特集:世界の知日家の眼日本企業によるインフラ投資に期待(パキスタン)
カリム・ファルーキ氏 パキスタン・日本ビジネスフォーラム事務局長

2018年7月6日

パキスタン・日本ビジネスフォーラム(PJBF)事務局長のカリム・ファルーキ氏は、パキスタンで多くのビジネス業界団体の要職を務め、知日派・海外通として知られる。同氏は、パキスタンで電子機器などを輸入販売するテクノロジー・リンクスの創業者で、カラチを代表するビジネスパーソンの1人でもある。5月15日、ファルーキ氏にインタビューした。

質問:
テクノロジー・リンクスの概要は。
答え:
私が米国テキサス州ヒューストン大学で電気・電子工学の修士号を取得後、パキスタンに戻り、1989年に創業した会社だ。海外企業40社以上から電子機器などをパキスタンに輸入し、研究・教育機関、医療機関などに販売している。日本からは島津製作所の製品を輸入しており、パキスタンでは唯一の正規販売代理店となっている。当社はパキスタン国内6都市にオフィスを構えており、100人以上の従業員がいる。

島津製作所と運良く商談

質問:
日本企業とビジネスを行うようになったきっかけは。
答え:
会社設立前の1981年、新婚旅行で日本に行った際、島津製作所に連絡を取ったことがきっかけとなった。同社の計測・分析機器は世界的に有名で、自分にとって日本を代表する企業といえば「SHIMADZU」だった。同社とは全くつながりがなかったため、電話帳で調べてコンタクトしたところ、運良く商談をしてくれることになった。
私は島津製作所の社員に対して、夜までかけてパキスタン市場のポテンシャルを熱心に紹介した。同社の社員も長時間割いてくれた。同社はパキスタンに興味を抱いたようで、数日のうちに海外営業の担当社員がパキスタンを訪問することになり、同社製品の輸入販売ビジネスがスタートした。

インタビューに応じるカリム・ファルーキ氏(右)(ジェトロ撮影)
質問:
現在の日本経済をどのように見ているか。
答え:
第二次世界大戦直後は貧しかったが、日本は著しい経済成長を遂げた。1990年頃のバブル崩壊も乗り越えた。1997年のアジア通貨危機とそれに続く不景気をきっかけに、金融業界の大規模な再編が生じ、また公共部門の支出についても改革が行われた。財政赤字の増加やデフレなどの新しい課題も顕在化しつつあるが、今後の日本政府の効果的な取り組みに期待している。
戦後、日本とパキスタンは綿の貿易で共に成長した時代があった。またパキスタン人ビジネスマンとして、日本の戦後復興やバブル崩壊からの成長に勇気づけられた。私は、日本人には困難を乗り越える勤勉さや誠実さがあり、現在もその気質は脈々と受け継がれていると確信している。
質問:
日本市場をどのように見ているか。
答え:
当社は日本への輸出ビジネスは手掛けていないため、日本市場の専門家ではないが、パキスタンの繊維関係企業は日本市場に高い関心を寄せているようだ。特に日本におけるファストファッション市場に注目している。
世界有数の綿花生産国であるパキスタンの主要輸出品目は繊維製品であり、近年は綿糸・綿布といった原材料よりも、欧州・米国向けのアパレルやホームテキスタイル輸出が伸びている。現在、日本ではパキスタン製アパレルには輸入関税がかかっているため、特恵関税や経済連携協定が利用できるバングラデシュ製やベトナム製に比べて競争力に劣る。大手ファストファッション企業の店舗を訪問してもパキスタン製は見当たらない。しかし、今後、関税差などの環境や条件が変わった上で、パキスタン製アパレルの品質がさらに向上すれば、大幅な輸出増も期待できる。

パキスタン人は日本に親しみ

質問:
日本、日本人に対するパキスタン人の見方はどうか。
答え:
パキスタン人の対日感情はおおむね良好だ。礼儀や家族・兄弟との関係を重んじるなど文化的に似通っている点があり、パキスタン人は日本に対して親しみを感じている。一般的に、日本は高品質な製品を生産する国、信頼性の高い国と認識されている。パキスタンで日本製品は非常に高い人気を集めている。例えば、パキスタン国内を走る自動車の95%以上は日系メーカーのものだ。また日系ブランドの乳児用粉ミルクは広く人気を集めており、発育の良い子供は「メイジ・ベビー」と呼ばれるほどだ。
質問:
今後、日本や日本企業に対して何を期待するか。
答え:
パキスタンのインフラ分野に対する投資に期待している。インフラ開発は、現在のパキスタンにとって最も重要な課題だ。以前は日本企業による発電所の建設などが目立っていたが、近年は日本政府・日本企業が主導する大型インフラ開発が少なくなった。対照的に、パキスタン国内では、中国が「一帯一路」構想の一環として中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の開発を推進しており、中国による大型発電所の建設、道路や港湾の整備などが急ピッチで進んでいる。
パキスタンでの発電は利益率も高く、チャンスの大きい事業であるため、日本企業にはもっとインフラビジネスを拡大してほしい。また、現時点でCPECに対して関心を示す日本企業は少ないが、建設機械や輸送機械の需要が極めて高いため、日本企業にとっても、大きな商機であることは強調したい。
略歴
カリム・ファルーキ(Kalim Farooqui)
1952年、カラチ市生まれ。米国・ヒューストン大学にて電気工学の学士および修士を取得。1989年にテクノロジーリンクスをカラチで創業。パキスタン日本ビジネスフォーラムの事務局長をはじめ、韓国、ドイツ、スイス、オランダ、ベルギー、英国、フィリピンなどとの2国間経済委員会でも要職を務める。65歳。
執筆者紹介
ジェトロ・カラチ事務所
サーディア・マンズール
2002年、ジェトロ入構。ジェトロ・カラチ事務所での総務・経理担当を経て、現在、同事務所にて調査・事業(ビジネス開発)を率いる。
執筆者紹介
ジェトロ・カラチ事務所
野上 活(のがみ いくる)
2014年、ジェトロ入構。ジェトロ・途上国ビジネス開発課(2014~2017年)を経て現職。現在、パキスタンの政治・経済に関する調査を中心に担当。

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※随時記事を追加していきます。