衛星データ解析とAI技術で農業支援
ウクライナビジネスの今(1)
2024年8月23日
ジェトロは2024年6月5〜8日、ポーランドのワルシャワとウクライナのキーウ(キエフ)に、ロシアによるウクライナ侵攻後初となるビジネスミッションを派遣した。これは、2月19日にジェトロも共催した「日・ウクライナ経済復興推進会議」(2024年3月1日付ビジネス短信参照)に参加した企業の取り組みへのサポートを主目的としたものだ。
ミッションは10社10人からなり、そのうちの1社で、衛星データ解析による農業支援サービスを提供するサグリ(兵庫県丹波市)の代表取締役CEO(最高経営責任者)の坪井俊輔氏に、今回のウクライナ訪問についてインタビューを行った(7月23日)。
坪井氏は横浜国立大学理工学部機械工学・材料系学科を卒業した後、2018年にサグリを創業した。農林水産省の「令和3年度農林水産業等研究分野における大学発ベンチャーの起業促進実証委託事業」に採択され、岐阜大学発ベンチャーとして、衛星データや人工知能(AI)を活用した農地の「見える化」を通じたグローバルな農業と環境課題の解決に取り組む。同社は2024年3月、第6回宇宙開発利用大賞の内閣総理大臣賞を受賞した。坪井氏は2022年にビジネス誌「フォーブス」日本版とアジア版で「世界を変える30歳未満30人」の1人に選出された。農林水産省のデジタル地図を用いた農地情報の管理に関する検討会委員や、経済産業省の2050年カーボンニュートラルの実現に向けた若手有識者研究会委員も務める。

- 質問:
- 貴社のウクライナでのビジネスについて。
- 答え:
- 当社は衛星データとAI技術により、ウクライナの農地の土壌分析や利活用・作付け状況を可視化し、ウクライナの農業生産法人の生産性向上を目的としたサポートを実施している。併せて、脱炭素につながる取り組みを進めており、ウクライナの農業生産法人の輸出先企業と連携した農地のCO2(二酸化炭素)排出量の「見える化」による温室効果ガス(GHG)削減(カーボンインセット、注1)と、その農地での環境に配慮した農法への転換によるCO2排出量削減(カーボンオフセット、注2)に取り組んでいる。ウクライナの現地パートナー企業となるアグリチェインとは、2024年2月19日に開催された「日・ウクライナ経済復興推進会議」で、衛星データとAIを活用した土壌分析にかかる覚書を結んだほか、6月にはウクライナ農業脱炭素実現のためのMRV実証試験(注3)にかかる覚書を結んだ。
- 質問:
- 今回のビジネスミッションに参加した感想は。
- 答え:
- 戦争の影響もあり、これまでウクライナのパートナー企業とは、オンラインミーティングでの交流が続いていた。今回、ウクライナを訪問し、パートナー企業との対面での交流が実現し、関係性を一層強化することができた。また、ネットワーキングイベントで多数の現地企業関係者と対話することもでき、今のウクライナの人々が置かれた環境や心情をリアルに感じ取ることができた。併せて、ウクライナ政府関係者と直接面会し、連携可能性を協議できたことや、現地での新たなパートナー開拓ができたことは非常に大きかった。
- 質問:
- ウクライナビジネスへの参画を企図する日本企業へのメッセージは。
- 答え:
- 今後、グローバル展開を行う上で、ウクライナには日本の技術展開のポテンシャルがあると考えている。さらに、隣国ポーランドとともに、優秀なIT人材を獲得できるマーケットで、ITやAIなどを活用した事業、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進などに取り組む日本企業にとって、連携可能性は非常に高い。また、戦争を通じて生じる復興需要や、一時的ではあるが、復興資金などの利活用により、事業の再現性を上げていくことが可能な状況だ。何よりも、事業を通じてウクライナ復興に貢献できることは非常に意義あることで、そのような日本企業が多く出てくることを心から期待している。
- 注1:
- 企業が自社のバリューチェーン内で、関連する企業との連携によって生み出されたカーボンクレジットを用いて、自社の排出量を相殺する仕組み(インセット)。
- 注2:
- 企業がCO2を削減した結果として得たカーボンクレジットを、同社のバリューチェーン外でCO2の排出削減が困難な企業が購入することで相殺を図る仕組み(オフセット)。
- 注3:
- MRV(エムアールブイ)とは、温室効果ガス(GHG)排出量の算定(Measurement)・報告(Reporting)・検証(Verification)を通じて、排出削減行動の透明性・正確性の確保を目指すこと。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・キーウ事務所長兼務ワルシャワ事務所次長
柴田 哲男(しばた てつお) - 金融機関勤務を経てジェトロ入構。本部貿易開発部(ASEAN、インド物流マップ事業担当)、バンコク事務所(日タイ復興支援協力事業担当)、ビエンチャン事務所(初代所長)、和歌山事務所(初代所長)、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会(秘書室長兼務経営企画室審議役)、大阪本部勤務を経て現職。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ワルシャワ事務所 ウクライナ・コーディネーター
坂口 良平(さかぐち りょうへい) - 2024年から現職。