ASEANとつなぐ物流網で影響力高まる広西チワン族自治区(中国)

2024年11月20日

中国の広西チワン族自治区南寧市で2024年9月24~28日、第21回中国・東南アジア諸国連合(ASEAN)博覧会が開催された。これに合わせて発表された「中国・ASEAN経済貿易協力展望報告2024-2025」によると、2013年以降、中国・ASEAN間の貿易は年平均7.5%の成長を記録し、2023年の貿易総額は9,117億ドル、中国は15年連続でASEAN最大の貿易相手、ASEANも4年連続で中国の最大の貿易相手となった。2019年8月に中国の国家発展改革委員会が「西部陸海新通道(注1)全体規画」を発表して以降、広西チワン族自治区はASEANと中国をつなぐ玄関口として、物流取扱量やインフラ建設で着実に影響力を高めている。同自治区の南寧市から欽州市を経て、北部湾(トンキン湾)に注ぐ「平陸運河」も、2026年の完成に向け、建設が進められている。

本稿では、広西チワン族自治区をはじめ、中国西南地域で整備が進められている、中国とASEANをつなぐ物流網について、現状を整理するとともに、平陸運河の建設状況などについても、併せて報告する。

5周年迎えた西部陸海新通道の運行状況

2019年8月に国家発展改革委員会が「西部陸海新通道全体規画」を公布してから、2024年8月で5周年を迎えた(2024年8月16日付ビジネス短信参照)。同通道を介した目的地は過去5年間で、当初の90カ国・地域、港湾190カ所から、124カ国・地域、港湾518カ所まで拡大した。輸送品目は当初の81種類から1,154種類に増加し、コンテナ輸送量は2019年の9万4,000TEU(1TEU=20フィートコンテナ換算)から、2023年には9.16倍の86万1,000TEUとなった。

中でも広西チワン族自治区の役割が大きい。2019年から2023年まで、同自治区ではインフラ建設のため、累計1,000億元(2兆1,000億円、1元=約21円)以上拠出している。

同自治区の南の沿岸部に位置する北部湾港も、国際ゲートウエーとしてハブ機能を向上し続けている。貨物処理能力は3億5,000万トンを超え、76のコンテナ航路を有し、ASEAN諸国の主要港をカバーしている。コンテナ処理能力は2019年の382万TEUから、2023年の802万TEUに上昇し、年平均成長率は20.4%に達する。2024年1月から8月までのコンテナ処理量は前年同期比16.0%増の581万7,000TEU、貨物処理量は4.4%増の2億9,700万トンだった。

実際の物流規模も拡大している。2023年、北部湾港を介した鉄道輸送と海運輸送を組み合わせたマルチモーダル輸送による累計コンテナ出荷量は47万9,000TEUで、2019年の3倍となった。広西チワン族自治区交通運輸庁によると、西部陸海新通道の沿線地域から同自治区の税関を経由した貿易総額は、2019年の3,447億8,000万元から、2023年には6,067億8,000万元に増加し、年平均成長率は15.2%だった。

コンテナ取扱量で初めて世界30位入り果たした欽州

中国交通運輸部が2006年に発表した「全国沿岸港湾配置計画(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、広西チワン族自治区の沿岸部は、粤西(広東省西部)、海南省の沿岸部と併せて、「西南沿海地区港湾群」として位置づけられている。2013年に同自治区の北海港を運営する上場企業「北海港股份」は欽州港、北海港、防城港の3港を運営するため、「北部湾港股份」に名前を変更した。3港統合後、同社は広西北部湾地区最大の国有ターミナル運営企業となった。2023年、北部湾港の年間貨物取扱量は3港を合わせて前年比10.8%増の3億1,000万トンに達し、コンテナ取扱量は14.3%増の約802万TEUとなった。うち欽州港の貨物処理量は11.3%増の1億9,300万トン(全体の61%)、コンテナ取扱量は14.8%増の621万TEU(同77%)となり、北部湾港の貨物処理量、コンテナ取扱量の半数以上を欽州港が占める。政策の促進や周辺の交通・港湾インフラ整備などが功を奏し、欽州港のコンテナ貨物取扱量は2021年に東京港を抜き、2023年には世界上位30位入りを果たした(表参照)。

表:欽州港と東京港のコンテナ貨物取扱量の推移の比較
年数 欽州港 東京港
取扱量
(1,000TEU)
世界順位 取扱量
(1,000TEU)
世界順位
2020年 3,950 47位 4,262 44位
2021年 4,630 44位 4,326 46位
2022年 5,410 35位 4,430 46位
2023年 6,210 30位 4,570 46位

出所:Lloyd’s List ONE HUNDRED PORTS 2021,2022,2023,2024の発表に基づきジェトロ作成

ジェトロが欽州港の建設と整備を担当している中国(広西)自由貿易試験区欽州港片区の担当者にヒアリング(2024年9月25日)したところ、「欽州港からの貨物輸送はASEAN諸国の主要港湾であれば、直接輸送ができる」とのことだった。なお、北米や欧州、アフリカへの輸出はシンガポール、香港で積み替えを行い、輸送する。欽州港建設の総投資額は約66億元で、上海港と青島港を参考にしつつ、国内初の「海鉄連運自動化コンテナターミナル」として位置づけられている。4つの自動化ターミナルでは、15基の自動ガントリー・クレーンを同時に操作できるほか、世界初のU字型ヤード荷役工法(注2)とIGV(インテリジェント自動搬送車両)などを導入し、作業効率を上げている。港の後方約1キロ先には、総投資約9億元の欽州鉄道コンテナターミナルが設置され、鉄道輸送と海運輸送を組み合わせたマルチモーダル輸送を実現している。なお、広西チワン族自治区交通運輸庁の発表によると、2024年1~8月の欽州鉄道コンテナターミナルの貨物取扱量は前年同期比40.4%増の48万6,000TEUだった。1日平均の処理能力も、2023年の1,370TEUから2024年は2,238TEUまで増加し、作業効率が大幅に向上しているという。


欽州港の自動化コンテナターミナルとIGV(ジェトロ撮影)

「平陸運河」でASEANへの水上輸送強化へ

「西部陸海新通道全体規画」の一環として、2022年8月に着工を開始した平陸運河(2022年10月5日付ビジネス短信参照)の建設が着実に進められている。平陸運河は、広西チワン族自治区の南寧市から欽州市を経て、北部湾に注ぐ運河だ。同自治区内には河川自体は多いものの、地形的に西が高く東が低いため、ほとんどが東側に位置する広東省方向に流れ、西江と珠江を経て海に入る。そのため、同自治区からの河川貨物が広東省を経ずに海へつながる手段を持ち合わせていなかった。全長135キロ、総投資額727億元、5,000トン級の船舶が航行可能な平陸運河が開通すれば、同自治区や雲南省、貴州省、四川省などの内陸河川貨物が海に直接出られるようになる。完成予定の2026年には、西南地域から海上までの輸送距離を約560キロ以上短縮し、年間輸送コストを約52億元節約できる見込みで、欽州港は本当の意味での「川と海の複合一貫輸送」を実現するという。


平陸運河建設現場の立て看板。青色は既存の河川、赤色は建設中の平陸運河(ジェトロ撮影)

2024年8月末現在、平陸運河の累計投資額は約 387億7,000万元となり、投資予定総額の53.3%に達した。累計土石掘削量は約2億2,300万立方メートルで、全工程の65.6%に達した。広西チワン族自治区欽州市の王雄昌市長は「欽州市は平陸運河建設の『主戦場』だ。平陸運河の約90%は欽州市にあり、3つの閘門(こうもん、注3)と海への出口も欽州市にある。運河は市の北から南へ流れ、欽州市の土地空間、都市パターン、交通網と産業配置などを根本的に再編するだろう」とコメントした。

運河完成後、広西チワン族自治区をはじめ、中国の西南地域の内陸部は海上へ直接つながるルートを持つことになり、ASEANの商品も中国に入りやすくなる。長江と珠江を利用したルートの混雑を緩和するため、平陸運河は長期的には現在研究・実証中の湘桂運河(注4)と接続し、長江、珠江、北部湾を縦に貫き、南西部、中南部地域から直接ASEANへつなぐ計画がされている。同自治区交通運輸庁によると、平陸運河の貨物輸送量は2035年に約9,550万トン、2050年には約1億2,000万トンに達すると予想されている。


建設中の青年閘門(ジェトロ撮影)

注1:
主要ルートは、重慶市から貴州省、広西チワン族自治区を経由して、東南アジアに至るルートと、重慶市から雲南省を経由して、東南アジアに至るルート。その他、重慶市から湖南省を経由するルートや、成都市を起点とするルートもある。
注2:
U字型ヤード荷役工法では、ヤード内のコンテナが通過する通路がU字型になり、陸地側からヤードに搬入されたコンテナは、海側の突き当りでUターンし、ヤード内の目的箇所に直接向かうことができる。IGVはU字型レーンの端に沿って作業するため、コンテナトラックと互いに干渉することなく、効率的に作業をすることができる。
注3:
水位差などを調整するため、平陸運河は沿線に馬道、企石、青年の3つの閘門(こうもん)を設置し、航行を保障している。
注4:
湖南省の永州市から広西チワン族自治区の桂林市を結ぶ全長約300キロの運河。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
高 文寧(がお うぇにん)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部、ジェトロ・マドリード事務所、ジェトロ名古屋、ジェトロ・大連事務所などを経て、2023年11月から現職。