IMFが「4条協議レポート」発表(ラオス)
債務状況改善に向け、取り組み必須
2025年1月16日
IMFは2024年11月、ラオスに関する「4条協議レポート」(注1)を発表した。 4条協議は、IMF協定第4条の規定に基づき、IMFが各加盟国を訪問し、現地の経済・金融情報を収集するとともに、当局と経済状況や政策について協議する。ラオスとは、毎年実施している。
今回のレポートは、 (1) 2024年5月から10月に協議を基にした「スタッフレポート」(10月15日付)、(2) IMFと世界銀行が作成した「債務持続可能性分析レポート」(10月15日付)、(3)「IMF担当理事によるステートメント」(11月4日付)の主に3つの柱で構成されている。この記事では、それらの要点をまとめ、分析する。
スタッフレポートに多くの提言
(1)の「スタッフレポート」は、ラオスの経済状況の分析と提言、それに対するラオス当局からの回答などをIMFが取りまとめた結果だ。
2023年のGDPは、外需回復によって3.7%成長に伸長した。一方、ラオス政府が、a)為替レートの下落とインフレの高止まり(注2)、b)労働者不足と外貨不足(注3)などの問題への対策や、c)基礎的財政収支黒字(注4)を高める取り組みを精力的に進めたものの、公的債務が持続不可能である点は、重要な課題と指摘した。
ベースラインシナリオ(注5)では、対外債務返済により、当局の資金調達ニーズ(特に外貨)が今後高まると予測される中、為替レートを維持するための積極的な措置を伴わないと、当地通貨キープが下落し、インフレと債務評価額の上昇を引き起こしかねず、その場合、長期的に経済成長の足を引っ張る可能性が高いと推計した。そのため、GDP成長率は2024年に4.1%に加速する一方で、中期的には2.5%程度にとどまると分析した(表1参照)。
項目 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 | 2026年 | 2027年 | 2028年 | 2029年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
実質GDP成長率(%) | △ 0.4 | 2.1 | 2.3 | 3.7 | 4.1 | 3.5 | 3.1 | 2.8 | 2.6 | 2.5 |
CPI(年平均)(%) | 5.1 | 3.8 | 23.0 | 31.2 | 22.0 | 23.7 | 37.3 | 37.4 | 33.1 | 31.4 |
基礎的財政収支〔GDP比(%)〕 | △ 3.8 | 0.5 | 1.8 | 2.7 | 2.7 | 3.1 | 3.1 | 3.1 | 3.1 | 3.1 |
PPG〔GDP比(%)〕 | 76.0 | 92.9 | 130.7 | 115.9 | 108.3 | 118.3 | 122.7 | 122.3 | 124.2 | 126.7 |
経常収支(100万ドル) | △ 304 | 432 | △ 459 | 405 | 351 | △ 90 | △ 81 | △ 113 | △ 250 | △ 269 |
貿易収支(100万ドル) | 745 | 1,419 | 954 | 721 | 612 | 189 | 245 | 207 | 69 | 48 |
外貨準備高(100万ドル) | 1,325 | 1,245 | 991 | 1,183 | 1,463 | 1,019 | 1,077 | 1,245 | 1,416 | 1,649 |
外貨準備高(財・サービス輸入のカ月) | 2.4 | 1.9 | 1.4 | 1.7 | 2.1 | 1.5 | 1.6 | 1.9 | 2.2 | 2.3 |
注:外貨準備高には、(1)中国人民銀行(PBoC、中央銀行)とのスワップ引き出し、(2) 2009年に割当を受けたIMFの特別引出権4,130万SDR、(3) 2021年割当の1億1,040万SDRを含む。
出所:2024年4条協議レポートからジェトロ作成
その上で、次の取り組みをラオス当局に提言した。
- 財政と債務政策:
免税措置の撤廃やコンプライアンスの改善などを通じて、歳入を増やすことで、財政的余裕を創出する。その上で、教育や保健、重要なインフラなど、成長を促進するための支出を回復していく。現実的で中期的な資金調達計画や債務管理戦略を確立する。その狙いは、債務を持続的なレベルに戻し、国際市場などへのアクセスを回復するところにある。 - 金融政策:
中央銀行はインフレ率の抑制に注力し、政策金利の大幅な引き上げ(注6)とブロードマネー(通貨供給量)の膨張を減速させる。また、財政ファイナンス(注7)を止める。 - 金融部門:
金融部門の健全性を改善するために、銀行の自己資本規制と流動性規制を実施する。 また、ローン支払い猶予を停止する。 - ガバナンス:
ビジネス環境を改善するために、広範に構造改革を進める。具体的にはガバナンス強化や汚職防止、透明性強化、統計の改善など。
なお、(3)の「IMF担当理事ステートメント」では、今回の4条協議を通してIMFスタッフとラオス当局の見解に相違があった点を認めた。その上で、意図しない市場への悪影響を招くような、過度な失望や否定的な論調を避けるよう注意するべきと補足している。同時に、「ラオス当局は経済や金融の安定にコミットしている」「外貨為替管理強化などで、引き続きIMFへの支援を要請している」ことも言及した。
債務持続性分析で、引き続き「危機」評価
(2)でいう「債務持続性分析(DSA:Debt Sustainability Analysis、注8)」は、IMFと世界銀行が10月15日に作成したものだ。ラオスに対する2024年の評価は、対外債務貧窮リスク、債務窮乏の全体的リスクともに、「債務危機に陥っている」状態(4段階中最低)とし、2023年(2023年6月28日付ビジネス短信参照)に引き続いて、厳しい評価となった。また、債務全体の持続可能性の検証も2023年と同様、「持続不可能」とした。
IMFによる分析で、公共・公的保証債務〔Public and Publicly Guaranteed(PPG)debt〕の対GDP比は、2023年末で115.9%との推計だった。PPG債務とは、政府や公的機関が返済を保証した債務を意味する。このうち対外債務が占める割合は82.5%。2カ国間では中国が最大の債権者(全体の32.2%)だった。これに、国際機関〔国際開発協会(IDA)やアジア開発銀行(ADB)などに〕よる債権(同10.5%)が続く。
なお、PPG債務のGDP比は、経済成長と対外債務の元本繰り延べにより、緩和方向にある(2022年に130.7%だったのに対し、2023年115.9%、2024年108.3%/表2参照)。ただし中期的には、為替レートの下落が加速することで、2030年には127%に上昇すると推計した。
項目 |
PPG債務残高に 占める割合 (%) |
対外債務に 占める割合 (%) |
GDP比 (%) |
金額 (100万ドル) |
---|---|---|---|---|
PPG債務残高 | 100.0% | ー | 115.9% | 15,819 |
対外債務 | 82.5% | 100.0% | 95.6% | 13,057 |
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10.5% | 12.8% | 12.2% | 1,665 |
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1.5% | 1.8% | 1.7% | 235 |
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32.2% | 39.0% | 37.3% | 5,096 |
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9.1% | 11.0% | 10.5% | 1,435 |
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5.0% | 6.1% | 5.8% | 792 |
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8.2% | 10.0% | 9.5% | 1,303 |
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11.4% | 13.8% | 13.2% | 1,797 |
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1.6% | 1.9% | 1.8% | 250 |
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3.1% | 3.7% | 3.5% | 484 |
国内債務 | 17.5% | ー | 20.2% | 2,762 |
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9.6% | ー | 11.1% | 1,519 |
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7.9% | ー | 9.1% | 1,243 |
注:2020年以降、対外債務返済を延期。2020年~2022年の利息合計は、4億8,500万ドルに相当するとみられている。
出所:IMFレポートからジェトロ作成
「対外債務貧窮リスク」については、それを計る債務負担指標には、(1)対外債務/GDP比率、(2)対外債務/輸出比率、(3)対外債務支払い/輸出比率、(4)対外債務支払い/歳入比率の4つがある。ベースラインシナリオで、(1)が61.3%〔閾値(いきち、注9)30%〕、(2)97.5%(閾値140%)、(3)12.6%(閾値10%)、(4) 52.2%(閾値14%)だった(2024年時点)。(3)以外の3指標で、閾値を大きく超えている。しかも、今後10年間、上回り続けるという。また、ベースラインシナリオに対して、外性ショック(自然災害や市場資金調達へのショック、偶発債務に関連するショックなど)を考慮して検証したストレステスト(注10)で、輸出と通貨の下落、自然災害、偶発債務に対して脆弱(ぜいじゃく)なことを示した。
「債務窮乏の全体的リスク」についても、債務総額/GDP比率の指標で、ベンチマークを大きく上回った〔ラオスの指標が82.7%、ベンチマーク35%〕。今後徐々に低下するものの、今後20年間にわたってベンチマークを大幅に超過する見通しだ。
このように、ほとんどの支払い能力指標が長期的に基準値を超えている。そのため、対外的にも全体として「債務危機に陥っている」と評価した。また、中期的には債務が増加傾向にあり、基礎的財政黒字を追求していくだけでは、指標を閾値以下に削減するのは不可能であることから、債務全体の持続可能性を前年同様、「持続不可能」と評価した。
なお、ラオス当局側は協議中、「資金調達計画は実行可能」「債務履行についてコミットし続けており、返済能力は十分」とあらためて表明している。
債務状況の改善に向けて
ADBの「アジア開発見通し」(2024年9月発表)レポートでは債務返済が高水準なため、2025年も引き続き、対外債務をリファイナンスするための選択肢は限られざるを得ない。当局が必要な外貨を調達するためには、国内市場に依存すると分析している。
他方で、ラオス財務省は2024年6月、「2023年PPG債務報告書」(2024年7月5日付ビジネス短信参照)を発表した。この報告書によると、2028年までに年平均13億ドルの対外債務返済と、年平均5兆3,000億キープ(約2億4,000万ドル、1ドル=約2万2,500キープ)の国内債務返済が必要になる。その資金調達戦略として想定するのは、(1)電力部門の潜在的資産を活用した資金調達、(2)債権者との債務繰り延べ交渉、(3)国営企業からの貸付金返済、(4)新規借り入れなどだ。この点、先述したIMFの「スタッフレポート」では、計画をより具体的に列挙している。例えば、
- 当面の措置として、中国と継続的に債務をロールオーバーする、
- エネルギー事業を中心に、政府資産を売却する、
- 国内で国債発行する、
ことなどを示した。
第8回国会(2024年11~12月)では、ソムマート・ポンセナー国会副議長が、対内・対外債務問題や高いインフレに懸念を表明し、「現状の歳入は、十分でも持続的でもない」と指摘している。さらに、徴税や歳出管理強化の取り組みについて「以前の状態に戻っている」と言明し、あらためて改善を要求した。ラオス当局は、IMF4条協議の提言の実施をより一層推し進め、低いコストで国際債権市場へアクセスできるためにソブリン格付け(2023年10月25日付、2022年6月22日付ビジネス短信参照、注11)の引き上げにつながるマクロ経済環境の改善に対処する必要がある。
- 注1:
-
協議の結果をIMFの職員が「4条協議報告書(スタッフレポート)」としてまとめ、IMF理事会に提出。その後、IMFのウェブサイトで公開する。
なお、市場に影響を及ぼす機微な情報が含まれる場合、IMFはその削除を認める。 - 注2:
-
為替レートは2021年1月~2024年9月に140%下落した。
またインフレ率(前年同月比)は、2023年2月に41%を超えた。2024年10月でも20.7%程度と、高い水準で推移している。 - 注3:
-
IMFは2023年の外貨準備高について財・サービス輸入の1.7カ月分と推計した。また、2024年は2.1カ月分の推計だった(表1参照)。
ただしラオス当局は、方法論の違いからより高く評価。その結果を踏まえ2024年11月国会で、「4カ月分に回復した」と答弁している。 - 注4:
- 財政的経費を税収などで賄えているかどうかを示す指標。IMFによると、ラオスは、歳出を厳しく抑制した結果、2021年以降、基礎的財政収支の黒字を維持している(2023年は、GDPの2.7%相当)。 しかし、公的債務への利払いがGDPの2%相当あり、これは黒字をほぼ相殺しているとも指摘する。
- 注5:
- ベースラインシナリオには、多くの不確実要素を含むが、当該報告書では、国内金融に依存し、政策設定に変更を加えないシナリオと設定されている。具体的には、資金調達や債務管理で、融資の対外支払いや国内債券の発行の実施に当たり、(1)基礎的財政黒字の継続(政策支出の抑制など、財政再建を進める)、(2)税収増加、(3)金融引き締め、などを想定した。同時に外部環境は、(4)世界経済見通しと一致して、安定し大きな価格変動がないものと想定している。
- 注6:
-
ラオス中央銀行は実際、政策金利を段階的に引き上げてきた。具体的には、2024年3月に8.5%、2024年6月に10%、2024年8月には10.5%にしている。
また、商業銀行の外国為替預金の準備率も、11%に引き上げた。 - 注7:
- 財政ファイナンスとは、財政赤字を埋める手法として通貨供給量を増やすこと(財政赤字対策としてはこのほか、有利子負債の発行などがある)。
- 注8:
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DSAとは、低所得国(Low Income Countries)を対象とした債務持続性の分析枠組み(LIC DSF)に基づいて、加盟国の経済をIMFが審査する際に実施する調査。その国の債務負担指標値を債務負担閾値(いきち)と比較して、「低リスク」「中リスク」「高リスク」「債務危機に陥っている」の4段階で判別する。
国際開発金融機関が融資の是非を判断したり、民間企業がカントリーリスク分析したりする上で、利用することも多い。このDSAは、(1)中央政府による債務と、(2)政府保証債務(国有企業の債務を含む)で構成する。 - 注9:
- 債務負担指標((1)対外債務/GDP比率、(2)対外債務/輸出比率、(3)対外債務支払い/輸出比率、(4)対外債務支払い/歳入比率)それぞれには、閾値を定めている。当該指標が閾値を上回る場合、リスクを認めることになる〔すなわち、債務負担能力が低い(Weak)国に分類されてしまう〕。
- 注10:
- このストレステストでは、国営企業(ラオス電力公社など)の保証付き債務や非保証付き債務、官民連携パートナーシップ(PPP)に関連するショックなどが設定されている。
- 注11:
-
ラオスのソブリン債の評価は目下、低下傾向にある。これに伴い、国際市場での資金調達が困難になっている。
例えば、タイのトリスレーティングは2023年9月、ラオスのソブリン債について信用格付けを「BB+」、見通しを「ネガティブ」に引き下げた。その結果、タイの証券市場でラオス国債を発行して資金調達することが不可能になっている。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう) - 2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員