特集:駐在員が見るアジアの投資環境東南アジア1

2018年4月2日

シンガポール
早起きは50セントの得


MRT(鉄道)の駅改札口(ジェトロ撮影)

物価の高いシンガポールでは、自然と財布のひもが堅くなる。ただ、MRT(鉄道)やバス等の公共交通機関は例外的に懐に優しい。

ある日の通勤、MRTの改札のモニターを見て驚いた。いつも表示される運賃が約半分になっている。調べると、「始発から午前7時45分までに改札に入ると、通常運賃から50セント割引(平日のみ)」という新制度が2017年12月29日から始まっていた。政府は、公共交通機関の混雑緩和のため、一部のMRT駅を対象に「早朝利用タダ」という実証実験を、2013年から開始した。実証実験の結果を受けて導入された今回の新制度は、割引額こそ縮小したものの、全てのMRTの駅が対象となったことが最大の改良点といえる。

さらに、もともと学生割引の適用によって運賃が50セント未満の学生は、新制度適用で運賃がタダになる。今後、子どもを早く学校に送り出そうとする親の光景が増えそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 三浦 亮輔(みうら りょうすけ)
2010年4月、明治安田生命保険相互会社入社(名古屋東支社配属)、2012年4月、契約サービス部契約サービス管理グループ。2016年4月、国際事業部派遣(ジェトロ海外調査部アジア大洋州課)、2017年4月、国際事業部派遣(ジェトロ・シンガポール事務所)。

タイ・バンコク
最低賃金改定の合意


低額賃金で働く、建築現場の作業員の様子(ジェトロ撮影)

タイ中央賃金委員会は1月17日の会合で、今年4月1日から、1日当たりの法定最低賃金を引き上げることを決定した。現在タイの最低賃金は、地域の状況に応じ4段階に区分されているが、改定後は7段階に区分される。

例えば、現在の最低賃金が310バーツのプーケット県、308バーツのチョンブリー県とラヨーン県は、改定後一律330バーツとなり、国内で最も高額な地域となる。

他方、最も低額な南部3県(パッタニ県、ヤラー県、ナラティワート県)は、現在の300バーツから、改定後308バーツに引き上げられる。なお、バンコクは310バーツから今後325バーツとなり、国内2番目の高額地域となる。

最低賃金の引き上げは、2017年1月に続き2年連続となる。ジェトロの「2017年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、在タイ日系企業の経営上の問題点の第1位は、「従業員の賃金上昇(n=594)、63.0%」である。今回の改定による今後の影響が注目される。

執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所 真鍋 勲生(まなべ いさお)
2012年、香川県庁入庁。ジェトロ海外調査部アジア大洋州課出向(2016~2017年)。2017年より現職。

マレーシア・クアラルンプール
コワーキングスペース、増殖中


マレーシア・デジタル・ハブ(コワーキングスペース)

マレーシア政府は、2017年4月にハイテク関連のスタートアップ企業を支援する「マレーシア・デジタル・ハブ」を立ち上げた。ASEAN地域など外国での事業展開を目指す起業家などに、コワーキングスペースを提供する仕組みだ。近年、より柔軟な働き方を求める新興企業の増加により、コワーキングスペースの需要が増えている。マレーシア・デジタル・ハブとして認定されたコワーキングスペースは、クアラルンプール中心部に5カ所ある(2017年12月現在)。公共交通機関からアクセスしやすい場所に立地している。フリーアドレス制のデスク利用で、利用料金は月額300~450リンギ(1リンギ=約27円)。マレーシア・デジタル・ハブには情報が集まりやすい上、投資家や金融機関と接触する機会も多い。政府は、こうしたプラットフォームを支援することにより、ASEANをはじめ、世界中のスタートアップ企業を惹きつけるハブを目指す。

執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所 田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。

インドネシア・ジャカルタ
工業地帯での駐在員住環境が改善


チカランで進むタウン開発の様子

首都ジャカルタから約50キロ東方に位置する町チカランが、「暮らしやすくなってきた」という話を駐在員の間でよく耳にする。チカラン周辺は日系企業を中心とした工場が集積する地域の一つだ。従来、駐在員用の住宅、飲食店、ショッピングモール、病院、学校といった生活インフラは、ジャカルタに集中しており、チカランに住む日本人は少数だった。しかし、地場・外資のデベロッパーによる開発が進み住環境は大きく変わりつつある。高層アパートやショッピングモールの建設に加え、今後は医療機関や日本人学校の設立計画もある。先日、企業回りの合間に寄ったハンバーガー店にはキッズスペースがあり、数名の日本人のママ友が談笑しながら、子供たちを遊ばせていた。単身での赴任だけではなく家族連れで居住する日本人駐在員も徐々に増えているようだ。出張等でチカラン方面にお越しの機会に、変貌する同地域をご覧になってはいかがだろう。

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所 山城 武伸(やましろ たけのぶ)
2007年、ジェトロ入構。ジェトロ愛媛(2009年~2012年)、インドネシア語研修(2012年~2013年)、ジェトロ展示部展示事業課(2013年~2015年)などを経て現職。

フィリピン・マニラ
外は暑く中は寒いフィリピン


マニラではタワーマンションなど高層ビルの建設が相次ぐ(ジェトロ撮影)

フィリピンのホテルやショッピングセンター、映画館などは冷房の設定温度が低く、暑がりの筆者も半袖の上に1枚長袖を羽織らないと凍えてしまいそうになる。とあるスポーツジムの設定温度は常に20度。一生懸命運動をしてみるが、いくら動いても一向に暖かくならない。

ゲストには冷房の効いた部屋でくつろいでほしい、そのための電気代は惜しまない、といったところだろうか。フィリピンの電気料金は日本や他のASEAN諸国と比べて高いのだが、フィリピン人に聞くと「涼しいのはゲストを歓迎している証拠」と言う。政府は今年1月、石炭やコークスの物品税を増税し、配電事業者が送電事業者に支払う送電サービス費用への付加価値税の課税も復活させた。これによって電気料金が1キロワット当たり0.08ペソ(0.17円)値上げされる見込みである。鉄鋼業、化学工業、非鉄金属業など、電気料金の値上がりの影響が大きい業種にとっては耳の痛い話である。

執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所 坂田 和仁(さかた かずひと)
2007年、ジェトロ入構。産業技術部、沖縄事務所、ソウル事務所、企画部企画課などを経て、2017年より現職。