特集:世界の知日家の眼自国市場の開放と、得意分野でのパートナーシップの推進を(フランスその1)
パスカル・コロンバニ氏:バレオ取締役、ATカーニー シニア・アドバイザー

2018年11月14日

自動車部品バレオをはじめとする複数のフランス大企業の取締役、経営コンサルティング会社ATカーニーのシニア・アドバイザー(イノベーション・ハイテク・エネルギー担当)で、オイルフィールドサービス世界最大手のシュルンベルジェ日本法人トップを務めた経験があるパスカル・コロンバニ氏は知日派として知られる。同氏に、フランスからみた日本経済、日本企業の強みなどについて聞いた。(10月1日)


パスカル・コロンバニ氏(コロンバニ氏提供)
質問:
日本経済をどう見ているか。日本経済の魅力は。
答え:
日本経済は極めて強固なファンダメンタルズを持っている。日本は技術・金融大国であり、20世紀後半に政府が長期的ビジョンの下に策定した優先プログラムの中で強力な産業を生み出した。近年では、世界的な競争の中での競争力を引き上げるため、グローバルなパートナーシップを推進しつつ、こうした産業を再構築することが、日本に求められている。
フランス企業がアジアのどの国に優先的に投資していくかを検討する際、巨大な市場を持ち、とりわけビッグデータや人工知能の活用分野で驚異的な技術大国となった中国と比較した場合、日本が明らかに優位とは言えない。
私は、日本が研究の創造性、製品の質と安全性を重視し、自国市場をより広く開放するパートナーシップの締結を望むならば、有益な投資先であり続ける思う。自動車産業、ハイテク産業(航空産業、太陽エネルギー、燃料電池など)、マイクロ・ナノテクノロジー産業(医療、バイオ・エンジニアリングへの応用など)が有望分野の例だ。
エネルギーや輸送など伝統的な分野では、特定の市場で世界的な競争力を維持するために、これまで以上に幅広い分野での協力が可能になると思う。
質問:
グローバル市場における日本企業の強みは何か。
答え:
エネルギー、輸送、特に自動車分野で、日本が高い競争力のある企業を生み出す力があることは疑う余地がない。この競争力は、商品の質と技術革新を基盤にしている。
トヨタ、ホンダ、日産やデンソーといった企業の世界的な影響力については、言うまでもないだろう。千代田エンジニアリングや日揮といった企業は信用されているエンジニアリング会社である。三菱重工業、日立製作所などの企業を持つ日本は、輸送やエネルギー分野において世界的なプレゼンスを持つ。
富士通を筆頭に、デジタル関連企業も世界的に事業を確立している。また、日本の大学やセンター・オブ・エクセレンンス(中核的研究拠点)における技術研究の質は、日本が有するもう1つの強みだ。実際、民間企業への新しい技術移転は他の国に比べて効率的なようだ。
質問:
日仏経済関係をどのように捉えているか。
答え:
原子力発電関連やルノー日産などが成功例として挙げられるが、日仏が国家と産業との関係について似通った文化を持っていることを考慮すれば、特定の産業分野においてもっと緊密な関係が築けるのではないかと思う。そのためにはもちろん、両国がお互いの長所と短所を知り尽くす必要がある。日EU経済連携協定(EPA)が発効すれば、日本市場が広く開放され、お互いを知る機会になることは間違いない。
質問:
フランスで日本企業にとって有望な市場は。フランス進出を目指す日本企業にとって大切なことは何か。
答え:
スマートシティやエネルギー貯蔵などのエネルギー移行、デジタルなど新しい分野、また産業用アプリケーション、新素材、バイオ・エンジニアリングなどの分野で日本企業にとって多くの可能性があるだろう。
大企業だけでなく、日本国外の幅広い市場を求めるスタートアップ企業にとっても可能性はある。しかし欧州、とりわけフランスへの進出を成功させるためには、フランスの文化への適応、日本製品の強みである質とサービス、現地エコシステムへの貢献により現地市場に入り込むことが必要だ。
質問:
パリを中心に、大規模な文化芸術イベント「ジャポニズム2018」が開催されている。フランス人は日本をどう見ているか。
答え:
日本政府や多くの組織、協会団体の努力にもかかわらず、フランス人は日本についてあまり知らない、もしくは、間違っているとは言えないが(例えば小説家アメリー・ノートンに描かれたような)古いイメージを抱いている。もちろん、日産、トヨタ、キヤノン、ニコンは知っているが、それ以上を知らない。フランスのメディアは、日本の景気や日本人の生活の中のあまり面白くない部分を、多く報道する傾向がある。「ジャポニズム2018」は素晴らしいイニシアチブだ。中国を含めアジア諸国にとって成功例となる、産業・文化大国としての日本のイメージを映し出すような他のイニシアチブにより、フランス人は日本をもっと知ることになるだろう。

略歴

パスカル・コロンバニ(Pascal Colombani) 
1945年、ヌイイ・シュル・セーヌ(イル・ド・フランス地域圏)生まれ。エコール・ノルマル・シュペリウール(高等師範学校)サン=クルー卒業。科学博士。1978年からおよそ20年間、シュルンベルジェに勤務。欧州、米国で管理職を歴任した後、日本法人のトップを務める。1997年から1999年までフランス研究省技術局の局長、2000年からの2年間は原子力・代替エネルギー庁の取締役。現在はバレオの取締役、ATカーニーのイノベーション・ハイテク・エネルギー担当シニア・アドバイザーのほか、テクニップ、アルストムなど複数の大企業の取締役を務める。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
ナタリー・アルメル
1982年よりジェトロ・パリ事務所に勤務。所長秘書を務める傍ら、調査、渉外を担当。

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