中国、ダブルイレブン商戦から見た若者の消費トレンド
Z世代をターゲットに新規市場の開拓や消費拡大を狙うには
2025年1月10日
中国では、不動産市場の低迷などを受けて消費者心理が悪化し、消費の低迷を招いている(2024年11月7日付地域・分析レポート参照)。経済の先行き不透明感が晴れない中で、高額商品の購入を控え、コストパフォーマンスを重視し、計画的な消費を心がける「理性消費」の風潮が広がっている。また、若者の間では、プレッシャーに直面してもゆったりと落ち着きながら、「悦己(自身をよろばせること)」消費を行い、精神面の満足度を追求する傾向が強く見られる。本稿では、中国最大のEC(電子商取引)イベント「双十一」(以下、ダブルイレブン)商戦の結果から、直近の若者の消費行動の特徴を分析する。
ダブルイレブン商戦は経済に一定の消費刺激効果を与えた
中国国内の小売市場の成長が鈍化している。2024年第3四半期(1~9月期)の社会消費品小売総額の伸び率は、前年同期比3.3%にとどまった。こうした中で、中国最大規模のECセールイベントであるダブルイレブンが、低迷する小売市場を打開することを業界全体が期待していた。ダブルイレブンは、2009年にアリババグループが始めたもので、その後、他の多くのECプラットフォームも参加している。
2024年のダブルイレブンは、10月14日から11月11日にかけて実施され、2023年開催時に比べて10日間長く設定された(2024年11月21日付ビジネス短信参照)。イベントに参加した企業数や商品を購入したユーザー数は過去最高を記録したという。
EC販売データの調査会社である星図数拠(Syntun)の発表では、2024年のダブルイレブンの開催期間における、総合ECプラットフォームとライブコマースプラットフォーム(注1)を合わせた流通取引総額は、前年のダブルイレブンの開催時と比べ(以下、前年同期比)26.6%増の1兆4,418億元(約30兆2,778億円、1元=約21円)だった。商品カテゴリ別の売上額上位10品目をみると、家電製品、スマホ・デジタル製品、アパレル、化粧品の伸び率(前年同期比)が2割を超えた(表1参照)。これまでも高い人気を誇ったアパレルや美容用品、家電ブランドなどの販売が好調だったことに加え、家電など消費財の買い替え推進に関する補助金政策なども売り上げを押し上げた。その結果、10月単月の社会消費品小売総額は前年同月比4.8%増となり、伸び率は前月(3.2%増)から1.6ポイント上昇した。また、1~10月期のインターネット上の実物商品の小売額(注2)は8.3%となった。中国国家統計局は、ダブルイレブンの実施期間拡大と、消費財の買い替え推進政策が連動したことで、インターネット上の小売額の顕著な増加につながったとの見方を示した。
順位 | カテゴリ |
取引額 (億元) |
前年同期比 (%) |
---|---|---|---|
1 | 家電製品 | 1,930 | 26.5 |
2 | スマホ・デジタル製品 | 1,706 | 23.1 |
3 | アパレル | 1,664 | 21.4 |
4 | 化粧品 | 963 | 22.5 |
5 | 靴・かばん | 770 | 14.8 |
6 | 食品・飲料 | 640 | 11.6 |
7 | パソコン・オフィス用品 | 625 | 7.1 |
8 | 家具・建材 | 477 | 14.6 |
9 | ベビー・玩具 | 436 | 12.6 |
10 | スポーツ・アウトドア | 423 | 18.6 |
出所:星図数拠(Syntun)の発表を基にジェトロ作成
「理性消費」の広がりとともに、購入体験も重視
2024年に入り、さまざまな業界で値下げ合戦が繰り広げられた。複数の媒体で注意深く価格を比較し、コストパフォーマンスを重視する「理性消費」と称される消費行動が若者を中心に増えている。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年ごろから顕著となった「理性消費」の傾向が、2024年のダブルイレブンセールでも強く表れている。中国新聞社傘下のメディアの中新経緯研究院が11月12日に発表した「2024ダブルイレブン消費洞察報告」(注3)では、「今年のダブルイレブンセールで実感した新しい消費トレンド」について消費者調査を実施した。その結果によると、「理性消費が戻ってきた」(61.6%)との回答が最も多く、次いで「品質と価格のバランスが取れている」との回答率が52.7%だった(表2参照)。
順位 | 項目 | 回答率 |
---|---|---|
1 | 理性消費が復帰してきた | 61.6 |
2 | 品質と価格のバランスが取れている | 52.7 |
3 | 購入体験とサービスを重視している | 38.3 |
4 | 新しい技術(AIなど)の導入で購入体験を充実させた | 18.3 |
5 | 情緒的価値、精神的な満足度を重視する消費が増えた | 17.1 |
6 | ライブコマースでの宣伝・サービスがきめ細かくなった | 14.6 |
7 | その他 | 6.2 |
出所:中新経緯研究院、中国国際電子商務中心研究院、浪潮卓数の3社が共同で発表した「2024ダブルイレブン消費洞察報告」を基にジェトロ作成
このほか、「購入体験とサービスを重視している」(38.3%)、「新しい技術(AIなど)の導入で購入体験を充実させた」(18.3%)、「ライブコマースでの宣伝、サービスがきめ細かくなった」(14.6%)と続いた。2024年のダブルイレブンでは、EC事業者各社が高性能な人工知能(AI)を活用したマーケティングツールを出店者に提供し、ライブコマースでの宣伝と運営が例年よりもきめ細やかに行われていたのが特徴的だった。購入体験とサービスを重視する新しい消費トレンドの表れだと考えられる。
品質と価格のバランスが取れた「平替」品が人気
若年層の理性消費の代表的な例として、「平替(ピンティ)」品と呼ばれる商品への支持が挙げられる。「平替」は中国語で「平価替代品」の略で、「高すぎず安すぎない手頃な価格の(高価なブランド品などの)代替品」を意味する。価格を抑えながらも、一定の品質が保たれた商品で、ファッションや化粧品、生活用品、食料品などさまざまなジャンルで「平替」が存在する。例えば、有名カフェチェーンで提供されるコーヒーの価格が1杯20元(約420円、1元=約21円)程度なのに対して、ある新興カフェチェーン店が、味がそこまで劣らないコーヒーを1杯9.9元で販売するプロモーションを実施したところ、多くの若者に歓迎されたのも1つの事例として挙げられる。新京報と傘下の貝殻財経(Seashell Finance)が、2024年6月に18歳から35歳の若年層を対象に実施した「2024中国青年消費トレンド報告」によると、回答者の41%が「大抵の場合、価格を比較してから購入する」と回答した。また、「平替」を選ぶ理由として、「基本的な品質がニーズを満たし、節約もできる」(51.5%)が最も多く挙げられ、「プロモーションやディスカウントが多い」(45.4%)と「友人からの推薦があれば、試してみたい」(43.7%)も4割を超えた(表3参照)。単なる安さの追求ではなく、品質面では妥協せず、ニーズをより的確に満たしてくれるリーズナブルな商品を探すということが、「平替」を選ぶ際の賢明な消費スタイルと捉えられている。その人にとっては、性能や得られる効果が同等ならば、より割安な「平替」を購入することで節約ができ、お買い得感が得られるため、購入体験の満足度の向上につながっていると考えられる。
順位 | 理由 | 割合 |
---|---|---|
1 | 基本的な品質がニーズを満たし、節約もできる | 51.5 |
2 | プロモーションやディスカウントが多い | 45.4 |
3 | 友人からの推薦があれば、試してみたい | 43.7 |
4 | 元々好きなブランドや商品が値上げされ、安い代替品を選ばざるを得なくなった | 34.4 |
5 | 予算に限りがある場合に価格がより安く、性能も品質もそこそこ良い代替品を優先的に選ぶ | 27.3 |
出所:新京報と貝殻財経(Seashell Finance)「2024中国青年消費トレンド報告」を基にジェトロ作成
精神的な満足感、癒しを得るための消費行動も活発
前述の表2では、「情緒的価値、精神的な満足度を重視する消費が増えた」との回答率が17.1%だった。消費者のお財布の紐(ひも)が固くなった「理性消費」の風潮下で、ECのプロモーションや値下げ合戦が日常的に繰り広げられている。ユーザーの消費欲を刺激するためには、EC事業者各社としては商品やサービスの「情緒的価値(趣味、遊び心など)」の部分を強調し、精神面の満足度に重点を置いたプロモーション活動を重視する必要性が高まっている。
既出の「2024中国青年消費トレンド報告」によると、若年層の3割近くが「精神的な満足感や癒しのために消費している」と回答した。また、同報告では、「禁止焦緑」(注4)や「放青松」(注5)などと名付けられ、多くの若年層から人気を集めたオフィス用のミニ植物が紹介された。2つの商品とも、焦りを抑えようといったメッセージが込められている。仕事や日常生活の忙しさに追われて、ストレスや悩みを抱えている会社員などから共感を呼んでいるという。また、笑ってリラックスでき、癒しを与えてくれる映画、テレビドラマ、バラエティ番組などのコンテンツにお金を払うことをいとわない若者も少なくない、と分析している。
また、同報告では、若年層が精神的な充実感を得るために消費する理由についても調査し、37.4%の回答者が「自身の趣味や興味のために消費をしている」と答え、「精神的価値あるもので癒しを得たい」と答えた人は29.8%だった。年齢層別に趣味・興味関連消費の割合が最も高い年齢層は18~25歳(42.0%)で、26~30歳(36.6%)と31~35歳(35.0%)が続く。仕事や日常生活上のプレッシャーに対抗しながら、精神的な満足感や癒しのために、自身の趣味や興味には高額の出費もいとわない若者が増えてきた。

Z世代の「悦己」の消費傾向が強まる
中国の「Z世代(1995~2009年生まれ)」は、他人より「悦己」を優先させ、自身の満足度を追求することに重きを置く傾向が強い(2024年3月14日付地域・分析レポート参照)。2024年のダブルイレブンでは、Z世代が自身の趣味や興味に関連する消費を行う「快楽消費」(楽しさを求める消費)のトレンドも強く見られた。Just So Soul研究所が発表した「2024 Z世代ダブルイレブン消費行動報告書」(注6)によると、2024年のダブルイレブンではZ世代の参加率が90.6%と、2023年の88.1%から上昇した。また、「2023年より出費が増えた」との回答率は35.5%で、出費額に変化があった主な理由として、「消費ニーズの変化」(42.5%)や「消費心理の変化」(35.1%)などが挙げられた。消費心理に関する質問に対し、Z世代の回答者のうち40.1%が「快楽消費、情緒的価値・趣味のために消費する」と回答し、「より消費のクオリティーに注目するように考え方が進化した」との回答割合も37.1%だった。Z世代のうち約3割では、「快楽消費」への出費が、出費額全体の過半を占めた。このほか、Z世代に人気の高い「快楽消費」の具体的な分野は以下のように挙げられている(表4参照)。旅行・アウトドア関連、ゲーム関連、エンターテインメント関係の消費が活発になっているほか、Z世代ではアニメや漫画などの愛好者も多いことから、デザイナーズトイ、IP(知的財産)関連商品、二次元および周辺グッズの購入を楽しむことが特徴的であった。
順位 | 項目 | 割合 |
---|---|---|
1 | 旅行関連(エアチケット、ホテル、旅行ツアーの予約)、アウトドア活動、ハイキングなど | 42.3 |
2 | ゲーム関連 | 38.9 |
3 | コンサート、ライブハウス、トークショー、芝居などのエンターテインメント関係 | 29.6 |
4 | 文創(文化クリエイティブ商品)、盲盒(ブラインドボックス)などのデザイナーズトイ | 27.7 |
5 | IPコンテンツ関連商品(ちいかわ「注1」、Butter bear「注2」、黒神話:悟空「注3」のコラボ商品など) | 27.3 |
6 | ペットおよびペット関連商品 | 25.4 |
7 | 二次元および周辺グッズ(マンガ展、フィギュアなど) | 22.3 |
8 | 美容医療 | 18.1 |
注1:日本のマンガ作品「ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ」(作者 ナガノ)に登場するキャラクターの名前。
注2:タイのお菓子ブランド「Butter bear」の公式マスコット。
注3:西遊記を題材にした中国国産のアクションRPGゲーム。
出所:Just So Soul研究所「2024 Z世代ダブルイレブン消費行動報告書」
天猫(Tmall)の発表では、2024年のダブルイレブンには、世界的に大ヒットしたオープンワールドアクションRPG「原神」を開発したゲーム会社「米哈遊(miHoYo)」の公式マスコット販売店、中国の人気デザイナーズトイ「泡泡瑪特(POP MART)」、英国のぬいぐるみブランド「ジェリーキャット(Jellycat)」などのブランドが、「二次元およびその周辺グッズ」を購入する若年消費者に支持され、それぞれ1億元以上の取引額を記録した。このトレンドにより、70以上のブランドが1,000万元以上の取引額を達成したという。
これらの中でもZ世代の「快楽消費」の代表例として、「ジェリーキャット」を紹介する。2024年9月25日に上海で「ジェリーキャット・カフェ」の実店舗が期間限定でオープンし、若年層のファンが殺到した。1点400元の食べ物の形をしたぬいぐるみを「ままごと」をしているよう見せて販売していた。来場者は平均1時間順番待ちの行列に並び、2,400元の限定品セットが人気だったという。購入者にとって「ジェリーキャット・カフェ」は、単なる消費行為というより、ショッピング体験に没入し、ぬいぐるみの可愛さと購入過程の楽しさの両方を味わえることが人気の理由であったと考えられる。
また、最近はジェリーキャットにインスパイアされた商品も登場。中国各地の特色を生かしたグッズが、心の癒しを求める若者の間で人気を呼んでいる。中国人民網日本語版2024年10月25日の報道によると、甘粛省博物館はキノコやブロッコリー、白菜、つみれといった、麻辣燙(マーラータン、ピリ辛風味の煮込み料理)の具材をモチーフにしたぬいぐるみを発売。これらを購入した客には、辛さのレベルを示す「微辣」「中辣」「麻辣」のカードが贈呈され、「麻辣燙」の購入を模擬体験できるという。甘粛省博物館のショッピングサイト「天猫(Tmall)」旗艦店では、同年8月初旬からぬいぐるみの購入予約が1週間で20万人から寄せられ、同旗艦店の販売数は前年同期比4.4倍に激増したという。
これらの商品が人気となるのは、ショッピングに情緒的価値を提供することで、購入者を現実の世界での悩みやストレスから解き放ち、心の癒しを与えてくれるからだ。物の消費に限らず、旅行、アウトドアスポーツ、エンターテインメント、ペットなど多数の分野においても、精神面での満足感を追求する消費が増えている。
若者をターゲットとしたビジネスでは「情緒的価値」のアピールが重要
本稿では、ダブルイレブン商戦の販売促進活動の結果を基に、若年層の「理性消費」と「快楽消費」の動向を中心に紹介した。市場全体でコストパフォーマンスを重視する節約志向が広がっている中、若者は「悦己」という自己表現や自己満足につながる商品やサービスの消費に多額の出費をいとわない。特に「快楽」という精神面の満足度につながる商品やサービスに共感を生みやすい。面白さ、可愛らしさ、珍しさ、新鮮感、顔値(見た目の美しさ)といった要素が、いかにZ世代が重視する「快楽」にうまくつながるかがポイントとなる。食品・飲料、アパレル、外食業界をはじめ、近年は化粧品、高級ブランドなどのジャンルでも盛んに行われているIPコンテンツとのコラボレーションマーケティングも、こうした取り組みの一例である。Z世代に人気の高いIPコンテンツとコラボし、限定商品やイベントを展開して話題を呼ぶことで、顧客層の幅を広げ、新たなブランド価値を生み出す効果が期待できる。
今後、日系企業が中国の若者向けにマーケティングを行う上では、こうした若者の関心や流行などに関連する情報の収集力や、情報を基にスピーディーかつ敏感に製品・サービスに反映させる実行力が求められる。また、これらを実現するうえでは、現地に精通したマーケティング人材の獲得・育成はじめ、現地の製品・開発部隊の強化が重要となるだろう。
- 注1:
- 2024年の調査対象は20以上のECプラットフォーム。合計で、2,000以上の商品カテゴリ、9万種類以上のブランド、2,000万点以上の商品を有する。総合ECプラットフォームの代表例には天猫(Tmall)、京東(JD.com)、拼多多(PDD)があり、調査期間は2024年10月14日~11月11日。ライブコマースプラットフォームの代表例には抖音(TikTok)、快手(Kuaishou)、点淘(Diantao)があり、観測期間は2024年10月8日~11月11日。2023年の観測期間は2023年10月24日~11月11日。
- 注2:
- インターネット上の小売額は、累月の数値のみが発表されている。
- 注3:
- 中新経緯研究院、中国国際電子商務中心研究院、浪潮卓数が共同で「2024ダブルイレブン消費洞察報告」を発表した。2024年10月14日から11月11日にかけてダブルイレブンセールでの購入経験者1,085人に対して調査を実施した。調査対象は「18歳~35歳」が43.6%、「36歳~45歳」が36.8%、「46歳以上」が19.6%。男女比は、男性62.1%、女性37.9%。
- 注4:
- 「禁止焦緑」とは水栽培の緑色のバナナのことで、「焦慮」(焦り)と同音の「焦緑」を禁止するという意味。緑のバナナが黄色くうれるのを待つかのごとく、焦りを抑えようといったメッセージが込められている。
- 注5:
- 「放青松」は水栽培の小さな松。中国語では「青松」はリラックスという意味の「軽松」と同音。
- 注6:
- Just So Soul研究所は、Z世代をターゲットとしたSNSアプリ「Soul」を運営する上海任意門科技が設立した研究所。SNSのビッグデータを基に若者の行動特性や意向について分析・研究を行う。同研究院が、2024年にSoulのユーザー3,014人に調査を実施し、「2024 Z世代ダブルイレブン消費行動レポート」を公表した。なお、2023年調査の対象人数は1,757人。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・上海事務所
王 艶(おう えん) - 日系コンサルティング会社で16年にわたり勤務し、日系企業中国法人向けに様々な支援サービスを提供。2019年から現職。