中国の対アフリカ融資は2000年以降で1,800億ドル超
アフリカの若者は中国を肯定的に評価
2025年1月20日
第9回アフリカ開発会議(TICAD9、注1)の横浜開催を2025年8月に控え、日本とアフリカの経済協働や連携に関する議論が進んでいる。一方、アフリカで存在感を増す中国は、2024年9月4~6日に北京で「中国・アフリカ協力フォーラムサミット(FOCAC)」を開催し、今後3年間でアフリカに約500億ドルを融資および企業による投資として拠出すると発表した(2024年9月17日付ビジネス短信参照)。本稿では中国の対アフリカ融資の全体像をまとめるとともに、現地で行われたアンケート調査を例に、中国に対するアフリカの若者の評価について、米国への評価と比較しつつ整理する。
23年間で中国の対アフリカ融資は計約1,823億ドル
米国のボストン大学グローバル開発政策センターによると、2000年から2023年までの23年間で中国はアフリカの49カ国へ計1,306件、総額1,822億7,600万ドルを貸し付けている(注2)。中国の対アフリカ融資の最高額は2016年の288億2,200万ドルだが、2019年に87億6,300万ドルまで減少し、2020年以降のコロナ禍の間はさらに減少傾向が続いた。融資額は2023年に7年ぶりに前年比で増加し、2022年の約4.5倍となる46億900万ドルだった(図1参照)。

出所:ボストン大学グローバル開発政策センターからジェトロ作成
23年間の累計を分野別に見ると(図2参照)、発電所の拡張や送配電線の整備を含むエネルギー分野が627億2,200万ドルで最も多く、34.4%を占めた。次いで空港や橋の建設、道路および線路の延伸などを含む交通輸送分野が526億5,200万ドルで28.9%だった。中国からのアフリカ融資は、エネルギー分野と交通輸送分野に大きな配分が置かれているのが特徴だ。そのほか、情報通信(156億7,000万ドル、8.6%)、金融(119億8,400万ドル、6.6%)、工業・貿易およびサービス(96億2,100万ドル、5.3%)などの分野が続いた。

注:総額における割合が1%未満の分野「環境」「健康」「非エネルギー鉱業」「公共サービスと福祉」を除く。
出所:ボストン大学グローバル開発政策センターからジェトロ作成
エネルギー分野の割合は、ボストン大学が調査を開始した当初から目立っており、総融資額が最多となった2016年はエネルギー分野だけで175億1,200万ドルを記録し、2017年の総融資額と匹敵する額だった(図3参照)。交通輸送分野は、2000年代後半から徐々に融資額が増え、2010年代は40億~60億ドル前後を推移した。最高額は2013年の63億2,800万ドルで、エネルギー分野の融資が大幅に減少したコロナ禍でも交通輸送分野は比較的融資が行われた。

出所:ボストン大学グローバル開発政策センターからジェトロ作成
融資はアンゴラなど一部の国に偏る
こうした中国からの融資を受けるアフリカの債務国には偏りが見られる(図4参照)。累計総融資額で見ると、アンゴラが460億4,700万ドルと全体の約25%を占めた。2位のエチオピアは145億2,900万ドルで、エジプト、ナイジェリア、ケニア、ザンビアが90億ドル規模で続く。
融資額の多い上位5分野(エネルギー、交通輸送、情報通信、金融、工業・貿易およびサービス)ごとに上位10カ国をまとめたところ、エネルギー、交通輸送、工業・貿易およびサービスの分野でアンゴラ、情報通信分野でエチオピア、金融分野でエジプトが1位となった。中国はアンゴラの鉱物分野に多額の融資を行っており、採掘・採石場の拡張や、掘り出した鉱物を沿岸まで輸送するための鉄道網など、重要鉱物に関連した融資が融資額を伸ばす要因となっている。中国にとってアンゴラは重要な原油輸入先で、資源を担保にアンゴラへ融資してきた背景がある。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、2010年の中国の原油輸入先はサウジアラビアに次いでアンゴラが2位だった。2023年は、ウクライナ情勢を受けた世界的な原油貿易のサプライチェーンの変化などを受け、アンゴラからの輸入はロシアや中東の湾岸諸国に続く8位だったが、引き続き中国にとってアンゴラは原油の調達先だ。
図4:融資額上位5分野の債務国上位10カ国(単位:100万ドル)

注:「地域横断」とは主にアフリカ輸出入銀行(Afreximbank)などを指す。
出所:ボストン大学グローバル開発政策センターからジェトロ作成
以上が、2023年までの中国の対アフリカ融資の全体像だ。2010年代は融資額が増加する傾向にあったが、コロナ禍では大幅に減少した。2023年の融資額は前年比約4.5倍の46億900万ドルだったが、コロナ禍以前の水準には及ばない。中国国内の不況に加え、アフリカの債務問題で国際社会からの批判を受け、コロナ禍以前に行ってきた巨額のインフラ融資から環境や社会に焦点を当てた比較的少額の「小さいが美しい(小而美)」(注3)アプローチを優先していることが背景にある可能性がある。
一方で、2024年9月4~6日に開催されたFOCACでは、民間からの投資も併せて今後3年間で約500億ドルの支援が発表され、再び中国の対アフリカ融資が増加する可能性がある。
アフリカの若者約8割が中国に対して肯定的な評価
こうした中国の融資によって、多くのアフリカ諸国が多額の債務を抱え返済不能のリスクに直面してきた。そうした中、中国のアフリカに対する影響力について、アフリカではどのような評価なのかを紹介する。
南アフリカ共和国(以下、南ア)を拠点とするイチコウィッツファミリー財団(Ichikowitz Family Foundation)が2024年9月3日に「アフリカ若者調査2024(AFRICAN YOUTH SURVEY 2024)」を発表した。同調査は18~24歳を対象に2020年から2年ごとに行われ、3回目の今回はアフリカ16カ国の5,604人が回答した(2024年9月10日付ビジネス短信参照)。
中国の影響力に関して、「中国がポジティブな影響とネガティブな影響どちらを与えるか」という設問では、82%が「ポジティブな影響を与える」と回答した。中国がもたらす具体的なポジティブな影響についての回答結果は以下の通りだ(表1参照)。
内容 | 割合 | 前回 |
---|---|---|
中国製品の価格の手頃さ | 41 | 41 |
インフラ開発に対する投資と支援 | 40 | 44 |
自国への重要な融資と経済的支援 | 35 | 30 |
自国の人々への雇用機会の創出 | 30 | 37 |
自国から製品を輸出する際の市場となること | 22 | 15 |
地元労働者へのスキル開発やトレーニングの提供 | 18 | 14 |
出所:アフリカ若者調査2024(AFRICAN YOUTH SURVEY 2024)からジェトロ作成
アフリカの若者は中国製品の価格の手頃さやインフラ投資をポジティブな影響として捉えている傾向がある。実際に、南アの非営利団体ブランドアフリカが実施したブランド認知調査「ブランドアフリカ100」(2024年6月)では、ブランドランキング上位100社のうち、米国の28社に次いで中国企業は11社ランクインしている(2024年7月30日付地域・分析レポート参照)。「一帯一路」といった政治的な関係や巨額のインフラ融資以外に、中国企業が展開する手頃で身近な商材を通して、アフリカの若者は中国のポジティブな影響を感じていると考えられる。
天然資源の輸出や中国人中心の雇用にネガティブな感情も
一方で、「アフリカ若者調査2024」によると、中国について「ネガティブな影響を与える」と回答した若者は17%で、その内容についての回答結果は以下の通りだ(表2参照)。
内容 | 割合 | 前回 |
---|---|---|
正当な補償なしの自国の天然資源輸出 | 35 | 38 |
中国依存を高めたり、搾取に繋がったりする可能性のある投資 | 27 | 26 |
中国人労働者が地元住民から雇用機会を奪っていること | 26 | 23 |
地元住民へのトレーニングや技術提供がない | 25 | 13 |
自国が中国への融資の返済に苦労している、苦労するだろう | 21 | 22 |
自国の価値観や伝統に対する敬意の欠如 | 19 | 26 |
中国人労働者のみの雇用 | 18 | 16 |
自国の内政への干渉 | 14 | 9 |
出所:アフリカ若者調査2024(AFRICAN YOUTH SURVEY 2024)からジェトロ作成
前述のように、全体的には多くの若者が「中国はポジティブな影響を与える」と考えてはいるものの、中国による資源流出や、投資を通じた過度な中国依存に関する懸念がネガティブな感情の大きな要素になっている。また、中国のインフラ投資の特徴として、現地労働者を雇用せずに中国人を現地作業員として派遣するケースが多い点が指摘されている。アフリカの若者は、こうした中国の投資がアフリカの雇用を奪うことを懸念し、現地の若者に対してスキル向上のためのトレーニングや技術を提供しないことをネガティブな影響として捉えている。
米国に対する反応から見える日本の可能性
米国について、「ポジティブな影響を与える」と回答した若者は79%で、「ネガティブな影響を与える」は21%だった。具体的なポジティブな影響についての回答結果は、以下の通りだ(表3参照)。
内容 | 割合 |
---|---|
自国への重要な融資と経済支援 | 41 |
自国の人々への雇用機会の創出 | 33 |
インフラ開発に対する投資と支援 | 33 |
地元労働者へのスキル開発やトレーニングの提供 | 30 |
自国から製品を輸出する際の市場となること | 27 |
米国製品の価格の手頃さ | 18 |
注:米国に関しては前回調査なし。
出所:アフリカ若者調査2024(AFRICAN YOUTH SURVEY 2024)からジェトロ作成
雇用やトレーニングの機会の提供不足が中国へのネガティブな感情につながっている一方、雇用やトレーニング機会の提供が米国へのポジティブな感情につながっている。同調査では、日本がもたらす影響についてアンケート調査は実施されなかったが、技術訓練を提供する日本企業の風土はアフリカの若者にポジティブに捉えられている可能性がある。
「ブランドアフリカ100」では、「国ブランド」の項目を取り入れ、上位10カ国を発表した。アフリカで最も尊敬されている国として、南ア(1位)、ナイジェリア(2位)、米国(3位)、中国(4位)と続き、日本はランク外だった。
トランプ氏が米国大統領選挙で勝利した後の2024年12月上旬、バイデン大統領は現職の米国大統領として初めてアンゴラを訪問したほか、フランスのマクロン大統領も2024年11月にモロッコを訪問し、12月には訪仏したナイジェリアのボラ・ティヌブ大統領と会談した。主要各国がアフリカ諸国との関係強化に乗り出す中、日本は1993年以降主導してきたアフリカ開発会議(TICAD)の第9回を2025年8月に横浜で開催予定だ。TICAD9に向け、2024年12月に経済産業省とジェトロ、アフリカ側ホスト国のコートジボワール政府で「第3回日アフリカ官民経済フォーラム」をコートジボワールのアビジャンで開催した(2024年12月19日付ビジネス短信参照)。同フォーラムでは、日本企業とアフリカスタートアップなどの連携支援策「日本アフリカ産業共創イニシアチブ(Japan Africa Co-Creation for Industry:JACCI)」の創設が発表されるなど、民間セクターを通した連携が期待されている。TICAD9では、さらなるアフリカ各国との関係強化に注目が集まる。
- 注1:
- TICADとは、Tokyo International Conference on African Development(アフリカ開発会議)の略称で、1993年から日本主導で国連や世界銀行などと共同で開催している。アフリカの開発や経済をテーマにしたフォーラムの先駆けと言われている。
- 注2:
- 同調査は返済分を含んでいないため、各国の各年の債務状況を表したものではない。また、中国の融資には透明性に課題があり、実態を正確に表していない可能性がある。
- 注3:
- 中国政府が打ち出したアプローチ。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課
坂根 咲花(さかね さきか) - 2024年、ジェトロ入構。中東アフリカ課で主にアフリカ関係の調査を担当。