「米国製」表示の厳格化に要注意

2024年8月20日

米国消費者の間で「米国製(Made in USA)」と表示のある製品を好む動きが顕著になりつつある。一方で、「米国製」と表示するためには、連邦取引委員会(FTC)が定めたルールを満たす必要があり、違反した場合には思わぬ罰則を受けるリスクがある。本稿では、「米国製」表示にかかるルールと留意点について、その概略を解説する。

米国消費者に自国製品優先の傾向

米国経済の特徴の1つに、莫大(ばくだい)な消費市場が挙げられる。世界最大のGDPの7割を個人消費が支えており、自動車から生活用品に至るあらゆるモノの販売について、米国市場を押さえることは世界を制することにつながる。よって、モノづくり企業であれば国籍を問わず、米国市場に挑戦したいとの衝動に駆られるだろう。その米国で2010年代後半あたりから、輸入品よりも米国製品を好む傾向が顕著になっている。2015年に消費市場に関する専門誌「コンシューマー・レポート」が実施した調査によると、約10人に8人の割合でその傾向が表れたとともに、回答者の6割以上は価格が10%以上高くても米国製品を好むとの結果が出た。その後も、同様の調査はさまざまな機関・団体が行っており、結果もおおむね近い内容となっている。

ここ数年で、その傾向を後押しする要因として指摘されているのが、地政学的な動きと新型コロナウイルスのパンデミックだ。前者については、米中対立が先鋭化する中で「中国製」よりも「米国製」を選ぶべきとの意識が醸成された。特にトランプ前政権以降、大統領をはじめ政府高官や連邦議員、州知事などが公然と、中国製品の流入が米国の雇用を奪ったとの批判を展開するようになったことが影響していると解される。後者については、供給網の混乱による物資不足を経て、医療分野など重要な製品は他国に依存するよりも自国製品に頼りたいとする傾向につながったと考えられる。

「米国製」表示違反に罰則付きルール施行

米国でモノを売る企業にとっては、この流れに乗って自社製品を「米国製」として売り込めば、そうではない製品に比べて優位に立てる可能性がある。また、若干の値上げをしても、消費者に受け入れられる余地が出てくるかもしれない。実際に、筆者がヒアリングした在米日系企業からは近年、競合他社が目立つようなかたちで「米国製」のラベルや表示を付して製品を販売しているのをよく見かけるようになったとの声があった。

しかし、簡易な最終組み立てのみを米国で行ったような場合に自社の判断で「米国製」と表示すると、連邦政府当局から罰則を受けるリスクがある。日本の公正取引委員会に当たる米国連邦取引委員会(FTC)は2021年8月に、製品がどのような要件を満たしていれば「米国製」と表示できるかについて、消費者保護の観点から民事罰を伴う行政規則を最終決定した(eCFRウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同規則によると、あらゆる製品に関して、最終組み立てまたは加工が米国で行われており、その材料や部材の全て、もしくは実質的に全てが米国で製造、または調達されていないにもかかわらず、それを「米国製」とラベル表示した場合、当該行為は連邦取引委員会法(FTC法)第5条が禁止する不公正・欺瞞(ぎまん)的な行為、または慣行とみなされ、1件の違反につき最大約5万ドルの罰金が科されることになった(注1)。最終決定以降、実際に執行事例が続いており、罰金額も高額となる傾向にある(表1参照)。

表1:「米国製」表示に関する主な違反事例(単位:ドル)
年月 企業名 業種 違反内容 罰金額
2022年5月 リチオニクス・バッテリー バッテリー製造 リチウムイオン電池、同モジュール、バッテリー制御システムについて、主要な部材が輸入品であったにもかかわらず、「米国製」としてラベル表示の上、広告していた。 10万5,320
2022年7月 ライオンズ・ノット・シープ アパレル 製品に付いていた「中国製」のタグを外して「米国製」と付け替えて販売していた。 21万1,134
2023年6月 サイクラ 車両製造 モトクロスや全地形対応車(ATV)用部品など自社製品について、アジアや欧州からの輸入品であったにもかかわらず、「米国製」として広告・包装をしていた。税関では一部製品が台湾から輸入された時点で既に「米国製」とのラベルが貼付されていたことを発見した。 87万2,577
2023年7月 レジデント・ホーム 家具・寝具 マットレスについて、輸入した完成品であった、または主要な部材を輸入して完成させたにもかかわらず、「100%米国製」として広告していた。 75万3,000
2023年8月 チョーサー・アクセサリーズほか 衣服・アクセサリー 衣服・アクセサリーについて、輸入した完成品、または主要な部材を輸入して完成させたにもかかわらず、「米国製」「米国で手作りされた」として広告していた。 19万1,481
2024年1月 クボタ・ノースアメリカ 農機 輸入した農機用交換部品を「米国製」として販売していた。 200万
2024年4月 ウィリアムズ・ソノマ インテリア 傘下の各種ブランドで販売していたインテリア製品について、輸入した完成品、または主要な部材を輸入して完成させたにもかかわらず、「米国製」として広告していた。 317万5,387

注:1つの事例でも違反件数は複数計上される場合があるため、事例ごとの罰金額は1件当たりの上限約5万ドルを超えることがある。
出所:米国司法省、FTC

業種はさまざまとなるが、違反内容をみると、おおむね、輸入した完成品または輸入した主要な部材を用いて米国で完成させた製品を「米国製」と表示したことで罰則を受けるに至ったことが分かる。

ガイダンスから読み解く留意点

それでは、このような罰則を受けるリスクを避けるには、何に留意すればよいのか。FTCが定めた行政規則には上述のとおり、米国で最終の組み立てまたは加工がされていることと、その材料や部材の全て、もしくは実質的に全てが米国で製造または調達されていることの2点を記載しているのみで、付加価値による基準値などは明確に定めてはいない。この点について、FTCは、この要件を「全て、もしくは実質的に全て(all or virtually all)」基準と称して、2024年7月に事業者向けのガイダンスを公表した(FTCウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。その中では、規制対象となる表示を画定するとともに、事例を示しながら、どのような場合に欺瞞的な行為に当たるのかを解説している。それらの中で、中核部分に当たると思われる点を表2で抜粋した。

表2:ガイダンスで示された定義や事例
留意項目 内容
規制対象となる表示
  • 製品に貼付されたラベルやその他の販促素材における記載のほか、インターネット・Eメール・SNSなどデジタルツールでのマーケティングにおける表示・記載も対象となる。明示的か黙示的かは問わない。
  • 表示の仕方は「米国製(Made in USA)」に限られず、「当社製品は米国で製造(Our products are American-made)」「USA」「米国で製造(Manufactured in USA)」「米国で組み立て(Built in USA)」といったものも対象となる。
FTCの視点(黙示的表示に対する判断)
  • 黙示的な表示が規制違反となるかについて、FTCは消費者視点に立って、それが全体としてどのような印象を与えるかを判断する。
  • 場合によっては、米国関係のシンボルや地理的表示(国旗や地図を用いた表示など)でも、米国製との印象を与えると判断される可能性がある。
「全てもしくは実質的に全て」の定義
  • 最終の組み立てまたは加工が米国で行われている
  • 重要な加工工程の全てが米国で行われている
  • 全てもしくは実質的に全ての材料または部材が米国で製造・調達されている
以上の全てを満たした製品、すなわち、外国のものを一切含まない(または無視できる程度にしか含まない)製品を指す。
FTCが検討する要素(「全てもしくは実質的に全て」の判断時)
  • 製品の合計費用のどれほどが米国製部品・米国での加工によるものか
  • 最終製品からどれほど外国の材料・部品が除外されているか
  • 製品の形状・機能において外国の材料・部品が有する重要性
以上を総合的に判断するため、外国製材料・部品、外国での加工が合計費用に占める割合が低くても、全工程で重要な部分を占める場合は米国製と表示することはできないことになる。
例1:米国の工場で製造された腕時計に、スイス製のムーブメント(駆動装置)が組み込まれている場合、その費用が全体に占める割合が低くても、時計はムーブメントなしでは動かないため、その腕時計を「米国製」と表示することは欺瞞的な行為に当たる可能性がある。
例2:テーブルランプの土台のみが輸入部品であり、費用全体に占める割合は低くても、土台は加工工程において最終製品から十分に除外されておらず、重要な部品であるため、ランプ自体を「米国製」と表示することは欺瞞的な行為に当たる。

出所:FTC

事例などから、ある程度具体的な判断は可能になると考えられるが、いまだ明確とはいえない部分もある印象だ。税関であれば、関税率の算定に必要な輸入製品の原産地の判断などに関する事前教示制度が設けられているが、FTCは「米国製」表示を事前に審査して承認を与えることはしないとしている。その一方で、事業者が「米国製」を掲げる場合、それを支える「合理的な根拠」に依拠していなければならず、常に信頼に足る証拠を備えておかなければならないとしている。また、これまで米国内で調達していた部品を外国からの調達に切り替えたなど、その根拠に変化があった場合、事業者は広告素材の更新を検討する必要がある。よって、かなりの部分について、事業者側の責任ある行動に依拠した制度設計となっているといえよう。民事罰ありの規則が導入されてから日が浅いこともあるが、不明瞭な点については、これまでの執行事例や今後更新されるであろうガイダンスを読み解くほかはなさそうだ。

さらに、米国のビジネス関連の規制でよくある仕組みとして、本規制についても違反が疑われる他者の行為を政府当局に通報できる窓口が設けられている。FTCの不正行為報告用のポータルサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますか、特設のEメールアドレス(MUSA@ftc.gov)のほか、全米各州の司法長官や各地のベター・ビジネス・ビューロー(BBB、注2)にも通報できる。また、米国の商標法に当たるランハム法は、他者の不正表示によって損害を被った者が当該不正表示者を提訴できる権利を認めている。訴訟大国の米国では、こうしたルートからのリスクにも留意する必要がある。一方で、競合他社が不正を行っているようであれば、積極的にこれらツールを使うことも一手だろう。

米国でモノを売っていく上では、「米国製」表示が自社にどれほどのメリットをもたらすのか、その規制順守のためにどれほどのコストがかかるのかを見極めた上での対応が必要となる。


注1:
FTC法第5条違反の民事罰で1件当たりの最高罰金額は毎年、所定の計算式に基づいてインフレ調整される。2024年1月10日付の最高罰金額は5万1,744ドル。
注2:
誠実で公正なビジネス取引の文化を醸成することを目的とした米国の非営利団体。業界の自主規制に関する監視・指導・苦情の受け付けや処理などを行っている。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課 課長代理
磯部 真一(いそべ しんいち)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部北米課で米国の通商政策、環境・エネルギー産業などの調査を担当。2013~2015年まで米戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員。その後、ニューヨーク事務所での調査担当などを経て、2023年12月から現職。