サウジアラビア市場における中国自動車メーカーの参入動向

2024年10月8日

サウジアラビアで、中国自動車メーカーの存在感が増している。2023年の中国車メーカーのシェアは約15%を記録、同年の中国からの自動車および同部品の輸入額は前年比16.3%増加した。2024年には大手自動車メーカーの比亜迪(BYD)の新規参入に加えて、自動車部品メーカーの投資計画が報じられるなど、自動車市場で中国企業の積極的な姿勢が目立つ。本稿では、サウジアラビア市場における中国自動車メーカーの最新の動きを報告する。

中国自動車メーカーのシェアは着実に拡大

サウジアラビア市場における中国自動車メーカーの販売台数は堅調に増加を続けてきた。サウジアラビア産業鉱物資源省付属の産業センター(Industrial Center)によると、直近2023年には同国自動車メーカーの販売台数シェアは約15%まで増加した(表1参照)。同年の国内販売台数約73万台のうち、約11万台を占める計算だ。メーカー別シェアをみると、長安汽車(Changan)と上海汽車(SAIC)がともに5%で拮抗(きっこう)しており、吉利汽車(Geely)、長城汽車(Great Wall)、奇瑞汽車(Chery)が続く。2024年には比亜迪(BYD)も進出、首都リヤド市内の中心部に販売店を開設した(写真)。

表1:サウジアラビアにおけるメーカー別販売台数シェア
グループ名 シェア
トヨタ 34%
現代・起亜 19%
いすゞ 5%
長安汽車(Changan) 5%
上海汽車(SAIC) 5%
日産自動車 4%
フォード 4%
マツダ 4%
ゼネラルモーターズ 4%
吉利汽車(Geely) 3%
スズキ 2%
三菱自動車 2%
長城汽車(Great Wall) 2%
プジョー 1%
ホンダ 1%
その他 6%

注1:太字が中国自動車メーカー。上海汽車(SAIC)はMGブランド、長城汽車はGreat WallとHAVALブランドで展開。
注2:各メーカー別販売シェアの合計は少数の扱いを理由に100にならない。
出所:産業センター(Industrial Center)から作成


リヤド市内の比亜迪(BYD)の販売店(ジェトロ撮影)

サウジアラビア総合統計庁(GASTAT)が独自に関税番号を製品群ごとにグループ化した統計によると、「鉄道・トラム以外の自動車および同部品」の主要輸入相手国と輸入額をみると、中国からの輸入は2023年に168億4,800万リヤル(約6,570億7,200万円、1リヤル=約39円)と過去2年間で大きく伸張した(表2参照)。首位の日本に次ぐ地位を確固たるものとしている。サウジアラビア政府関係者によると、輸入額には中国自動車メーカー以外も含まれるものの、大半は中国自動車メーカーのものだ。

表2:サウジアラビアの輸入上位5ヵ国からの自動車・同部品輸入の推移(単位:100万リヤル、%)
国名 2021年 2022年 2023年
金額 シェア 金額 シェア 金額 シェア
日本 14,977 23.0% 15,889 21.0% 20,606 20.6%
中国 8,738 13.4% 14,489 19.1% 16,848 16.9%
米国 8,585 13.2% 9,293 12.3% 11,132 11.2%
韓国 4,633 7.1% 6,594 8.7% 7,672 7.7%
タイ 3,487 5.4% 5,021 6.6% 7,555 7.6%
合計 65,025 100.0% 75,834 100.0% 99,816 100.0%

注:鉄道・トラム以外の自動車とその部品。
出所:サウジアラビア総合統計庁(GASTAT)から作成

中国自動車メーカーは小型車に強み

サウジアラビア市場で中国自動車メーカーが特に強いのが、小型車〔シリンダー容積が1,000立方センチメートル(cm3)を超え1,500cm3以下の乗用車:HS870322〕のカテゴリーだ。中国側統計によると、2023年のサウジアラビア向け輸出金額、輸出台数で同カテゴリーがそれぞれ53.4%、64.4%と過半を占めた(表3参照)。リヤド市内の各中国自動車メーカーの主要販売店によると、いずれのメーカーでもSUV(スポーツ用多目的車)の人気が高い。中でも、小型SUVの引き合いが多く、それを牽引しているのが若年の女性層である点でも共通している。

表3:サウジアラビア向け自動車種別輸出額とその割合(輸出国順番は品目別輸出額に従う)
関税番号 品目 輸出国 輸出額
(1,000ドル)
国別輸出額に
占める割合
輸出量
(台数)
国別輸出量に
占める割合
870322 シリンダー容積が1,000立方センチメートルを超え1,500㎤以下の乗用車 中国 1,237,540 53.4% 120,376 64.4%
米国 122,913 5.8% 4,969 9.1%
日本 38,992 1.1% 2,402 1.6%
870323 シリンダー容積が1,500立方センチメートルを超え3,000立方センチメートル以下の乗用車 日本 1,481,830 42.1% 83,581 55.5%
中国 1,040,108 44.9% 61,549 33.0%
米国 489,795 23.1% 14,761 27.1%
870324 シリンダー容積が3,000立方センチメートルを超える乗用車 日本 1,344,313 38.2% 35,078 23.3%
米国 1,125,764 53.1% 25,790 47.4%
中国 78 0.0% 1 0.0%
870332 シリンダー容積が1,500立方センチメートルを超え2,500立方センチメートル以下のディーゼル車 中国 8,907 0.4% 389 0.2%
870333 シリンダー容積が2,500立方センチメートルを超えるディーゼル車 日本 103,433 2.9% 3,217 2.1%
米国 400 0.0% 11 0.0%
中国 130 0.0% 4 0.0%
870340 ハイブリッド車 日本 554,536 15.7% 26,186 17.4%
米国 199,510 9.4% 6,447 11.8%
中国 1,355 0.1% 73 0.0%
870360 プラグインハイブリッド車 米国 19,267 0.9% 398 0.7%
中国 254 0.0% 10 0.0%
870380 電気自動車 米国 138,457 6.5% 912 1.7%
中国 16,992 0.7% 715 0.4%
日本 49 0.0% 1 0.0%
8703 乗用車合計 日本 3,523,154 100.0% 150,465 100.0%
中国 2,317,413 100.0% 186,776 100.0%
米国 2,118,182 100.0% 54,449 100.0%

注:HS870332、同870360は輸出実績のある国のみ掲載。
出所:グローバルトレードアトラスから作成

中国自動車メーカーが、若年女性顧客層の関心をつかんだのは偶然ではない。サウジアラビアでは、2016年4月に発表された国家改革戦略「ビジョン2030」の下で、女性の社会進出を促進している。その一環として、2018年に女性の運転免許証取得が解禁され、都市部を中心に女性の運転免許証取得が進んでいる。女性の免許所得は国内自動車販売台数を押し上げる効果をもたらしており、2023年の購入者全体に占める女性比率は3割に達した、との報道もある。中国自動車メーカーは、以下の理由から若年女性層に有力な選択肢を提供している。

まず、中国自動車メーカーは価格競争力が高い。例えば、同クラスの日本メーカーの小型車に比べると1~2割程度の価格差がある。米国大手調査会社のレポートによると、一般的にサウジアラビア人は価格差に敏感だとする調査結果がある。同社関係者は、金額が張る自動車の場合、価格差が与える影響は特に大きいという。加えて、家計でみると、若年女性層が購入する車は2~3台目として買う場合が多く、経済性が重視されやすい。

また、中国自動車メーカーは早くから若年女性層に注目し、彼女らを意識した車体カラーや内装デザインの車両を市場に投入してきた。リヤド市内の販売店からは、こうした商品そのものの差別化が若年女性向け販売に大きく奏功している、との意見が多く聞かれる。

電気自動車(EV)の販売が本格化

次に、中国自動車メーカーが開発・生産にしのぎを削っている電気自動車(EV)の販売状況をみたい。サウジアラビア政府は2021年10月に発表した「サウジ・グリーン・イニシアティブ(SGI)」で、2030年までに首都リヤドの自動車の3割をEVとする目標を盛り込んだ。しかし、その後のEVの普及状況は思わしくない。地元紙の報道によると、2023年のEVの輸入台数は前年の210台から増加したものの、合計779台にとどまった。輸入相手国別では、米国が459台で最大、次いでドイツが269台で続いた。中国からの輸入は37台で、EV車輸入全体に占める比率は約5%に過ぎなかった。複数の中国自動車メーカー販売店によると、EVの販売に対して慎重に進めてきたことが背景にあるようだ。

もっとも2023年末以降、中国勢のEV投入が本格化の様相を呈してきた。吉利汽車(Geely)は同年12月、EVの「Geely Geometry C」をサウジアラビア大手のレンタカー会社であるYELOに供給することを発表した。続いて、既述の通りEV最大手の1つであるBYDが2024年5月、リヤド市内に初の販売店を開設した。EVを主力商品として販売している。直近では、長安汽車(Changan)が2024年8月、EVブランド「DEEPAL」と高級EVブランドの「AVATR」をサウジアラビア市場に投入することを発表した。同社がEVを中東市場で投入するのは初となる。この他、上海汽車(SAIC)も中東地域でのEV投入に向けて、「MG MARVEL R」の域内での耐久テストを実施していることを発表している。

各社の取り組みの背景には、サウジアラビア政府がEV市場拡大に向けて購入インセンティブを導入することへの期待がある。エンジン車に比べ高価であるEVの普及に欠かせない要素として、以前から注目されてきたインセンティブが消費者にとって魅力が大きければ、今後、市場規模が急拡大する可能性を秘めている。

EV普及には、充電インフラの整備が不可欠である。同インフラについては、ガソリン小売り最大手のペトロミンの子会社であるエレクトロミンが全国の主要都市で既に200カ所以上の充電施設を展開するなど、着実に環境整備が進んでいる。公共投資基金(PIF)傘下のEVIQも現在、全国展開に向けた準備を進めている。

自動車部品や関連製品の取扱も増加

サウジアラビア政府は、中国自動車産業の自国への工場誘致にも強い関心を示しており、複数の自動車メーカーとの間で交渉中であることが報じられている。2023年6月には、サウジアラビア投資省と中国のヒューマン・ホライゾンズが、自動車の製造・販売のための合弁会社を設立し、56億ドル規模の投資計画に合意した。中国自動車メーカーによるサウジアラビア国内生産プロジェクトとしては初となる。非公式ベースではあるものの、政府はその後も現地生産に関心を示す中国メーカーとの間で交渉を継続中であることが伝えられている。

一方、日系自動車メーカーの関係者によると、中国自動車メーカーは参入後間もないこともあり、スペアパーツの供給などアフターマーケットのサービスに課題を抱えるといわれている。奇瑞汽車(Chery)は東部州のダンマン市内に自社倉庫を設立したことを発表したばかりだ。他社においても、同課題の克服が市場におけるさらなるシェア拡大に向けた次なる条件となりそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所長
秋山 士郎(あきやま しろう)
1995年、ジェトロ入構。ジェトロ・アビジャン事務所長、日欧産業協力センター・ブリュッセル事務所代表、対日投資部対日投資課(調査・政策提言担当)、海外調査部欧州課、国際経済課、ジェトロ・ニューヨーク事務所次長(調査担当)、海外調査部米州課長、海外調査企画課長などを経て2021年11月から現職。