サウジアラビアの経済特区概要
2024年1月15日
サウジアラビアは、企業の誘致により経済の多様化を促進し、ビジネスの新たなルートを構築するため、5カ所の経済特区を立ち上げた(2023年4月14日付ビジネス短信参照)。
同国は、活気ある社会、盛況な経済、野心的な国家の発展を中核として、世界的な経済大国になることを目指している。世界での競争力と地位を向上させるため、ビジネス、産業、環境の特定分野に着目し、企業誘致の1つの手段として経済特区を導入した。戦略的セクターを支援しながら質の高い直接投資を誘致し、経済を多様化することでサウジアラビア政府の国家戦略「ビジョン2030」達成に貢献することを目指している。
本稿では、サウジアラビアの経済特区において経済特区庁(ECZA)が中心となり取り組んでいる投資促進に向けた施策と、全5カ所の経済特区の概要について紹介する。
円滑な投資を支援する先進的なエコシステム
サウジアラビアは、経済特区の導入だけでなく、そのエコシステム強化にも取り組んでいる。様々な政府機関の協力を通じて新たな投資基準を設定し、シームレスな投資プロセスの構築や複数のセクターの成長を加速させることを目指している。
ECZAは、国内外からの企業誘致を担い、経済特区のネットワークが企業にとって魅力的で、競争力を保持できるものとなるよう、以下のような施策を行っている。
- 国際的なベストプラクティスを参照した規制やインセンティブ
- ビジネス環境整備の一環としての政府間協定の締結
- 全産業とそのバリューチェーンを誘致するために設計された環境設定
- 投資プロセスを簡素化するためのワンストップ・ショップの設置
政府と連携したビジネス環境改善
ECZAは、政府の他の機関と連携し、経済特区向けに既存の法律を基礎とした各種規制を制定している。主に、(1)経済特区のワンストップ・ショップを通じたライセンス取得プロセスの簡素化、(2)経済特区内に設立された企業への無制限での資本送金の許可、(3)流通の簡素化や経済特区の輸出入のシームレス化などがある。また、企業の設立申請・承認プロセスには、国際的なベストプラクティスを組み込んでいるとして、以下の手続きプロセスを定めている。
- 代表者の企業グループ内役務提供(IGS)への委任状の記入と署名
- 関連する政府機関からの書類の認証取得
- 商業名を5つまで選択
- 申請書の記入、手数料の支払い、ライセンスと登録フォームの提出
- 土地割り当ての確認
- 定款(AOA)の作成
- ライセンスと登記証明の受領
シームレスなワンストップ・ショップ
ECZAは経済特区にワンストップ・ショップを設け、統合的な政府サービスや非政府サービスを提供している(表1参照)。
項目 |
ワンストップ・ショップ サービス |
内容 |
---|---|---|
不動産 開発 |
都市計画サービス | 都市計画、地方計画、大規模開発計画、敷地計画 |
自治体サービス | 土地・プロジェクトの登録、動員・作業許可、建設許可、引き渡し許可、設備調達・営業許可、事前審査 | |
コミュニティ管理サービス | コミュニティサービス、所有者協会サービス | |
ビジネス | 不動産サービス | 不動産登録、販売、賃貸、住宅ローンと特約 |
投資家の問い合わせ アカウント作成 |
投資家の問い合わせ、アカウント作成 | |
企業ライセンスの供与・登録 | ライセンス供与・登録、会社の更新、会社の変更、会社の登録抹消、認証と管理、営業許可 | |
専門サービス | 専門サービス、港湾サービス | |
雇用サービス | 雇用とビザ、就職斡旋(あっせん) | |
税金・通関サービス | 税務サービス、通関サービス | |
法務・コンプライアンスサービス | 仲裁・調停・保護サービス、ビジネスコンプライアンス | |
住宅 | 住宅サービス | 立ち入り許可 |
出所:経済特区庁(ECZA)レポートを基にジェトロ作成
各経済特区の概要
(1)アブドゥッラー国王経済都市(KAEC)経済特区
サウジアラビア西部のメッカ州、ジッダから車で北へ約90分に位置する経済特区。
紅海の沿岸部に位置し、欧州やアフリカ、アジアにアクセスすることができ、一帯一路構想でも重要な海上ルートに位置付けられている。20フィートコンテナは2,500万個を収容可能、バルク貨物および一般貨物は年間3,000万トン、ロールオン・ロールオフ船(注1)ターミナルは年間150万台の設備を誇るフルサービスの商業港であるアブドゥッラー国王港が隣接している。
- 所在州:メッカ州
- 敷地面積:60平方キロメートル
- 対象業種:自動車サプライチェーン・組み立て、消費財、ICT(電子軽工業)、医薬品、メドテック(MedTech)、物流
(2)ラス・アル・カイール経済特区
サウジアラビア東部州、ジュバイルから北西に100キロメートルに位置するラス・アル・カイール工業都市に立地する経済特区。
鉄道南北線が鉱山に直結しているため、主要原料への輸送アクセスが容易である。キングサルマン港からは、この地域で最も産出量の多い石油とガスの輸送ルートを利用し、またオペレーションを行うことができる。中東・北アフリカ(MENA)地域で最大規模のラス・アル・カイール造船所は、オフショア支援船、ジャッキアップ式リグ(注2)、超大型タンカー(VLCC)、ばら積み貨物船などの新造およびメンテナンス、修理、点検サービスを提供でき、年間4基の沖合リグ建造、同43隻の船舶建造の生産効率を誇る。
- 所在州:東部州
- 敷地面積:20平方キロメートル
- 対象業種:
船舶の建造およびメンテンナス、修理、点検
リグ・プラットフォームの建造およびメンテナンス、修理、点検
(3)ジャザーン経済特区
サウジアラビアの南西部、イエメンとの国境に接したジャザーン州ジャザーン経済都市内に立地する経済特区。
紅海の沿岸部に位置し、成長するアフリカ市場に近く、サウジアラビア政府が推進するギガプロジェクト「NEOM」や一帯一路構想のインフラプロジェクトなどのサイトにも近い。2022年以降サウジアラビア最大の輸出港であり、商品の輸出や生産材料の輸入だけでなく、周辺の化学、金属、農産業にもアクセスすることができる。]
- 所在州:ジャザーン州
- 敷地面積:24.6平方キロメートル
- 対象業種:食品加工、金属加工、物流
(4)クラウド・コンピューティング経済特区
リヤドのアブドゥルアジーズ国王科学技術都市(KACST)イノベーション・タワーが所在地だが、投資や設立はサウジアラビア国内のどこからでも行うことができ、物理的拠点を保持する必要がない点が他の経済特区と異なる。
サウジアラビアはインターネットの普及率が高く、第5世代移動通信システム(5G)の普及率が世界第4位、無線周波数の割り当てがG20で第2位と成熟したサイバー市場である。グーグル、オラクル、アリババクラウドなど大手企業などが入居済み。
- 所在地:リヤド、KACSTイノベーション・タワー
- 対象業種:クラウドコンピューティングサービス
(5)総合物流特区
リヤド州、キング・ハーリド国際空港に隣接している経済特区。
世界のテクノロジー、インフラのベストプラクティスを集めた、サウジアラビア初の物流特区。入居企業は、キング・ハーリド国際空港などへの保税回廊や保税区、輸出商品の迅速な認証などの優遇措置を受けることができ、大型サプライチェーンおよび物流企業に特化した設計となっている。
- 所在州:リヤド州
- 対象業種:消費財、コンピュータ部品、医薬品、栄養・医療用品、航空宇宙部品、高級品・装飾品・貴金属

出所:経済特区庁(ECZA)の資料を基にジェトロ作成(サウジアラビア地図はvemaps.com より使用)
経済特区 | インセンティブ |
---|---|
アブドゥッラー国王経済都市(KAEC)経済特区 |
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ラス・アル・カイール経済特区 |
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ジャザーン経済特区 |
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クラウド・コンピューティング経済特区 |
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総合物流特区 |
|
注:*条件を満たす場合。
出所:経済特区庁(ECZA)レポートを基にジェトロ作成
- 注1:
- クレーンを使わず、トラックやトレーラーで貨物の積み下ろしを直接行う輸送方法。
- 注2:
- 移動式の海洋掘削装置の一種。

- 執筆者紹介
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日・サウジ・ビジョン・オフィス
黒島 裕介(くろしま ゆうすけ) - 2023年8月から日・サウジ・ビジョン・オフィス勤務。日本・サウジアラビア両国が推進する「ビジョン2030」に関連する業務を担当。