容器の環境対応で、買い物客も便利に(スウェーデン)
LIDLスウェーデンに聞く
2025年1月20日
サステナビリティ対応について消費者の関心が高く、関連法規制が整備されている欧州では、低価格路線を売りにしている小売業でも例外なくサステナビリティ対応を進めている。スウェーデン国内に約200店舗を展開する大手スーパーマーケット、LIDLスウェーデン(注1)のノラ・エングモ・サステナビリティ・スペシャリストに、具体的な取り組みや社内体制などについて話を聞いた(2024年12月13日までに取材)。

- 質問:
- 商品調達時の基準となるサステナビリティ対応や認証はあるか。
- 答え:
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当社は厳しい調達基準・認証基準を設けている。当社が保有している自社ブランドについては、13種類の原料(コットン、植物・生花、水産品、コーヒー、カカオ、ナッツ、果物・野菜、パーム油、コメ、大豆、茶、セルロース、卵)に対して、二酸化炭素(CO2)排出量削減や人権対応、動物福祉など様々なサステナビリティの観点で、それぞれ個別の調達・認証の基準がある。当社は、レインフォレスト・アライアンス(注2)やフェアトレードといった第三者認証と非常に密接な協力関係にあり、例えば、自社ブランドのチョコレートやコーヒーはすべて、レインフォレスト・アライアンス、フェアトレード、オーガニックの認証を受けている。水産物については主に、水産養殖管理協議会(ASC:Aquaculture Stewardship Council)(注3)や海洋管理協議会(MSC:Marine Stewardship Council )(注4)などの第三者認証を得たものであるかどうかを基準としており、それに加えて、世界自然保護基金(WWF:World Wide Fund for Nature)の評価において「グリーンライト」(注5)が与えられたものを優先的に使用している。全ての原料に対するサステナビリティ調達方針は当社のウェブサイト(スウェーデン語)
で公開しており、誰でも閲覧が可能となっている。
- 質問:
- サプライヤーによるサステナビリティ対応をどのように確認しているのか。
- 答え:
- サプライヤーには、当社が定めるサステナビリティ対応などの調達基準を順守してもらっている。商品調達時にはサプライヤーから各種証明書の提出を求めており、提供された商品が基準を満たしているかの確認を行っている。加えて、第三者監査も実施している。もし、サプライヤーから提供された商品に同調達基準を満たしていない原料が含まれていることが判明した場合は、そのままでは消費者に販売できないため、調達を中断し、サプライヤーに返品する仕組みを設けている。まれに調達基準を満たすようにサプライヤーと調整することがあるが、その事実は当社のサステナビリティレポートで報告し、原因の究明、再発防止策の検討も行っている。なお、サプライヤーが所在する国に当社のグループ会社がある場合は、サプライヤーとの調整・交渉はサプライヤー所在国の当社グループ会社の調達担当者が担当している。
- 質問:
- LIDLブランドはシュワルツグループ傘下の低価格帯のセグメントだが、品質を維持しつつ、貴社の厳しいサステナビリティ基準をクリアした商品を低価格で販売することは難しくないのか。
- 答え:
- もちろん、難しい。ただ、当社は欧州各地に自社独自の生産工場を持っており、そこから調達を行うため、当社の高いサステナビリティ基準にも適合した、高品質を保証する商品を低価格で調達することが可能となっている。なお、サステナビリティ対応とは直接関係しないが、当社では、スウェーデン国内産の商品のみを扱うLIDLスウェーデンのオリジナルブランド「MATRIKET」を展開している。国内消費者はスウェーデン産志向が強いため、当社が力を入れているブランドの1つである。また、このブランドでは新しいプロジェクトも行っており、例えば、温室の中でクラシック音楽を聞かせた野菜を販売したことがある(注6)。通常の栽培方法と比較し、より成長が促進されると言われている。
- 質問:
- 貴社独自のサステナビリティ調達基準とともに、各国のサステナビリティ関連法規制への対応も求められる。また、EU域内共通で対応が求められる内容もある。貴社ではEU域内のグループ会社間でどのように対応・連携しているのか。
- 答え:
- EUには、欧州森林破壊防止規則(EUDR:EU Deforestation Regulation)(2024年11月18日付ビジネス短信参照)や包装および包装廃棄物規則案(PPWR:Packaging and Packaging Waste Regulation)(注7)をはじめとする小売業に関連する多くの規則がある。また、EU加盟国ごとの関連法令もある。EU加盟各国にある当社のグループ会社ごとにいずれにも対応している。EUや加盟各国の関連規制は、各国にある当社のグループ会社のサステナビリティ・スペシャリスト(後述)が最新の情報を随時把握している。そのうち、EU関連法規制については、グループ会社の本社(ドイツ)にいる法規制の専門担当者から加盟各国のサステナビリティ・スペシャリストに情報が入る。規制対応においては、グループ会社間での連携が重要になってくるが、当社グループでは、加盟各国にそれぞれサステナビリティ・スペシャリストを配置し、その役割は全ての国で同じ。各国のサステナビリティ・スペシャリストが頻繁にオンラインで打ち合わせを行い、サステナビリティ対応関連の情報共有・問題解決を行っている。
- 質問:
- サステナビリティ・スペシャリストはどのような役割を担っているのか。また、サステナビリティ・スペシャリストの育成は社内で行っているのか。
- 答え:
- サステナビリティ・スペシャリストは、社内外の様々なステークホルダーとコミュニケーションを取りながら、環境負荷を低減するための取り組みを主導する役割を担っている。商品調達との関係では、当社が定めている調達基準・認証基準をクリアするため、カウンターパートとなるディストリビューターとともに商品選定に携わる(後述)。
- 自身は当社でサステナビリティ・スペシャリストとして2年半勤めているが、サステナビリティ・スペシャリストの育成に特化した研修プログラムが社内にあるわけではない。近年は国内の大学でサステナビリティを専門的に学ぶこともできるが、自身はもともと農学の修士号を取得している。農業とサステナビリティは関連性が深いため、現在の仕事につながっている。しかし、当社のサステナビリティチームには様々なバックグラウンドを持つ者がおり、社内でサステナビリティについて取り組む際に貴重な視点を提供している。
- 質問:
- 新規商品および新規サプライヤーの発掘はどのように行っているのか。
- 答え:
- 品ぞろえについては、当社の調達担当者が判断している。調達担当者は、当社が店舗で提供するすべての商品の専門家であり、最新の市場動向を把握し、責任をもって新商品導入を行っている。彼らは市場に対してのメインの窓口であるため、新規のサプライヤーを発掘するのも調達担当者の役割である。当社のサステナビリティ・品質管理部門などの協力を得て、最高品質のベストな商品を開発し、消費者に提供できるようにしている。
- 質問:
- LIDLスウェーデン独自で取り組むサステナビリティ対応があれば教えてほしい。
- 答え:
- LIDLスウェーデンは、サステナビリティに関して独自の取り組みを行っている。最近の取り組み例の1つは、自社ブランド商品のパッケージに関するものである。自社ブランドの冷凍商品のパッケージでは、印刷面積を減らすとともに、パッケージをリサイクルできる、もしくはリサイクル割合を高める単一素材を開発することに取り組んでいる。その最新の例が、自社ブランドMATRIKETのグリーンピースである。印刷部分には複数種類のインクを使用しているため、リサイクルが容易にできるように単一成分のインクの印刷範囲を増やした。なお、これによる副次的な効果もあり、印刷をシンプルにしたことで、中身が見やすくなり、消費者が商品を確認しやすくなった。
- もう1つの例は、クレームフレーシュ(注8)の容器のプラスチック蓋(ふた)を廃止する取り組みである。複数回に分けて食べることが想定される内容量の商品には、衛生面からプラスチックの蓋は残したが、一度に食べ切る内容量(少量)の容器は蓋をなくした。プラスチック蓋の廃止は、カーボンフットプリントと使用済みプラスチックを削減する当社の戦略の一環であり、この取り組みのインパクトは年間5.5トンのプラスチック削減に相当する。
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印刷範囲を縮小したパッケージ
(LIDLスウェーデン提供)
プラスチック蓋を廃止したクレームフレーシュ
(LIDLスウェーデン提供)
同社では、商品生産の一部をグループ会社間で共有しつつ内製化することで、サステナビリティ対応に厳しい自社の調達基準をクリアしながら価格を抑える工夫をしている。また、EU域内各社における独自の取り組みを促しつつも、グループ会社間での国境を越えた連携を密にすることで、グループ全体でのサステナビリティ対応力を向上させている。これらの取り組みは大企業だから実現しやすい内容とも言えるだろう。他方、パッケージの印刷範囲の縮小やプラスチック蓋の廃止のように、環境への配慮に取り組んだことで結果的に消費者が買い物をしやすくなった事例は企業の規模にかかわらず参考になりそうだ。
また、サステナビリティ対応は関連分野が多岐にわたり、社内外の様々なステークホルダーとの調整が必要になる。それらステークホルダーとコミュニケーションを取り、同対応を進めるためには、様々な視点やスキルが求められると言えよう。
- 注1:
- LIDLは、ドイツのシュワルツグループ傘下の低価格帯セグメントのブランド。シュワルツグループは欧米32カ国に1万3,900店舗を展開する欧州最大手、世界では売上高第3位(NRF発表の「Top 50 Global Retailers 2024」に基づく)の小売業者である。従業員は全世界で57万5,000人。
- 注2:
- レインフォレスト・アライアンスは、持続可能な農業を推進する非営利団体。
- 注3:
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ASC
は、責任ある水産養殖を管理する国際的な非営利団体。ASC認証は、責任ある養殖を認証する養殖認証と、加工・流通過程の管理を認証するCoC(Chain of Custody)認証の2種類から成る。
- 注4:
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MSC
は、持続可能な漁業を推進する国際的な非営利団体。MSC認証は、「海のエコラベル」と呼ばれ、持続可能で適切に管理されている漁業であることを認証する漁業認証と、加工・流通過程の管理を認証するCoC認証の2種類から成る。
- 注5:
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WWFが開発した漁業と養殖業による水産物の環境持続可能性の評価。種の個体数、漁業や養殖業が環境に与える影響などをもとに、その種の漁業法や養殖法を評価し、信号機の色になぞらえ、緑(グリーンライト)=推奨、黄色(イエローライト)=要注意、赤(レッドライト)=回避に分けられる。ウェブサイトにおいてスウェーデンのシーフードガイドライン(スウェーデン語)
を公開している。
- 注6:
- 2024年10月までの期間限定の販売プロジェクト。
- 注7:
- EU域内の包装廃棄物削減などを目的とし、リサイクル可能であることなど持続可能性要件を定める規則案。2024年12月に採択された(2024年12月20日付ビジネス短信参照)。規則案の詳細は2024年3月26日付ビジネス短信や、調査レポート「EU循環型経済関連法の最新概要‐エコデザイン規則、修理する権利指令、包装・包装廃棄物規則案を」参照。
- 注8:
- サワークリームの一種。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・アジア経済研究所 研究企画部研究人材課
山本 玲(やまもと れい) - 2016年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課、総務部人事課を経て、2023年から現職。

- 執筆者紹介
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ジェトロ企画部企画課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく) - 2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長、中小企業庁海外展開支援室(出向)、海外調査部国際経済課などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)、共著「FTAの基礎と実践」(白水社)。