新車販売台数が半減(エジプト)
日本車はシェア首位を維持

2024年3月7日

エジプトの自動車市場情報委員会(AMIC)によると、2023年の新車販売台数は前年比51.1%減の9万359台で、2年連続の大幅減少となった。ロシアによるウクライナ侵攻に端を発する外貨不足の継続が、自動車市場に大きな打撃を与えている。

車種、組立車・完成車を問わず大幅減

車種別の新車販売数は、乗用車が6万9,175台(前年比48.3%減)、バスが8,461台(前年比51.2%減)、トラックが1万2,723台(前年比62.1%減)といずれも大幅減少となった(図1参照)。内訳をみると、前年比で唯一販売を伸ばしたのは観光用の大型バスで、販売台数は205台(前年比17.1%増)だった。エジプトの観光業は新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込んだが、GDPで見ると2022年は45.7%増、2023年は28.0%増〔エジプト中央銀行(CBE)予測値〕と順調に回復している。観光業の盛況が、大型観光バスの需要増加につながった。

図1:新車販売台数推移
エジプトにおける新車販売台数は2019年から2021年にかけて増加したが、2022年、2023年は前年比で大幅に減少。

出所:AMIC

2023年の新車販売台数のうち、現地組立車は4万8,831台(前年比47.8%減)、輸入完成車は4万1,528台(前年比54.5%減)だった(図2参照)。輸入完成車の方が減少割合が大きいものの、現地組立車も大きく減少していることがわかる。

図2:組み立て車・完成車別販売台数推移
組立車、完成車別の販売台数を見ると、2019年から2021年まではいずれも伸びていたが2022年、2023年は組立車、完成車とも前年比で大幅に減少。

出所:AMIC

外貨不足と連動して市場縮小、影響は長期化か

月ごとの新車販売台数の推移をみると、販売台数急減の開始時期がエジプトの外貨準備高の減少開始時期に重なる(図3、4参照)。

図3:月別新車販売台数推移
2022年1月から2023年12月のエジプトにおける月別新車販売台数をみると、2022年2月の約2万5,000台をピークに急減。2023年4月には約5,000台まで減少し、その後は少しづつ回復しているものの、2023年12月時点では約1万台にとどまる。

出所:AMIC

図4:外貨準備高推移
エジプトにおける外貨準備高推移。2022年1月、2月は400億ドルを超える水準だったが、2月から7月にかけて50億ドル程度減少。2022年7月から2024年1月にかけては微増を続けているが、2024年1月時点で350億ドル程度にとどまる。

出所:CBE

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始以降、エジプトの主要輸入品目である小麦や燃料の価格が高騰し、エジプトは深刻な外貨不足に悩まされている。エジプトの主な外貨収入源は(1)国外で働くエジプト人からの郷里送金、(2)観光収入、(3)スエズ運河の通行料収入の主な3つだが、いずれも先行きは明るくない。CBEによると、2022/23年度(2022年7月~2023年6月)の郷里送金額は前年度比30.8%減少した。通貨エジプト・ポンドの下落(2024年1月9日付ビジネス短信参照)により、国外で働くエジプト人が送金を控えているとみられる。観光収入はコロナ禍の影響を脱して回復基調にあるが、一方で国境を接するガザ地域の紛争の影響で、外国人観光客のエジプト離れが起こっているという。スエズ運河の通航量は2023年末以降、イエメンのフーシ派による船舶襲撃により激減している(2024年1月10日付ビジネス短信参照)。2024年1月の通航料収入は推計で前年同月比46%減と報じられた。

長引く外貨不足により、エジプト政府は輸入抑制を続けている。限られた外貨は燃料や食料、医薬品などの必需品の輸入に優先的に割り当てられ、完成車や、現地組立車に使われる自動車部品の輸入代金の外貨支払いは極めて困難である。さらに、ロイター通信によれば2024年中に返済期限が迫る対外債務の額は422億ドルに上る。CBEによれば2024年1月末時点での外貨準備高は約352億ドルで、返済額がエジプトにとって大きな負担であることがわかる。デフォルトを避けるため、政府は対外債務の返済期限に向けてさらに外貨流出に制限をかけることが予測され、自動車市場にとっては厳しい状況が続きそうだ。

日本車が辛くもシェア1位を維持

乗用車販売台数のシェアを国・地域ブランド別にみると、日本車が2万4,148台と、前年比45.8%と大幅な減少となりながらもトップシェアを維持した(図5参照)。中国、欧州、韓国勢も軒並み前年比40%を超える大幅減となっており、輸入元国にかかわらず外貨不足の影響を大きく受けていることがわかる。現地組立車のブランドがほとんどない米国、インドは80%を超える減少幅となった。

図5:国・地域ブランド別の乗用車新車販売台数
国・地域ブランド別で乗用車新車販売台数をみると、2021年、2022年、2023年いずれも日本車がトップ。日本以外では中国が2万2,172台、欧州が1万2,145台、韓国が1万16台、米国が693台だった。

出所:AMIC

ブランド別でみると、全車種合計でシェア首位は日産であった(図6参照)。2022年はシェア17.6%のシボレーが首位だったが、2023年はシボレーがシェアを11.3%まで落とし、15.1%のシェアを獲得した日産が逆転した。日産は現地組立乗用車では39.4%と、2位の奇瑞汽車(チェリー)を10ポイント以上上回る圧倒的なシェアを持つ。2024年2月にはエジプト市場への新車種の導入も発表しており(2024年2月13日付ビジネス短信参照)、さらなるビジネス拡大が期待できそうだ。その他日本勢では、4位にトヨタ、6位にスズキ、12位に三菱自動車がつけている。

図6:ブランド別マーケットシェア・全車種合計
ブランド別のマーケットシェアを全車種合計でみると、日産、シボレー、チェリー、トヨタ、MG、スズキ、ヒュンダイ、キア、ルノー、BYD、シトロエン、三菱の順に並ぶ。首位の日産以外の日本ブランドでは、トヨタが8.3%、スズキが6.1%、三菱が2.9%のシェアを持つ。

出所:AMIC

自動車部品産業でも日本企業が存在感

自動車部品産業に目を向けると、日本企業が存在感を増している。国内で販売される組立車の部品の多くは輸入されているが、一方で、主に欧州市場への輸出向けにワイヤーハーネスなどの自動車部品を生産している。ワイヤーハーネスなど労働集約型かつ輸出型の産業は、安価で豊富な労働力を擁し、通貨安の状況にあるエジプトが競争力で優位だ。主な市場となるのは欧州であり、EUとエジプトはFTAを締結している。FTAにより関税が免除されることもエジプト製部品の価格競争力を高めている。

この分野で存在感を示しているのが日本の住友電装だ。子会社である住友エレクトリック・ワイヤリングシステム・エジプトは国内に複数工場を持ち、雇用者数は1万人に上る(2023年6月5日付ビジネス短信参照)。同じくワイヤーハーネスを製造する矢崎総業も、エジプト国内に自社工場の建設を進める(2024年2月7日付ビジネス短信参照)。こうした企業のビジネス拡大は雇用を創出するだけでなく、外貨不足に悩むエジプトにとって外貨を獲得するための輸出産業育成の機会ともなる。エジプト政府も、集中的に許認可取得などの投資手続きを支援するゴールデンライセンスの発行などを通じて各企業を積極的に後押ししている。

執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ)
2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。