石油・ガス業界、CCSと低炭素燃料をGHG削減の切り札に(カナダ)
当地脱炭素化の今後を探る

2024年2月19日

カナダ政府は2023年12月、石油・ガス部門で温室効果ガス(GHG)排出量に上限を設定する計画があることを発表した(2023年12月13日付ビジネス短信参照)。その狙いはもちろん、当該部門での脱炭素化を加速することにある。

現在時点で、そのGHG排出量削減目標は「前年の業界排出量の平均値以下」とされる(2023年9月27日付地域・分析レポート参照)。業界が一丸となって取り組まなければ、排出基準値が下がることもなく、成り行き任せな目標といえる。当部門では今後、政府主導で厳しい削減要求が課せられていくことになりそうだ。

もっとも、業界自体も、脱炭素化に向け精力的に取り組んでいる。本稿では、カナダの当該業界がGHG排出量削減に向けてどのように対応しているのか、解説する。

炭素回収・貯留(CCS)が切り札

脱炭素化に向けた施策について、当地業界はどう乗り切ろうとしているのか。切り札の1つと考えているのが、炭素回収・貯留(CCS)によるGHG排出量削減だ。

CCS事業は、アルバータ州とサスカチュワン州で先行開発が進められている。特にアルバータ州では、 (1)アルバータ・カーボン・トランクライン(ACTL/州政府が積極的に関与)や、(2)クエスト(シェル・カナダが主導)が知られている。

そのほか、(3)パスウエーズ・アライアンス(Pathways Alliance)も有力だ。カナダの大手オイルサンド企業6社が共同で、その事業を運営している。というのも、CCS事業では、必要な資金額や土地が極めて大きくなってしまいがちだからだ。個社が、そうした過大なリスクを負うのは避けたい。そこでアライアンスが取り扱い、各社共通の利益を創出できるようにした。この事業体では、a)オイルサンド事業からの二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに年間2,200万トン削減する、さらにb) 2050年までにCO2排出量を正味ゼロにする、という目標を掲げた。その達成に向けて、複数のプロジェクトを同時に進めている。

図1:パスウェイズ・アライアンスの炭素貯留地に向けたCO2輸送図
アルバータ州地図の概略を示した。フォートマクマレーからロイドミニスター付近までの総延長400Kmのパイプラインを構築しCO2を輸送する。CO2は州北部のオイルサンド採取地であるフォートマクマレー、その南に位置する超重油成分を通常原油へアップグレードするクリスティーナレイクエリア、さらに南にある、地中のオイルサンドから原油回収を行っているコールドレイクで発生する。それを400kmを超えるパイプラインで輸送し、同州中部のエドモントン付近のロイドミニスターで地中深くに埋め込み、貯留する。

出所:カナダエネルギーセンターの情報を基にジェトロ作成

当該事業では、CO2を安全かつ恒久的に地下貯蔵する必要がある。そのため図1のとおり、オイルサンド採取地から炭素貯留のハブまでCO2輸送ラインが敷設される予定だ。まずは、複数のオイルサンド施設からCO2を回収する。それをアルバータ州コールドレイク地域のハブまで運び、貯留する。このCCSネットワークにより、オイルサンド事業に由来する正味CO2排出量削減が期待できる。2050年までに年間4,000万トンに拡大する見込みだ。こうして、CO2排出量の「正味ゼロ」が見えてくる。

提案されているパスウェイズ・アライアンス計画の第1段階では、2030年までに241億カナダ・ドル(約2兆6,510億円、Cドル、1Cドル=約110円)以上、投資する予定だ(2022年10月17日付ビジネス短信参照)。そのうち約165億Cドルは、CCSネットワークをサポートするために用いられる。残りは、排出削減に関係する技術開発などに充てられる。そうしたプロジェクトは50以上ある。(1)コジェネレーション(注1)、(2)オイルサンド原位置回収技術(注2)、(3)先進的なCCSの研究・試験、(4)低排出燃料転換試験、(5)小型モジュール炉(注3)の実現可能性研究などは、その一例だ。

CCSへの期待が高いのは、アルバータ州に限らない。いまや、カナダ他州でも多くの事業が計画されている。2020年時点で、CCSに基づくCO2削減は、アルバータ州とサスカチュワン州だけでしか講じられていなかった。またその削減量も、前者で年間230万トン、後者90万トン、合計320万トンにすぎなかった。しかし、カナダのシンクタンクのナビウス・リサーチによると、2035年にはより多くの州に広がるようになる。また、貯留可能量も年間3,000万トンと、2020年時点の約10倍に拡大するという。2050年には、貯留可能量はカナダ全体で3億900万トンに達する見込みだ。

図2:ネットゼロに向けたカナダの2050年CO2貯留量シナリオ
2050年にカナダ全体でCO2貯留が3億900万トンに達するとの見込みである。具体的にはアルバータ州の1億9,700万トンを筆頭にオンタリオ州で6,400万トン、サスカチュワン州で2,100万トン、ケベック州で1,600万トン、ブリティッシュコロンビア州で570万トン、マニトバ州で480万トンのCO2を年間貯留可能と予想されている。

出所:ナビウス・リサーチの情報を基にジェトロ作成

再生可能ディーゼル需要に伸び

カナダ政府は2022年6月、クリーン燃料規制(Clean Fuel Regulation)を発表した。この規制が狙うところは、燃料の脱炭素化だ。すなわち、ライフサイクルベースでの燃料別の炭素強度(注4)を下げ、脱炭素化を進めることが目的になっている。炭素強度を低下するには、化石燃料を使用した上でCCSによってCO2排出量を削減する方法もある。しかし、ここではバイオ系原料から製造する再生可能燃料に注目して動きを追う。CCS以上に、炭素強度が大幅に低減できるからだ。

カナダで近年使用実績のあるバイオ系再生可能燃料と言えば、(1)バイオディーゼルと(2)再生可能ディーゼルだ。図3のとおり、バイオディーゼルは2010年以降で需要が大きく立ち上がった。とは言え2013年以降は、需要が飽和しつつある。一方で再生可能ディーゼルは、立ち上がりこそ緩やかだった。しかし、需要が順調に増え続けてきた。2022年時点では、バイオディーゼルの需要を上回っている。

図3:バイオディーゼル、再生可能ディーゼル、従来型ディーゼル燃料の
需要推移比較
バイオディーゼル、再生可能ディーゼル、および従来のディーゼル燃料の需要推移を比較した折れ線グラフ。左辺にバイオディーゼル、再生可能ディーゼル(千バレル/日)の需要量、右辺に従来のディーゼル燃料(千バレル/日)の需要量を示す。横軸は2009年から2022年までの時系列で、それぞれの燃料の変化を折れ線グラフで示した。2010年時点ではバイオディーゼルの方が再生可能ディーゼルよりも需要が大きかったが、バイオディーゼルは2013年を境に成長が鈍化、その後2021年に至るまで6,000バレル/日程度で推移しているる。反対に、再生可能ディーゼルは、2015年に需要が500バレルほど低下したものの、その後は成長を続け、2019年にバイオディーゼルの需要を超過。2021年時点ではバイオディーゼルに1,000バレル以上の差をつけている。なお、従来のディーゼル燃料の需要はいまだに健在で、2010年から2021年に至るまで、50万バレル前後で推移し続けている。

出所:カナダ政府エネルギー局

この背景にあるのは、再生可能ディーゼルの使い勝手の良さだろう。

バイオディーゼルは、植物油と鉱物油脂をトランスエステル化(注5)することによって製造される。欠点の1つが、低温時に固まりやすいことだ。また、一般的には、従来型ディーゼル燃料と混合して使用せざるを得ない。しかも、その混合比が低く抑えられる場合が多い(20%程度)。

一方、再生可能ディーゼルは、植物油や鉱物油脂を原料にする点でバイオディーゼルと同様。大きく異なるのは、石油燃料製造時の脱硫(注6)に使用する水素化処理(注7)を経て製造されることだ。すなわち、既存の石油精製設備を再生可能ディーゼル製造に転用することが可能になる。当該業界が注目している理由としては、このことが大きいだろう。また、製造された再生可能ディーゼルは、従来ディーゼル燃料と化学組成的にほぼ変わらない。つまり、低温凝固や従来燃料との混合比などを気にすることなく使用できる。

2021年時点で、従来ディーゼル燃料に対する需要は再生可能ディーゼルの約60倍になっている(図3参照)。この需要差を縮めるためには、再生可能ディーゼルをさらに大規模に、かつ低コストで製造できるようにする必要がある。さらにそのためには、(1)バイオ原料の多角化(原料確保に伴うリスクを低めるため)、水素の低コスト化(水素化処理には水素を要す)、(3)製造プロセスの低コスト化など、課題が多い。

表1:カナダの石油・ガスメーカーが進める再生可能燃料事業(―は値なし)
会社名 設備 再生可能燃料 生産能力(1,000バレル/日) 生産
開始
備考
インペリアルオイル
(Imperial Oil)
ストラスコナ製油所 再生可能ディーゼル 20 2025 アルバータ 現ストラスコナ製油所内に建設。
ブラヤ再生可能燃料
(Braya Renewable Fuels)
ブラヤ製油所 再生可能ディーゼル 18 2024 ニューファンドランド・ラブラドール 旧カムバイ チャンス製油所。クレストファンドマネージメントがサポート。
協同組合連合会
(Federated Co-operative Limited : FCL)
コープ製油所/石化プラント 再生可能ディーゼル 15 2027 サスカチュワン FCLのレジーナ製油所に隣接して建設。
コベナントエナジー
(Covenant Energy)
コベナントエナジー製造所 再生可能ディーゼル 6.5 2024 サスカチュワン
タイドウオーター・リニューアブルズ
(Tidewater Renewables)
プリンス・ジョージ製油所 再生可能ディーゼル 3 2023 ブリティッシュコロンビア ブリティッシュコロンビア州政府が、100万ドルの補助金でサポート。
シェル、サンコー、エネルケン、プロマン共同事業
(Shell, Suncor, Enerkem, Proman)
バレネス製造所 再生可能ディーゼル 2.1 2025 ケベック
パークランドエナジー
(Parkland Energy)
バーナビー製油所 再生可能ディーゼル 2 2021 ブリティッシュコロンビア キャノーラ油、牛脂等のco-processing生産拡大計画は中止。
シェル・ベンチャーズ
(Shell Ventures)
ソンブラ製造所 再生可能ディーゼル 0.5 生産中 オンタリオ フォージハイドロカーボン(Forge Hydrocarbons)がサポート
サンコーエナジー
(Suncor Energy)
セントクレア工場、ほか 低炭素エタノール 6.8 生産中 オンタリオほか
セノバスエナジー
(Cenovus Energy)
ミネドーサ工場 低炭素エタノール 0.1 生産中 マニトバ

出所:政府情報や各社ウェブサイト

当地石油・ガス会社はすでに、再生可能燃料生産に向けて取り組みを進めている。その多くが、自社製油所を最大限活用する再生可能ディーゼル製造プロジェクトになっている(表1参照)。例えばインペリアルオイルは、自社ストラスコナ製油所内で再生可能ディーゼルを製造する予定だ。2025年から、カナダで最大の規模(1日2万バレル)を製造予定という。生産規模では、ブラヤ再生可能燃料や協同組合連合会が続く。両者とも、1日1万5,000バレル以上の生産計画がある。これらプロジェクトが全て立ち上がり、順調に生産移行できると、2022年時点で需要のある再生可能ディーゼル量の2倍を石油・ガス会社だけで生産できることになる。なお、再生可能ディーゼルの製造では、水素化処理するため水素が必要になる(先述)。このため、これら企業の近隣には水素生産基地が置かれている。

一方、低炭素エタノールの製造も視野に入れる企業もある。市場で、低炭素エタノールはガソリンのブレンド剤として使用される。そのため、E10燃料(注8)など、すでに需要が非常に大きい。エタノール製造時のCO2をCCSで処理すると、炭素強度をさらに低下できる。GHG排出量削減に、大幅に貢献できることにつながる。具体的には、サンコーエナジーなどが精力的に取り組んでいる。

製造方法に応じ水素に色分け

カナダは、水力など再生可能エネルギー(再エネ)が豊富な土地柄だ。すなわち、グリーン水素の製造に適する。さらに、水素原料になる天然ガスも潤沢。そうしたことから、水素事業には早くから目がつけられてきた。現在では商社や投資会社を巻き込んで、多くのプロジェクトが連邦・州ベースで進められている。脱炭素化を迫られる当地エネルギー企業の関心も高い(2023年6月9日付地域・分析レポート参照)

水素は、製造方法に応じて色分けされる。その概略を示したのが表2だ。7種類の水素のうち、グレー水素とブラック水素以外は、再エネ(低炭素な水素)として認知されている。カナダは天然ガスの豊富さに加え、CCS開発も活発だ。そのことから、当該業界脱炭素の取り組みを進めるためには、ブルー水素が最も現実的なオプションになる。安価かつ大量に生産できるからだ。

また最近は、ターコイズ水素も注目を浴びている。原料として天然ガスを使用するところは、ブルー水素と変わらない。しかし、水との接触分解ではなく、天然ガスの熱分解によって水素を製造するところに相違がある。副次生産物は固体のカーボンブラック(炭素主体の微粒子)だ。すなわち、CCSによるCO2貯留が不要(固体なので、大気に放出されない)という点に大きなメリットがある。また、カーボンブラックはタイヤ製造などの原料になる。再利用可能な資源でもある。そのため、水素製造のトータルコスト低減にも貢献できる。

表2:水素製造の原料、製法比較(―は値なし)
水素の種類 原料 製造方法
グリーン水素 再エネで電気分解。
ピンク水素 原子力エネルギーで電気分解。
ブルー水素 天然ガス 天然ガスと水を接触改質。副産物のCO2をCCS処理。
ターコイズ水素 天然ガス 天然ガスを熱分解。副産物はカーボンブラック。
グレー水素 天然ガス 天然ガスと水を接触改質。副産物のCO2を大気放出。
ブラック水素 石炭 石炭と水を接触改質。副産物のCO2を大気放出。
ホワイト水素 天然に存在(製造不要)

出所:H2 Bulletinからジェトロ作成

石油や天然ガス資源を産出しない州に多くの水素プロジェクトがあるのも、水素には各色あるためだ。例えばオンタリオ州などでは、原子力発電を使用してピンク水素を製造。そのほか多くの州で、水力などの再エネを利用してグリーン水素のプロジェクトが進展している。

一方、最近にわかに脚光を浴びているのがホワイト水素(自然界に存在する天然水素)。最近の研究により、地中の奥深くに天然水素を多く含んだ水が存在する可能性が見えてきた。今後の調査や研究の進捗が注目される。

石油・ガス会社が取り組む水素生産とは

図4は、カナダの水素需要を照らし合わせ、低炭素な水素製造に必要な天然ガス量や電気分解に必要な電力量をエネルギー換算して、2050年までの必要量を示した結果だ。なお、「天然ガスを水で接触分解、CCS処理(ブルー水素)」の項には、CCSに必要なエネルギー量を含む。

例えば、ブルー水素を製造する上で必要な天然ガスの需要量は、2030年に19ペタジュール(PJ、注9)になる見込み。それが、2040年に338PJ、2050年には422PJに増加する。

一方で、グリーン水素製造に要する電力は、2030年2PJ、2040年71PJ、2050年252PJ。さらに電力網からの電気分解による電力は、2030年0.5PJ、2040年20PJ、2050年70PJ。いずれも増加見込みとは言え、どの年をとっても天然ガスの需要には及ばない。

図4:低炭素な水素製造に要する天然ガスと電力(再生可能、電力網)の
需要量比較(熱量換算)
カナダの水素需要に照らし合わせた、水素製造に必要な天然ガス量や、電気分解に必要な電力量をエネルギー換算して、2050年までの必要量を示したもの。縦軸は水素製造に必要なエネルギー量をペタジュール(1,000兆ジュール)で積み上げ、横軸は2020年から2050年まで1年単位の時系列を表す棒グラフとなっている。必要なエネルギー量は水素の種類によって示されており、1つは天然ガスを水で接触分解、CCS処理するブルー水素、2つ目は再生可能エネルギーで電気分解するグリーン水素、3つ目は送電線からの電気で電気分解するグリーン水素である。ただし、グリーン水素とされるものの送電線網が再生可能電力のみで構成されているかは不明。2028年まではいずれの水素も需要が非常に小さいが、2029年よりブルー水素が最大の伸びを見せ、次点に再生可能エネルギーで電気分解するグリーン水素、その次に送電線からの電気で電気分解するグリーン水素の順に成長し、2034年には100ペタジュール、236年には200ペタジュール、2038年に300ペタジュール、2040年に400ペタジュール、2043年に500ペタジュール、2024年には600ペタジュール、2046年には700ペタジュールのエネルギー需要が発生するとされている。

出所:カナダ政府エネルギー局

このように、水素製造にあたっては、主に天然ガスを原料にすることを前提として予測されている。そう考えると、水素製造に関して石油・ガス業界の存在感は依然として大きい。そこで、カナダの当該業界企業による水素製造プロジェクトについてまとめた(表3)。

2020年10月に政府が発表した「カナダ連邦政府水素戦略」では、2030年に年間400万トンの低炭素な水素製造を目指すことを記載している。政府が発表したところ、現在の水素生産量は年間300万トンだ。つまり、目標達成には追加で100万トンの生産量が必要になり、かつ現状グレー水素の場合はCCS等の対策を行いブルー水素へと変換する必要がある。しかし、表3に掲出したプロジェクトから得られる製造量は、明確なものだけに限ると年間25万トン程度にしかならない。換言すると、残りの75万トンの生産を別途検討が必要ということになる。もっとも、水素生産に向け、当地石油・ガス会社が原料を供給する一方、自らが直接生産するわけではない(他社が製造)というパターンも考えられる。そうした例は、今後増加していくことだろう。

表3:カナダの石油・ガス会社が取り組む水素製造プロジェクト例
会社名 提携先 生産予定量
(万トン/年)
生産方法 生産場所
シェル・カナダ
(Shell Canada)
三菱商事 16.5 ブルー水素 エドモントン
(アルバータ)
アービングオイル
(Irving Oil)
プラグパワー
(Plug Power)
7.3 グリーン水素 セントジョーンズ工場
(ニューブランズウィック)
インペリアルオイル
(Imperial Oil)
エアプロダクツ
(Air Products)
1.4 ブルー水素 エドモントン
(アルバータ)
サンコーエナジー
(Suncor Energy)
フォーティスビーシーエナジー
(Fortis BC Energy)
0.25 ターコイズ水素 バラード製品基地内
(ブリティッシュコロンビア)
コノコフィリップスカナダ(Conoco Phillips Canada) エコナパワー
(Ekona Power Inc)
未定 ターコイズ水素 バンクーバー近郊
(ブリティッシュコロンビア)

出所:各社ウェブサイト

現有設備を利用してコプロセッシング

最後に、コプロセッシング(Co-Processing)について触れる。これは、製油所で原油以外の原料を活用し、炭素強度を低下させる手法だ。「原油以外の原料」としては、例えば、バイオ原料(木くずなど)や、再利用可能な廃棄プラスチック、廃棄タイヤなどが考えられる。これらを燃料資源として再利用するということになる。廃棄プラスチック(通常は固体)については、製油プロセスに投入に先立ち、熱分解による液化など前処理工程を要する。一方、キャノーラ油など、液体系のバイオ資源の場合、前処理不要と考えられる。

コプロセッシングは、現有の製油所設備をそのまま利用できる。石油・ガス業界にしてみると、コストを抑制しながら炭素強度削減を実現する上で、現実的な技術と言えるだろう。ASTM D02会議(2023年12月開催、注10)でも、各種バイオ原料を用いたコプロセッシングによる燃料製造と、その規格化に向けた進捗状況が報告された。その場での聴衆の関心は、非常に高かった。

脱炭素化というと、電気自動車(EV)など、モビリティーの電動化を想像しやすい。しかし、実際は一択で解決できるほど簡単ではない。GHG排出規制が今後さらに厳しくなるカナダで、業界も大きく業態を転換していく必要がある。

課題は明確だ。多方面での炭素強度低減に少しずつでも取り組むことが最も現実的で、各種経済活動への影響も最低限に抑えることができる。今後も業界の動きに注目していきたい。


注1:
コジェネレーションとは、天然ガスや石油、LPガスなどを利用して火力発電する際、排熱も同時に回収するシステムのこと。回収した排熱は、熱源や冷暖房など、さまざまな用途に使われる。
注2:
「オイルサンド原位置回収」は、汚染物を処理する上での技術の1つ。汚染土壌を掘削せずに、汚染地盤に清水や薬剤などを注入したり、汚染地下水を揚水・回収したりする。低コスト、低環境負荷で処理可能。
注3:
小型モジュール炉は、小型核分裂炉の一種。幾つかの要素に分けて製造するブロック工法によって完成することができる。
注4:
炭素強度とは、エネルギー消費当たりのCO2排出量のこと。
注5:
トランスエステル化とは、エステルとアルコールとを反応させることにより、両者の主鎖部分を交換すること。
注6:
脱硫とは、石油やガスなどの原料や製品から硫黄分を除去すること。利用に伴う有害作用を減らす(硫黄酸化物などを発生させない)のが、その目的。
注7:
水素化処理とは、石油精製で種々の留分炭化水素に水素を添加すること。硫黄、窒素、金属分などを除去する工程・プロセスとも言える。
注8:
E10燃料とは、ガソリンにバイオエタノールを体積比で10%混合した燃料のこと。
注9:
ジュールは、熱量エネルギーの単位。また、テラは10の12乗、ペタは10の15乗を表す。
注10:
ASTM D02会議は、燃料や潤滑油の製造や当該製品に関わる米国基準など、規格を議論・承認する場になっている。
なおこの会議は、ASTMインターナショナルが開催した。ちなみにこの機関は、民間規格を制定する世界最大級の非営利団体。
執筆者紹介
ジェトロ・トロント事務所
小鹿野 哲(おがの さとし)
民間企業勤務を経て、2022年10月からエネルギー担当ディレクター。
石油エネルギー技術センター(JPEC)の共同事務所として活動。