北大発スタートアップ、宇宙でのラストワンマイルを目指す(日本)
人工衛星の軌道や姿勢を制御する推進系開発

2024年2月27日

北海道大学発の宇宙スタートアップのレタラ(Letara)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、世界が注目する新技術を開発し、宇宙空間における人や物の自由な往来の実現を目指している。レタラの共同最高経営責任者(CEO)であるケンプス・ランドン氏に、同社のビジネスの現状と今後の展望について聞いた(実施日:2023年11月22日)。


レタラ共同CEOのランドン氏(レタラ提供)

宇宙でのラストマイル輸送を見据えて

「地球を超えて、より早く、より遠くへ(Beyond the Earth, Faster and Further)」が、レタラが掲げるミッションである。同社は、月や火星にステーションが建設される未来では宇宙空間での物の輸送が必要になり、特に最終目的地までの輸送「ラストマイル輸送」が将来の宇宙経済にとって極めて重要になると考えている。しかし、現状は1つのロケットで複数の人工衛星を同一軌道に打ち上げるライドシェアが主流だ。これにより人工衛星の年間打ち上げ数は増加しているものの、多くの人工衛星がライドシェア軌道にとどまり、それ以外の軌道に向かわせることができない。ラストマイル輸送に使用できる人工衛星用推進系(注1)は、安全性や費用、推進力の観点から実用的なものがまだ開発されていないためだ。そこでレタラは、ラストマイル輸送を実現できる安全かつ高推力な「ハイブリッド化学推進」技術の開発に取り組んでいる。

一般的に、人工衛星の推進系にはイオン・水蒸気・ガスや液体燃料が使用される。イオン・水蒸気・ガスを燃料とした推進系は、比較的安全ではあるが、液体燃料と比較し、推進力は10万分の1と移動に時間を要する。液体燃料は、高い推進力があるものの、危険度が高く、多くの安全管理コストがかかる。

これらに対し、レタラのハイブリッド化学推進技術は、プラスチックなどの固体燃料と液体酸化剤燃焼の両方を利用する。プラスチックなどの固体燃料は無毒、不燃性、非爆発性であり、液体酸化剤は高い推進力を持つため、最も安全で高推力の化学推進技術と言われている(注2)。

ランドン共同CEOによると、人工衛星に使用する化学推進系の市場規模は現在2,000億円から3,000億円、5年後には5,000億円から6,000億円と倍増が予測されており、成長可能性が高い。レタラは、ハイブリッド化学推進技術を人工衛星に使用し、安全で高速なラストマイル輸送の実現を目指す。

米国から北海道、そして宇宙へ

米国出身のランドン共同CEOは、米陸軍情報士官としてアフガニスタンに派遣された経験を持つ。その際、自身は軍事用衛星を利用しインターネットに接続できたが、同地域では一般市民によるインターネット利用が難しいという事実を知り、宇宙インフラへのアクセスギャップを実感した。ここから、世界中の人々が自由に宇宙を通じてアクセスできる未来を作りたいという夢が生まれたという。その後、ランドン共同CEOは、北海道大学で研究することが夢の実現につながると考え、日本へ渡った。研究室での活動を続け、ハイブリッドロケット研究で著名な永田晴紀教授、同じ研究室の先輩であったハイブリッド化学推進の第一人者の平井翔大氏(レタラ共同CEO)と出会い、2020年6月にレタラを創業した。

同社の拠点である北海道は「宇宙開発に対して自治体や行政が協力的」だとランドン共同CEOはいう。2021年4月には北海道大樹町が「北海道に、宇宙版シリコンバレーをつくる」という計画の実現に向け、アジア初となる民間にひらかれた宇宙港「北海道スペースポート」を本格稼働。また、全国から来場者が集う宇宙ビジネスカンファレンスは「北海道宇宙サミット2023」で3回目の開催を迎えた。こうした状況を踏まえ、「日本国内で宇宙スタートアップを進める場所として最適だ」とランドン共同CEOは語る。

同社は2023年11月現在、26人にまでチームメンバーを拡大した。宇宙ビジネスには国境がなく、海外ネットワークが特に重要となるため、日本に加え米国、スペインなど国際色豊かなチームを組成中だ。海外からのメンバーは、国際学会やビジネス特化型ソーシャルメディアのリンクトイン(LinkedIn)を通じて採用したという。今後もチームメンバーは増員予定であり、宇宙での実績獲得に向けた実証実験や研究、次の資金調達に向けて事業を加速させる。

イベントへの積極的な参加で、ネットワークを拡大

北海道を拠点とするレタラであるが、近年では道内に限らず、活動拠点を広げている。同社が道外に多くのネットワークを有するきっかけとなったのが、2017年から内閣府が主催する宇宙ビジネスアイディアコンテスト「S-Booster外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」への出場だった。2021年の同コンテストで、レタラはファイナリストに選出され、最終発表会でアジア・オセアニア賞を受賞した。最終発表会には多くの大企業やベンチャーキャピタル(VC)が足を運んだ。その際の来場者からの紹介をきっかけに、行政機関、大企業、大学が提供するアクセラレーションプログラムなどへ参加するようになった。「新たな視点でのアドバイスも多く、ネットワークの重要性を感じた」とランドン共同CEOは語る。

様々なプログラムに参加したことで、2023年2月には SBIインベストメント、NES、ビッグインパクト(BIG Impact)、北海道ベンチャーキャピタルが運営するファンドおよび植松電機から約1億2,000万円の資金調達を実現。同7月には経済産業省のGo-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業、注3)に採択され、東京都立大学、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、東京大学と共同で行う宇宙実証試験のために1億円を調達。同9月には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のディープテック・スタートアップ支援事業に採択され、超小型宇宙機に対応した超小型ハイブリッド推進系の開発を加速させる目的で、約2億4,000万円の助成金を獲得した(注4)。レタラは現在、前出のミッション「Beyond the Earth, Faster and Further」の実現を目指し、政府・民間のネットワークを用いて開発・実証を進めている。まずは、今後1~2年を目安に宇宙空間での実証を重ね、技術の信頼性を高めていくことが目標だ。

米国拠点設立を目指す

今後の事業展開における次のステップとして、ランドン共同CEOは海外展開を挙げる。同社のビジネスは人工衛星の打ち上げや利用を進めている国・地域や企業が主なターゲットとなるため、人工衛星の打ち上げが続く米国での拠点設立、ネットワーク拡大は不可欠だという。ランドン共同CEOが持つネットワークを活用し、すでに米国の研究機関、大学には実証の提案を進めているほか、人工衛星と打ち上げ機に強みを持つ企業との連携も模索している。ランドン共同CEOは、「人や物が自由に宇宙空間を行き交う未来」を目指し、日米両国での協業・連携強化を進めていきたいと語った。


注1:
推進系とは、ロケットや人工衛星に搭載されている、軌道や姿勢を制御するためのシステム。
注2:
レタラウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注3:
中小企業などが大学や研究機関と連携して行う、ものづくり基盤技術およびサービスの高度化に向けた研究開発および事業化に向けた取り組みを、経済産業省が一貫して支援する事業。同社発表「北海道大学発宇宙ベンチャー、Letara(株)が経産省Go-Tech事業に採択。1億円の資金調達に成功」(レタラウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。
注4:
同社発表「Letara(株)がNEDOの支援事業に採択約2億4,000万円の助成」(レタラウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。
執筆者紹介
ジェトロイノベーション部スタートアップ課
蓮井 拓摩(はすい たくま)
2022年、ジェトロ入構。CESやTechCrunch Disrupt 2022イベントでのJAPANパビリオン出展を支援。日本発スタートアップの米国展開支援を担当。