エストニア企業、宇陀市と連携し日本国内での自律走行ロボット導入へ
2025年1月24日
ジェトロは2024年12月1~5日、奈良県宇陀(うだ)市、奈良先端科学技術大学院大学と連携し、対日投資や協業連携を目的に、エストニアの中型中速自律走行配送ロボットを製造するクレボン(Clevon)を招聘(しょうへい)した。ジェトロの「地域エコシステムの外資誘致プログラム(注1)」で、外国企業が奈良県へ招聘されたのは初めてとなる。
クレボンは、今回の日本訪問で、日本企業との商談や奈良先端科学技術大学院大学との意見交換、地理的要因を生かし実証実験の場の候補となっている宇陀市内の視察などを行った。
人口減少や少子高齢化などの課題を抱える地方自治体は、日本全国で後を絶たない。今回のクレボン招聘実施主体の1つである宇陀市も、そんな課題を抱える地方自治体である。クレボンの今後の日本におけるビジネス展開に対する期待のほか、奈良県や宇陀市がクレボン誘致に際して期待していることについても聞いた。
人口減少・高齢化という地方課題解決の糸口としての期待
宇陀市は2023年7月、エストニア南部のサーレマー市と、教育の連携に係る基本合意書(MOU)を締結した(宇陀市ウェブサイト参照)。それをきっかけに、2024年1月にクレボンのほか、エストニア・アントレプレナーシップ応用科学大学、エストニアの人材育成企業と新たにMOUを締結し(宇陀市資料参照
(589KB))、ロボット工学分野における人材育成を目的とした、3年間の留学プログラム「クレボンアカデミー」の2025年9月開校に向け取り組んできた。今回、クレボンアカデミーの母体の1つであるクレボンを招聘したのは、今後、宇陀市から留学プログラムに参加した子供たちの卒業後の受け皿となる環境を整えたいという宇陀市側の目的もある。

日本政府が2016年に策定した第5期科学技術基本計画(514KB)(注2)においてSociety 5.0
(注3)が初めて提唱されて以降、「超スマート社会」実現に向け、ロボットなどの新たな価値創出のコアとなる強みを有する技術への関心が高まっている。日本における自律走行ロボットの現状としては、近年、レストランなどでの配膳ロボットの活用や空港内での警備ロボットの活用など普及が進んでいる一方、少子高齢化による買い物弱者の増加や物流業界における人手不足への対策は依然として最重要事項の1つである。
自律走行ロボットはAMR(Autonomous Mobile Robot)と略され、決められたルート内や規定レイアウト上でのみ走行可能なAGV(Automatic Guided Vehicle)とは異なり、自動ルート算出を行ったり、人および障害物を検知し回避したりすることができる。クレボンは、自律走行ロボットの製造を行っている。
前述の2024年1月に、宇陀市とクレボンほかエストニア企業などが締結したMOUには、宇陀市内へのクレボン日本支社新設へ向けて協力する旨も書かれている。同年1月24~26日には、エストニア南部の都市タルトゥで実施されたスタートアップイベント「スタートアップデー(sTARTUp Day)」内デモエリアで、クレボンと宇陀市がブースを出展するなど、関係を強化してきた(2024年2月7日付ビジネス短信参照)。
クレボンの製造する自律走行配送ロボットは、荷台に乗せる物をカスタマイズ可能なため、多種多様な用途に応用できることがユニークな点であり、既に欧米で実証実験を開始している(2023年12月20日付ビジネス短信参照)。今後、日本での実証実験実施へ向け関係各所と協議を進めていく予定だ。プログラム後に実施された経済産業省との面談では、クレボン製ロボットの日本での活用について話し合われた。

(宇陀市撮影)

(ジェトロ撮影)
本招聘の実施に際し、金剛一智市長からは「宇陀の取り組みが他の地方自治体のイノベーションの良い一例となればうれしい」とのコメントが述べられた。
今後の日本におけるビジネス展開について
クレボンのサンダー・セバスチャン・アグール最高経営責任者(CEO)は、今後の日本における同社の方向性について「宇陀市との連携強化に努めると同時に、今後、宇陀市のような小さな町からスタートアップが飛び立っていくストーリーに共感してくれる仲間を見つけることが重要」と述べた。

さらに、今回のクレボンの奈良県招聘に対し、西村高則・奈良県副知事は「奈良県へ新たな産業を取り入れたいと考えているため、人材投資という観点でも注目しており、宇陀から新たな技術が出せるようできる限りの協力をしていきたい」と語り、今後のクレボン誘致への期待を示した。
- 注1:
- ジェトロによる、地域のエコシステム関係者と連携し、外国・外資系企業の日本国内地域への誘致および国際協業連携を推進するプログラム。
- 注2:
- 内閣府が2016~2020年度の期間を対象に、科学技術における「基盤的な力」の弱体化、政府研究開発投資の伸びの停滞などの課題に対し先を見通し戦略的に手を打っていく力(先見性と戦略性)と、どのような変化にも的確に対応していく力(多様性と柔軟性)を重視する基本方針の下、策定した計画。
- 注3:
- サイバー空間とフィジカル空間の高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会。

- 執筆者紹介
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ジェトロイノベーション部エコシステム課
小幡 玲奈(おばた れいな) - 2024年、ジェトロ入構。エコシステム課で国内地域への対日投資関係を担当。

- 執筆者紹介
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ジェトロ奈良
杉井 謙斗(すぎい けんと) - 2024年、奈良県より出向。奈良貿易情報センターでセミナー、招聘事業等を担当。