未来の外貨獲得は石油からガスへ(ナイジェリア)
双日投資のガス小売り企業へ、ガス産業を聞く

2024年1月31日

ナイジェリアは、アフリカ最大、世界第10位の天然ガス埋蔵量(約5兆9,000立方メートル)を誇るガス資源国である。輸出額でも、約9割を原油と天然ガスが占め、ナイジェリアの貴重な外貨獲得の柱となっている。

だが近年、原油の盗難や設備のメンテナンス不足などにより産油量は大幅に落ち込んでいる。また、外貨不足に苦しむナイジェリア政府は、脱炭素化への移行期間において特に天然ガスの重要性を強調し、EUなどの外資にガス開発プロジェクトへの積極的な投資を呼びかけている(2022年10月31日付地域・分析レポート参照)。

ナイジェリアのガス小売会社のアクセラ・リミテッド(Axxela Limited、以下アクセラ)は、ナイジェリアにおける民間主導の天然ガス供給システム開発の先駆者だ。現在、ナイジェリア国内で185の産業顧客に天然ガスを供給している。同社は、アフリカ特化ファンドのヘリオス・インベストメント・パートナーズ(Helios Investment Partners、以下ヘリオス)と双日の共同運営企業であり、株式の75%をヘリオスが、残る25%を双日が保有する(2022年4月12日付ビジネス短信参照)。

双日がアクセラに出資した2022年から1年半、事業はどう進捗したのか。アクセラ取締役のボラジ・オスンサニャ(Bolaji Osunsanya)氏、双日ナイジェリア社長の松浦正裕氏、プロジェクトマネジャーの小崎愛実子氏らに聞いた(取材日:2023年11月9日)。


聴取後、アクセラのオフィスで。右から3人目がオスンサニャ氏、2人目が松浦氏(ジェトロ撮影)
質問:
アクセラの事業概要と事業の進捗状況は。
答え:
当社は、操業実績20年超に及ぶガス小売会社だ。現在、近隣国トーゴを含め、西アフリカ地域全体の産業顧客が200社以上に上る。今後は、パイプラインネットワークをさらに拡大していく計画だ。
さらに、ガス発電の技術向上も進めている。目指すのは、ナイジェリアとアフリカのガスと電力革命だ。その1つとして、発電ソリューションを産業顧客向けに提供してきた。例えば、アキュート電力(Akute Power)に向け2010年に、12.15メガワット(MW)の独立発電プロジェクト(Independent Power Project:IPP)を開発した。同様に2013年には、アローサ電力(Alausa Power)で10.14MWのIPP開発実績がある。また、食料品・飲料品分野の当地主要企業であるキャドバリー(Cadbury Nigeria Limited)向けにも、5.8MWのIPPを開発・運営している。
2023年第1四半期(1~3月)の収益は307億ナイラ(約52億1,900万円、1ナイラ=約0.17円)。前年度同期比14%増を記録したかたちだ。
図:アクセラの操業エリアマップ
アクセラは、近隣国トーゴを含めた西アフリカ地域の200社以上の産業顧客向けに継続的にガスを供給している。

出所:双日のウェブサイト

質問:
ナイジェリアのガス業界のポテンシャルは。
答え:
ナイジェリアは、アラブ首長国連邦(UAE)に次ぐ世界第8位の豊富なガス埋蔵量を有しているにもかかわらず、ガス供給インフラが整備されていないために国内のガス利用が遅れている。その結果、慢性的な電力不足により、ナイジェリアは度重なる停電に悩まされ、人口の約半数が電気を利用できない状況にある。2050年には人口は4億人(世界第3位)に増加する見通しであり、著しい経済成長が見込まれる。これに伴って国内における発電燃料および都市ガス用途として急速なガス需要の高まりが予想される。
また、ナイジェリアの石油生産では、随伴ガス(注1)のうち年間71億9,600万立方メートルを利用しないまま大気燃焼しており、大気汚染の一因になっている。世界銀行によると、ナイジェリアではガスフレア(注2)排出量が年間約70億立方メートルであり、世界第7位の規模だ。その利活用はかねて課題になっており、政府は2016年、ナイジェリアガスフレア商業化プログラム(Nigerian Gas Flare Commercialisation Programme)を立ち上げた。
ガスフレアに関する規制の強化や、国内需要と輸出機会の増大により、ガス開発にはますます焦点が当たっていくだろう。
質問:
ナイジェリアのガス業界の見通しは。
答え:
今後、ビジネス機会が拡大していくと予想している。
制度面では、例えば、国家ガス輸送ネットワークコード(National Gas Transportation Network Code:NGTNC、注3)の導入により、国内ガス市場が刺激されている。ガス輸出で競争力が強化される素地にもなりうる。さらには、長期的なガスベースのエネルギー安全保障が見通せるのではないか。
また、2021年に制定された石油産業法(Petroleum Industry Act:PIA、2021年8月23日付ビジネス短信参照)で、ガスの探査・生産・輸送・利用の枠組みを確立した。天然ガス資源開発の加速につながるだろう。またPIAに則して制定された、国内ガス供給義務規則(Domestic Gas Delivery Obligation Regulations)により、ガスベース産業や国内 の液化天然ガス(LNG)プラントへの投資機会が増えるだろう。
質問:
ナイジェリアは、OPECの枠組みでの割り当て生産量まで石油生産ができていない。石油とガス、両産業ではビジネス環境の何が違うのか。
答え:
確かにナイジェリアは、生産上限まで石油を生産できていない。それは様々な要因による。
石油産業とガス産業の違いは、まず、ガス生産には国際的な生産量の割り当てがないことだ。ガスは上限なく生産できる。また、石油と比べてガスを盗むのは難しい。事実、石油パイプラインや設備に比べて、ガス精製施設への破壊行為の被害は少ないように思う(ただしこれには、近年、政治が安定してきた影響もあるかもしれない)。総じて、石油産業よりもオペレーションをコントロールしやすい。
政府も、国家開発のフロンティアとして、石油産業に次いでガス産業に注力している。
質問:
ナイジェリアの通貨下落が顕著だ。ナイジェリアでビジネスをする難しさは。
答え:
外貨の確保は、ナイジェリアで活動する企業にとって共通する課題である。しかし、外貨不足の中で投資を続ける欧米企業(例えば、グーグルなどのテクノロジー外資)も多い。ガス業界でも、積極的に投資する例が見られる。フランスのトタルエナジーズが一例だ。ナイジェリアのエネルギー産業、特にガス事業のプロジェクトに向け、向こう数年間で60億ドル規模の新規投資を予定している。
日本企業にとって大きな壁が、西アフリカに関する情報の不足だろう。戦略を立てるための情報が日本企業に不足している。特に、西アフリカに人脈を持たない日本の中小企業にとって、情報の不足はアフリカ参入を実現させるうえで大きな障害だ。
当地でもかつては、多分野で日本企業が活動していた。しかし、その多くが撤退している。現在は、味の素など、消費市場として当地を見ている企業が中心だ。日本企業には再び多くの分野でナイジェリアに挑戦してほしい。そのためにも、双日のアクセラへの投資がまず成功例になる必要がある。

注1:
油層内には、原油に溶存するなどのかたちでガスが存在する。原油を生産するに伴い、ガスとして発生することになる。これを随伴ガスという。
注2:
随伴ガスを焼却処分する際に生じる炎をガスフレアという。
注3:
ガス輸送インフラのオペレーターとユーザーの間では、一定の契約枠組みを設けることが義務付けられている。この枠組みをNGTNC という。 当該制度の制定は、2020年。その目的は、国内ガス事業取引を進めるに当たり、公正な競争を実現し、ガス輸送インフラの公平かつ無差別なアクセスを確保することなどにある。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
吉川 菜穂(よしかわ なほ)
2023年、ジェトロ入構。中東アフリカ課でアフリカ関係の調査を担当。