ 法律公布済み 法律第1/2018号(2018年1月19日) 中米で最も早くプラスチック袋の使用規制を法制度化
コロンビア 国会審議中 プラスチックストロー使用禁止に係る法案 2018年9月に議会提出
エクアドル 省令公布済み 教育省合意第97号(2018年10月9日) 州・市・自治体にポリプロピレンならびにポリエチレン素材のストローの製造と使用の自粛を促す省合意
ペルー 国会承認済み 使い切りプラスチック袋使用規制法(2018年12月6日) 移行期間3年でリサイクルができない、使い切りプラスチック袋の使用を禁止
チリ 法律公布済み 法律第21100号(2018年8月3日) 南米で最も早くプラスチック袋の使用規制を法制度化
ブラジル 州法公布済み
州法公布済み
州法公布済み
1.サンパウロ州法55.827(2015年1月7日)
2.リオ・デ・ジャネイロ州法8.006(2018年6月26日)
3.リオ・デ・ジャネイロ州法6.384(2018年7月6日)
1.2011年に期間限定となっていたプラスチック袋の配布を禁止する法律を再度規定
2.商用のポリエチレンやポリプロピレン等による使い捨てプラスチック袋の使用禁止および、材質の51%以上を再生可能にする定め
3.ブラジル国内で最も早くプラスチック製ストローの使用、提供を禁止
アルゼンチン 州法公布・施行済み ブエノスアイレス州法第13868(2009年1月1日) スーパーマーケットにおけるポリプロビレン素材袋の提供禁止
ウルグアイ 法律公布済み 法律第19655号(2018年8月8日) プラスチック袋の使用削減と持続可能な環境保全を目指す法律
出所:
各国議会など

中南米最大ECのメルカドリブレは独自に環境対策

中南米最大の電子商取引(EC)マーケットプレイスを運営するアルゼンチンのメルカドリブレによると、同社の2017年末時点での拠点は世界19カ国にあり、ユーザー数は延べ2億1,190万人に上る。2017年の取引数は2億7,010万アイテム(前年比49.1%増)で、同社のマーケットプレイスを通じた取引額は117億ドルだった。2017年6月からはナスダック100指数に組み入れられている。

同社のグループ会社には、オンライン決済システムを提供するメルカドパゴ、メルカドリブレのグループサーバー上に自らのオンライン店舗を構築できるメルカドショップ、取引アイテムの配送事業のメルカドエンビオス、2017年から個人事業主を対象としたファイナンス事業のメルカドクレディトなどがある。

大量の商品を取り扱う企業として、同社は独自に環境保全に乗り出しており、2018年8月2日には、「完全に土に帰る袋」を11月から導入すると発表した。同社はブラジル・サンパウロに本社を持つバイオ関連企業ビオップのアルゼンチン支社に120万ドルを投資して、「完全に土に帰る袋」を400万セット調達する。配送時の包装用として活用することにより、企業の社会的責任としての環境対策と、ユーザーの環境保全意識を高める狙いだ。ビオップによると、袋はバクテリアが分解できるバイオプラスチック素材でできており、約180日で堆肥化する。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課中南米班
志賀 大祐(しが だいすけ)
2011年、ジェトロ入構。展示事業部展示事業課(2011~2014年)、ジェトロ・メキシコ事務所海外実習(2014~2015年)、お客様サポート部貿易投資相談課(2015~2017年)などを経て現職。