「日本産酒類」が注目される英国、オールジャパンでの認知度向上を
日本産酒類に特化したイベントが相次ぎ開催

2025年1月16日

英国で、2024年10月23日の現地大手紙「タイムズ」に、「酒はプロセッコに取って代わるか?(Is Sake the new Prosecco? )」という見出しの記事が掲載された。ウェイトローズ、オカドなどの現地スーパーマーケットや、ヘドニズム・ワインズ、ベリー・ブラザーズなどのワインショップで、スパークリング日本酒を含む日本酒の売り上げが大きく伸びていることが紹介された。しかし、英国での関心は日本酒だけにとどまらない。ロンドンでは2024年10月に「日本産酒類」をテーマとしたイベントが相次いで開催された。1つは、日本産酒類の展示会「Drink Japan」、もう1つは、英国蒸留酒名誉組合(注)が開催した日本産酒類のパネルディスカッションだ。いずれも、日本酒にとどまらず、日本産の焼酎やウイスキー、ビール、ワインなども含めて「日本産酒類」として取り上げられた点が新しい。以下では、日本産酒類の貿易統計データを示した後、日本産酒類の認知度向上に向けた活動や市場拡大への期待に関して説明する。

英国向け日本産酒類の輸出状況

日本の貿易統計によると、英国向けの農林水産物・食品の輸出額は2023年に約106億円(図1)だったが、このうち、ウイスキー10億7,000万円、清酒5億4,000万円、ジン1億6,000万円など、酒類は合計で19億8,000万円(HSコード2203、2204、2205、2206、2208の合計)となっており、英国向け農林水産物・食品輸出の約2割を占めている(表)。

図1:農林水産物・食品の対英輸出額 (FOBベース) 2023年
ウイスキー10.7億円 構成比10%、牛ロイン 9.2億円 構成比8.7、しょうゆ6億円 構成比5.7%、清酒5.4億円 構成比5.1%、カレー調整品4.6億円 構成比4.3%、スープ・ ブロス3.9億円 構成比3.7%、コイ3.8億円 構成比3.6%、その他の調味料3.8億円 構成比3.6%、清涼飲料水3.6億円 構成比3.4%、その他55.3億円構成比52%。

注:HSコード9桁による分類。
出所:財務省貿易統計を基にジェトロ作成

表:農林水産物・食品の対英輸出額 (FOBベース) 2023年(単位:億円)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年 増減率
ウイスキー 14.5 10.7 △26.5%
牛ロイン(冷蔵) 8.7 9.2 5.3%
しょうゆ 5.7 6.0 6.5%
清酒 6.1 5.4 △10.5%
カレー調整品 4.4 4.6 5.3%
スープ、ブロス 3.2 3.9 23.4%
コイ 4.0 3.8 △5.2%
その他の調味料 4.4 3.8 △13.2%
清涼飲料水 2.0 3.6 77.2%
動植物性油脂(非食用) 0.0 3.5 皆増
ホタテ(冷凍) 0.8 2.7 240.9%
その他の調製食料品 1.8 2.6 41.8%
マヨネーズ 1.5 2.4 54.5%
みそ 1.8 2.3 26.5%
緑茶(粉末状のもの) 1.5 2.3 48.9%
精米 1.6 1.9 18.8%
ブリ(生鮮、冷蔵) 1.4 1.7 28.2%
メントール 1.1 1.7 58.7%
ジン 1.4 1.6 10.9%
豆腐 0.6 1.4 141.3%
その他 28.1 31.2 11.0%
合計 94.7 106.5 12.4%

注:HSコード9桁による分類。
出所:財務省貿易統計を基にジェトロ作成

図2:日本から英国への酒類の輸出額(日本の貿易統計)
2014年の総額は11億円、1千万円以上のものは、ウイスキー7億4千万円、清酒2億4千万円、リキュール4千万円、ビール3千万円、ワイン3千万円、その他合計で2千万円、2015年の総額は4億4千万円、ウイスキー4千万円、清酒2億6千万円、リキュール4千万円、ビール4千万円、果実酒など3千万円、その他合計で3千万円、2016年の総額は5億8千万円、ウイスキー1億円、清酒3億2千万円、ジン1千万円、リキュール6千万円、ビール4千万円、果実酒など3千円、その他合計で2千万円、2017年の総額は16億円、ウイスキー10億円、清酒3億5千万円、ジン9千万円、リキュール6千万円、ビール4千万円、果実酒など5千円、その他合計で2千万円、2018年の総額は7億5千万円、ウイスキー1億7千円、清酒3億2千万円、ジン1億2千万円、リキュール5千万円、ビール6千万円、果実酒など1千円、その他合計で2千万円、2019年の総額は9億7千万円、ウイスキー1億5千円、清酒3億7千万円、ジン2億4千万円、リキュール7千万円、ビール8千万円、その他合計で5千万円、2020年の総額は7億9千万円、ウイスキー1億4千円、清酒2億1千万円、ジン2億9千万円、リキュール6千万円、ビール5千万円、その他合計で3千万円、2021年の総額は11億4千万円、ウイスキー3億9千円、清酒4億4千万円、ジン1億7千万円、リキュール8千万円、ビール2千万円、ワイン1千万、その他合計で2千万円、2022年の総額は23億9千万円、ウイスキー14億5千円、清酒6億1千万円、ジン1億4千万円、リキュール1億3千万円、ビール1千万円、ワイン1千万、その他合計で3千万円、2023年の総額は19億8千万円、ウイスキー10億7千円、清酒5億4千万円、ジン1億6千万円、リキュール9千万円、ビール3千万円、果実酒など5千万円、ワイン2千万、その他合計で3千万円、

出所:財務省貿易統計

一方、2014年以降の過去10年間の英国向け酒類輸出額の推移(図2)を見ると、大きく増減を繰り返しており、堅調に増加しているようには見えない。

特に2023年には、ウイスキーが前年比26.5%減、清酒が同10.5%減となった。この要因について、英国内の酒類輸入販売業者などに尋ねたところ、オランダ経由で英国に輸入している分があり、日本の貿易統計による英国向け輸出額では、英国市場に入っている日本産酒類の実態を表せていない可能性があるとの指摘があった。また、2023年に関しては、2020年から2021年にかけて新型コロナウイルス禍による物流の混乱で輸入が滞った後に、在庫を確保しようと2022年に輸入が急増したことによる反動減ではないかとの見方も複数あった。

そこで、英国の貿易統計で日本から英国への酒類の輸入実績を調べたところ、図3のように、2015年以降は右肩上がりで増加しているグラフが得られた。

図3:日本から英国への酒類の輸入額(英国の貿易統計)
2014年の総額は699万ポンド、主だったものではウイスキー445万ポンド、その他の発酵酒163万ポンド、ビール22万ポンド、ワイン43万ポンド、2015年の総額は294万ポンド、ウイスキー32万ポンド、その他の発酵酒157万ポンド、ビール35万ポンド、ワイン50万ポンド、2016年の総額は417万ポンド、ウイスキー61万ポンド、その他の発酵酒255万ポンド、ビール52万ポンド、リキュール12万ポンド、ワイン20万ポンド、2017年の総額は568万ポンド、ウイスキー141万ポンド、その他の発酵酒266万ポンド、ジン56万ポンド、ビール63万ポンド、リキュール12万ポンド、ワイン20万ポンド、2018年の総額は597万ポンド、ウイスキー145万ポンド、その他の発酵酒238万ポンド、ジン88万ポンド、ビール79万ポンド、リキュール11万ポンド、ワイン24万ポンド、2019年の総額は699万ポンド、ウイスキー200万ポンド、その他の発酵酒253万ポンド、ジン132万ポンド、ビール60万ポンド、リキュール13万ポンド、ワイン32万ポンド、2020年の総額は851万ポンド、ウイスキー273万ポンド、その他の発酵酒173万ポンド、ジン340万ポンド、ビール39万ポンド、ワイン12万ポンド、2021年の総額は1,248万ポンド、ウイスキー432万ポンド、その他の発酵酒292万ポンド、ジン449万ポンド、ビール30万ポンド、リキュール12万ポンド、ワイン22万ポンド、2022年の総額は1,576万ポンド、ウイスキー751万ポンド、その他の発酵酒439万ポンド、ジン307万ポンド、ビール27万ポンド、リキュール22万ポンド、ワイン14万ポンド、2023年の総額は1,739万ポンド、ウイスキー694万ポンド、その他の発酵酒361万ポンド、ジン325万ポンド、ビール297万ポンド、リキュール22万ポンド、ワイン20万ポンド。

注:2025年1月現在で、1ポンド=約197円。
出所:英国国家統計局(ONS)

本来は、輸出側の日本の貿易統計は最終仕向け地、輸入側の英国の貿易統計は原産国で、それぞれ輸出入額が計上されることとなっているため、両者は出港・入港の時期のずれを除けば、ほぼ一致するはずだが、図2と図3は大きく異なるものとなった。原産国に応じた関税賦課の観点から、輸入側の貿易統計のほうが実態に近くなると考えられるが、英国の貿易統計も、必ずしも消費行動の実態に即しているとはいえないことに留意が必要だ。例えば、英国の貿易統計によると、2023年に日本からのビール輸入額が前年比で10倍以上に伸びているが、そのような販売・消費の変化は観察できていない(英国では日本メーカーのビールを多く目にするが、大部分は欧州で現地生産されたもの)。

酒類の分類ごとの輸出状況を見るために日本の貿易統計に戻ると、2023年のウイスキー、清酒、ジンの英国向け輸出が数億円規模で行われているのに対し、ワインは約1,900万円、焼酎・泡盛は約600万円となっている。EU向けでも、ワイン、焼酎・泡盛はそれぞれ約4,300万円の輸出額で、オランダ経由での輸出を加味したとしても、日本産ワインや焼酎・泡盛の英国向け輸出は、ウイスキーや清酒の輸出よりも1桁か2桁小さい水準にある。

オールブランドで日本産酒類の認知度向上を

2024年10月4日、5日にロンドン中心部の教会を会場にして、日本産酒類の展示会「Drink Japan」が初めて開催された。2日間でトレード関係者や一般客など約1,900人が来場した。入場料は45ポンド(約8,865円、1ポンド=197円)と安くはないが、チケットは開催前に完売したという。

同イベントは、日本酒の普及に長年携わってきた日本酒造青年協議会酒サムライ英国代表の吉武理恵氏が何年もかけて構想し、IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)のオーナーに9月に就任したクリス・アシュトン氏とともに企画した。吉武氏は開催に至った背景について、「日本酒のみならず、10年ほど前に日本のウイスキーが世界的な名声を獲得したことをきっかけに、ジャパンブランドの知名度とプロファイルが上昇している一方で、焼酎のように販促に苦戦しているものもある。それぞれの業界が個々に振興イベントを行ってきたが、日本産酒類のオールブランドが一緒になって、『ジャパン』の旗の下でJapanese Drinkの認知度を高めていくことが大事だ」と述べた。

今回のDrink Japanには、日本の酒造メーカーや英国の酒類販売事業者など約40社・団体が出展し、会場には約200銘柄がずらりと並んだ。和太鼓やダンスのパフォーマンスも行われ、にぎわいを連日見せた。将来的に日本酒を導入したいというバーやレストラン関係者も多く来場し、来場者からは、「既存の取引先の日本酒だけではなく、他社の商品も試飲できてよかった」「試飲した酒をその場で購入できたことが良かった」などのコメントがあった。また、焼酎やウイスキーなど日本酒以外の日本産酒類を求める声も多く、吉武氏は「今年は出展募集期間が短かったので、日本酒が中心となったが、将来は焼酎、ウイスキー、ビール、ワイン、スピリッツなども充実させたい」と次回への展望を語った。


Drink Japanの会場(吉武氏提供)

英国蒸留所名誉組合の会合で日本産酒類がテーマに

また、2024年10月30日には、1638年に創立、勅許を取得した英国蒸留所名誉組合が「2025年、日の出は昇り続けるのか?(Will the Rising Sun continue to rise in 2025?)」という日本産酒類をテーマにしたパネルディスカッションを開催した。これまでにウイスキーやジンなど蒸留酒カテゴリーをテーマに設定したことはあったが、特定の国をテーマにしたのは今回が初めてとのことだ。

パネルディスカッションに先立ち、2018年に第303代マスター(代表職)を務めたマーティン・ライリー氏は「日本産酒類」をテーマに選んだ理由として、日本文化の人気が英国でも続いていることや、2021年の東京オリンピック開催により日本の注目がさらに高まったこと、特に北米や欧州からの観光客が増加していること、日本の伝統や技術に関わる価値が海外から大変評価されていること、非常に質の高い食品や飲料が生産されていることなどを挙げた。

パネルディスカッションでは、英国で日本産酒類に知見のあるサントリーグローバルスピリッツ英国法人の代表取締役社長のニック・テンパリー氏、英国日本酒協会の役員で日本酒の小売業やバーを経営するエリカ・ヘイグ氏、世界中の酒類を扱うマルシア飲料ブランド・アンバサダーのブルース・ペリー氏、アサヒビール英国法人の元取締役のボブ・バークレス氏の4人が登壇した。

日本産酒類の評価について、テンパリー氏は「英国の消費者は、日本産商品が有するモノづくりや物語といった人間的要素を渇望している。日本産酒類で言えば、その歴史、伝統、醸造技術、ストーリー性などだ。日本のウイスキーは世界中で愛されているが、サントリーは物語のないウイスキーは作らない。ボトルの中身だけでなく、文化などとリンクさせた物語を通して、ブランドを作る必要がある」と述べた。ヘイグ氏は「新型コロナ禍前は、日本酒って何?という感じがあったが、今はどんな日本酒を飲みたいのかを理解している顧客が多くなっている。日本酒が持つ性質や気質は、英国消費者を魅了し続けていると実感している」と語った。

また、「ジャパンブランド」をどのように広めていくかという質問に、ペリー氏は「レストランでの飲酒から家飲みに変えるくらい日本酒を広めていくには、消費者がいろんな種類の酒を気軽に試せるように、現在の720ミリリットルのボトルを半分のサイズにすることが良いと思う。また、日本産の酒類がたくさん店に並んでいたら、消費者の選択肢も広がり、いろいろと学ぶことができる」と述べた。バークレス氏は「日本の良さについて、各地域の酒蔵を巡るなどして特色を探求するのはとてもエキサイティングだ。歴史が古く、伝統的な一方で、若い年代のエネルギーは大変すばらしい」と述べた。

パネルディスカッションの後には、隣のバーエリアで日本のジンやウイスキー、スパークリング日本酒、日本酒や焼酎を使ったカクテルが振る舞われた。


ライリー氏とパネラーの4人
(英国蒸留酒名誉組合提供)

日本産酒類で作られたカクテルなどを楽しむ来場者
(英国蒸留酒名誉組合提供)

ユネスコ登録をジャパンブランドでの普及のきっかけに

2024年12月5日(日本時間)、日本の伝統的酒造りのユネスコの無形文化遺産への登録が決定した。国際的な評価を受けた酒造りの技術と文化は、こうじを使った日本酒、焼酎、泡盛のみならず、他の日本産酒類にも共通するものがあると思われる。

英国では日本食人気が続いており、外食だけでなく、家で和食を料理する消費者が増えるなど、日常に浸透してきている。訪日旅行も人気で、英国消費者が日本文化や日本食に直接触れる機会も多くなる中、ユネスコ登録もきっかけに、日本のモノづくりのこだわりを「日本産酒類」という大きな枠組みで伝えていく工夫も有効ではないか。オールジャパン、オールブランドでの今後のさらなる日本産酒類の市場の拡大や安定的な需要の伸長に期待したい。


注:
1638年に創立、勅許を取得したロンドン市の名誉組合会社。会員は主に蒸留所などの重役で構成し、蒸留ビジネスに係る教育、慈善、社交活動を行っている。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
尾崎 裕子(おざき ゆうこ)
2008年よりジェトロ・ロンドン事務所勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
林 伸光(はやし のぶみつ)
2009年、農林水産省入省。2023年9月からジェトロ・ロンドン事務所に在籍。