循環型ビジネスはデータや修理がカギ(スウェーデン)
スウェーデン商業連合会に聞く
2024年11月28日
スウェーデンの貿易や商業分野の自営業者の業界団体であるスウェーデン商業連合会(Svensk Handel)は、雇用や経済政策に関する課題を扱う国内最大の団体だ(1997年設立)。同連合会はサステナビリティー調査報告書を毎年公表しており、消費者に対するアンケート(以下、消費者アンケート)と同連合会会員企業に対するアンケート(以下、企業アンケート)の2つの結果を踏まえて報告書を作成している。2024年3月に公表した同調査結果〔スウェーデン商業連合会(Svensk Handel)ウェブサイト参照(スウェーデン語) 〕(注1)を踏まえつつ、スウェーデン国内の消費トレンドや企業動向について、同連合会のシニア・ポリシー・ダイレクター(サステナビリティー担当)のマグヌス・ニッカリネン氏に話を聞いた(取材日:2024年10月17日)。
「中古品購入」はあらゆる世代に浸透
スウェーデンにおける「サステナブル消費」(注2)では、中古品(セカンドハンド)市場が存在感を増している。消費者アンケートにおいて、「サステナブル消費」という言葉から連想される消費行動として、「中古品購入」の回答が全回答の25%を占め、次に「購入量の削減」(14%)が続く(単一回答)。前年度調査と比較すると、前者が5ポイント増加し、後者が5ポイント減少した。中古品の購入は、サステナブル消費の1つと認識する消費者が増えていることがわかる。
また、過去1年で中古品を購入したと回答した人は、全回答者の75%を占め、前年度調査より4ポイント増加した。購入商品は衣服、靴、書籍、家具、乗り物など。年代別では、49歳以下が85%、50歳以上が61%と若年層の中古品購入割合が高いものの、「50歳以上の割合は前年度調査よりも増え、中古品購入という消費行動があらゆる世代に浸透し、新常態(ニューノーマル)となりつつある」と、同報告書は分析している。
この消費市場の変化に、企業側も呼応している。中古品やアップサイクル商品を販売していると回答した企業は、全体の27%(前年度調査より5ポイント増加)を占め、同回答企業の95%(同7ポイント増)は今後も同販売を継続もしくは拡大すると回答した。
国内の中古品市場のトレンドについて、ニッカリネン氏は「中古品販売店はかねてより国内で普及しており、すでに消費者に受け入れられていた(中古品市場拡大の素地はあった)。直近のアンケート結果(上述の消費者アンケート)でも、75%の消費者が過去1年で中古品を購入したと回答しているが、この割合は過去数年、増加傾向にあり、今後もさらに伸びるだろう」と語った。
ニッカリネン氏によると、供給側である中古品の販売形態は、(1)非営利団体(NPO)などによる社会貢献、(2)中古品販売専門店、(3)既存の小売店による中古品販売、(4)オンラインによる個人間の中古品売買、の4つのタイプに分けられるという。同氏は「中古品販売といえば以前は、無償で提供を受けた中古品をNPOなどが販売し、その売上金を社会貢献のために寄付する(1)の販売形態が主流だった。『中古品販売=社会貢献のための寄付金集め』という認識が消費者にあったが、(2)や(3)の販売形態でビジネス拡大を目指す企業が(従来の中古品販売の認識を払拭しようと)消費者が店内に入りやすい店構えや店内レイアウトなどを工夫するようになってから、中古品販売店に対する消費者の認識が変わり始めた」という。
(4)については、若年層を中心に普及しているという。(2)や(3)の実店舗での中古品販売が普及してきた背景について、ニッカリネン氏は「中古のため商品の仕入れ価格が安いだけでなく、中古品は個人が直接店舗に持ち込むため、調達にかかる物流コストも削減できる。また、販売店はアクセスしやすい街中に立地し、絶えず中古品が持ち込まれるため、『新たな』中古品を見つけやすく、消費者の関心も高い。サステナビリティー対応への貢献を意識して行動する消費者もいるが、国内が不景気(2024年8月23日付ビジネス短信参照)ということもあり、価格面で魅力を感じている人もいる」と話す。
「追跡データ」「スペアパーツ」が日本企業のビジネスチャンス
修理サービスやスペアパーツ販売も今後、拡大するとみられる。企業アンケートによると、修理やスペアパーツの提供を行う企業は全体の53%(前年度調査より1ポイント増加)を占める。同回答企業の97%(同11ポイント増)は、今後も同提供を継続もしくは拡大すると回答した。消費者アンケートでも、過去1年で修理をしたと回答した人は全回答者の76%を占める(同10ポイント増)。
日本企業が「サステナビリティー」をキーワードに、スウェーデンの消費市場でビジネスチャンスをつかむとすれば、どのような分野だろうか。「(競合があり)チャレンジングになるかもしれないが、日本企業にビジネスチャンスはある。例えば、リサイクル素材の使用率を把握するため、素材などの関連データを追跡できる技術などは、今後ニーズが高まるだろう。また、修理サービスの需要増加に伴い、スペアパーツ市場も拡大するとみられる」(ニッカリネン氏)。
スウェーデンを含むEUでは、耐久性、信頼性、修理可能性、リサイクル素材の使用率などのエコデザイン要件を定める「持続可能な製品のためのエコデザイン規則」が2024年7月に施行された。同規則は、枠組み規制のため、今後、製品グループごとに具体的な規制内容が規定される(2024年7月16日付ビジネス短信参照)。
EUの循環型経済政策、企業は概要理解も準備不足
EUでは、エコデザイン規則だけでなく、包装・包装廃棄物規則案(2024年3月26日付ビジネス短信参照)や消費者の修理する権利(2024年2月8日付ビジネス短信参照)など、循環型の経済政策の導入が進む。これらの導入を追い風にビジネス拡大を進める企業がある一方、製造業や小売業などは対応を求められ、特に中小企業には負担が大きいとみられる。スウェーデンの中小の小売企業は、これらの政策をどのように捉えているのだろうか。ニッカリネン氏は、この点について、「一般的な中小企業は、これらの政策概要を理解している。ただ、概要を理解している企業でも、その多くは実際どのように準備を進めていけばよいかノウハウや経験がない(注3)。資金や人材などのリソースが不足している」と、中小の小売業が抱える課題を指摘する。
何か突破口はあるのだろうか。ニッカリネン氏は、デジタル化の推進が重要と指摘する。「中小の小売業が、これらの政策に対応できるようになるかは、現時点で見通すことはできない。中小企業がこれらの政策に対応するには時間がかかるため、まずは大企業から導入し、その経験を中小企業に展開できることが望ましい。また、リソースが限られる中小企業が対応するには、業務のデジタル化を進めることがより重要である。ただ、デジタル化にはIT導入などのコストがかかるため、その資金がなければ限界もある。必要に応じて、政府による支援が必要となるだろう」(同氏)。
サステナ担当者は専門人材だけでなく、社内外の調整役も
企業がサステナビリティー対応を進める際、例えば製品に含まれる特定原材料の比率や調達先情報など、あらゆるデータを整理して分析する能力が求められる場合もある。企業によっては、データアナリストなどの専門人材を社内にサステナビリティー担当者として配置している。同報告書によると、このような担当者を配置する企業が増えているという。企業アンケート結果では、サステナビリティー担当者を置く企業の割合は2015年の21%から、2023年には60%にまで増加した。また、経営陣の中にサステナビリティー担当役員を配置する企業も増えているとしている。ニッカリネン氏は、サステナビリティー担当者に求められる能力について、「サステナビリティー関連の総合的な知識を持つ人材がいなかったため、以前は特定の専門知識を持つ人が担当となる例が多く、特定分野の知識・経験を持っていれば対応が可能であったが、近年は幅広いスキルが求められる。例えば、IT、法律、営業、財務、コンプライアンスなど。特定分野の知識・経験だけを持つ担当者1人では対応しきれず、他の専門分野の人材と適宜対話し、彼らの力を借りる必要がある。サステナビリティー担当者は社内外の専門人材との調整も期待されるようになっている」と指摘する。
EUの循環型経済政策の導入を背景に、スウェーデンでは今後、リサイクル材料の使用率などのデータ追跡の技術と、修理サービスやスペアパーツ需要の拡大が見込まれ、これらの分野が日本企業にとってビジネスチャンスとなり得る。
また、特定分野の知識・経験だけでなく、幅広い分野の社内外の専門人材との調整能力を持つ担当者を社内に置くスウェーデン企業の取り組みは、今後サステナビリティー対応を進める日本企業の参考となりそうだ。
- 注1:
- 直近の同調査(2023/2024年版)は、消費者に対するアンケートと同連合会会員企業に対するアンケートの、2つの調査から成る。有効回答数は、消費者アンケート調査が18歳から79歳までの消費者1,013人、会員企業アンケート調査が801社。会員企業アンケート調査の回答企業の58%は従業員数10人以下の小規模企業。2つの調査ともに2023年秋に実施。毎年実施している(比較可能な調査は、会員企業アンケート調査は2015年以降、消費者アンケート調査は2016年以降)。同調査結果はスウェーデン商業連合会(Svensk Handel)ウェブサイト参照(スウェーデン語) 。
- 注2:
- 省資源、脱炭素化やリサイクルなどの環境負荷の軽減、生物多様性や社会(人権、ジェンダー、動物福祉など)への配慮などに対応した消費。
- 注3:
- 企業アンケートで、サステナビリティー対応に積極的な企業のうち、例えばエコデザイン規則については、「前進に向けて協議中」が16%、「計画策定段階」が4%、「実行方法の確立段階」が6%だった。また、企業持続可能性デューディリジェンス指令案(CSDDD)(2024年5月28日付ビジネス短信参照)については、それぞれ順に20%、4%、9%だった。サステナビリティー対応に積極的な企業であっても、何らか対応を行っているとの回答は、エコデザイン規則で26%、CSDDDで33%にとどまり、多くの企業は何も対応できていない。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ企画部企画課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく) - 2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長、中小企業庁海外展開支援室(出向)、海外調査部国際経済課などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)、共著「FTAの基礎と実践」(白水社)。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・ロンドン事務所
篠崎 美佐(しのざき みさ)(在スウェーデン) - 1994年、ジェトロ・ストックホルム事務所入所。現在ジェトロ・ストックホルム・レジデントエージェント。