「ジャパンデニム」を世界にPR(フランス)
2024年4月12日
瀬戸内海沿岸、岡山県・広島県にまたがる三備地域(備前・備中・備後)は、デニム関連企業が多数集積し、国産デニムの一大産地として知られている。なかでも有名なデニム産地としては福山、井原、倉敷、児島などが挙げられる。当該地域のデニム関連企業は海外ブランドに向けた発信を強化しているが、ここではその取り組みについて紹介する。
「ジャパンデニム」の一大産地である三備地域
備前地域に位置する岡山県倉敷市児島は、「国産ジーンズ発祥の地」とも呼ばれるが、江戸時代から綿の栽培が盛んとなったことから繊維産業に発展し、その後のデニム(生地)・ジーンズ産業の集積地の形成につながっていった。備中地域となる岡山県井原市は、「デニムの聖地」ともいわれ、江戸時代より藍が伝来したことにより藍染め織物の生産が開始され、繊維技術の発達につながった。備後地域である広島県福山市は、福山藩の奨励により江戸時代に綿の栽培が盛んとなり、備後絣(かすり)は愛媛県の伊予絣、福岡県の久留米絣と並び日本三大絣の1つとして知られるようになった。このようにして地域それぞれの歴史背景を持ちながらも、三備地域にはデニム生産に必要とされる染色・縫製・加工技術などの基礎が蓄積されていくこととなった。
デニム製品の生産に関わる全ての工程がそろい、それぞれの工程に強みをもつ企業が所在し、一貫した生産地となっている点が、他の地域にはない三備地域の強みであり、現在、三備地域におけるデニムの生産量は、業界によると全国シェア約8割を占めるといわれている。
海外販路の開拓を支援
三備地域の企業の持つデニム生産の技術力や製品力は、国内外の著名なファッションブランドから評価を得ており、世界に誇るデニムの産地となっている。生産事業者は、海外展示会への出展などを通じて、海外販路の拡大に向けた取り組みを強化している。
ジェトロ広島・ジェトロ岡山では、両県の自治体やファッション・アパレル分野に精通する専門家と協力し、同地域に所在する中堅・中小企業の海外展開を支援している。2023年度は「JAPAN Denimプロジェクト」と題し、全12社の企業が同プロジェクトに参加した。
プロジェクトでは、産地としての認知度の向上や、参加企業の海外取引拡大を目的とし、フランスにおいて2023年12月12~14日の3日間、ジェトロ・パリ事務所で商談会を開催した。
商談会に先立ち、2023年12月11日にはプレスイベントを実施し、三備地域には生地・加工・縫製に至るまで様々な企業が所在しており、一貫したデニムの生産地となっている点を現地のファッション雑誌の記者などに向けてPRした。
商談会では、フランスをはじめ欧州に本拠地を置くメゾンブランドを中心に計14組の海外バイヤーが来訪し、参加企業との商談を通じて日本産デニムへの高い関心が示された。
バイヤーからは、「産地の中で生地から加工、縫製まで完結できることに魅力を感じる」「実際に産地を訪問し、どのようなコラボレーションができるか検討していきたい」といった前向きなコメントが寄せられ、「メード・イン・ジャパン」の品質に対する信頼感もうかがえた。一方で、メゾンブランドのバイヤーはコレクション用の製作を想定しているケースも多く、短期間で製品を仕上げていく必要がある中、日本企業との取引にあたっては輸送面でのタイムラインやコストがネックになるとの意見も寄せられた。
参加した日本企業からは、「通常の大型展示会とは異なり、バイヤーにじっくりと時間をかけて製品を見てもらうことができ、非常に良い機会となった」「初めての海外での展示・商談の機会への参加となり、様々な気づきが得られた。自社単独で海外展示会への挑戦はまだハードルも高いが、今後も同様の機会があれば、ぜひ挑戦したい」といった、今後の海外展開に向けた前向きなコメントもあった。
会場にはプロジェクト参加企業の商品・生地サンプルなどが展示され、事前招待制でありながらも活気にあふれる商談会となり、三備地域のデニム関連企業が高い技術を有し、日本産デニムが世界のブランドから注目を集めていることが感じられた。
さらなる海外展開に向けて
海外展開をさらに促進させていくためには、環境への影響に配慮した持続可能性(サステナビリティ)について感度の高い欧米のブランドを想定し、日本企業のサステナビリティに関する取り組みについて、海外に向けて発信を強化していくことが喫緊の課題といわれる。
ジェトロでは、アパレル業界におけるサステナビリティ事情に精通した専門家と協力し、2022年度からプロジェクト参加企業に向けて、サステナビリティに関する勉強会の実施や、研修動画の作成・配信、参加企業への個別コンサルテーションを実施した。
2023年12月に実施した商談会でも、サステナビリティに配慮した製品を探している海外バイヤーは多く、環境に配慮した製品であるとタグに明示している企業の製品がバイヤーの手により多く取られていた。現地の商談会に参加した日本企業は、バイヤーからサステナビリティに関する問い合わせが寄せられたことを受け、帰国後、実際にサステナビリティ関連の認証取得に向けた取り組みに着手するなど、具体的なアクションを起こす事例もあった。
昨今の海外展示会では、サステナビリティに関する取り組みを含め、情報発信にたけている他国の企業の存在が目立つようになったといわれている。既に日本企業が当たり前のように着手している取り組みについても、海外バイヤーからは高評価につながる可能性がある。国際認証の取得といった整備のみならず、既存の取り組みについての再評価や、社内全体でのサステナビリティに関する意識づけの強化、またウェブサイトなどを通じ、海外バイヤーが求める情報の発信に力を入れていくことが今後ますます求められていくであろう。
- 執筆者紹介
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ジェトロ広島
松元 郁実(まつもと いくみ) - 2020年、ジェトロ入構。お客様サポート部お客様サポート課、海外展開支援課を経て2022年9月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ岡山
山本 明佳(やまもと めいか) - 2021年、ジェトロ入構。お客様サポート部お客様サポート課を経て2023年3月から現職。