R&D・買収加速で競争力強化
化粧品分野にも国産の波(中国)(2)
2024年2月21日
本連載では、中国の国産化粧品について追う。「化粧品分野にも国産の波(中国)(1)ブームに伴い、政策整備」では、当該品市場の現状・展望や政策・制度などに焦点を当てた。今回の記事では、企業の具体的な動きなどについて概観する。
研究開発投資を強化
前編で紹介した通り、近年、国産化粧品を扱う企業が急激に増加。それに伴い、競争が激化している。各企業は、競争の激しい市場環境で優位性を維持する必要に迫られている。そのため、研究開発を重視する傾向があるようだ。
これを検証するため、中国の株式市場に上場する大手化粧品企業5社について、確認してみる。その直近3年間の研究開発(R&D)費と営業収入R&D費比率(注1)の推移は表1の通りだ。R&D費では、上海家化聯合を除く4社が3年連続で投資額を増加させた。
これに対して、2022年の営業収入R&D費比率には、ばらつきがある。華熙生物科技(注2)が6.10%と最も高かった一方、水羊集団(注3)は1.88%だった。とは言え、中国企業の研究開発意欲は基本的に高い。2023年上半期の財務データから読み取ると、主要国産ブランドの当該比率は3.5%程度に達している。対して、当地に拠点を置く外資化粧品大手の比率は平均1.5%~3.5%にとどまる(2023年9月25日付「証券市場週刊」)。国産ブランドの方が、R&Dをより重視していることがわかる。
企業名 | 研究開発費(単位:億元) | 営業収入研究開発費比率 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
2020年 | 2021年 | 2022年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
華熙生物科技 | 1.41 | 2.84 | 3.88 | 5.36% | 5.75% | 6.10% |
雲南貝泰妮生物科技集団 | 0.63 | 1.13 | 2.55 | 2.61% | 2.99% | 5.55% |
珀莱雅化粧品 | 0.72 | 0.77 | 1.28 | 1.92% | 1.65% | 2.00% |
上海家化聯合 | 1.44 | 1.63 | 1.60 | 2.15% | 2.27% | 2.50% |
水羊集団 | 0.48 | 0.66 | 0.89 | 1.28% | 1.32% | 1.88% |
出所:各社発表の決算書を基にジェトロ作成
では、国産ブランド各社はこれまで、どのように動いてきたのか。その事例をみると、特に2020年以降、研究開発に力を入れ始めるようになったようだ。
- 珀莱雅化粧品/2003年設立、浙江省杭州市に本社
2008年に中国研究開発イノベーションセンターを建設。2021年に国際科学研究院を新設した。さらに2023年には、上海研究開発センターと杭州龍塢研究開発センターを相次いでオープンした。 - 雲南貝泰妮生物科技集団/化粧品の研究開発・製造事業者
2022年に革新原料研究開発センターを新設した。革新的な原料を自主研究開発し、基礎研究を強化するのが、その狙い。 - 上海家化聯合/2023年で創業126年
2020年に研究開発プラットフォームを設立した。同社によると、その結果、2022年の専利(注4)出願件数が2019~2020年から倍増。また2020~2022年の同出願件数を2017~2019年と比較すると、57%増になる。 - 水羊集団(既述)
2023年上半期、20余りの専門研究開発実験室を設立した。処方開発実験室、効能メカニズム実験室、植物組織培養研究実験室、分子生物学分析実験室などが、その一例。
自社内の研究開発を強化する動きだけではない。産学連携に取り組む事例も見られる。
- 広州逸仙電子商務(注5)と上海交通大学医学院付属瑞金病院
2023年6月、「瑞金病院・逸仙集団医学スキンケア連合実験室」を共同で設立。皮膚科学に基づくスキンケア製品の研究開発を開始した。 - 上海上美化粧品と上海交通大学
2023年上半期、共同で「スキンケア機能原料連合研究開発センター」を設立。生体分子設計、植物分子改造などの分野で、新たな試みに取り組む。
機能性スキンケア製品が急成長
健康に対する消費者の意識は近年、一層高まってきた。特に新型コロナウイルスの流行が契機になったと言えるだろう。その結果、スキンケア製品の中でも機能性スキンケア製品(注6)に注目が集まるようになった。華経産業研究院(産業研究機関)が2023年10月付で発表したところ、当該業界の成長率は、スキンケア製品業界全体をはるかに上回っている。中国の機能性スキンケア製品の市場規模は、2022年時点で418億6,100万元(約8,372億円、1元=約20円)。2023年には、前年比16.8%増と続伸。489億900万元に達すると見られている。
民間調査会社のiResearch(艾瑞諮詢)は2021年9月、機能性スキンケア製品に関してアンケート調査を実施した。この調査では、「3年前と比べ自身のスキンケアに対する考え方が変化した」とした回答者が約8割に上った。当該回答者にはさらに、どのような考え方が変化したのかも聞いている。最も多かったのが「成分と機能」で、約8割を占めた。これに、「安全性」「ブランドの知名度」が続いた(複数回答)。また、機能性スキンケア製品に求める具体的な機能の上位3位は、「アンチエイジング」「水分補給」「美白」だった(複数回答)。
こうした化粧品の機能性に対するニーズの高まりに伴い、機能性スキンケア製品事業が国産ブランドの成長源になっている。例えば、前述の華熙生物科技は、消費者向けに機能性スキンケア製品シリーズを開発している。その具体的なコア成分は、皮膚のバリア機能の損傷、アンチエイジング、敏感肌、脂性肌など異なる肌トラブルに対し、ヒアルロン酸、ギャバ(GABA、γ-アミノ酪酸)、エクトイン、エルゴチオネインなどの生物活性物質とその誘導体だ。この事業は、展開し始めた2016年から急速に成長。売上高(営業収入)は、2016年の6,400万元から2022年の46億700万元へと大幅に増加した。特に2018年から2021年までの4年間は毎年、前年比100%増以上のペースで増加した。こうして、機能性スキンケア製品事業は日を追って同社の主力事業になる。その会社全体収入に占める比率は、2016年時点で8.71%に過ぎなかった。それが、2022年には72.45%に拡大した(「新浪財経」2023年9月6日)。
消費財調査研究機関「壱覧商業」の調査によると、2023年に化粧品業界で注目された投資分野は、機能性スキンケア製品開発に役立つバイオテクノロジーだ。2023年に化粧品分野で資金調達された49案件のうち、17件がバイオテクノロジー関連だった。
海外ブランドの買収に積極姿勢
国産ブランドは、化粧品ブランドの買収にも積極的だ。この点、ロレアルやエスティーローダーなど、外資化粧品大手企業と同様と言える。
化粧品業界雑誌「化粧品観察」(2023年8月10日付)で示された統計によると、2015年~2022年の間、国産ブランドによる海外ブランド買収案件は17件あった(表2参照)。より細かく見ると、2015年から2018年までは毎年1件程度にとどまる。それが、2019年から加速。2022年までの4年間で合計13件に上った。毎年平均3件増加した計算になる。そのうち、高級ブランドが7割程度を占める。
NO |
買収 時期 |
買収側 | 被買収側 | ||
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ブランド名 | 特徴 | 国名 | |||
1 | 2022年 | 水羊集団 | EDB | ハイエンドアンチエイジング | フランス |
2 | 2022年 | 上海深屹網絡科技(USHOPAL) | ARgENTUM | ハイエンドスキンケア | 英国 |
3 | 2021年 | 広州逸仙電子商務 | EVE LOM | ハイエンドスキンケア | 英国 |
4 | 2021年 | 珀莱雅化粧品 | Off&Relax | 頭皮ケア | 日本 |
5 | 2021年 | 北京話梅楽享科技(HARMAY) | Kevyn Aucoin | プロフェッショナル向けコスメ・美容ツール | 米国 |
6 | 2021年 | 上海深屹網絡科技(USHOPAL) | BULK HOMME | メンズスキンケア | 日本 |
7 | 2020年 | 広州逸仙電子商務 | Galénic | ハイエンドスキンケア | フランス |
8 | 2020年 | 復星国際 | WEI Beauty | ハイエンドハーバルスキンケア | 米国 |
9 | 2020年 | 上海深屹網絡科技(USHOPAL) | Juliette Has A Gun | ハイエンドフレグランス | フランス |
10 | 2019年 | 珀莱雅 | SingulaDerm | ハイエンドアンチエイジング | スペイン |
11 | 2019年 | 珀莱雅化粧品 | YNM | 低価格帯コスメ・スキンケア | 韓国 |
12 | 2019年 | 高浪控股 | Jean d’Estrées | ハイエンドサロン向けスキンケア | フランス |
13 | 2019年 | 高浪控股 | Sepai | アンチエイジング技術 | スペイン |
14 | 2018年 | 中信資本控股 | Trilogy | ナチュラルスキンケア・アロマ | ニュージーランド |
15 | 2017年 | 華熙生物科技 | Revitacare | ハイエンドスキンケア | フランス |
16 | 2016年 | 復星国際 | AHAVA | 死海ミネラルスキンケア | イスラエル |
17 | 2015年 | 広州環亜化粧品科技 | Mor | ハイエンドフレグランス | オーストラリア |
出所:「化粧品観察」を基にジェトロ作成
「化粧品観察」2023年8月10日付では、国産ブランドが買収に乗り出す意義を企業がどう捉えているのかについても触れた。
- 華熙生物科技(注2)
フランスの高級ブランドRevitacareを買収。「フランス製の高級なブランドイメージを通じて、より多くの製品やブランド、販売ルートを開拓する。それにより、一層国際的な競争力を高めていく」という。 - 水羊集団(注3)
同社は2022年7月、フランスの高級ブランド「エヴィドンス・ドゥ・ボーテ(EDB)」を買収した。戴躍鋒董事長は買収理由として、(1)高級ブランドを獲得できる、(2)先方の研究開発と製品ラインアップを気に入った、(3)海外の富裕層向けの販売ルートを獲得できる、(4)財務的影響(ブランドの営業収入と利益の状況が良い)、の4点を挙げた。
技術力とブランド力を向上するこうした取り組みなどを通じて、国産ブランドは競争力強化を図っている。実際、着実に成長を遂げてきたと言えそうだ。今後もハイテク、高機能、高級感などの面で、進化し続けるだろう。
競争の激しい中国市場で勝ち残るための課題は、外資ブランドにも共通する。すなわち、(1)技術力や開発力に磨きをかける、(2)現地消費者のニーズをいち早く察知する、(3)変化に合わせて商品を開発する、ことが不可欠なのだ。
- 注1:
- 営業収入に占める研究開発費の割合。
- 注2:
- 華熙生物科技は、バイオテクノロジー技術を強みとする化粧品大手企業。
- 注3:
- 水羊集団は、海外ブランドの販売代理業務を担う。
- 注4:
- 中国では特許、実用新案、意匠を含む。
- 注5:
- 「化粧品分野にも国産の波(中国)(1)ブームに伴い、政策整備」を参照。
- 注6:
- 機能性スキンケア製品は、一般的なスキンケア製品と皮膚科薬品の中間的な存在。有効成分により肌バリア機能を回復し、肌トラブルの解決を目的にする。例えば、水分補給、赤みを消す、ニキビ除去、美白、アンチエイジング、日焼け止めなどの機能が示されることが多い。
化粧品分野にも国産の波(中国)
- ブームに伴い、政策整備
- R&D・買収加速で競争力強化
- 執筆者紹介
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ジェトロ・広州事務所
汪 涵芷(オウ カンシ) - 2016年からジェトロ・広州事務所にて勤務。