韓国の貿易は転換点、対中・対米輸出は拮抗へ、対中貿易収支は赤字に

2024年2月20日

近年、韓国の輸出構造に大きな変化がみられる。従来、輸出の牽引役は対中輸出だったが、最近は対米輸出がその役割を担いつつある。半面、輸入には大きな変化は見られず、高い対中輸入依存度が経済安全保障上、課題となっている。

本稿では、韓国にとっての2大貿易相手国の中国・米国との貿易について、品目別に点検し、その実態に迫る。

2023年の韓国の貿易は転換点に

人口5,000万人強で内需に限界のある韓国は、輸出主導型で経済成長を遂げてきた。このような中、2023年の韓国の貿易は、輸出が前年比7.5%減の6,323億8,400万ドル、輸入額が12.1%減の6,425億9,300万ドルと、いずれも前年比減を記録した(2024年1月30日付ビジネス短信参照)。特に、輸出の不振が経済全体に影響した結果、2023年の実質GDP成長率は1.4%と、韓国としては低い成長率にとどまった。

ところで、こうした輸出入の総額の話とは別に、輸出入の内訳を相手国・地域別にみると、2023年の韓国の貿易が転換点を迎えたことが確認できる。ポイントは次のとおりだ。

  1. 輸出先をみると、輸出総額に占める対中輸出の割合が低下し、対米輸出の割合が上昇した結果、両者は20年ぶりにほぼ拮抗(きっこう)した。
  2. 相手国・地域別に貿易収支をみると、長年、巨額の黒字を計上してきた対中貿易収支が赤字に転落した。その半面で、対米貿易黒字は過去最高額を更新した。

まず、輸出先構成比をみると、2003年に米国を抜き、最大の輸出先となった中国は、2010年以降、25%前後の高い水準にあった。しかし、対中輸出の割合は2022年から急低下し、2023年には20%を切った(図1参照)。その一方、米国は近年、上昇傾向が続いている。その結果、2023年は対中輸出比率と対米輸出比率がほぼ拮抗することとなった。月別にみると、2023年12月に対米輸出額が対中輸出額を上回ったが、これは、2003年6月以来、20年6カ月ぶりだった。韓国では従来、「安美経中」という表現があった。「安全保障は米国(「美」は「美国」の略で、「米国」を示す)に依存、経済は中国に依存」という意味だ。しかし、ここへきて、安全保障も経済も米国に依存する「安美経美」にシフトしつつある。

図1:輸出総額に占める対米・対中輸出の割合の推移
韓国の輸出総額に占める対中輸出の割合は、2000年10.7%から2010年に25.1%に達し、その後も25%前後で推移した。しかし、2022年に22.8%に、2023年には19.7%に低下した。韓国の輸出総額に占める対米輸出の割合は、2000年21.8%から2011年に10.1%に低下した。その後は上昇に転じ、2023年には18.3%になった

出所:韓国貿易協会データベース

輸出先構成とともに、貿易収支の構造も変化した。従来、韓国は対中貿易で巨額の黒字を計上しており、対中貿易黒字が韓国の貿易黒字を支えていた(図2参照)。しかし、対中貿易黒字はこの10年間、減少傾向が続き、2023年には、中韓が国交を正常化した1992年に貿易赤字(10億7,130万ドル)を記録して以来、初めて貿易赤字を記録した。後述するが、対中輸出が振るわない半面で、対中輸入は増加傾向にあり、「出美入中(輸出は米国に依存、輸入は中国に依存)」といわれるようになってきた。高い対中輸入依存度は、韓国にとって経済安全保障上の課題となっている。他方で、対米貿易収支は黒字基調で、2023年は過去最大の黒字額を記録した。この2年間、韓国の貿易収支は赤字になっているが、そうした中でも、対米貿易黒字が韓国の貿易収支を下支える構造となっている。

図2:韓国の貿易収支の推移(米国、中国、米中以外別)
韓国の貿易収支は2000年から2021年までは、2008年を除き黒字だった。しかし、2022年は478億ドルの赤字、2023年は102億ドルの赤字となった。韓国の対中貿易収支は黒字が続いたが、黒字額は2022年12億ドルに激減、2023年は180億ドルの赤字になった。対米貿易収支は黒字が続き、2023年に445億ドルを記録した。米中以外との貿易収支は赤字の年が多く、2023年に366億ドルの赤字を記録した。

出所:韓国貿易協会データベース

ちなみに、2013年と2023年における国・地域別に貿易収支をみると、この10年間で大きく変わったのが中国のポジションだ(表1参照)。2013年には2位以下を大きく引き離す最大の貿易黒字相手国・地域だった中国が、2023年には逆に3位の貿易赤字相手国・地域になった。その他の主な貿易黒字・赤字相手の顔ぶれに大きな変化が見られない中で、中国のポジションが大きく変わったことは目を引く。さらに、2023年の対中貿易赤字額は3位だったが、2位の日本とほぼ同規模になっている点も注目すべきだ。韓国は素材・部品などの一定量を日本からの輸入に依存しているため、対日貿易収支は構造的に赤字が続いている。かつては対日貿易赤字の解消が韓国政府にとって大きな政策課題になるほどだった。その対日貿易赤字に匹敵する赤字を対中貿易で計上したわけだ。これは、韓国の対中貿易の構造が急速に変化していることを示している。一方、2013年に3位の貿易黒字相手国・地域だった米国は、2023年には2位以下を大きく引き離して、最大の貿易黒字相手国・地域になっている。

表1:韓国の貿易黒字・赤字相手国・地域ランキング(2013年、2023年)

(単位:億ドル)(△はマイナス値)

2013年

貿易黒字
順位 国・地域名 貿易収支
1 中国 628
2 香港 258
3 米国 205
4 ベトナム 139
5 シンガポール 119
6 メキシコ 74
7 マーシャル諸島 73
8 インド 52
9 フィリピン 51
10 トルコ 50
貿易赤字
順位 国・地域名 貿易収支
1 サウジアラビア △ 288
2 日本 △ 254
3 カタール △ 250
4 クウェート △ 176
5 アラブ首長国連邦 △ 124
6 ドイツ △ 114
7 オーストラリア △ 112
8 イラク △ 73
9 オマーン △ 38
10 フランス △ 25

2023年

貿易黒字
順位 国・地域名 貿易収支
1 米国 445
2 ベトナム 276
3 香港 234
4 インド 112
5 ポーランド 79
6 シンガポール 76
7 トルコ 76
8 ハンガリー 60
9 マーシャル諸島 60
10 メキシコ 46
貿易赤字
順位 国・地域名 貿易収支
1 サウジアラビア △ 274
2 日本 △ 186
3 中国 △ 180
4 オーストラリア △ 150
5 カタール △ 142
6 ドイツ △ 133
7 アラブ首長国連邦 △ 120
8 クウェート △ 91
9 イラク △ 67
10 チリ △ 64

出所:韓国貿易協会データベース

対中輸出は停滞が続く

それでは、こうした対中貿易、対米貿易の変化の理由は何であろうか。それを知るためには、品目別に詳しくみる必要がある。

まず、対中貿易の動向についてみてみよう。

韓国の対中輸出は2013年を境に局面が変化している(図3参照)。2013年以前は、対中輸出は2000年から2013年までの13年間で7.9倍に急増、金額では1,274億ドル増加するなど、増加基調が続いた。しかし、2013年以降の10年間は、それまでの増加傾向が一転し、趨勢としては横ばいだ。2023年は2013年に比べ、211億ドル少なくなっている。ちなみに、中国側の統計をみても、同様だ。中国海関統計によると、中国の輸入総額の増加基調が続く中で、対韓輸入は2010年代半ば以降、伸び悩んでいる。その結果、輸入総額に占める対韓輸入の割合は、2015年に10.9%を記録して以降、減少傾向にあり、2023年は6.3%にまで低下した。他の主要国・地域に比べて、中国の対韓輸入が停滞しているというわけだ。

図3:韓国の対中貿易の推移
韓国の対中輸出は2000年185億ドルから2013年1,459億ドルに達した後に伸び悩み、2023年は1,248億ドルにとどまった。韓国の対中輸入は2000年128億ドル、2022年1,089億ドル、2023年1,428億ドルを記録した。韓国の対中貿易収支は黒字が続いていたが2023年には180億ドルの赤字に転落した。

出所:韓国貿易協会データベース

韓国の対中輸出の停滞の原因として、最近の中国経済減速やメモリー半導体価格下落といった景気循環的な要因も挙げられるが、より重要なのは構造的な要因だ。2013年までの対中輸出増加局面では、中国の生産・輸出が増えるほど、中に組み込まれる中間財の対中輸出が増加した。しかし、その後、中国製造業企業の競争力向上により、韓国製中間財へのニーズが低下した。これが韓国の対中輸出停滞の最大の原因だ。ちなみに、民間シンクタンクの韓国貿易協会国際貿易通商研究院は、2023年6月に発表した「対中国輸出不振と輸出市場多角化推移の分析」の中で、「対中輸出の減少は、コロナ封鎖など中国の景気要因のみならず、中国の産業構造の変化による構造的要因が複合的に作用したものだ。中国の中間財の自給率が上昇し、韓国の対中中間財輸出が不振となっている」と述べている。

次に、対中輸出の停滞について細かくみるために、対中輸出を品目別にみてみよう(表2参照)。前述のとおり、2013年から2023年までの10年間で韓国の対中輸出は211億ドル減少している。当然、全ての品目が一律に減少したのではなく、品目によって増減はまちまちだ。この10年間で対中輸出が最も増加したのは半導体だ。増加額は2位以下の品目を大きく引き離している。ところで、半導体の対中輸出額は、2022年に521億ドルを記録した後、2023年には361億ドルに大幅に減少している。これは2022年から2023年にかけてメモリー半導体市況が悪化したことが影響している。それでも、2013年から 2023年までの10年間でみると、対中輸出を下支えした最大の品目は半導体だった。もし、半導体市況の悪化がなければ、半導体の対中輸出が対中輸出全体をさらに力強く下支えていただろう。

他方、対中輸出減少額が最も多かったのはフラットパネルディスプレー・センサー、次いで、自動車部品だった。

フラットパネルディスプレー・センサーは2013年の最大の対中輸出品目だった。輸出品は液晶パネルが中心だったが、その後、中国・地場の液晶パネル企業が伸長し、韓国企業の競争力が相対的に低下した結果、韓国企業はすでに韓国国内での液晶パネルの生産を中止している。それに代わり、現在は有機ELパネルに注力している。しかし、その有機ELパネルも、京東方科技集団(BOE)などの中国企業が競争力を高めつつあり、液晶パネルの二の舞になる可能性も否定できない。

自動車部品の輸出不振は、主に、在中韓国系自動車企業の現地調達率の引き上げと、中国での韓国ブランド車の販売不振によるものだ。後者に関連して、業界トップの現代自動車の中国におけるメーカー出荷ベース販売台数(ほとんどが現地生産)をみると、2016年の114万2,000台から2023年には24万5,000台に、8割近く減少している。中国市場での韓国ブランド車の販売不振の原因について、THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配置問題を巡る中韓関係悪化を指摘する向きもあるが、より根本的な原因は、中国・地場企業の競争力向上により韓国企業が市場地位を急速に失ってきたことにある。

結局、半導体以外の韓国の主要製品は、中国・地場企業の競争力向上により、中国市場での販売に苦戦するようになったというわけだ。

表2:韓国の品目別対中輸出(輸出額・輸出増減額上位5品目、2013年・2023年)

(単位:100万ドル)(△はマイナス値)

輸出

2013年
順位 品目名 金額
1 フラットパネル 25,537
2 半導体 21,670
3 石油製品 8,380
4 合成樹脂 7,726
5 石油化学中間原料 6,213
合計(その他を含む) 145,869
2023年
順位 品目名 金額
1 半導体 36,146
2 合成樹脂 7,174
3 無線通信機器 6,987
4 精密化学原料 6,232
5 フラットパネル 4,262
合計(その他を含む) 124,813

輸出増減額(2013~2023年)

増加
順位 品目名 金額
1 半導体 14,476
2 精密化学原料 5,005
3 石鹸・歯磨き・化粧品 2,472
4 無線通信機器 1,824
5 半導体製造装置 1,700
減少
順位 品目名 金額
1 フラットパネル △ 21,275
2 自動車部品 △ 4,882
3 石油製品 △ 4,722
4 石油化学合繊原料 △ 2,565
5 電子応用機器 △ 2,264

輸出増減額(2013~2023年)

合計(その他を含む):△ 21,057

注1:品目分類は、韓国独自分類のMTI3桁ベース。
注2:「フラットパネル」は、フラットパネルディスプレー・センサーの略。
出所:韓国貿易協会データベース

高い対中輸入依存度が経済安全保障上の課題に

対中輸出が停滞する一方で、対中輸入は増加傾向が続いている。特に、足元の2020年以降、対中輸入が急増している。2023年は前年比減となったが、それでも2020年に比べて340億ドル、輸入が増えている。品目別にみると、この間、対中輸入が特に増加したのは「精密化学原料」と「乾電池・蓄電池」で、この2品目で対中輸入増加分の5割弱を占めている(表3参照)。

表3:韓国の品目別対中輸入(輸入額・輸入増減額上位5品目、2020年・2023年)

(単位:100万ドル)(△はマイナス値)

輸入

2020年
順位 品目名 金額
1 半導体 18,763
2 コンピュータ 7,973
3 無線通信機器 6,308
4 精密化学原料 5,299
5 産業用電気機器 3,914
合計(その他を含む) 108,885
2023年
順位 品目名 金額
1 半導体 19,759
2 精密化学原料 14,254
3 乾電池・蓄電池 8,437
4 コンピュータ 6,521
5 無線通信機器 5,762
合計(その他を含む) 142,849

輸入増減額(2020~2023年)

増加
順位 品目名 金額
1 精密化学原料 8,955
2 乾電池・蓄電池 6,620
3 農薬・医薬品 2,384
4 鉄鋼板 1,701
5 産業用電気機器 1,363
減少
順位 品目名 金額
1 コンピュータ △ 1,452
2 船舶海洋構造物・部品 △ 1,254
3 繊維・化学機械 △ 787
4 無線通信機器 △ 545
5 その他繊維製品 △ 328

輸入増減額(2020~2023年)

合計(その他を含む):33,965

注:品目分類は、韓国独自分類のMTI3桁ベース。
出所:韓国貿易協会データベース

「精密化学原料」の内訳をみると、輸入増加分のほとんどを「その他精密化学原料」が占めている。「その他精密化学原料」は具体的には電池原料・材料を示す。また、「乾電池・蓄電池」の内訳をみると、輸入増加分のほとんどを、車載電池などの「蓄電池」が占めている。つまり、車載電池関連の輸入増が対中輸入増の大きな要因になっているわけだ。電池原料・材料を巡っては、世界の電気自動車(EV)市場の立ち上がりを受けて、韓国の自動車企業は韓国国内でEV生産を拡大している。そのため、車載電池の需要が増加し、車載電池生産に必要なリチウムや前駆体などの電池原料・材料の対中輸入が増えている。さらに、車載電池自体の対中輸入も増えている。車載電池の対中輸入は、従来、在中韓国系車載電池企業の生産品を韓国に逆輸入するパターンが中心だった。しかし、近年は中国企業が生産した車載電池の輸入も増えている。韓国企業が強い「三元系」電池に比べ、航続距離は短いが安価な「リン酸鉄系(LFP)」電池を採用する事例が出てきているためだ。LFP電池は、韓国企業は国内生産しておらず、もっぱら中国企業からの輸入に依存している。例えば、「聯合ニュース」(2024年2月6日)は「昨年発売された現代自動車の『コナ・エレクトリック』は中国製電池を搭載し、KGモビリティ(旧・双竜自動車)の『トーレスEVX』は中国・BYDのLFP電池を搭載した」と報じている。

しかし、電池原料・材料などの過度な中国への依存は、次の2つの理由により、韓国にとって課題となっている。1つは、中国からの輸入が停止した場合、韓国企業の生産に大きな影響が及ぶことだ。もう1つは、米国市場での販売については、米国インフレ削減法(IRA)の要件により、中国企業がコバルト・リチウムなどの重要鉱物の抽出・加工・リサイクルを行った車載電池を搭載したEVが、2025年から購入者の税額控除の対象から除外されることだ(2023年12月6日付ビジネス短信参照)。前者により、サプライチェーン強靭(きょうじん)化のためには、輸入先の多角化や国産化により中国依存度を低める必要がある。後者については、サプライチェーンの「脱中国」が必要だ。

前者について、実際に高い対中輸入依存度による韓国のサプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性が露呈する事態も起きている。例えば、中国政府は2023年10月20日、黒鉛の輸出を12月から許可制にすると発表した。韓国は黒鉛輸入の大部分を中国に依存しているため、仮に、中国からの輸入が停止した場合、車載電池の生産に、ひいてはEVの生産に甚大な支障が生じることになる。そのため、中国政府の発表を受けて、韓国政府・企業は対応に追われることになった。さらに、電池原料・材料で対中輸入に依存しているのは黒鉛だけではない。車載電池用の正極材、負極材の主要な原料・材料をみると、幅広い品目で対中輸入依存度が高くなっている(表4参照)。

表4:対中輸入依存度が高い主要リチウムイオン電池材料・原料(2023年)(単位:1,000ドル、%)
項目 正極材 負極材
水酸化
リチウム
酸化
コバルト
硫酸
マンガン
ニッケルコバルトマンガン水酸化物(前駆体) 天然黒鉛 人造黒鉛
HSコード 2825.20.2000 2822.00.1091 2833.29.3010 2825.90.050 2504.10.9000 3801.10.1000
対中輸入額 4,926,882 41,930 279 2,809,263 91,098 96,581
輸入総額 6,186,032 58,055 435 2,899,733 93,029 101,358
中国/世界 79.6 72.2 64.1 96.9 97.9 95.3

出所:韓国貿易協会データベース

電池原料・材料以外にも対中輸入に依存している品目も少なくない。実際にサプライチェーンの問題が生じたのが、尿素だ。2021年10月末から11月にかけて、中国の尿素輸出停止により韓国の尿素水不足が深刻化し、韓国国内のトラック物流の停滞懸念が拡散した。韓国では尿素の全量を輸入に依存しているが、前年の2020年時点でみると、「肥料や肥料製造用以外の尿素(HS3102.10.9000)」の輸入総額の88.6%を対中輸入が占めた。これを教訓に、韓国政府・業界は高い対中輸入比率を引き下げるべく、輸入先の多角化を図ったはずだった。しかし、カタール、ベトナム、インドネシアなどからの輸入拡大で2022年に66.6%まで低下した対中輸入比率は、2023年には86.7%と、以前の水準に戻ってしまっている。その結果、2023年12月に、中国の尿素輸出停止の懸念が再燃し、2021年と類似の問題が生じてしまった。これは、地理的に近接している中国からの有利な輸送コストを含めた中国製尿素の価格競争力の高さや、サプライチェーンの「脱中国」の難しさを示した結果だ。ともあれ、サプライチェーン強靭化のためには、より一層、輸入先多角化、十分な在庫の確保、国産化などを進めていく必要があろう。韓国では最近、サプライチェーンに関連する法制度がようやく整ったことから、今後、それらに基づく政策が行われることになろう(2024年1月17日付ビジネス短信参照)。

足元で急増する対米輸出

次に、韓国の対米貿易をみてみよう。

韓国の対米輸出入は増加傾向が続いているが、特に、2020年以降、輸出が急増している。その結果、対米貿易黒字も急増している(図4参照)。

図4:韓国の対米貿易の推移
韓国の対米輸出は、2000年376億ドル、2020年741億ドル、2023年1,157億ドルを記録した。韓国の対米輸入は、2000年292億ドル、2020年575億ドル、2023年712億ドルを記録した。韓国の対米貿易収支は黒字が続いており、2023年には445億ドルに達した。

出所:韓国貿易協会データベース

直近の対米輸出急増の要因をみるべく、品目別に対米輸出をみた。その結果、自動車関連品目が対米輸出を牽引していることが確認できる(表5参照)。

表5:韓国の品目別対米輸出(輸出額・輸出増減額上位5品目、2020年・2023年)

(単位:100万ドル)(△はマイナス値)

輸出

2020年
順位 品目名 金額
1 自動車 15,758
2 半導体 7,457
3 自動車部品 5,494
4 コンピュータ 4,347
5 無線通信機器 3,054
合計(その他を含む) 74,116
2023年
順位 品目名 金額
1 自動車 32,204
2 自動車部品 8,087
3 石油製品 5,663
4 半導体 4,940
5 乾電池・蓄電池 4,831
合計(その他を含む) 115,710

輸出増減額(2020~2023年)

増加
順位 品目名 金額
1 自動車 16,447
2 乾電池・蓄電池 3,590
3 石油製品 3,337
4 自動車部品 2,593
5 精密化学原料 1,720
減少
順位 品目名 金額
1 半導体 △ 2,518
2 コンピュータ △ 2,437
3 無線通信機器 △ 802
4 光学機器 △ 134
5 嗜好食品 △ 131

輸出増減額(2020~2023年)

合計(その他を含む):41,594

注:品目分類は、韓国独自分類のMTI3桁ベース。
出所:韓国貿易協会データベース

品目別輸出額は2020年、2023年とも「自動車」が圧倒的に多く、同時に、この間の輸出増加額でも「自動車」が他の品目を大きく引き放している。さらに、輸出増加額をみると、2位に車載電池を中心とした「乾電池・蓄電池」が、4位に「自動車部品」がそれぞれランクするなど、自動車関連の品目が上位に並んでいる。なお、輸出増加額3位の「石油製品」は、主にジェット燃料油の価格上昇によるものだ。

「自動車」の中心は乗用車だ。HSコードでみると、乗用車(HS8703)の対米輸出は2020年から2023年にかけて164億ドル増加している(注1)。その内訳(HS6桁ベース)を寄与率で示すと、多い順に「電気乗用車(EV)(HS8703.80)」27.5%、「排気量1,000cc超1,500cc以下の乗用車(HS8703.22)」20.4%、「ハイブリッド乗用車(HS8703.40)」19.702%、「排気量3,000cc超の乗用車(HS8703.24)」19.699%、「排気量1,500cc超3,000cc以下の乗用車(HS8703.23)」7.4%、「プラグインハイブリッド乗用車(HS 8703.60)」5.2%となった。特徴的なのは、EVの輸出増加額が最も多かった点だ。実際に、2020年以降のEVの対米輸出額は急速に増加している(図5参照)。

図5:EVの対米輸出の推移(HS870380)
韓国の対米EV輸出は、2020年5億2,900万ドル、2021年7億3,700万ドル、2022年27億4,400万ドル、2023年50億4,700万ドルと、急増した。

出所:韓国貿易協会データベース

ところで、米国で2022年8月に成立したIRAの中で、EVを中心とする「クリーンビークル」(注2)購入者は1台当たり7,500ドルの税額控除が受けられる規定が盛り込まれたが、そのための条件として、「車両の北米での最終組み立て」が課せられた。韓国企業はクリーンビークルを全量、韓国から輸出しており、税額控除の条件を満たさない。そのため、当初、韓国側には危機感が広がった。しかし、2022年12月にリース車などが、税額控除要件の充足が不要な商用車に区分されることとなった。そこで、韓国企業は韓国製EVをリース車として販売する戦略に重きを置いた。それが奏功して、「2023年末現在、現代自動車・起亜が米国で販売したEVのうち、リース車の割合は約40%」(「聯合ニュース」2024年1月29日)となった。こういった巧みな販売戦略により、韓国製クリーンビークルの米国販売は当初の憂慮とは異なり、順調に増加した。ちなみに、韓国・産業通商資源部の発表(2024年1月16日)によると、2023年の韓国の対米クリーンビークル輸出台数は前年比70%増の14万4,000台に達した。また、韓国の各メディアは、2023年の米国EV市場で現代自動車グループ(現代自動車・起亜)の販売台数がゼネラルモーターズ(GM)、フォードなどを押さえ、テスラに次ぐ2位を記録した、と報じた。さらに、対米輸出増加額が2番目に多かった「乾電池・蓄電池」の主体がEV向け車載電池であったことを考えると、IRAによるEV市場の拡大や米中サプライチェーン分断が韓国の対米輸出拡大の大きな牽引役になったということができる。

現在、韓国の自動車メーカーや車載電池・同関連メーカーは、米国EV市場の拡大とIRAを受けて、米国現地生産化を急いでいる(2023年9月25日付地域・分析レポート参照)。現地生産化により、韓国の対米輸出は部分的に米国現地生産に代替されよう。しかし、韓国は米国と自由貿易協定(FTA)を締結しており、IRAの「重要鉱物要件」を満たすために、韓国で電池材料を生産して対米輸出するというビジネスの流れは依然として有効だ。実際、韓国では現在、関連企業の生産施設の新増設が相次いでいる。今後、米国EV市場が拡大し、韓国自動車企業・車載電池関連企業の米国現地生産が本格化すれば、それにより電池材料などの対米輸出が新たに誘発されよう。

なお、対米輸入は基調に変化がなく、一貫して増加が続いている。そこで、輸出に合わせて、2020年以降の変化に焦点を合わせた。主要な輸入品目は、原油をはじめとしたエネルギー資源や、半導体製造装置、航空機・部品などで、顔ぶれに変化は見られない。他方、輸入が増加した品目としてエネルギー資源が上位を占めている。これは、この間のエネルギー資源価格の上昇を反映したものだ(表6参照)。

表6:韓国の品目別対米輸入(MTI3桁ベース、2020年・2023年)

(単位:100万ドル)(△はマイナス値)

輸入

2020年
順位 品目名 金額
1 原油 5,390
2 半導体製造装置 4,629
3 半導体 3,450
4 LPG 2,930
5 航空機・部品 2,609
合計(その他を含む) 57,492
2023年
順位 品目名 金額
1 原油 12,319
2 半導体製造装置 4,850
3 LPG 4,457
4 天然ガス 4,123
5 航空機・部品 3,745
合計(その他を含む) 71,247

輸入増減額(2020~2023年)

増加
順位 品目名 金額
1 原油 6,929
2 天然ガス 2,029
3 LPG 1,527
4 航空機・部品 1,136
5 農薬・医薬品 841
減少
順位 品目名 金額
1 植物性物質 △ 442
2 石油製品 △ 389
3 半導体 △ 386
4 光学機器 △ 378
5 石油化学中間原料 △ 300

輸入増減額(2020~2023年)

合計(その他を含む):13,755

注:品目分類は、韓国独自分類のMTI3桁ベース。
出所:韓国貿易協会データベース


注1:
MTIコードで最も詳細な6桁ベースでは、2021年以前の「ハイブリッド車」の輸出統計が捕捉できない。そこで、ここではHSコードで詳細にみた。
注2:
「クリーンビークル」は、バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の総称。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
百本 和弘(もももと かずひろ)
ジェトロ・ソウル事務所次長、海外調査部主査などを経て、2023年3月末に定年退職、4月から非常勤嘱託員として、韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。