特集:駐在員が見るアジアの投資環境南西アジア1

2018年4月2日

インド・ニューデリー
上昇する人件費


屋台で食事をとる労働者(ジェトロ撮影)

2017年3月に適用されたデリーの法定最低賃金は前年度比37%上昇し、非熟練工クラスで月額13,350ルピー(21,360円、1ルピー=約1.6円)にまで増加した。インド日本商工会とジェトロが実施する「賃金実態調査」によると、スタッフ、ワーカーとも2017年昇給率見込みが10%以上となり、通年の消費者物価指数3.5%を大幅に上回る水準となった。最低賃金の底上げに加え、質の高い労働力確保や離職防止等のため、昨年以前に続き高い昇給率が求められる労働市場になっていると分析できる。

他国の例に漏れずインドにおいても、良質な人材の安定的確保は企業の経営課題の一つだ。インドでは、日系企業による日本式ものづくり学校(JIM)が各地で設立され始めた。日本式の職業規律等を教え、将来的に製造現場の中核を担う人材の育成を目指している。政府が掲げる「メーク・イン・インディア(製造業振興)」「スキル・インディア(技能向上)」への貢献だけでなく、日系企業の人材確保の一助となることも期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所 廣田貴之(ひろた たかゆき)
2010年、株式会社山陰合同銀行入社。2017年4月ジェトロ・ビジネス展開支援部新興国進出支援課(出向)、同年10月よりジェトロ・ニューデリー事務所勤務。

インド・ベンガルール
交通渋滞・環境問題対策に重点化


インドで初めてのハイテク工業団地であるアセンダスITパーク

インド南部カルナタカ州の州都ベンガルールは在留邦人数1,334人、進出日系企業数200社を数える(2016年10月時点)。トヨタやホンダなど輸送機器および関連部品、産業機械メーカーなどが立地。他方、ジェトロ・ベンガルールでは近年、日本食やアパレルなど小売り事業の相談件数が増え、消費市場としても注目が集まる。

年間を通じて穏やかな暖かさと雨量の少ない快適な気候に加え、牛肉・お酒を提供するレストラン、ショッピング・モール、ゴルフ施設など住環境が魅力的だ。また、インフラ面においては人口増に伴う交通渋滞の深刻化や廃棄物処理の問題があるものの、地下鉄の第1フェーズが全線開通し、利便性が高まった。既に第2フェーズの計画が開始され、2020年までに完成予定だ。2017年9月にはインド政府に先駆け、州で初となる「カルナタカ州電気自動車政策」が公表され、道路混雑や環境問題への解決を後押しする。

当地は、優秀な人材を多く輩出する豊富な教育機関や多国籍企業のR&D拠点の恩恵を受け、イノーベーションハブが形成されていることも魅力的だ。

執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所 土田 葉(つちだ よう)
2015年、ジェトロ入構。企画部(2015~2017年)を経て現職。

インド・チェンナイ
日系工業団地3カ所に注目


ワンハブ・チェンナイ工業団地入り口

「インドのデトロイト」と称されるタミル・ナドゥ州には自動車産業を中心に日系メーカーが集積しており、その多くはチェンナイ市内から約50キロ範囲に点在する工業団地に工場を構えている。当地には、土地代が比較的安価な州政府工業団地や、インフラが整った民間工業団地が多数立地しているが、当地の投資環境を語る上で欠かせない特徴が日系企業によって開発された工業団地が3カ所もあることだ。ワンハブ・チェンナイ工業団地(星政府開発公社アセンダス、みずほ銀行、日揮)、マヒンドラ工業団地チェンナイ(住友商事)、双日マザーソン工業団地(双日※整備中)は、インド初進出の企業でもビジネスを円滑にスタートできるよう、日本仕様の手厚いサポートを用意している。

また、1月中旬、タミル・ナドゥ州政府は投資許認可の簡素化や所要期間短縮を目的にビジネス促進法を発効。同州をインドで最も選ばれる投資先とするべく、ビジネスのしやすさ改善に取り組んでいる。

執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所 森 史行(もり ふみゆき)
2015年、ジェトロ入構。対日投資部(2015~2017年)を経て現職。

インド・ムンバイ
スパ日本専用工業団地


整備が進行するスパ日本企業専用工業団地の様子(ジェトロ撮影)

ムンバイから約150キロの距離にあるマハーラーシュトラ州第2の都市プネは、外資系自動車セットメーカー等の製造業が多く立地する。プネ周辺の工業団地を中心に、鋳造や鍛造、素形材など裾野産業も集積している。国際空港や主要港湾までのアクセスも良好であり、インド南北の結節点として全国へ商品を供給する企業も存在する。また、プネは文教都市としても知られ、日本語教育が盛んな街でもある。

そのプネの中心地から約75キロ(車で約1時間40分)に立地するスパ日本企業専用工業団地は土地収用がほぼ完了し、現在区画の造成、給水設備、団地内道路の整備が急ピッチで進められている。当団地は周辺の工業団地に比べて平たんな土地に整備されており、入居企業は造成にかかる時間的・資金的なコストが大幅に節約できる見込みである。他の工業団地と比較して土地代が安価に設定されていることも魅力だ。既に隣地にはドイツ系自動車部品企業の工場も進出している。

執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所 比佐 建二郎(ひさ けんじろう)
住宅メーカー勤務を経て、大学院で国際関係論を専攻。修了後、2017年10月より現職。

インド・アーメダバード
マンダル日本専用工業団地


マンダル日本企業専用工業団地の最近の様子(ジェトロ撮影)

日本の国土の半分強(19万平方キロメートル)程の土地に約6,000万人の人口が住むグジャラート州で、国内外からの企業進出が増えている。「メーク・イン・インディア」政策を掲げ製造業振興を進めるモディ首相のお膝元でもあり、州政府が企業誘致に熱心なことが要因の一つだろう。米国、ドイツ、中国、韓国などさまざまな国から企業が進出してきているが、近年、日本の存在感が増してきている。特に自動車分野では、インド最大手のスズキが工場を新設し、周辺に部品サプライヤーのクラスターが形成されつつある。

これら日系サプライヤーの進出しやすい環境を整えるため州政府が整備したのが、マンダル日本専用工業団地だ。州最大の都市アーメダバードから片側2車線の道路を西に約1時間30分(約90キロ)ほどの距離にある同団地は停電が無く水道が完備されているため、発電機、井戸といったインドでは必須となるコストが抑えられるのが魅力のひとつだ。既に5社が操業を開始し、4社が工場を建設中だ。フェーズ1、2合わせて120ヘクタールほどの工業団地であるが、分譲可能な用地の約3分の2が売れており、州政府は新たに日本企業に特化した工業団地の造成を始めている。

執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長 北村 寛之(きたむら ひろゆき)
2004年、ジェトロ入構。総務部経理課、ジェトロ大分、企画部事業推進班(東南アジア・南西アジア)、ジェトロ・ニューデリー事務所(アーメダバード駐在)を経て、2017年11月より現職。