会社法改正、経緯と出資期限新設(中国)
現地弁護士に聞く(1)

2024年4月23日

中国の会社法改正案が2023年12月29日、第14回全国人民代表大会常務委員会第7回会議で可決された。2024年7月1日から施行されることになる(条文の日中対訳はビジネス関連法参照PDFファイル(1.6MB))。

今回の改正内容は、企業経営管理や経営責任、株主出資義務など、多岐にわたる。そのポイントや留意点について、企業のコンプライアンス管理に明るい北京金誠同達法律事務所の弁護士、張国棟シニアパートナーに聞いた(取材日:2024年3月12日)。

なお、この記事で「旧会社法」という場合、2024年6月末までの会社法を意味する。また、「新会社法」は7月1日以降に施行されるものを指す。前編では、改正の背景や経緯、出資期限に係る留意点などについて解説する。


張弁護士(同氏提供)

社会情勢に合わせた改正、企業形態を確認のうえ準備を

質問:
今回の改正の経緯と背景は。
答え:
会社法は1993年に制定された。1999年と2004年に個別の条項を改正、2005年に全面改正した。さらに2013年と2018年の2度にわたって、会社の資本制度に関して重要な改正がなされた。
会社法の制定と改正は、中国の社会主義市場経済体制の確立と完全化に密接に関連している。公布と実施から、すでに30年近くが経過。現代的な企業制度を確立・整備し、社会主義市場経済の持続的かつ健全な発展を促すことで、重要な役割を発揮している。会社法制度は時代にあわせて調整されており、現在のビジネス環境や社会情勢、経済発展に合うよう改正が進められている。
また、中国の現状に鑑み、実務上の慣行や改革に即した成果を法規範に格上げすることもあった。それとともに、他国・地域の会社法制度から、有益な経験を参考にしたこともあった。このほか、民法典、外商投資法、証券法、企業国有資産法および改正中の企業破産法などの法律とも、関連づけられた。関連行政法規や司法解釈の成果を合理的に吸収することも、改正の目的になっている。
質問:
今回改正に伴う主な変更点、日系企業が留意すべき点や対応すべき点は。
答え:
主な変更点として、「有限公司における株主出資義務の変更」「有限公司の管理構造の変更」「株式会社の変更」「国家が出資する会社の規定」「董事・監事・高級管理職の権限・責任の変更」「会社撤退制度の合理化」「その他の重要な変更(株主の権利の拡張、持分譲渡制度の変更)」が挙げられる。
日系企業にとっての留意点は、一概には言えない。法人それぞれで、出資の形態や設立後の経過年数、従業員の数、持分譲渡に関連する取り決めなどが、経営状況によって異なるためだ。現状に応じて、7月1日の施行に備える必要がある。確認すべき点としては、「企業が独資か合弁か」「株主の出資払い込みが完了しているか」「従業員が300人を超えているか」「監事を何人設置しているか」「会社定款や契約において、持分譲渡に関連する取り決めに『その他の株主の同意権』を設けているか」などが考えられる。
質問:
独資と合弁で、対応がどう違ってくるか。
答え:
会社の重要事項に関する意思決定の仕組みに違いがある。独資企業の場合、株主が単一のため、一般的に自社単独で重要事項を意思決定できる。しかし合弁企業は、合弁パートナーと共同で意思決定する必要がある。
このような観点から、独資企業が新会社法に対応するのは、比較的容易だ。会社の実際の状況に応じ、自社の判断で新会社法の関連規定に基づき必要な修正をかけることができる。
一方で、合弁企業が新会社法に対応する場合、合弁パートナーの性質(国有企業、私営企業、外資系企業など)に応じて、包括的な協議を行い、対応方法の計画を策定した上で実務を進めていく必要があるため、独資企業よりも時間と労力が必要になるだろう。

出資払込期限を新たに規定

質問:
出資払込に関する改定について、留意点を含めて具体的に知りたい。
答え:
出資払込期限に改定があった。有限公司は、原則として「全株主が引き受ける出資額は会社定款の規定に従って、会社設立日から5年以内にこれを全株主が完納」しなければならないことになった(新会社法第47条、注1)。出資期限はこれまで、株主間の合意を条件に、会社定款で自由に規定することができた。一方で法律上は、出資払い込みを完了するまでの時限について、定めがなかった。出資期限が短縮されたかたちだ。
また、「会社が増資する場合も、株主が資本の追加を引き受けた出資金は、設立時の出資金納付に関する規定に従って執行しなければならない」と新たに規定された(新会社法第228条)。ただし、新会社法の施行前に設立された有限公司に対しては、3年間の移行期間が設けられた。これは、国家市場監督管理総局が2024年2月6日に公表した「国務院『中華人民共和国会社法』の登録資本金登記管理制度の実施に関する規定(意見募集稿)」に基づく。そのため、会社定款の規定上、2027年7月1日時点で残りの出資期限が5年に満たない(2032年6月30日以前が出資期限となっている)場合には、出資期限を調整する必要がなくなる。しかし、残りの出資期限が5年を超過している場合、つまり2032年7月1日以降が出資期限となっている場合は、対応が必要だ。すなわち、(1)移行期間内に定款中の出資期限を5年以内(2032年6月30日以前)に変更した上で登録資本金を満額払い込む、(2)減資する、のいずれかを選択する必要がある。もっとも、国務院規定は意見募集稿のため、制定の過程で変動する可能性もある。
また、現地法人を新設する場合には、会社の継続的な運営に十分な準備資本を確保することを想定し、登録資本金の額が高くなりすぎないよう配慮すべきだ。そうすることで、その後に減資を余儀なくされるという問題を回避することができる。
他社から持分の譲渡を受ける場合も、譲渡対象企業の登録資本金の払い込みに特に注意を払う必要がある。 (1)その払い込みが譲渡対象企業の定款に従っているか確認するだけでなく、(2)譲渡対象企業に登録資本金の未払いがあるようなら、持分譲渡の対価資金を決済する前にその払い込みを完了するよう、相手方に要求する必要がある。
質問:
1人有限公司の設立(旧会社法 57条・58条)に関しても改定があったと聞く。具体的にどのようなものか。
答え:
今回の改正により、1人有限公司(注2)に関する次の特別規定が削除された。そのため、この規定に基づく制約を受けなくなった。
(1)1人の自然人は、1人有限公司1社のみ設立に投資することができる。
(2)1人有限公司は、新たな1人有限公司の設立に出資することはできない。

注1:
新会社法第49~54条によると、仮に株主が新会社法の規定する5年以内に払込を完了しなかった場合、株主と董事・監事・高級管理職は相応の責任を負担することになる。また、新会社法第266条では「出資期限、出資額に明らかな異常がある場合、会社登記機関は法により遅滞なく調整するよう要求することができる。具体的な実施規則は国務院が定める」と規定されている。
注2:
自然人株主または法人株主が1人(社)だけの有限公司。

現地弁護士に聞く

  1. 会社法改正、経緯と出資期限新設(中国)
  2. 会社法改正、組織・清算規定など(中国)
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所
亀山 達也(かめやま たつや)
2021年、民間企業よりジェトロ入構。調査部中国北アジア課を経て2023年7月から現職。