特集 日本企業の海外事業展開を読む

ジェトロでは2017年11月~2018年1月にかけて、海外ビジネスに関心の高い約1万社を対象に「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」を実施した。本特集では同調査結果を基に、日本企業による輸出・海外進出への取り組み方針、各国のビジネス環境評価、デジタル技術や自由貿易協定(FTA)、外国人材の活用状況、CSRへの取り組み方針について解説する。

2018年4月24日

海外ビジネスに一服感、国内事業は拡大続く

本稿では、本調査(注1)により明らかになった三つのポイントを解説し、後に続く各論への導入とする。

まず、輸出(商社経由の間接輸出を含む)に関する今後(3年程度(以下同じ))の方針については、全体の約7割(67.8%)に及ぶ企業がさらなる輸出拡大に意欲を示したものの、同割合はピークの2015年から2年続けて減少し一服感がみられた。企業規模別にみると、大企業は輸出拡大を図る比率が前年(74.6%)と同水準の74.5%となったが、中小企業は同69.1%から66.4%へと低下した。中小企業では、輸出拡大比率が減少する一方、現状の輸出規模を維持する企業が前年の10.0%から13.6%へ増加した。これら企業に対しジェトロがヒアリングを行ったところ、現状維持の理由として、人材不足で輸出拡大余力に乏しいなどが挙げられた。業種別では、商社・卸売、建設、運輸、専門サービスなどの非製造業で現状の輸出規模を維持する比率(14.5%)が前年に比べ5.6%ポイント増加した。

今後の海外進出方針についても、「現在、海外に拠点があり今後さらに拡大を図る(既存拠点の拡充)」と「現在、海外に拠点はないが今後新たに進出したい(新規投資)」の回答をあわせた海外進出に意欲的な企業の割合が全体の57.1%と過半を占めた。ただ、同比率は前年比4.3%ポイント減少し、過去3年間維持してきた6割台を割り込んだ。大企業、中小企業ともに前年比減少した。輸出と同様に行った回答企業へのヒアリングによると、進出先における賃金や生産コストの上昇、労働力不足などが海外進出拡大に向けた課題として複数の企業から指摘された。日本企業の進出が多いアジアでは、経済発展に伴う人件費上昇や少子高齢化による労働力の減少が進行しつつあり、海外進出においても人材不足が事業拡大を図る際の制約要因になりつつある。

他方、今後の国内事業展開については、国内で事業拡大(新規投資、既存拠点の拡充)を図ると回答した企業の割合が全体の61.4%と、比較可能な2011年以降で最大となった。情報化の進展で引き合いの強い通信・情報・ソフトウェア(77.1%)や、ネット通販の発達で梱包(こんぽう)用の段ボール需要が高まる木材・木製品/家具・建材/紙・パルプ(72.7%)をはじめ、ほとんどの業種で国内事業の拡大比率が前年に比べ上昇した。回答企業へのヒアリングからも多くの企業で国内の需要増を指摘する声が共通して聞かれた。今後、国内で拡大する機能としては、「販売」を挙げる企業の比率が2011年以降で最高の83.6%となったほか、「高付加価値品の生産」や「新製品開発」も上昇を続けており、製販両面で国内の体制強化を図る様子がうかがえる。

ベトナムが海外事業拡大先の第2位に浮上

今後の海外進出方針として、「現在、海外に拠点があり今後さらに拡大を図る」と答えた企業に対し、事業拡大を図る対象国・地域を尋ねたところ、ベトナムを選ぶ比率が37.5%と前年(34.1%)から増加し、国別で中国に次ぐ第2位に浮上した。特に非製造業の同比率が前年の35.4%から43.1%に大きく増加したことが寄与した。東南アジア諸国連合(ASEAN)主要国においては、事業拡大先にベトナムを選ぶ企業が3年続けて増加した一方、タイ、インドネシアは減少を続けており、ベトナムでの事業拡大意欲の高まりが際立っている。ベトナムは、「販売」(前年4位→3位)や「汎用(はんよう)品の生産」(同3位→2位)、「新製品開発」(同5位→3位)機能拡大先としての国別順位が前年から上昇した。

ベトナムでビジネスを行う、または検討する企業からは同国でビジネスを行う魅力・長所として、「市場規模・成長性」を指摘する回答比率が82.2%と最も多く、次いで「親日的な国民感情」(42.8%)、「人件費の安さ、豊富な労働力」(41.9%)、「従業員の質の高さ、優秀な人材が豊富」(20.2%)、「顧客(納入先)企業の集積」(19.8%)が続いた。これら魅力・長所項目のなかでは、特に「市場規模・成長性」と「顧客(納入先)企業の集積」の回答率が前回調査(2013年度)に比べ大きく増加した。ベトナム経済は2014~17年にかけて6%を上回る高成長を続けており、都市部を中心に消費市場が拡大。また、同期間には進出日系企業数(日本商工会会員数合計)が1,323社(2014年)から1,683社(2017年)へ増加したほか、顧客となり得る日系以外の外資や地場系企業も着実に増えており企業の高評価につながったとみられる。

前述以外の主要進出先では、米国で事業拡大を図る企業が前年の33.5%から29.0%に減少、メキシコの同比率も前年の減少(2015年10.9%→16年8.5%)に続き6.9%へ低下した。両国ともに製造業の落ち込みが大きかった。「各国のビジネス環境の課題」を問う設問においては、「米トランプ新政権の政策変更リスク」の回答率が米国で58.6%、メキシコで52.8%と過半に及んだ。他の課題項目を圧倒して高く、両国での企業の事業拡大意欲に負の影響を及ぼしたと考えられる。

また、本調査では今後の中国におけるビジネス展開についても尋ねた。中国ビジネスの形態には、貿易、業務委託、技術提携、直接投資を含み、上述した海外進出(新規投資、既存拠点の拡充)よりも幅広いビジネスを対象とした。その結果、中国で「既存ビジネスの拡充、もしくは新規ビジネスを検討する」とした企業は48.3%と前年(48.7%)から変わりなかった。ただ、企業規模別にみると、中小企業の同比率が横ばいの一方、大企業は前年の60.5%から2.0%ポイント拡大した。大企業の同比率は2年続けて増加しており、中国ビジネス拡大の兆しがみられる。

中国のビジネス環境については、同国でビジネスを行う魅力・長所として、「市場規模・成長性」(89.8%)、「顧客(納入先)企業の集積」(27.4%)、「関連産業の集積(現地調達が容易)」(21.8%)などの項目で前回調査(2013年)から回答率の上昇がみられた。需要面に加え、製造拠点として中国を再評価する企業が増加した。

デジタル技術活用はECが中心

本年度の調査では、世界的に経済のデジタル化が進展するなか、デジタル技術の活用状況を初めて尋ねた。デジタル技術の定義は、「既存のビジネスのあり方を変えるような、新しいデジタル技術や同技術を利用したビジネス手法」とし、具体的には電子商取引(EC)、ロボット、3Dプリンター、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、人工知能(AI)、フィンテックを含むこととした。

まず今後、中長期的(5~10年程度)に自社のビジネスに大きな影響を及ぼすデジタル技術があるか尋ねたところ、48.7%の企業が「影響が大きいデジタル技術がある」と回答、次いで「現時点でよくわからない」(30.3%)、「特に影響が大きいデジタル技術はない」(13.6%)となり、約半数の企業が今後ビジネスに影響が生じると見通している実態が明らかになった。「影響が大きいデジタル技術がある」と回答した企業の比率は、電気機械、情報通信機器/電子部品・デバイス、精密機器、金融・保険、通信・情報・ソフトウェアで6割を超えて特に高かった。

また、「影響が大きいデジタル技術がある」と答えた企業に対し、「最も影響が大きい技術」を聞いたところ、上述した個別デジタル技術のうち、EC(32.1%)、IoT(20.3%)、ロボット(14.6%)が上位3項目に入った。同ランキングは、中小企業で同じ並びとなったが、大企業はIoT(28.5%)、EC(20.4%)、AI(15.1%)の順となり企業規模による違いがみられた。同様に、業種による違いをみると、医療品・化粧品や飲食料品などの非耐久消費財メーカー、あるいは小売業においては、最も影響の大きい技術としてECを挙げる企業が最多であった。その他の業種では、電気機械や情報通信機器/電子部品・デバイスなどの機械・機器メーカーはIoT、通信・情報・ソフトウェアおよび専門サービスはAI、金融・保険はフィンテックの回答率がそれぞれ最も高かった。同結果から、例えば、非耐久消費財メーカーは多くの消費者へのアプローチを可能にするEC、機械・機器メーカーは製造工程の生産性向上につながるIoT、情報通信企業は大量の情報を処理するAIなど、業種とデジタル技術の特性の間に一定の関係性がうかがえた。

では、実際にこれらのデジタル技術は日本企業の海外ビジネスでどの程度活用されているのだろうか。海外ビジネスにおける活用状況を尋ねたところ、個別技術ではECを活用中あるいは活用検討中と答えた企業が17.8%と最も多く、次いでIoT(5.7%)、ロボット(4.5%)が続いた。企業規模による順位の変動はみられなかった。個別デジタル技術のうち、検討中を含めた活用率が1割を超えたのはECのみの結果となり、海外ビジネスでのデジタル技術活用は現時点で限定的な実態が浮き彫りになった。海外ビジネスでECを活用中あるいは活用検討中と回答した企業は、「売り上げの増加」、「従来より幅広い顧客層をターゲットにできる」、「より多くの国・地域での販売が可能」などを主なEC販売のメリットに挙げており、特に中小企業で回答率が高い傾向がみられる。


注1:
2002年度に調査開始し、今回で16回目。海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用企業9,981社の本社に調査票を送付し、3,195社から回答を得た(有効回答率32.0%)。回答企業の属性は、中小企業81.1%(2,591社)、大企業18.9%(604社)と、中小企業が全体の8割を占める。業種別では製造業54.7%(1,748社)、非製造業45.3%(1,447社)と製造業の比率が非製造業を9.4%ポイント上回る。調査結果の詳細については、プレスリリース・概要報告書も参考にされたい。なお、過去の調査の報告書もダウンロード可能である。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課長
米山 洋(よねやま ひろし)
1997年、ジェトロ入構。ジェトロ北海道、ジェトロ・マニラ事務所(調査担当)、海外調査部国際経済課 課長代理などを経て、2017年4月より現職。共著『南進する中国とASEANへの影響』、『ASEAN経済共同体』、『FTAガイドブック2014』、『分業するアジア』(ジェトロ)など。