スイスで「ガシャポン」機100台設置、現地卸売りゲンキ・コープに聞く

2025年1月15日

スイスでポップカルチャー関連商品の卸売業を営むゲンキ・コープ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、2024年5月25日~7月24日に、スイスの大手百貨店マノールのジュネーブ店で、バンダイナムコホールディングス(以下、バンダイ)のフランスのグループ会社と連携し、「ガシャポン」機約100台を集めた特設スペースを設けた。ジュネーブ店での特設スペースは好評を博し、常設化が決まるとともに、ルガーノ、バーゼルなどの都市でも特設スペース設置が決定した。ゲンキ・コープのマーケティング部長のピエール・アンドレ・グラスレー氏に、ガシャポンの企画や、スイスでの日本のコンテンツの普及状況について、話を聞いた(取材日:2024年7月3日、8月14日)。


ゲンキ・コープ マーケティング部長 ピエール・アンドレ・グラスレー氏(ゲンキ・コープ提供)
質問:
企業概要は。
答え:
ゲンキ・コープは2007年に設立され、従業員は現在11人。バンダイをはじめとする日本企業などから、正規ライセンスのアニメなどのキャラクター商品を仕入れ、専門店やオンラインショップ向けに販売する卸売業を営んでいる。スイスでキャラクターなどの正規ライセンス品を取り扱う主なディストリビューターは、近隣国のディストリビューターを含めても、5社程度だが、当社はスイス国内に在庫を持つことで、少量の注文にも応えることができ、サービス面で差別化を図っている。ローザンヌ近郊のアクレンスにある約1,000平方メートルの倉庫で、2万7,000点の商品を取り扱っている。そのうち日本のコンテンツに関係する商品は5~6割だ。現在、当社が取り扱っている日本のコンテンツ関連で、グッズが最も売れている作品は「ONE PIECE」で、「呪術廻戦」と「鬼滅の刃」が続く。

マノール・ジュネーブ店での「ガシャポン」機約100台を集めた特設スペース(ゲンキ・コープ提供)
質問:
スイスの大手百貨店マノール(Manor)のジュネーブ店で開催した「ガシャポン」機約100台を集めた特設スペースの概要や設置の経緯は。
答え:
バンダイのフランスのグループ会社と連携し、マノール・ジュネーブ店の玩具売り場があるフロアに、ガシャポン機100台を集めた特設スペースを5月25日~7月24日の期間限定で設けた。本件は、欧州でガシャポンが受容されるかを検証するプロジェクト。今後フランスやドイツ、イタリアへの一層の進出を狙う上で、これら近隣諸国の影響を受けており、言語圏を含めた文化的多様性をもつスイスが検証市場に選ばれた。
硬貨を直接使うのではなく、トークンを購入し、そのトークンをガシャポン機に入れて使う仕様になっている。通貨の異なる国にも展開を容易にする仕組みだ。ガシャポンの商品は、1つ当たり4~6スイス・フラン(約696~1,044円、CHF、1CHF=約174円)で、アニメなどのキャラクターのライセンス商品を7割、アニメなどのキャラクターでなく、かわいい海の動物などがモチーフのライセンス外商品を3割取りそろえた。特に「とっとこハム太郎」や「星のカービィ」のガシャポンが人気だった。2日ごとに訪れて購入する人や、家族連れでたまたま来て購入する人、かつて好きだったコンテンツを見つけて懐かしさから購入する人など、顧客層はさまざまだった。
売り上げは週当たり4,000CHFを予想していたが、最初の4週間だけで週平均6,000~1万CHFと大きく予想を上回った。これにより、ジュネーブ店での特設スペースの常設化が決まり、ルガーノ、バーゼルなどの都市でも特設スペース設置を決定した。

ガシャポンの中身を展示(ジェトロ撮影)
質問:
スイスでの日本のコンテンツのトレンドは。
答え:
過去4年ほどで、専門店でしか扱ってこなかったキャラクターグッズが大手スーパーチェーンなどでも取り扱われるようになるなど、市場が拡大した。スイス大手百貨店マノールに加え、スイスの2大スーパーマーケットの1つのミグロ(Migros)系列のオンラインショップのデジテック・ギャラクサス(Digitec Galaxus)、さらに最近は、2大スーパーマーケットのもう1つのコープ(COOP)とも取引を開始した。
顧客の小売店や専門店、オンラインショップは新しいものを探している。流行が日本から欧州に届くまでには時間がかかるので、その時間差を生かして、日本で流行したもののうち、欧州でもヒットしそうなものを予測できる。特に日本の複数のサプライヤーが同一のコンテンツのライセンスを持っている場合、そのコンテンツの人気の高さがうかがわれ、欧州でもヒットする可能性が高い。
近年、スイスの日本コンテンツ関連商品市場はほかの欧州市場に近づいており、ライセンス品が流通するタイミングにも遅れがなくなってきている。また、コンテンツごとの流行周期が2年程度と短くなってきている。
スイスで日本のポップカルチャー熱は高まっており、支持層も若者から家族連れまで、幅広い世代に広がっている。スイスから日本への旅行者が増えて、日本に対する理解が高まり、漫画などで描かれる「本当の日本」を体験したいという欲求につながっていると感じる。
質問:
スイスでの日本のコンテンツ市場の課題は。
答え:
アニメなどのキャラクター商品について、正規のライセンス品以外に、ライセンスがない非正規品が市場に出回っている。当社はバンダイなどのメーカーと連携し、正規のライセンス品だけを扱っているが、ライセンスのない安価な非正規品が市場に普及すると、公正な競争にならない。
また、インターネットやソーシャルメディアの発達で、海外在住の消費者が日本で発売される新商品の情報や価格をタイムリーに知ることができるようになった。ポップカルチャーの分野では、コンテンツと関連商品は密接な関係にあり、コンテンツの浸透速度は速いので、関連商品も後れを取らずに海外で流通するまでの時間を短くし、時間的なギャップを埋めていく必要がある。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
深谷 薫(ふかや かおる)
2015年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ワルシャワ事務所、対日投資部外国企業支援課を経て、2022年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
パブロ・ダス
社会言語学と政治学を専攻。ベルン大学、スイス連邦工科大学チューリッヒ校にて広報・コミュニケーション分野での勤務を経て、2023年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
ナタリー・コルニエ
2001年からジェトロ・ジュネーブ事務所勤務。日本食のプロモーションや対日投資促進事業等に従事