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特集 トランプ政権の1年を振り返る

経済運営は及第点プラスアルファ、通商分野はNAFTA再交渉次第

トランプ政権の1年目を評価し今後を見通す

前政権の路線を大幅に見直すトランプ大統領の政治スタイルは支援者から熱狂的な支持を得る一方、賛同しない人々との断絶を深めた。結果として政治運営については1年を通じて不安定な状況が続いたものの、経済運営では税制改革や規制緩和などが奏功し、2017年下半期に経済成長が加速するなど一定の成果を残した。トランプ政権の1年目を、メディア、日系企業、税制改革、環境エネルギーをキーに振り返り、今後を見通す。

2018年1月31日

公約を守る大統領像を確立

トランプ政権が発足して1年が経過した。トランプ大統領は就任後、環太平洋パートナーシップ(TPP)からの離脱に始まり、入国管理政策の見直し、エネルギー政策の見直しなど、多くの分野で政策転換を次々に進めてきた。選挙期間中から過激な発言で知られた同氏は、就任後もツイッターなどのSNSを利用して昼夜を問わず思ったままに発言することを好む。首都ワシントンの少なからぬ有識者が、こうした同氏の行動様式を「予測不可能(Unpredictable)」と見なしている。

では、トランプ大統領がまったく不規則に政権運営を進めてきたのかといえば、決してそうではない。大統領選挙中に掲げた基本方針である「米国第一主義(America First)」と「米国再興(Make America Great Again)」を変わらず維持し、具体的な施策にも一貫性が見て取れる。日本でも大きく報じられた環太平洋パートナーシップ(TPP)協定からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉、エネルギー資源開発に係る規制緩和などは、就任後の100日計画として、いずれも選挙前に有権者に対して公約として示した内容だ。

他にも、トランプ大統領が実行に移した公約は多い(表)。

表:トランプ氏が実現した主な公約
分野 公約内容 実績
経済 所得税の税率区分を3段階に減らし、税率を12%、25%、33%にする。法人税率を35%から15%に引き下げる。相続税は廃止など。 税制改革法案成立。所得税は7段階のまま、ブラケットと税率を見直して減税(2015年まで)。法人税は21%に引き下げ。源泉地課税方式に変更。
規制緩和(エネルギー資源開発の規制廃止など) エネルギー資源開発の規制緩和などを実現。前政権による不要な規制の見直しも進める。
10年間で1兆ドルのインフラ投資 2017年に具体策の提示に至らず、2018年の優先課題に選定。
オバマケアの見直し 廃止法案成立に失敗するも、税制改革法案で未加入者への罰金を撤廃。
通商 米国第一主義に基づく通商協定の締結。TPPからの離脱。NAFTA再交渉。中国による為替操作、米国製品の市場アクセスの妨害、知的財産の侵害の是正。 TPPから離脱。NAFTAの再交渉を実施。
対中政策については各種調査を実施するも為替操作国認定はなし。
外交 軍事力の増強。NATO加盟国に経費負担を求める。北朝鮮に核開発計画の廃棄を要求。エルサレムを首都と承認。 軍事予算増額を決定。北朝鮮への経済制裁を強化。エルサレムへの大使館移転を発表。
移民 南の国境に壁を構築。テロ警戒国からの移民受け入れの見直し。不法移民の犯罪者の本国送還。移民受入基準の見直し。 壁構築については大統領令を交付するも、予算計上は見送り。入国管理制度、移民受入基準の見直し、不法移民の強制送還を実施。
環境・
エネルギー
キーストンXLパイプラインの承認。国連気候変動プログラムへの資金拠出の停止。パリ協定の議題を拒否。「クリーンパワープラン」の廃止。 キーストンXLパイプラインの承認を含め、パイプライン建設を推進。パリ協定からの撤退を決定。「クリーンパワープラン」を見直し。
行政など 連邦政府職員の新規採用を凍結し職員数を減少。新規制導入時に二つの既存規制を廃止。 政府職員の新規採用を凍結。新規制導入時に二つの既存規制を廃止する大統領令を発布。
出所:
ホワイトハウス、「100日計画」、共和党綱領などから作成

トランプ政権は2017年12月末までに、大統領権限に基づく54本の大統領令と97本の大統領覚書に加え、97本の法案を成立させた。法案数は、前任のオバマ大統領の124本は下回ったものの、ブッシュ(子)大統領の108本との差はわずかで低い水準とはいえない。選挙期間中、「既存の政治家は選挙が終わると公約を守らない」と繰り返し主張してきたトランプ氏が、「約束を守る政治家」として既存の政治家と差別化しようとする意図が伺える。

経済的合理性よりも政治的合理性を優先

そんなトランプ大統領の最大の関心は自身のコア支持層の維持・拡大にある。その結果、経済的な合理性よりも政治的な合理性が優先されやすい。例えば、減少傾向が続く製造業労働者の雇用拡大に拘(こだわ)り続けるのは、コア支持層の一つである「忘れられた(left behind)人々」の共感を得るのが狙いだ。これらの人々の多くが存在する五大湖周辺のペンシルベニア州、ミシガン州、オハイオ州などは、トランプ大統領の勝利に直結した接戦州であり、次の選挙でも同様に勝敗の鍵を握ると予想されている。いずれの州もかつて隆盛を極めた製造業の雇用が減少し、地域経済が疲弊したことでも共通する。また、在イスラエル米国大使館をテルアビブからエルサレムに移す決定も、キリスト教福音派を意識したものだ。メリーランド大学の世論調査(2017年11月)によると、福音派信者が多い共和党支持層では、決定を支持する比率が反対を上回る。就任後、政権の支持率は30%台後半から40%台前半をさまよっているが、熱狂的な共和党支持者からの高い支持に変化は生じておらず、これまでのところ想定の範囲内だといえよう。

ただし、民主党支持者による支持率が10%を割り込むなど、第2次世界大戦後の共和党系大統領の中では、支持者以外からの評価は最も低い。オバマ政権時代に悪化した二大政党間のあつれきは、トランプ大統領の下でさらに深刻化している。

もう一点注目されるのが、元経営者ならではのコミュニケーション手法である。選挙戦では過激な内容を含む独自の政策方針が目を引いたが、就任後の政権運営においてもトランプ氏はこれを維持している。その特徴は、事象の「陽」の部分を無視して「陰」にだけスポットライトを当てて有権者に訴求するものだ。貿易赤字是正、パリ協定離脱が典型例である。前任のオバマ大統領の実績を否定したがることにも、同様の狙いが見て取れる。こうした手法は、従来の政策に不満を持つ国民に有効に作用している。

他方、自身の不得意な政策分野は他人に任せるのもトランプ氏の特徴といえる。例えば議会運営についてはペンス副大統領、安全保障政策はマティス国防長官とマクマスター国家安全保障補佐官の助言を尊重していると報じられている。

経済成長率と雇用環境が改善

次に、トランプ政権の分野別政策の進捗(しんちょく)を見たい。まず、経済運営については、世論調査(リアルクリアポリティクス2018年1月3日)で支持(47%)が不支持(45%)を上回る。低迷する大統領支持率に比べて、経済分野では政権のかじ取りが冷静に評価されている。全米製造業協会(NAM)が2017年12月11日に発表した会員企業の経済見通し(第4四半期)では、先行きをポジティブに評価する比率が94.6%と過去20年にわたる調査で最高水準を記録した。税制改革をはじめとする経済分野の取り組みを評価するビジネス界や経済学者の声も目立つ。在ワシントンの製造業団体の主任エコノミストは「減税策をはじめとする同政権の政策によって米国経済は引き続き成長が続く」と強気に見通す。

連邦準備制度理事会(FRB)はトランプ氏の大統領就任時、2017年と翌18年の経済成長見通しを2.1%、2.0%としていたが、12月に同見通しをそれぞれ2.5%、2.5%に引き上げた。市場も好感し、ニューヨーク証券市場は過去最高値の更新が年末から年始にかけて続いた。

雇用環境については、失業率が就任時の4.8%(1月)から4.1%(12月)まで低下し、数値的には完全雇用まで改善した。トランプ氏が重視する製造業分野も、就任時から16万人ほど雇用が増加し、雇用全体の伸びを上回った。大統領選挙後1年間に製造業雇用が増加したのは、直近ではクリントン大統領が勝利した1992年、10万人規模で増加したのはカーター大統領が勝利した1976年までさかのぼる。

政府の役割を次々に見直し

トランプ氏は規制緩和も重視している。大統領権限を利用して規制改革担当官を責任者とする規制改革タスクフォースを設置し、不要と考えられる規制の見直しを進めてきた。新たな枠組みとして規制を導入する際には既存の二つの規制を撤廃するルールを導入し、具体策としても発電時の二酸化炭素(CO2)排出を制限するクリーンパワープラン、インフラ計画の環境評価や承認手続きなど既存規制の見直しが着々と進んでいる。その中には、オバマ政権時に導入されたばかりの規制も少なからず含まれている。規制緩和の根幹にあるのは、民主党政権で拡大した政府の役割の見直しだ。もともと共和党には政府の役割を限定する「小さい政府」を志向する伝統があり、ビジネス界出身のトランプ大統領の考え方に馴染(なじ)む。

トランプ政権は、2018年以降の次なる一手の準備も進めている。インフラ分野については本格的な議論が見送られてきたが、2018年の優先分野として位置付けた。老朽化が進む同分野では民主党と協調しやすい一方、事業資金の捻出が課題といわれており、トランプ氏の手腕が試される。

また、政府の果たすべき役割の見直しも進む。例えば、イノベーション分野では、各地に国立研究所を新設するなど、オバマ政権が自らイノベーション促進の旗振り役を果たしてきたのを改め、国立研究所の機能を基礎研究に特化し、その成果を民間に無償で供与する仕組みを導入した。本格化するのは2019年度予算になるが、産業界の期待は大きい。人材育成でも、前政権が推進した短期大学無償化を見直し、民間企業による職業訓練を推進する政策への移行を表明している。イノベーション政策同様、これも公的支出を抑制し効果的に人材育成を図れるものとして、産業界のみならず、議会共和党の反応は好評だ。新たな施策については官民合同で枠組み作りが進められており、今春発表される見込みだ。

通商政策の評価はこれから

米国第一主義の通商政策の下、TPPからの離脱、NAFTA再交渉などの公約を進めてきた通商政策に対しては、米国内の評価は大きく分かれており、評価を下すにはもう少し時間が必要だ。

まず、トランプ政権の通商政策の基本方針である「米国主権の優先」、「米国通商法の厳格な執行」、「海外市場開放にあらゆるレバレッジを活用」、「新たな、またはより良い通商協定作り」の4本柱については、国内ビジネス界はおおむね支持を表明してきた。その後、政権は個別課題に関する判断に際して、同方針に沿う形で進めている。

それにもかかわらず、NAFTA再交渉などでは官民の間に溝が生じている。これは、具体策に関して連邦議会や産業界など各ステイクホルダーとの相互理解が不足していることを示している。今後、政権がいかにステイクホルダーの声に耳を傾けるかが、通商政策そのものへの評価を大きく左右しそうだ。NAFTA再交渉の行方が、今後の通商政策を占う試金石といわれる理由もここにある。折しも、税制改革法案の成立見通しが立った11月以降、連邦議員、州政府、大手経済団体などが、ホワイトハウスへの働きかけを本格化している。1月末に再開する交渉にどう影響するのか注目が集まる。

一方、一般市民を対象とした世論調査をみると、自由貿易協定(FTA)を支持する市民と、支持しない市民との差がわずかな状況が続いている(図)。支持政党別にみると、従来とは異なり、民主党支持者や無党派層で自由貿易を支持する声が増えている。トランプ政権下で見直しが進む通商政策に関して、市民レベルでも関心が増していることを伺わせる。

図:自由貿易協定(FTA)の評価
2016年3月時点では、良い(51%)、悪い(39%)、不明(10%)であったのが、大統領選挙が近づいた2016年8月時点では良い(45%)、悪い(47%)、不明(8%)になり、大統領選挙後の2017年4月には良い(52%)、悪い(40%)、不明(8%)に変化した。
出所:
ピューリサーチセンターから作成 

通商分野で、関係者に予想外の驚きを与えたのが対中政策である。トランプ氏は、当選後に安価な輸入品に対する高関税の導入や、中国を為替操作国として認定すると発言してきたが、これまでのところ、同国の不公正貿易の実態解明を目的とする複数の調査を進めるにとどめてきたのがその理由だ。

ただし、トランプ氏が方針変更の理由とする北朝鮮問題に何らかの動きが生じると、2018年に対中政策が変化する可能性は十分にある。もし、現在の米中協力関係が変化すれば、通商問題の扱いが変わり得るということだ。また、発表が待たれる鉄鋼・アルミ製品輸入による安全保障への影響調査(232条調査)の結果が、対中政策に変化をもたらすかもしれない。トランプ大統領は2018年1月16日の習近平国家主席との電話後、対中貿易赤字が是正されていないことについて改めて不満を表明しており、今後の動きが注目される。

貿易赤字の是正に関しては、日米関係も同じ課題を抱えている。今後、米国から石油、天然ガスなどのエネルギー資源の輸入が増加することが期待されるものの、貿易バランスを大幅に変える水準ではないからだ。日米両首脳の良好な関係の下で、より互恵的な通商関係の構築を図る必要性があろう。

中間選挙での通商政策の扱いに注目

トランプ政権にとって2018年最大のイベントが、11月の中間選挙である。同選挙では、トランプ政権に対する全国の有権者の裁定が初めて下される。ここ最近の選挙で米国民が最も多く関心を寄せるのが経済動向である。これは前回2014年の中間選挙時も同様だった。従って好調な経済状況が続けば、共和党には追い風に働くと予想されるが、死角がないわけではない。一つは今後の景気動向である。既に8年以上景気拡大が続くものの、その間、四半期単位でみれば成長が鈍化したことは幾度もあった。経済に何らかの問題が生じれば、トランプ政権の戦略は見直しを余儀なくされる可能性が高い。

もう一つは、税制改革に対する有権者の厳しい評価である。法案審議時に実施された各社世論調査では、同改革への反対が賛成を10ポイント以上も上回った。不人気な理由は、富裕層を優遇する中身とともに、法案発表から成立するまでわずか50日ほどしかかけなかった乱暴な審議プロセスにあった。過去に共和党政権が実施した大型税制改革時には、いずれも賛成が上回っていたことを考えれば、看過できない問題といえる。もっとも、有権者が税制改正による影響の全体像をつかむまでには時間を要するため、11月の時点で、税制改正が有権者の判断に与える影響は限定的だと予想する見方が多いのも事実だ。

中間選挙では、「米国第一主義」の通商政策を掲げる共和党に対して、民主党がどのように差別化するかにも注目したい。従来、民主党支持者は労働組合と近く、自由貿易については共和党に比べて慎重な立場をとることが多かったが、既述した世論調査では、トランプ政権誕生の反動で、自由貿易協定(FTA)を見直す支持者が増えているからだ。勝負の鍵を握る激戦州(Swing State)で、両党候補者による政策論争の中で仮に通商政策の相違が浮き彫りになり、民主党候補が選出されることになった場合、トランプ大統領としてもむげにすることは難しいと予想される。

投票率も注目される。ここ最近の中間選挙の投票率は36%(2014年)、41%(2010年)と大統領選挙のある年に比べて低い。これが、トランプ政権に対する熱烈的な支持者が多い共和党を有利にするとの見方がある一方、トランプ政権に不満を抱える民主党支持者の投票率が増加すれば、仮説通りに事は進まなくなる。選挙予想分析に定評があるクックポリティカルリポート(2017年12月15日時点)の予想では、上院、下院とも多数党を占める共和党がやや優位な状況にある。しかし、わずか2議席差にある上院共和党では、民主党が過半数を握る可能性が十分考えられる。ハッチ財政委員長(ユタ州)、コーカー外交委員長(テネシー州)など大物議員の他、選挙時からトランプ氏への不支持を続けるフレーク議員(アリゾナ州)が引退を表明していることもその理由だ。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課長
秋山 士郎(あきやま しろう)
1995年、ジェトロ入構。ジェトロ・アビジャン事務所長、日欧産業協力センター・ブリュッセル事務所代表、ジェトロ対日投資部対日投資課(調査・政策提言担当)、海外調査部欧州課、国際経済課、ニューヨーク事務所次長(調査担当)などを経て2016年8月より現職。

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