TV局オンライン配信の新潮流
フランスの映画・映像産業動向(2)

2025年1月10日

近年、世界的にオンライン動画プラットフォーム市場が成長している中、フランスにもさまざまなプラットフォームが存在する。フランス製の主なオンライン動画プラットフォームについて、それぞれのサービスの特長や今後の展開について取り上げる。

フランス製オンライン動画プラットフォームの隆盛

アルコム(Arcom、Autorité de Régulation de la Communication Audiovisuelle et Numérique/視聴覚・デジタル通信規制局)によると、2023年には15歳以上のフランスのインターネットユーザーの87%にあたる約4,500万人が過去1年間に少なくとも1つ以上のオンラインコンテンツに触れており、2022年の同調査を約30万人上回った。また、各種プラットフォームの料金が値上がりし、インフレによって生活費を切り詰める必要がある中でも、2,750万人が有料で映像、音楽、書籍、ニュースなどに触れている。平均支出額も2022年の1カ月当たり32ユーロから6ユーロ増加し、月額38ユーロと増額傾向にある。フランスでますますオンラインコンテンツが普及していくことが予想される。オンライン動画プラットフォームとして、SVOD(注1)やAVOD(注2)、FAST(注3)など、新しいサービス体系が次々に生まれ、競争が一層激しくなる中、今後どのサービスが生き残るのかが注目される。

テー・エフ・アン・プリュス(TF1+)

1974年に民営化されたフランスの元国営放送局TF1は2024年1月8日にフランス初の完全無料ストリーミングプラットフォーム「TF1+」を立ち上げた。「TF1+」は、パソコンやスマートフォンのほか、フランスで主流となっているコネクテッドTVからの視聴にも対応しており、放送された番組を最短30日間、最長48カ月まで見逃し配信する。また、各200本の連続ドラマと映画や、ニュースを3~6分の短尺に編集した同局初のオンデマンドニュース番組「Top Info」を配信することで、常時1万5,000時間以上のコンテンツを提供している。

同プラットフォームでは、コンテンツの視聴環境向上と適切な広告配信のため、2つの新技術が導入されている。1つ目は「Top Chrono」という機能で、視聴者が選択した長さ(5分、10分、もしくは15分)に応じて各種競技のフランス代表チームの試合を要約できる技術で、視聴する際に意図せず試合結果を知ることを避けられるよう配慮されている。同技術は2023年夏にフランスで開催されたラグビーワールドカップでテスト実装され、成功を収めている(「ル・フィガロ」紙2023年11月12日)。2つ目は複数人視聴に対応したコンテンツのレコメンド機能だ。従来のアルゴリズムでは、1人の視聴者を対象とした機能だったが、「TF1+」では複数人の視聴者のプロフィールを選択した場合でも、適切なコンテンツを推奨できるほか、番組配信中に挿入される広告も調整することが可能だ。このデータ・広告技術は、視聴者と広告主双方に対して有益に働くことが期待される。

同局は「TF1+」の立ち上げ前に7日間のみ番組を見逃し配信するマイテーエフアン(MyTF1)を運営していた。「ル・フィガロ」紙(2023年11月12日付)に掲載された同局の最高経営責任者(CEO)ロドルフ・ベルメール氏のインタビューによると、「MyTF1」の利用者の見逃し配信視聴時間は、1カ月当たり平均3時間にとどまった。広告収入にはつながらず、毎年10~15%成長して20億ユーロの市場があるとされるデジタル動画広告市場で、同局のシェアはわずか約4.5%だった。「TF1+」では多数のコンテンツを無料配信できるようになったことで、広告配信つき有料プランを提供するネットフリックス(Netflix)や、ディズニープラス(Disney+)と比較し、強みを生かしたオファーが可能になっている。1,000インプレッション(広告表示回数)当たり15ユーロという、競合対比安価な広告費を提示することで、同局は3年以内に広告市場でのシェアを2桁(%)まで拡大させることを目指しているという。2022年時点で、TF1グループの地上波テレビ放送(リニア型)(注4)の広告収入は1億6,000万ユーロだったのに対し、デジタル広告収入は9,000万ユーロを計上した。将来的には、前述のデータ・広告技術により「TF1+」のデジタル広告収入は地上波放送広告の3倍になると見込まれるとした。

マイカナル(myCanal)

フランスの大手有料放送局のカナルプリュス(Canal+)は、2013年から有料オンラインプラットフォーム「myCanal」を運営している。同サービスは、Canal+が毎年10億ユーロ以上の技術投資を行う主力サービスで、Canal+で放送された番組のみならず、NetflixやDisney+などとパートナーシップを結び、他社のコンテンツも集約していることを特徴としている。「レゼコー」紙(2024年1月10日付)によると、日々1,300本の新作が追加され、合計16万以上のコンテンツが配信されている。地上波デジタル放送も含めた国内の150以上のチャンネルが生配信・見逃し配信で視聴可能となっている。特にスポーツを含めた生配信に注力しており、2023年には同サービスの生放送番組で、100万人同時接続を200回達成しているという。

同紙によると「myCanal」はアフリカ諸国、中欧、オランダ、ベトナムなど約40カ国・地域に展開しており、全世界で1,600万のユーザー(うち950万がフランス国内)が加入しているという。全世界で視聴されているため、常にWindowsやiOS、Androidのアップデート対応が求められる。タブレットやスマートフォン、ゲーム機(PlayStation、Xbox)、インターネットへの接続機能を持つスマートTVなど、合計3万種類のデバイス・OSでの動作保証が必要とされ、毎週1,000回以上のアップデート作業によってシステムの維持と改善を続けている。また、Canal+は北欧を中心に展開しているストリーミングサービス・ビアプレー(Viaplay)や、アフリカを中心に展開するメディア・マルチチョイス(MultiChoice)のような国外サービスメディアに投資しており、技術的な相乗効果が期待されている。

今後、よりよいサービス提供のため、現在平均3分を要している視聴コンテンツの選択時間を短縮する技術や、4K画質対応、ディスレクシア(読字障害)を持つ人向けの字幕提供、人工知能(AI)を活用して字幕を手話で再生するアバターの開発などが進められている。さらに、見逃した連続ドラマの初期シーズンを動画やテキストで要約することや、自分の好みに合わせてスポーツのまとめ動画を作成することも、AI活用で可能になる見込みだ。画面を見る機会が増えている移動中の電車や車の中などでも、「myCanal」を楽しむための技術開発も行っているという。

オーキ・バイ・フリー(OQEE by Free)

フランスの新興インターネットプロバイダーのフリー(Free)は2020年7月からビデオ・オン・デマンド(VOD)プラットフォームサービス「OQEE by Free」を運営している。同サービスは、Free加入者向けのサービスとして提供しており、スマートフォンやタブレットのアプリケーションなどを通じて、580以上のライブチャンネルのコンテンツをリアルタイム、および見逃し配信で視聴できるほか、コンテンツのパーソナライズ機能や番組の録画機能なども兼ね備えている。また、セットトップボックス(注5、「Freebox」)のサブスクリプションサービス加入者向けのオーキ・シネ「OQEE Ciné」というVODサービスも提供しており、映画やアニメ、ドラマなど500本以上の作品が視聴可能だ。

テレビ放送市場動向

フランスのメディア・通信に関する調査測定を専門とするメディアメトリ(Médiamétrie)によると、2023年にフランスの4歳以上の視聴者の1日当たりテレビ視聴時間は3時間19分で、2022年の3時間26分と比較して7分減少した。年代別にみると、25~49歳では16分減、50代以上では7分減で、若年層の「テレビ離れ」と視聴者の高齢化が進んでいることがうかがえる。

チャンネル別の視聴率では、1位のTF1が18.6%で安定したシェアを獲得しており、業界をリードしている。また、同局のプレスリリース(2024年1月2日)によると、購買意欲が高いとされる50歳未満の女性の視聴率シェアは23.3%だった。これは広告出稿を行う代理店にとっては重要な数字とされるが、過去8年間で最も高い数値となった。2位のFrance 2の視聴率は15.3%と、1年間で0.5ポイント上昇しており、業界内で最も高い伸びをみせた。一方で、3位のFrance 3は9.0%で、2022年比で0.4ポイント減少した。4位のM6も、「レゼコー」紙(2024年1月2日)によると、25~49歳の若年層への訴求と、視聴者の多い時間帯のプライムタイムの競争に焦点を当てているが、視聴者の高齢化を受けて、年間視聴率は2022年比で0.3ポイント減少し、8.1%だった。

Médiamétrieはメディア環境の変化を受け、2024年からテレビ視聴時間のほか、スマートフォン、タブレット、パソコンなど、テレビ以外の機器での映像メディア視聴時間を統合して調査を行う。2025年までにテレビの視聴者数と有料プラットフォーム(例:Netflixなど)や無料プラットフォーム(例:YouTubeなど)の視聴者数を直接比較できるような手法を取るとしている(「レゼコー」紙、2023年12月31日)。

テレビでのコンテンツ視聴が減り、オンライン動画プラットフォームでのコンテンツ視聴が増える中、放送事業者は自社のオンライン動画プラットフォームでの広告収入など新たな収益源を模索している。Netflixなどのプラットフォーム事業者との競争はますます激しくなっていくことが予想される。


注1:
サブスクリプション型のストリーミングサービス(Subscription Video On Demand)の略。
注2:
オンデマンドで番組の視聴が可能な広告付きのストリーミングサービス(Advertising Video On Demand)の略。
注3:
広告付き無料ストリーミングサービス(Free Ad-supported Streaming TV)の略。従来のテレビ放送と同様、現在放映している番組をリアルタイムで視聴できることが特徴で、AVODとは区別される。
注4:
「リニア型放送」とは、「アンテナ経由で視聴する地上波/衛星契約」や「ケーブルテレビ」など、番組表に従いライブ番組および収録番組を放送することを指す。オンデマンド型の配信と対比される。
注5:
ディスプレーに接続して動画などのコンテンツを視聴するための機材のこと。主にケーブルテレビや衛星放送、インターネット配信の動画などの視聴のために使用される。

フランスの映画・映像産業動向

  1. SMAD政令と動画配信事業者
  2. TV局オンライン配信の新潮流
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
𠮷澤 和樹(よしざわ かずき)
2015年、ジェトロ入構。サービス産業課、クリエイティブ産業課、新産業開発課、デジタルマーケティング課、内閣官房への出向などを経て2023年6月から現職。これまでに日本の映画・映像、音楽、アニメーション、ゲーム、マンガなどをはじめとしたコンテンツ産業、ライフスタイル産業、日本発のスタートアップ企業の海外展開に従事。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
キャロリーヌ アルテュス
1995年からジェトロ・パリ事務所に勤務。映画・映像、アニメーション、音楽、ゲーム、マンガなどの日本コンテンツの海外展開支援やプロモーションを担当。